VSリッチ(後編)
ダンジョンのラスボスとしてアイリ達の前に立ちはだかるリッチ。
アイリの方がステータスでは上回るものの、実戦経験の差により追い詰められたが、ローザが術式を完成させた事により助けられる。
ここからアイリの反撃が始まろうとしていた。
「嬢ちゃん、よく聞いておくれ。術式は完成したが、長くは持たん。奴の動きを封じ込め、その間に封印するのじゃ」
「でも封印するより倒してしまった方が良くないです?」
私としては、仕返しも兼ねてアガレスの奴をボコボコにしてやりたかったんだけど、ローザさんは静かに首を振った。
「無駄じゃよ。ダンジョンコアが健在な限り、何度でも復活するのさ。ダンジョンには防衛機能というものが有るらしくての、それが働いてコアルームに近付けないようにするのさ」
「で、でもさっきは……」
最初にいたミミズを倒した後に、コアルームに向かおうとして失敗した筈よ。
ならリッチを倒してコアルームに入り込めば……。
「嬢ちゃんの考えは分かるよ。リッチを倒せばもう一度チャンスは有ると思ってるのだろう?」
実際そう思ってたので、こくりと頷く。
しかし、ローザさんからもたらされた情報は、私に衝撃を与えるのに充分だった。
「あのアガレスという男はの、元はこのダンジョンのダンジョンマスターだったのじゃ」
……え? あのリッチがダンジョンマスター!?
ローザさんの台詞を聞いて、改めてアガレスを見る。
まさかコイツがダンジョンマスターだったなんてね……。
「フハハハハ! ソノトオリ。……セッカクダ……メイドノ……ミヤゲニ……オシエテヤロウ」
冥土の土産ね……首から上が無い状態でどうやって喋ってるのか知らないけど、もう勝った気でいるのが気に入らないわね。
でも教えてくれるなら教えてもらおうじゃないの。
「ワタシガ……シンデカラ……カレコレ……ヨンジュウネンハ……スギタダロウガ、シンダトキニ……ダンジョンニ……キュウシュウ……サレタノダ」
そういう事か……。
ダンジョンマスターだったから、自我を持ってるのね。
残念ながら、今ではダンジョンコアに顎で使われる側に回ってしまったようだけども。
「シテ……ロウバヨ、ナゼキサマハ……ワレヲシッテイル……。キサマハ……ナニモノダ?」
そうね、正直このアガレスよりも、ローザさんの方が得体がしれないわ。
私も気になる事だったので、ローザさんの言葉を待った。
「ふぅ……。どうやら本当に覚えてないらしいねぇ。だったら今更さ。あたしの胸の内は、墓まで持ってく事にするよ!」
話は終ったとばかりにローザさんが杖を一振りすると、あの銀箔蝶が再び現れた。
「さぁ舞い上がれ、銀箔蝶! アガレスを一時の眠りに誘うがいい!」
魔法陣より舞い上がった銀箔蝶がアガレスに群がる。
「グァァァァァァ! チョコザイナァ、ワレカラ……マリョクヲ……ウバイトル……ツモリカァ!」
魔力? いったいアガレスに何が起こってるのかが気になり鑑定を試みると、ハッキリと数字で表れていた。
名前:アガレス 種族:リッチ(Aランク)
HP:375 MP:1956
銀箔蝶がMPを吸収してるようで、徐々にМPが低下してるのが分かる。
「ウットォシイ……ヤツラメ……コレデモ「させるかぁ!」
再び何かを放とうとしたので強引に斬り込んでいき、片腕を斬り跳ばしてやった。
銀箔蝶が数頭一緒に跳んでいったけど気にしてる余裕はない。
その結果詠唱は中断され、アガレスの片腕が項を描いて近くに落下した。
「グオォォォォ! オノレェェェェ!」
悔しそうな顔(もし顔が有ったら)を見せつつ、アガレスは光の粒となって消えていった。
どうやらリッチの場合は、MPが0になっても倒せるらしい。
「やったね、ローザさん!」
ローザさんに駆け寄ったけど、本人は浮かない表情を見せた。
アガレスは倒したのに何故?
疑問に思ってると、ローザさんが黙って指を指した。
その先を見ると、あろう事か再びリッチが召喚されつつあった。
「な! ど、どうして!?」
「だから無駄じゃと言ったじゃろ。これはダンジョンコアの自己防衛機能じゃよ」
「自己防衛機能……」
以前アイカから聞いた事があったわ。
ダンジョンマスターが不在の時にコアルームに侵入されそうになったら、ダンジョンコアが自主的に召喚を行うって事をね。
「リッチの前にミミズが居たじゃろう? アレを一瞬で焼き尽くした嬢ちゃんは、ダンジョンコアにとってはとても脅威的な存在に見えた筈じゃ。つまり……」
ダンジョンの最大戦力を持ってして私に対抗してきたんだ……。
そしてそれはDPが尽きるまで続く筈。
あ! もしかして……。
「どうやら気付いたようじゃの。このダンジョンは相当なDPを蓄えておったからのぅ、それこそ何度でも召喚してくるに違いないわい」
そんな…………。
それじゃいったいどうすれば……。
「なぁに、悲観する事はないよ。それを何とかするためにこうやって来たんだからね」
ローザさんが目を瞑り、何やら唱え始める。
すると先程よりも遥かに多い銀箔蝶が姿を現し、ボス部屋の隅々まで行き渡った。
「これは……」
「もう気付いてると思うけどね、この銀箔蝶は魔力を糧に生きてるのさ」
やっぱり……。
さっき助け出された時も、この銀箔蝶が魔法により作り出された石の壁を吸収したのね。
そしてアンデッドは魔力を完全に失うと消滅するから、銀箔蝶はアンデッドにとっての天敵になるんだ。
「ヌゥゥ……ロ、ローザ……ナノカ……コノチョウハ……」
「アガレス!」
もう完全に召喚されちゃってる!
早く対処しないと……って、そうじゃない! ア、アンデッドが思い出したっていうの!?
眷族ならまだしも、ただの魔物が生前の記憶を取り戻すなんて……。
「って、ローザさん、ソイツに近付いちゃ!」
ダメ! ……と言おうとしたけど、ローザさんはフラフラとアガレスの下へと歩いて行く。
本当なら力ずくで止めないといけないんだろうけど、何故かアガレスからは殺気が感じられなくなっていた。
「すまなかった……。どうやら君を傷付けてしまっていたようだ……」
アガレスがローザさんを抱き締めている。
要するに、そういう関係だったんでしょうね。
「アガレス……。でもどうやって思い出したと言うんだい?」
「銀箔蝶のお陰だよ。この銀箔蝶の持つ魔力が僕と共鳴したんだ。それに先程までとは違って、キチンと喋れるようにもなったしね」
ああっ! 気付かなかったけど、いつの間にか普通に喋れるようになってる!
なんて便利なんだろ、銀箔蝶!
「ローザ、よく聞いてほしい……そっちのアイルというお嬢さんも」
いえ、アイリです……と言える空気じゃなかったので、そのまま頷く。
というか、私はついでなのね……。
「今からコアルームの扉を開くから、そこに有るダンジョンコアを破壊してほしいんだ」
「そ、そんな事をすればアガレスは……」
「……いいんだ、ローザ。僕は既に死んだ身だ。今更生にしがみつく意味はないよ。それに時間も無い……グゥゥ!」
アガレスが片膝を着いて苦痛に耐えている。
何かヤバそうな予感が……。
「ア、アガレス?」
「ダンジョンコアの命令だ。早く目の前の侵入者を排除しろと。グゥオォォォォ!」
恐らく、私達を排除させる意思と闘ってると思われるアガレスは、コアルームの扉に向き直ると、開くように念じたようだ。
そして扉が徐々に開き、コアルームの奥が見えてくる。
「さぁ早く!! グァァァァ!」
マズイ! アガレスの様子だと長くは持ちそうにない!
「ここが正念場さね!」
アガレスがダンジョンコアの意思で私に敵意を向けようとしたその時、ローザさんが銀箔蝶でアガレスを覆い尽くした。
「嬢ちゃん、残念だがあたしも長くは持たない。今の内にダンジョンコアを頼む!」
ローザさんも辛そうにしてる。
魔力の消耗が激しいんだわ!
私は急いでコアルームへとダッシュする。
「ああ! もう閉じそうになってる!」
ギリギリ滑り込めるくらいしか隙間が無い状態の扉に突撃する!
ーーーけれど間に合わない!
『お任せ下さい、お姉様!』
私の頭に聞き覚えの有る声が響いたのと同時に、何かがコアルーム目掛けて飛んでいった。
そして直後に、ドゴーーーン! という爆発音が閉じられた扉の向こうで鳴り響く。
「アイカ!?」
念話が届いたけれど姿が見えない……という事は、ドローンが近くに居るのね。
さすがに特殊迷彩を付与されてるだけあって、全然気付かなかったわ。
「アイカ、いつから見てたの?」
『実を言うと、お姉様がダンジョンに入る前から居たんですけれどね』
「ほぼ最初からじゃない!」
そんなに前から居たんだったら、もっと早く手を貸してくれても良かったじゃないの……。
『緊張感が有る方がお姉様好みかと思ったのですよ。さすがにさっきのは間に合わないと思いましたので、ヘルファイアという小型ミサイルをコアルームに撃ち込みましたが』
もう驚きはしないけど、ドローンにはミサイルまで搭載されてるらしい。
そして小型とは言え、ミサイルを撃ち込まれたコアルームは大惨事になってるでしょうね。
当然ダンジョンコアも破壊出来てる筈よ。
「……って、そうだ! アガレスとローザさんは!?」
2人の存在を思い出して後ろを振り向くと、
事切れたアガレスと折り重なるように、ローザさんが倒れていた。
「ローザさん、今助け「いいんじゃ、このままで……」……え?」
「ありがとう、嬢ちゃん。あたしの役目は終わったんじゃ、最後はあたしの願う形で終わらせておくれ。年寄りの最後の我儘じゃ……」
ローザさん……。
やっぱりアガレスはローザさんにとって最愛の人だったんだわ。
「それよりも早くここから脱出するんじゃ。ダンジョンコアが破壊された以上、このダンジョンは崩壊する」
そうよ、ダンジョンコアが無くなれば、ここはただの廃墟だわ!
私は急いでボス部屋の出口に向かう。
出る前に一度2人の方を振り返ったけれど、かける言葉が見つからず、結局黙って部屋を出た。
アイリ達が去ったボス部屋で1人、ローザが微睡みの中で過去を思い起こしていた。
(こんな事になったとはいえ、アンタは私の命の恩人に代わり無いのさ。あの日、瀕死のあたしを救ってくれなきゃ、今はなかったんだからね)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「このダンジョンなら問題ないな……おい、早く連れて来い!」
偉そうな男の命令で、1人の少女がダンジョンへ連れ込まれた。
「助けて、お願い。……誰にも……言わないから……」
命乞いをする少女だが、男達は首を振ったのは横の方だった。
「それは出来んな。現場を見られた以上、生かしておく訳にはいかんのでな」
不運にも少女は、闇ギルドと接触する貴族を目撃してしまったのだ。
「恨むならあの時、あの場所に訪れた自分を恨むんだな……おい、やれ」
部下と思われる軽装の男に指示を出すと、懐から出したナイフを少女の心臓目掛けて一気に突き刺した。
「ギャアアアアアアアアッ!!」
激痛にもがく少女を横目に、不機嫌な表情を見せる貴族の男。
「チッ、うるさいガキだ。おい、さっさと行くぞ、コイツはもう助からないだろうからな」
だが部下からの返答は無く、益々不機嫌になった貴族の男は叫ぶ。
「早くしろと言ってるだろう! 何をボサッとして…………」
しかし、男が見たモノは、かつて部下だった男の肉の塊であった。
「ぐ、ぐぇぇぇぇ……!」
恐怖よりもゲロを吐き出す方が優先された男は、一頻り吐いた後、辺りを見渡す。
「だ、誰だ! 居るのは分かってんだ!」
勿論分かってなどいない。
姿の見えない相手に対して、恐慌状態に陥ってるだけだ。
「へぇ、分かってたんだ。なら当然こうなる事も分かってたんだよね?」
声がする方へ振り向くと、既に詠唱が完了されストーンジャベリンを傍らに待機させている青年の姿が見え、それが貴族の男にとっての最後の光景となった。
「やれやれ、他人のダンジョンを勝手に殺人現場にするなんて、迷惑極まりないね」
この青年こそ、少女が連れ込まれたダンジョンのダンジョンマスターであった。
そしてその青年は瀕死の状態にある少女の傍らまで来ると、少女対して選択肢を告げた。
「時間が無いみたいだから、単刀直入に言うよ。君が僕の眷族になると言うのなら助けてあげる。眷族っていうのは僕に対して絶対服従って事になるからね、だから強制はしないよ。もし断るんだったら、すまないけど助ける事は出来ないかな……」
だが意外にも少女は即決した。
選んだ選択肢は……。
「あなたに……従い……ます」
もっと悩むかと思ってたダンジョンマスターは面食らった。
死の瀬戸際とは言え、即決するとは思ってなかったのだ。
「分かったよ。じゃあ約束通り助けるね」
余程DPに余裕が有るのか、ダンジョンマスターの青年はエリクサーを惜し気もなく使用し、少女を回復させた。
「あ、ありがとうございます! 本当に、ありがとう!」
「う、うん……」
屈託の無い笑顔を見せた少女に両手を握られ照れる青年ダンジョンマスターは、顔を赤くしながら名を名乗る。
「とりあえず自己紹介しようか。僕はアガレスって言うんだ。今更だけど、この神殿タイプのダンジョンのダンジョンマスターさ」
「あたしはローザって言います。宜しくね、マスター!」
こうして2人のは出会ったのだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
(その後も色々あったねぇ。あたしが半獣人の男に本気で恋をした時も、アンタは背中を押してくれたっけねぇ)
当然その時の恋人にはアガレスの眷族である事は隠していた。
そのため、相手が結婚を申し出た時にローザは悩んだ。
アガレスから離れて結婚するなんて事は考えられないが、かといって恋人には何て説明したらよいのか……。
アガレス本人は結婚しても良いと言われたが、それだけは絶対に出来なかった。
そこで思いきって恋人に自分の正体を明かす決心をし相手に伝えたところ、相手は驚いたものの決意は揺るがないようだった。
しかしローザは最初から決めていた。
アガレスの元から去る事は出来ない事を恋人に伝え、別れを告げるのだった。
その時は分からなかったが、後にローザはアガレスを好いていたのだと気付いた。
だが気付いた時は既に遅く、アガレスは寿命を迎え、ローザは独り残される事となった。
(せめてあたしが生きてる間は、安らぎを与えようと思ってダンジョンを湖底に沈め、封印が破られないように定期的に様子を見に来てたんじゃが、裏目に出てしもうたわい……)
その際に、偶然にも自身の護衛とも言える銀箔蝶を目撃されて、ダンジョン周辺に冒険者が集まる結果になってしまったのだが。
(さて、そろそろあたしも逝くとするよ。マスター……)
アイリ「アイカが手伝ってくれたら前編と後編に分けなくてもよかったと思うんだけど」
アイカ「メタ発言はお止め下さい」




