表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS転生したエルフ幼女の可憐な冒険物語  作者: 樹遠零
第二章 幼女、冒険者になる
8/14

取り調べ?

「さて、騎士様が来るまで大人しくしていてもらおう」


 エルと離され詰所に連れていかれてすぐ。

 マースルは5人もの兵士に囲まれながら椅子に座らされていた。尋問や取り調べをする様子はない。いきなり騎士爵にあるものを呼び出すという説明に、マースルの嫌な予感はどんどんと加速していく。


「ええとだな、何故騎士様を?」

「貴様の罪状を確定するためだろうが!!」

「どういうことだよ、それはっ!!」


 マースルは思わず叫び返し、兵士たちが槍を向けかけたところで慌てて口を噤む。


「どういうことだと?森妖精の子を連れ歩くなんて重犯罪にきまっているだろうが!!」

「どうせ奴隷として売るつもりだったんだろう、この屑めが!!」

「可哀そうに。あの子は自分がどんな危険な境遇にあったのか全く分かっていない」

「あぁ、そうだな。果実水を喜んで飲んでいるってよ。今までどんな酷い目にあっていたのか」


 頭痛が痛いというのはまさにこういう事だろうか?言語崩壊しそうな頭痛に悩まされながら、概ね事態が悪い方向へ加速しているのをほぼ確信する。いや、もっと言うとエルが自覚無しで勘違いを加速させるような発言をする前に、なるべく急ぐ必要があったからだ。


「な、なあ、ブリジって言えば亜人保護の町だろ?何で奴隷に売ろうとしてる奴が、ここに連れてくるんだよ」

「ふんっ、どうせあの子を餌に、新たな亜人の子を捕まえるつもりだったんだろう?」

「いや、ちょっとまて……今、領主の御令嬢が訪問しているよな?まさか狐族のあの方の身を狙ってっ」

「な、となると。こいつは山賊に見せかけた敵国の工作員か!?」

「いや……ちょっと待てよ。おかしいだろう、それは」


 いつの間にか山賊から工作員にまでランクアップを果たしたマースルは、思わず机に頭を打ち付けて崩れ落ちるが、兵士たちの緊張は解けはしない。どうなるんだこれと半ば思考放棄した方が良いのではないかと思い始めたところで、兵士の一人が声を上げる。


「おいっ、そういえばこいつ見たことあるぞ。傭兵の『鬼神』マースルじゃねえか?」

「なんだって?」

「あの伝説の傭兵か?そいつが何でここに」

「だからな、俺は……」

「きっと森妖精の集落を襲って子供を攫ってきたに違いないっ!!噂に聞く鬼神の力なら可能だろう」

「なんだと!?だとしたらこいつは大量殺人鬼か?」

「あぁ、負け戦で敵陣に突っ込んで血塗れで生還したって化け物だ。集落が全滅したのは間違いない」

「なんて、何てぇ酷え奴だ」


 と、自分を知る者がいたと希望を持てば、更に悪化した。過去の自分の行いが勘違いを加速しているともいえるが、傭兵が戦場で正しく暴れまわったのを悪しように解釈されるのには納得がいかない。だが、これ以上状況が悪くなるのは良くはないと、黙秘を続けることに決めたマースルの耳に、重い足音が届いてくる。


 ドタタタタタタタタタタッ


「ここかぁ!!妖精ちゃんのお部屋はぁ!!!!!……って、間違ったか」

「いえ、場所はここで合っています。騎士、ユーリ様」


 そこには全身を白銀のプレートメイルで武装した可憐な女騎士が一人、顔の下半分を鼻血で真っ赤にしながら佇んでいた。



 □■□



 エルは感動していた。


 目の前に差し出された果実水。転生してから初めて飲むその果実の凝縮された甘いジュースが思わず顔を蕩けさせてしまう程に美味しかったのだから。


「何杯でもお替りしていいわよ」

「ありがとう、お姉さん」


 ニコニコしながら代わりの果実水をぐびりと一口。キンキンに冷えていればなあと思わないでもないが、ファンタジー世界では仕方ないだろうと自身を納得させながらも、そのあまりの美味しさにどんどんと頬は緩んでいく。


「ところでお名前聞いていい?」

「エルです。ところでマースルは?」

「エルちゃんかーあっちの男の人は向こうで事情を聞いているだけだから問題ないよ」


 最初は槍をもって囲まれたから恐ろしい場所だとは思ったがそうではなかった。ボロを身に着けた二人組が歩いてきたから警戒したのだろうと納得しつつ、マースルの殺人鬼顔じゃあ勘違いされても仕方ないだろうとウンウンと納得する。いや、それにしても果実水が美味しい。内政チートなんかもお約束ではあるが、そんなものより食べ歩きの旅も良いかなと考えているところで、ふと兵士の女性が訝し気にしているのに気が付いた。


「なにか?」

「うーん、それマントを加工したものよね?何でそんな変な格好してるのかな?」

「マースルに裸だと駄目だって言われ……あ、これは黙ってろって言われたんだった。お姉さん、これは聞かなかったことで」


 ぽろりと一つ不用意な言葉が零れ落ちる。


「そうすると下着も無しなの?」

「大丈夫。トイレの時は水筒の水で綺麗にしてるから汚くない。これはマースルには内緒」

「へぇ、そうなんだ。エルちゃん、私が着替えを用意するから着替えようか?」

「えーと、お風呂入ってからって言われてる」


 少しばかり女性兵士の顔色が変わっているがエルは気づかない。あまり果実水を飲むとトイレが近くなると理解はしているが、あまりの美味しさに手が止まらないと、勧められるがままにくぴくぴと飲むエルは、聞かれるがままに質問に答えていく。


「お風呂って共同浴場かな?あそこは結構高いわよ」

「ううん。宿のお部屋で桶とお湯を借りるって」

「へぇ、それってマースルさんと一緒?」

「うん」


 お腹がたぽたぽと音を立てそうなほどに膨らんだところで果実水のお替りをやめる。お金は気にしなくても良いとは言われて好き勝手に飲んでいたが、遠慮はすべきだったのだろうかと少し考える。だけど飲んでしまったものは仕方ないと、冒険者の稼ぎが入ったら差し入れをして相殺すれば問題なしと、キリッと顔を引き締めたところで、女性兵士の質問が更に飛んできた。


「ええと。マースル、さんに裸を見せたのかな?」

「最初あったときに裸だった!!見せたんじゃなくて見えただけだからマースルは問題ないっ」


 渾身のフォローしたつもりのエルの言葉が、色々な意味で駄目だった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ