はじまりは馬車の中
がたんがたん、がたんがたん
揺れる揺れる馬車の中。
悪路を走る荷台の中。
荷の内、一際頑丈な檻の中。
その中で最も高価であろう積み荷が揺れている。
がたんがたん、がたんがたん
それは小さな小さな女の子
大人であれば片手で抱え込めるであろう小さな子
太陽の光に負けず輝く膝まであろうかという金の髪は海のように荷台に広がり
目を閉じていても分かる整った顔立ちは、大国の王女が持つ人形をも超えて美しい
その小さな手は傷一つなく美しく、そしてぷにぷにと柔らかいのが見て確信でき
ぷっくりと膨らんだお腹は肥満からではなく、恵まれた幼子特有のかわいらしいもの
胸は蕾ですらなく
大きく開かれた脚の間には一本の線が走っていた
がたんがたん、がたんがたん
あぁ、そして忘れてはならない
その可憐な幼女の両の耳、それは太く柔らかく美しく自己主張をして、合わせて顔の横幅ほどに長く伸びていた
そう、エルフ
美しきエルフ幼女が、全裸で檻の中に囚われ運ばれていた。
□■□
「ふひっふっ」
そしてエルフ幼女は目を覚ます。
目を擦りながら上体を起こし、大きく欠伸をしてからキョロキョロと周りを見回して少し首を傾げている。
「おー……んぅ?」
開かれた瞳は空色で、その首を傾げる姿はまるで妖精のように愛らしい。そんな彼女は自身の置かれた状況が飲み込めていないのか、しばらくふらふらと頭を揺らしていたが、ようやく状況に気づいたのか、ふるふると首を揺らして周りを観察する。
「どこ、ここ?」
そう、彼女の頭の中は疑問で埋まっていた。記憶に残る最後は悪友と行ったファミレスの中。食べたかったパフェを泣く泣く諦め格好つけて頼んだコーヒーに顔をしかめたところまで。そこでチャンネルを切り替えたかのように『今』の光景が目の前に広がっていた。
右手を見れば流れゆく広大な荒野の景色
左手を見れば流れゆく広大な荒野の景色
上を見れば真っ青な青空にぽつぽつと綺麗な雲が流れている
前を見れば檻の向こうの荷台、そこに座り込む男、男、男
「起きたかよ、嬢ちゃん」
そしてその中の一人。声をかけてきた体格のいい男の姿に返事よりも先に視線が固定される。髭、筋肉、穴あきのボロ……そこまではいい。しかし頬に、肩に、胸に、無数の刃物と思われる傷痕が走るその姿は、彼女の常識からは外れたものであった。そして何より金属製の首輪が嵌められ、そこから延びた鎖が隣の男性の首に繋がれている光景に、彼女の鈍っていた思考が段々と回復していった。
「ど、奴隷?」
「そうさ、嬢ちゃんもな」
「おいっ、その商品に手を出すんじゃねえぞ!!エルフは高く売れるんだからなっ」
『奴隷』……その言葉を理解するその前に、背後から聞こえてくる声に思わず振り返る。そこ、御者台には男が二人。皮鎧に腰に片手剣らしきものを佩き、そして柱にはロープのような……いや、鞭。それも何本もの棘があり、しかも赤黒く変色したその様を目に、それが何に使われるのか、そして自分がどんな境遇にあるのかを、ついに正しく認識してしまう。
「ぴぃ」
小さく喉が鳴る。思わず緩んだ下半身からはちょろちょろと小水が漏れ出し、そしてその違和感からか視線を股間へと降ろしてそしてそこに『ある筈の物が無い』ことをとうとう認識してしまった。
「ぴいいいいいいいいいいいっ!!」
そう、瀬界枝瑠。健全な男子であった彼が、彼女となって転生しているその事実に。




