幼女は踊る
「おっ、おおおおおおおおおおおおっ!!」
エルは混乱していた。
尿意を処理してもどって来たら目の前には美乳女騎士。鎧を身に着けていても偽乳ではないと目ざとく観察しながら、何故さっき会った時に気づかなかったのかとムンクの叫びで硬直する。触りたい、顔を埋めたいと思いつつも、異世界で騎士と言えば官憲であると考えると無理はできない。しかし前世?ではおっぱい星人であった以上、我慢できないと悶え続けるエルであったが、端から見ればその姿は可愛らしくふりふり動く謎の美幼女ダンスであった。
「……可愛いわね」
「今回は一段と壊れてるな」
約一名だけ真っ当な感想を述べているが全員の耳に入らない。かわいく踊る幼女が土下座するように座り込み、上げたお尻をぷるぷる振り始めたところで件の女騎士が鼻の血管を破砕させたが、幼女が顔を上げたその瞬間には根性で出血を停止し顔を拭って外見を取り繕い笑みを浮かべている。
「ボク、エルっ!!」
「私はユーリよ」
自分を指差し名乗るエルと、にこやかに返すユーリ。
「お友達からっ!!」
「うん、お友達ね」
「マースル!!毎日遊びにくるっ!!!」
よくわからない会話で仲良くなっているっぽい二人に引きながらも、マースルはとりあえず頬をぽりぽり掻きながら言うべきことを口にする。
「とりあえずユーリ……様は、この町での嬢ちゃんのボディガードをやってくれるそうだ。だから遊びに来なくても一緒だ」
「おおおおおおお、くっころさんっ!!」
「……落ち着け」
「大丈夫。ちょっと我を失ってただけ。マースルに言われたマントを脱がないのは守ってる」
「待てよ、もう少し混乱してたら脱いでたのかよ!!」
もはや、いや常に色々とアレなエルに疲れつつも、マースルは背後でエルに聞こえぬよう舌打ちをするユーリから視線を逸らす。そんなマースルの姿に何か危険なものを感じ取ったエルは、そのピンク色の脳細胞を全開で回転させて絶妙な解決策を導き出す。
「マースル」
「何だ?」
「ユーリに手を出すと犯罪。だから処理は娼館に行くべき」
「おいっ、お前は幼女に何て言葉を教えてるんだ」
「俺は教えてねえ!!」
完璧な解決策だと思ったら、マースルへの周りの視線が一気に冷たくなるのがエルにも分かる。何か間違えたかと首を傾げるエルだったが、よくわからないので放り投げることに決めた。
「とりあえず宿。それとお風呂っ」
「相変わらずマイペースな奴だ……あーと、まあユーリ、様が共同浴場に連れてってくれるっていうが行くか?」
「ユーリと一緒!?」
「そう、二人でお風呂に行こうか?」
と、いつの間にかハッピーエンドルートに突入していることを知ったエルがくるくる回り始める。そして「とぅっ」と自らのマントに手を掛けたところで、慌て前に出たマースルに手を止められてしまう。
「ん?お風呂では服を脱ぐ」
「だから、風呂に行ってから脱げっ!!それより先に宿の確保だっ!!」
頭痛を堪えるようにし荷物を担ぐようにエルを抱え歩きだすマースル。背後に無言でユーリがついてくるのを確認すると、一度背後を振り返り頭を下げて退出した。
「今度はお土産を持って来る」
「分かった分かった。迷惑かけたお詫びな」
□■□
ざわりっ
彼らが歩く先、必ずまわりが騒めき立つ。
傷だらけの筋肉男、それに抱えられる森妖精の幼女。一目で誘拐犯だと全員が結論を出すが、そのすぐ後ろを歩く女騎士の姿。大男が連行されているわけでもないその不可思議な一行に視線が集中し、そしてその関係を近くの人間と討論に入る。そんな騒ぎが延々と続くのだ。マースルは心の底から大きくため息をついて、背後のユーリへと声を掛ける。
「あんたについてきてもらって助かったわ。絶対に通報される状況だ、これ」
「当たり前だろう。少しは自分の容姿を鑑みた方がいいぞ」
「傭兵やってる分には俺みたいなのは好都合なんだよ」
話し合う二人とは別に、エルの興味は周りの出店などに集中していた。肉、果物、肉、パン、肉、肉……元の世界では見たことのない形をした肉やらが露店で売られている。食べてみたいがユーリに良い食事が出る宿を紹介すると聞かされている。お風呂後に食事とのことだが、今の自分の胃の容積では買い食いをすれば入らなくなるのは間違いない。お金の事は全く気にせずに悩むエルだったが、ふと未だたぽたぽ音を立てるお腹の調子的にどうせ無理だと諦めた。
「明日食べよう、うん」
「無理しない程度だぞ」
「うん、凄くいい」
ぷらぷらと足を振りながら露店を眺めるエルのお尻を、ユーリがじっと眺めていた。




