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TS転生したエルフ幼女の可憐な冒険物語  作者: 樹遠零
第一章 幼女、大地に立つ
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血も涙もない

 裸で座る幼女エルフが一人。


 その美しい顔を頭痛を堪えるように歪めながら、彼女の周りに吊り上げられる6匹のロックウルフへと視線を向ける。地面を突き破り飛び出てきた蔦。その径は彼女の太腿よりも太く、それをロックウルフの胴体と顎へと巻き付いて僅かな身動ぎすら許していない。


「んー。2本の蔦を絡ませて、左右にずずいっと引っ張るとか」


 -我ら5人しか顕現できぬ故、適当にどれか解放しても良ければ-


 言われ数えてみれば、確かに蔦は5本。手近な2体を一本の蔦がまとめて拘束している関係で、ギリギリ6体を相手できたのだとここで理解でき、その幸運に感謝する。が、それが故にエルは全力で顔を左右に振る。


「それは絶対に駄目」


 -はい-


 解放して逃げてくれるなら良し。よもやとち狂って再び襲い掛かってきたら目も当てられない。きっと死にはしないと理解はしているが、再びあの痛苦の中に身を置くなどエルは絶対に御免であり、ならばと必死で現状の攻略法を考えてゆく。絞め殺しは出来ないが、動かすことは出来る。軽々とロックウルフを吊り上げていることを思えば、力も相当にある。ならば、どこかにぶつければそれでよいと結論をだし、地面を指差して言う。


「地面に思いっきり叩きつければ死ぬよね」


 -良いのですか?-


「うん。やって」


 許可を出してすぐ、蔦の一本がロックウルフの頭を地面に向けて固定する。そして2メートルほどの高さから勢いをつけて脳天から地面へと叩きつけた。


 ドゴンッ


 重い音が響き渡る。地面を陥没させ首までも土の中に埋めたロックウルフは、また宙へと引き上げられると、再び地面へと思いっきり叩きつけられる。


 ドゴンッ、ドゴンッ、ドゴンッ!!


「あれ?え?」


 -土の魔物を大地で殺そうなんて酷いですね。血も涙も無いです-


 ロックウルフが想定よりも強靭なのか、それとも大地が柔らかすぎるのか、とにもかくにも先の『苦しませることは無い』というエル自身の言葉に相反する光景が続いている。確かに少しずつ血濡れていくロックウルフの姿を見れば、繰り返していればいつかは死ぬのだろう。しかし、目の前で延々と続く処刑ショーを見せられている気分なエルとしては非常によろしくない。


「じ、地面に埋めるとかは?」


 -埋めて窒息させるとか、ドン引きです-


 言うが直後、別のロックウルフの上半身が地面の中へと埋まる。下半身だけを地面からだし、必死に身体を痙攣させてもがき出ようとするもゆっくりと力を失っていくロックウルフの姿を見ることになり、先とは別の意味でエルの気分が悪くなる。どうせ力があるなら全部埋めてしまえば良いのにと吐き気を堪え考えた所で、ぴきーんとエルの直感が反応する。


「も、もしかしてわざとやってる?」


 -そんな主様も可愛いですよ-


 ぷくぅと頬を膨らませるエルに、言葉は優しいが、まるでケタケタと笑っているかのような雰囲気をエルが感じ取ると同時、残るロックウルフ全てが地面の中へと消える。逃げやがったなとエルは考えないでもないが、彼女?が助けてくれたからこそあの地獄から解放されたのだと思い直し、エルはここでようやく張り詰めた緊張を解きほぐし、地面に大の字になって寝転がる。


「ありがと」


 つぶやき、大きく深呼吸する。

 土塗れの涎塗れ、土の地面は決して寝心地は良くはなかったが、起き上がり草の茂る場所まで行く気力も無い。目が覚めれば奴隷馬車でエルフの幼女姿。そして幾らもしないうちに魔物の襲来で自分一人残しみんな死んでしまった。エル自身もギフトを使えなければ、今頃心が死んでいただろうなあと考えつつも、とにかく今は休んでいたかった。


 ……そう、ロックウルフは10匹居たのだという事実を、かんっぺきに忘れたまんまで。



 □■□



 季節は初夏だろうか?


 裸のエルにとっても過ごしやすい気温の中で、さわやかな風に吹かれながら彼女はうとうとと眠りの世界へと旅立っていく。夢の中に狼は居ない。辛い痛みも無い。苦しいこと、嫌なこと、先の未来など考えずにとにかく寝てしまえと意識を手放そうとしたエルの耳に、その音が届いた。


 ジャランッ


「捕まる前もそうやって寝てたのかよ。図太いというか何というか」

「おうふぁ!!」


 思わず跳ね起き蔦の出てきた穴へと緊急回避。脚は入っても全身は無理なその穴に、逃げ込むのは無理と判断して恐る恐ると背後を見る。そこには全身傷塗れ血塗れの男。上半身裸で手には血まみれの鉄枷がついた鎖。見るからに凶悪な顔は間違いなく何人もの人を殺していると理解させるほどのもの。


「お、お、おっ」


 あまりの恐怖にちびりそうになりながらも、何とかギフトを使おうとエルが息を吸い込んだところで、目の前の殺人鬼が頭を掻いて苦笑する。


「マースルだよ。血を被ってるのは間違いないが、そんなに酷く汚れてるか?」

「ほぇ?」


 一瞬だけ地面から頭を出した蔦が急停止する。言われまじまじと見れば、顔の傷の位置的にマースルだったような気がしないでもない。よくわからないが、何となくそうだったような気がすることにして、エルは改めて座り込む。


「無事、だったんだ」

「おう。隣の奴が早々におっ死んでくれたんで、鎖も武器に出来て助かったな。流石に無手の重り付きでロックウルフ4体はきついからな」


 ニカリと笑うマースルに、エルは彼の持つ鎖を見て考える。片端の首輪は壊したのか輪が開いている。もう片方の首輪は壊されも外されもしてないように見える。血まみれなのは変わりないが、ちらりと見える肉片らしきものが何かと考えようとして、ロクな結論は出ないだろうと確信して、考えるのをやめた。


「ボクも大丈夫」

「まあ、怪我も無しでロックウルフを撃退したってことは森妖精のギフトか何かか?あいつらが二手に別れた時は焦ったが、何にしろ無事でよかった」

「うん。お互いに」


 そしてマースルもどかりと地面に腰かける。

 血塗れの筋肉男と全裸のエルフ幼女。現代日本なら確定で、この世界でも警察機構があれば一発有罪になりそうな光景の中、二人は小さく笑いあい、そしてマースルから提案した。


「帰るとこが分からないなら、俺が一緒に探してやるよ」と。

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