VSリッチ(前編)
前回のあらすじ
アイリ達がボス部屋にたどり着くと、他の冒険者パーティがボスのミミズによって追い詰められていたが、アイリ達の助太刀により全滅を免れた。
礼を言って去る冒険者を横目にコアルームへと突入しようとしたが間に合わず、新たなボスとしてリッチでが召喚されたのであった。
「嬢ちゃん、コヤツはさっきのミミズとは訳が違う! 悪いことは言わん、お前さんも早く引くんじゃ!」
魔法陣から出現したリッチを睨みながら撤退を促してくる。
だけどそれは頷けない話よ。
だってローザさんは自分の身を犠牲にしようとしてるんだから。
「私は引かない!」
「な、なんじゃと!?」
「知り合った人が死に直面しようとしてるのを放って置く事なんて出来ません!」
「………………」
黙ったと言うことは、やはりそういう事なのね……。
もしローザさんがリッチとやりあえるだけの実力があったなら、わざわざ封印する必要なんてなかった筈。
ならローザさんには勝機が無いという事になるけど、倒せないまでも封印する事なら辛うじて可能なのだろうと思ったのよ。
ただし、自分よりも格上の魔物を相手にする以上、何らかの代償が必要になってくる。
「ふぅ……頑固な嬢ちゃんだよ。それならコヤツの足止めを頼むわい。その間に術式を完成させるからの」
「分かりました!」
「ただし、危ないと思ったらすぐに逃げるんだよ!」
状況によっては逃げるようにと言われた後、ローザさんはリッチを見据えつつ地面に魔法陣を描き出した。
それなりに時間がかかりそうね。
それまでは術式の邪魔はさせないようにしないと。
「アンタの実力を見せてもらうわ」
まずは鑑定をかけてみる。
コイツの実力は……、
名前:アガレス 種族:リッチ(Aランク)
性別:男 レベル:250
HP:765 MP:3758
力:867 体力:884
知力:2742 精神:2347
敏速:1164 運:25
【ギフト】
【スキル】剣Lv2
【魔法】地魔法Lv7 水魔法Lv4 闇魔法Lv3
相当強いわ。やっぱりホークとザードを下がらせたのは正解みたい。
知力が高さは魔法の威力や射程に影響するし、精神は魔法の抵抗力に直結する。
魔法は殆ど効かないとお思った方がよさそうね。
名前:アイリ レベル:147
HP:2860 MP:3758
力:1694 体力:2247
知力:3938 精神:3511
敏速:3242 運:50
【ギフト】ミルドの加護
【スキル】相互言語 剣Lv5 格闘Lv4
【魔法】火魔法Lv5 水魔法Lv4 無魔法Lv3
因みにこれが私のステータスね。
魔法以外で攻めればいけそうな気がするけど、油断は禁物よ。
「クァァァァァァッ!」
げッ! 何か黒い波動を全体に放ってきた!
私は兎も角、ローザさんを何とかフォローしないと!
「我守る壁となれ! ファイヤーウォール!」
波動が到達する前にローザさんの前に出ると、空かさず炎の壁を作り出す。
どの程度軽減出来るか分からないけど、何もしないよりはマシな筈よ。
そう思って炎の壁を盾に波動が収まるのを待ってたんだど、私の予想を裏切りすぐに波動は収まったみたい。
「ふん、案外大した事ないのね」
本当は軽くビビってたんだけど、どうせ相手は理性を失ってるんだしって事で軽く挑発してみた。
「ホォーーーゥ、ズイブント……ヨユウソウダナ……」
「!?」
コイツ喋った!
ダンジョンに召還された魔物は、基本的に自我を失ってる筈なのに何故?
「ナラバ……コレデドウダ…………クァァァァァァーーー!」
って、考えてる場合じゃないわ! 次に放たれたのはストーンジャベリン。
先の尖った槍のため、ファイヤーウォールだと突き抜けてくる可能性がある。
「だったらこれよ、凍てつく壁よ、アイスバリケード!」
氷の壁を目の前に作り出す。
これなら突き抜けて来る事はない。
「ヌハハハ、アマイワ!」
「え? ちょ……イダダダッ! ンギャァァァァッ!!」
虚しくも氷の壁を貫いて私へと殺到する複数の石の槍。
咄嗟に身を捩ったけれど、身体の左半分がボロボロの状態になった。
腕、足、更には目にも深々と突き刺さったのが分かる。
そのあまりの激痛に気を失いそうになったのを気力で耐え、エリクサーが有る事を思い出し落ち着いてアイテムボックスから取り出し、一気に飲み干した。
「ドウシタ……モウオワ……ン?」
このアガレスって名前の奴は私を追い込んだと思ったみたいだけど、すでに回復してる事に気付いたみたい。
「ヌゥ……良質な回復アイテムを持っていたのか」
そうよ、と言ってもまさかエリクサーだとは思ってもみないでしょうけどね。
でもコストが高くて多くは所持してないから、使いすぎには注意しよう。
って事で反撃反撃!
「やってくれたわねぇ…………今のはかな~り痛かったわ!」
普通の冒険者なら生きて帰れなかったでしょうね。
だけど私は普通の存在とは違う。
こんなところであっさりと死ぬつもりはないわ!
「こぉのぉぉぉぉ!」
アガレスに主導権を渡さないようにするため、今度はこちらから向かっていく。
私の方が速さは上だから、あっちは魔法を発動する間も無く私の接近を許す。
「食らいなさい!」
そしてそのまま手加減無用の横凪ぎで、アガレスの首を斬り飛ばした。
「ヌグオォォォォォォォッ!」
…………あれ? 終っちゃった?
もの凄~~く拍子抜けなんだけど……。
なんだか腑に落ちない気持ちを持ちつつ、斬り飛ばした首が遠くに転がっていくのを眺めた。
「ふぅ……。ちょっと焦ったけど、何とかなったわね」
さすがにリッチなだけあって魔法の威力は桁違いだけど、接近戦なら私の方に部が有る。
こらなら最初っから攻勢に出てればよかったかもしれない。
そうすればエリクサーを使わずに済んだかもしれないし。
けれど、そんな私を嘲笑う声が聴こえてきた。
「ヌァッハッハッハ! ミゴトダ。ジツニ……ミゴトダッタゾ」
「ひぃ!?」
く、首が……生首が喋ってる!?
斬り飛ばした首がこっちに戻って来た!
ホラーよ! とんでもないホラーが目の前で起こってる!
目を逸らしそうになるのを堪えてるんだけど、出来れば見たくないと思いながらも様子を窺う。
そうしないとリアルに命が危ないから!
「コノ……テイドデハ……シヌコトハ……ナイ」
ああそうね、人間止めた存在なんだから当たり前よね。
でもしっかりとダメージは入ってるみたいよ?
名前:アガレス 種族:リッチ(Aランク)
HP:676 MP:3688
鑑定結果を見れば一目瞭然ね。
このまま押し切れば勝てそうよ。
「その生首も切り刻んであげるわ!」
なるべく首を直視しないようにして、もう一度斬りかかる。
だけど相手もAランク、そう易々とは行かなかった。
「バカメ……カカッタナ!」
「何!? ……あっ!」
すぐ後ろからストーンジャベリンが放たれてきた! この生首を意識し過ぎて本体の方を忘れてたわ!
というか無詠唱で放ってきたような気がするけど、気のせいじゃないわよね? ……って、考えるのは後後!
私としても何度も同じ手を食らうつもりはなからね。
アガレスの注意がローザさんに向いてないなら好都合よ。
「甘いわよ……と!」
私単体なら回避するのはどうって事ない。
ストーンジャベリンが到達する前に、華麗な動きでそれを避けてやった。
「グヌゥ……チョコマカト……」
今度は本体にも注意を向けつつ生首に向かっていく。
「今度こそ、その首もらったぁーーっ!」
剣がアガレスの顔面に突き刺さると、腐った顔を悔しそうに歪めて光の粒となって消えていった。
ふん、ざまぁみなさい! 乙女の顔に傷をつけた罰よ!
「さぁ、後はそっちの本体だけよ!」
改めて首の無くなったアガレスを正面から見据えて、堂々と言い放つ。
「チョウシニ……ノッテルノモ……イマノウチ……ダゾ」
ゴゴゴゴ……という音と共に私の四方を石の壁が取り囲む。ストーンウォールってやつね。
どうやら私の動きを封じたいようだけど、そんなもので封じられる私じゃないのよ!
しかし、壁を一気に飛び越えようとした私の足を、何者かが掴んでるのに気付いた。
「え? いつの間に!?」
「ヌハハハハ! キサマハ……マダマダ……ミジュクモノ……ダナ!」
結局、石の壁を飛び越えるのに失敗し、壁の上部も石の蓋で閉じられてしまった。
「くっ! でもこの程度じゃ私の動きは封じれないわよ! こんなもの、一気に焼き付くしてや……キャア!?」
み、水? 壁から急に噴出し出した水が顔にかかり驚いてしまった。
幸い普通の水みたいだからよかったけど……。
「キサマハ……タシカニ……ツヨイノ……ダロウ。ダガナ……ヨノナカ……ウエニハウエガ……イルノダ!」
「たかが水で何しようっての?」
って、気付いたら水がドンドン貯まって膝上まできてる!
マズイ! このままだと……、
「クックックッ……キヅイタ……ヨウダナ。コレデキサマハ……オワリダ!」
このままじゃ溺れちゃうわ! 早く脱出しないと!
「打ち砕け、フレイムキャノン!」
ポスンッ!
「え!?」
放ったフレイムキャノンは壁に当たって、そのまま消滅してしまった。
そして壁は少し焦がした程度で収まっている。
「ワレノ……チゾクセイニ……カナウモノハ……イナイ。ソレニ……ミズゾクセイハ……ヒゾクセイニ……ユウコウナノダ」
くっ、そういう事か……。
この世界の属性関係は、火→風→地→水→火、という具合に優劣の関係が存在するのよ。
さっきのストーンジャベリンが、水属性のアイスバリケードを破ったのもそのせいね。
今の今まで忘れてたのが悔しい!
「だったらアイスニードル……はダメね、地属性の壁に対して効果が薄い……」
そうこう思案してる内に、とうとう水が顔を覆うところまできてしまった。
今になって必死に剣を振り回してるけど、身動きがとれない状況じゃ殆ど意味を成さない。
「ブフッ! ゴボボッ!」
ダメ、息が出来ない! このままじゃ!
「お止めなさい! アガレス!」
ロ……ローザ……さん?
壁と水に囲まれてるけど、微かにローザさんの声が聴こえた。
「ム? ……ナンダ……ロウバニ……ナニガデキル?」
「あたしゃ確かに老婆さ。でもね、身体張って1人の命を救う事くらい出来るんだよ!」
ローザが叫ぶのと同時に、地面に描かれた魔法陣から次々に銀箔を纏った蝶が羽ばたいていく。
その一頭一頭がアイリを囲んでる石の壁にまとわりつくと、壁が徐々に剥がれていった。
「コノチョウハ……」
思いもよらない出来事に、さすがのアガレスも呆然と眺めてしまっていた。
「こりゃ驚いたよ。顔が無くても見えるなんてね……」
知らない者も多いが、アンデッドの場合、視覚ではなく生命反応や魔力を関知して襲ってくるので、顔が無くても問題なかったりする。
「ゲホッゲホッ! すみませんローザさん、助かりました」
まさか私が救出される側に回るとは思わなかった。
私もまだまだ未熟ね……。
って、この蝶々は!
「これって銀箔蝶ですよね!?」
驚いた! 銀箔蝶が私の周囲を飛び回ってるんだもん。
「説明は後だよ嬢ちゃん。今はアガレスを封印しなくちゃならないからね!」
そうね。コイツを前に余計な話をしてる余裕は無いわ。
「さぁ眠りにつきなさい、アガレス!」
ローザさんの命令を受けてか、銀箔蝶がアガレスにまとわりついた。
「オノレ……ウットォシイ……クァァァァァァ!」
アガレスが両手を広げると、どす黒い波動が銀箔蝶を覆い、その場にボトボトと落下する。
更に余波が私にまで届くと、身体が重くなったような気がした。
「このぉ、汚ない波動をぶっぱなすな! いい加減くたばりなさい!」
これ以上好き勝手はさせないとばかりに一気に攻めようとしたところで違和感を覚える。
「か、身体が思うように動かない!?」
この感じ……そうだ、確かホエロスの眷族に襲われてたハンナが、似たような状態たった。
つまり、何らかの状態異常にかかったのね!
って、そうだ、私がこんな状態ならローザさんは……、
「ローザさん、大丈夫ですか!?」
見るとローザさんも辛そうにその場で踞っていた。
「嬢ちゃんは大したもんだよ、あの闇属性のカーズグラビティを食らっても立ってられるんだからねぇ」
カーズグラビティ……対象に過剰の重圧を掛けて動けなくする魔法よ。
ただし、消費魔力は多いけどもね。
名前:アガレス 種族:リッチ(Aランク)
HP:375 MP:2769
見る限り乱発は出来ないと見ていい筈だし、さっさと浄化しよう。
「穢れを除去せよ、アクアブラッシング!」
発動後、私とローザさんにまとわりついてた呪いが除去され、身体が軽くなるのを感じた。
「ふぅ……今度はあたしが助けられたのぅ。ありがとうよ嬢ちゃん」
「いえ……」
状態異常から回復し、アガレスへと向き直りつつ剣を構えた。
「グゥゥ……マサカ……コレホドトハ……」
「ふん、生憎だったわね。もう絶対油断しないんだから覚悟しなさい!」
アイリ「あっ、もしかしたら、カーズグラビティによってローザさんの曲がった腰が治ったりして!?」
ローザ「治るかバカモンが!」




