怪しい影
前回のあらすじ
湖底ダンジョンに入る前に、ダンジョン通信を利用して情報収集を試みたアイリだったが、目ぼしい情報は得られなかった。
そこで覚悟を決めてテントを出たのであったが……。
先にダンジョンに潜ったホークから念話が届いたんだけど、内容があやふやでよく分からない。
ならばと、私が直接見てみる事にしたんだけど……。
「………………」
何故かテントを出た直後から、視線を感じるようになった。
振り返ると慌てて隠れるんだけど、私の後をつけてるのは間違いない。
クルッ!
「!!」サッ!
……とまぁ、さっきからこの調子よ。
かなり下手な尾行だけど、いったい何を考えてるのか分かんないなぁ……。
クルッ!
「!!」サッ!
「………………」
「………………」
本人は隠れてるつもりなんだろうけど、岩影に隠れた時に猫耳がピクピク動いてるのがハッキリ分かるし、振り向いた時にも獣人の女の子というのが判明した。
出来れば捕まえたいんだけど、無理矢理捕まえてもシラを切られる可能性があるから、今は様子見って事にしよう。
殺気も感じられないしね。
そのまま気付かないふりをして湖底ダンジョンの入口までやってくると、ホークが両手を振って出迎えてくれた。
「ここやでアイリはーーん!」
いや、叫ばなくても入口のど真ん中に立ってれば分かるから……。
「それで、何を見つけたって?」
「それは見てのお楽しみやな。まぁ、楽しいかどうかは別やけども。ところで、後ろから付いて来るんは誰や? なんや尾行されとるようやが……」
ホークの案内でマンシーさん達のとこへ向かってるんだけど、さすがにホークも気付いたみたい。
尾行の割には思いっきり足音立ててるから当然なんだけどね。
「どうもテントを出た時からつけられてるようなのよ。害意も殺意も感じないから放置してるんだけどね」
「そうなん? でも油断は禁物やで? こういう場合は、大抵ラスボスに繋がるキーマンになってたりするからな」
誰よラスボスって……。
コイツもネットサーフィンのせいで、変な影響を受け過ぎてるようね。
「それより見えてきたで。見つけたっつうのは、あそこに居る老婆の事や」
まるで城内に居るみたいな造りのダンジョンを数分歩いたところで、マンシーさん達が見えてきた。
その側で1人の老婆が、何やら興奮してるように見える。
「アイリさんも来たのですね。実は少々困った事になりまして……」
今も尚、興奮が冷めない老婆に視線を移しつつ、マンシーさんが説明してくれた。
どうやらこの老婆によると、このダンジョンは非常に危険らしく、奥に進んではならないと必死に訴えたらしいんだけど、冒険者達は誰も聞き入れずにそのまま進んでしまったそうな。
そりゃ冒険者からしたら「何言ってんだコイツ?」って感じるわよね? 危険を承知で入ったんだし。
「とりあえず落ち着いてお婆さん。私はアイリっていう冒険者なんだけど、貴女は?」
「あたしゃローザっていうもんさ。そんでアイリの嬢ちゃん、アンタも奥へ進むつもりなんだろ?」
妙に敵意を感じるけど……ま、それは置いといて、私にはこのダンジョンがどういったものか調べる責任があるらしいのよね、ダンジョン発見の原因を作った側として。
だから、この人が拒んでも確かめなきゃならないわ。
「奥に進むつもりではあるけど、私の場合はお宝が欲しいとかじゃなくて、ダンジョンを見つける原因を作ってしまったからなのよ。他のダン……じゃなくて、他の人に聞いたら誰もこのダンジョンは知らないって言うから、私が調べようとしてるだけなの」
「ア、アンタが原因を作ったのかい!? いったいどうしてくれるんだい! 折角封印されてたってのに……」
封印? もしかして、とんでもない奴がこのダンジョンに封印されてたって事!?
「まぁまぁ落ち着きなされローザ殿。原因といってもワザとやった訳ではない。それにこのダンジョンが人目に触れた以上、いくら拒んでも世界中から人が寄って来るぞ?」
「そんな事は分かっとるわい! だからこそ、手遅れになる前にもう1度封印する必要があるんじゃ!」
ミゲールさんが宥めようとするも、いまだに興奮状態の……いや、狼狽えてると言った方が正しいわね。
そのローザさんは、頻りに何とかしなければと言いつつ頭を抱えている。
兎に角、ここに何かが封印されてたから、それが人目に触れないように湖底に沈められてたのは分かった。
でもいったい何が封印されてるのかまでは分かんないわね。
「まぁ落ち着いて下さい御老体。喚いたところで状況は変わりませんよ。それよりも、ここには何が封印されてるのです? エレム様に代わってお伺いしましょう」
「エレム様……って事は、アンタはグロスエレムの者かい? あんなキチガイ国家な連中が関わってくるんじゃないよ!」
「「キ、キチガイ国家……」」
相変わらず一言余計なマルティネスさんが、ローザさんを発狂させてしまった模様。
そして自国をキチガイ国家呼ばわりされたマンシーさんとマルティネスさんが顔をひきつらせる。
私には関係ない事だけど、本当にグロスエレムは嫌われてるわね。
その後、何とかローザさん(と、某2人を)を宥めて奥へ進む事にした。
進む際にローザさんの説得が必要だったんだけど、どのみち多くの冒険者達を残したまま再び封印する事は出来ないので、私達が元凶を断つという事で渋々納得させた。
そもそも封印する場合どうするつもりだったのかローザさんに聞いたけど、結局最後まで教えてくれなかった。
「そもそもローザさんは、どうやってダンジョンに入ったんです? まさかソロで冒険者をやってる訳じゃないですよね?」
「すまんがアイリの嬢ちゃん、それに関してはあまり詮索せんでくれ。あたしゃ本当は人前に出るつもりはなかったんでな」
他人には言えない秘密が多そうな人ね。
でも私としては知らないといけないから、こっそり鑑定させてもらおう。
名前:ローザ 種族:人間
レベル:?? 職種:??
HP:??? MP:???
力:??? 体力:???
知力:??? 精神:???
敏速:??? 運:???
【ギフト】 ミドルーシェの加護
【スキル】 No Deta
【魔法】 No Deta
これはどういう事!?
辛うじて人間である事と名前が一致してる以外は分からないなんて……。
そしてギフトにあるミドルーシェの加護。
これはミドルーシェという神が居るって事なんだろうけど、神の加護を受けてるって事は私と同じでイレギュラーな存在!?
「ん? アイリさん、難しい顔をなさってどうしたのです?」
おっといけない、顔に出ちゃったみたいね。
「すみませんマンシーさん。何でもないです」
ローザさん本人の事は一旦置いといて、このダンジョンの事について色々聞いてみた。
何となく部分的に隠して教えてくれたんだけど、まずこのダンジョンは200年以上前からあるらしい。
らしいというのは、答え合わせをしようにも知ってる人がローザさんしか居ないからしょうがないなのよ。
でもって何が封印されてるかなんだけど、聞いた瞬間耳を疑ったわ。
「ダンジョンコアじゃよ」
「「「ダンジョンコア!?」」」
その場に居るローザさん以外の全員が声をハモらせた。
そりゃ驚くわよ、ダンジョンコアを封印するなんて。
私にとってはアイカを封印するのと同義ね。
もしそんな事をアイカにしたら……、
ここぞとばかりにスイーツの山に埋もれるアイカが浮かんできた……。
どうやら例えがいまいちだったらしい。
「せやかてローザはん、なんでまたダンジョンコアを封印する必要があったんや? それにどないして封印したん? とてもローザはん1人では、そないな事を出来そうに見えへんが」
「はぁ、質問の多い男だよまったく……。だいたいさっきも言ったろうに。封印した理由は、モンスターを生み出さないようにするため。どうやって封印したかは言えないね。これでいいかい? 3度目は言わないよ! まったく、鳥頭じゃあるまいし……」
成る程ね、詳しくは分からないけど、ダンジョンコアが勝手にモンスターを召喚するのなら危険よね。
せめて残りのDPが分かればいいんだけども。
それから、ごめんなさいローザさん、ソイツ鳥頭なんです……。
可能な範囲での情報を共有した私達は、ダンジョンの奥へと進み続ける。
時折分かれ道が出現しても、ローザさんの指す方へと進んで行く。
そして長い一本通路に出たところで、前方からやってきた冒険者パーティとすれ違う。
最初はただの冒険者パーティだと思ってたんだけど、どうも他の冒険者と違う臭いがした。
臭いと言っても実際に臭い訳じゃなく、雰囲気の話ね。
何故そう思ったのかと言うと、ハッキリ言って冒険者というよりも傭兵と言った方がしっくりくるからよ。
いくらなんでも手荷物が少な過ぎで、探索するというには無理がある。
それになにより……、
『主よ、今すれ違った連中から殺気を感じとりまして御座る。充分に注意なされよ』
殺気に気付いたザードが念話で知らせてくれた。
いや、私も気付いたけどね。
『アイリはん、勿論ワイも気付いたで! アレは明らかに獲物を狩る雰囲気や。それに怪しいのはソイツらだけやないで?』
え? さっきすれ違った連中だけじゃなく、他にも居るっていうの?
『ズバリ言うが、エレムラブの4人も怪しい動きをしとるんや』
ホークに言われて、然り気無くエレムラブの4人に視線をやる。
すると、ミゲールさんとジュリアさんは必要以上に周囲を警戒してて、マンシーさんとマルティネスさんは度々後ろを振り返ってる。
既にローザさんから、このダンジョンには罠が存在しないと言われて、実際にこれまで罠を見なかったんだけど、それを差し引いてもこの4人は何かおかしい。
『既に主も気付いて御座ろうが、獣人の女子が後を付けて来てる事もお忘れなく』
そういえばそうだった。
それに加えてローザさん自身も得体が知れない。
今はまだ大丈夫だけど、もしとんでもない実力者だったらと思うと、楽観視はできない
兎に角、私は周囲に気を配りつつ、奥へ奥へと進んで行く……。
モフモフ「何見てんだゴルァ!」
冒険者「す、すいばぜーーーん!」




