妖精の隠れ家
妖精の隠れ家
大通りをそれ、教会を隣に眺め、併設する孤児院を見送ったその先にその宿はある。
「いらっしゃいませー」
ドアを抜ければカウンターから元気で幼い声が響き渡る。
そこには小さな小さな少女。道中人々を眺めてきたから分かる。一般的な基準よりも質良く縫製されたメイド服を身に着けた少女が笑顔いっぱいで迎え入れてくれる。先頭を歩いていたマースルはそんな少女のテンションに一瞬硬直するが、彼の殺人鬼顔を見ても笑顔を崩さない少女に快くし、精一杯の笑顔で問いかける。
「しばらく泊まりたいんだが、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。料金は……ええと、んと」
「あっ、きししゃまだー。ねえちゃん、とくべつなおきゃくさまだよ」
戸惑う少女の向こうから子供がもう一人。犬耳を頭につけた更に小さなその子は、マースルの背後でエルのお尻を凝視するのをやめ、ニコリと二人の方へと笑みを向ける。
「大部屋を一つお願いね。料金は私が寄付しておくから安心して。あと、シスターには夕食を豪勢にお願いって伝えてね。施設の分も渡すから遠慮要らないわよ」
「やったー」
「いつも申し訳ありません、ユーリ様」
手を上げ喜ぶ二人から鍵を受け取り先導するユーリ。三階に上がり、一番奥のドアを開け並ぶベッドに腰かけたところで、黙ってついてきたマースルが頭痛を抑えるようにして問いかける。
「お前の宿か?」
「えぇ、孤児院の子の生活費稼ぎのために作ったのよ。『そういうの』が好きな金持ちが結構泊っていくわ。あぁ『売り』はやらせてないから。そういう年齢になった子はここを卒業するの」
「ふぅん、養子縁組も進めてるわけだ」
「一応、適齢になるまで手を出さないよう誓約書は書かせてるわよ」
身清潔にして精一杯働く少年少女の姿は、ただ孤児院に居るだけの子よりも魅力的に映るのだろう。安価な労働力としてというのは否定しないが、宿屋や商店からも養子縁組をして引き取られていく子も少なくはない。
「ほっほー」
ちらりとマースルがベッドの上で跳ねるエルへと視線を向け、声を落とす。
「趣味か?」
「手は出してないわよ。成長してから責任取れって言われても困るから」
思ったよりまとも何だとマースルは感心するが、彼女が爵位持ちだというのを思い出して苦笑する。
「分かった。宿代の支払いは教会に寄付で良いな?」
「えぇ、ついでに肉もお願いしたいわね」
「狩ったら持ち込んでやるよ。処理は血抜き程度で良いな?」
「えぇ、勉強になるからそっちのが助かるわ」
性癖はともかく信頼は出来る。と、何十年かは成長しないだろうエルが色々な意味で危険であることを考えないことにし、マースルはエルへと再び視線を向けて、そして絶句する。
「ふろー」
「風呂じゃねえ、何で脱いでやがる!!」
マントを放り投げ、某太陽戦隊の大鷲ポーズを決めるエルだったが、この場にポーズの意味も年代のズレにも突っ込みを入れる者は居ない。当然のごとくガン見するユーリの視線からかばいながら、マースルはエルをマントで簀巻きにして肩に担ぐ。
「痒い……だから風呂」
「分かったよ。大衆浴場に行くが、頼めるかユーリ?」
「もひろんだ、まかへろ」
鼻を抑え背後を振り向いているユーリの姿に不安になりながらも、風呂で旅の汗を流せるという魅力には抗えない。とりあえず心配してもトラブルには巻き込まれるのだと割り切って、マースルは部屋を後にした。




