閑話:眷族の秘密3
再び時は遡り、アイリが眷族達から生前の記憶に残っているものを聞き出してるところだ。
生前の記憶が有るのは、リザードマンキングのザード、ワイルドホークのホーク、マットブラックウルフのクロ、セイレーンのセレン、そしてオリハルコンゴーレムのルー、以上の5人という事が判明し、ザードとホークの話を聞き終わった状態だ。
残るはクロとセレンとルーなのだが。
「次は誰にしようかな……」
こういう時って、自ら立候補してくれると有り難いんだけどね。
……って考えてたら、クロが立候補してくれたわ。
「姉貴、次は自分いいッスか?」
「良いわよ。ところでクロの記憶はどのくらい残ってるの?」
ザードにしろホークにしろ、自分の最後の時くらいしか覚えてなかった。
もっと鮮明に覚えてたら有り難かったんだけど、無い物ねだりしても仕方ないしね。
ただ眷族の謎を解き明かしたいだけだから、最悪分からずに終わってもいいし。
「俺は他の眷族と違って、ハッキリと覚えてるッスよ」
「本当!?」
これは貴重な情報になりそうね。
理由は分かんないけど、ハッキリと覚えてるのは有り難いわ。
「チッ、クロのくせに生意気だな……」
「だったらモフモフの兄貴も頑張って思い出すしかないんじゃないッスかねぇ……」
うーーん、ランクが低い者ほどより良く覚えてるって事?
でもそれならシルバーウルフのギンも覚えてないとおかしいわね。
だったらランクは関係ないという事になるんだけど、Aランク以上の眷族が軒並み覚えてなかったのは偶然かしら?
「バカ野郎! お前、俺が簡単に思い出せるとでも思ってんのか?」
「……確かに。兄貴の頭じゃ無理かもしれないッスね」
「だろう?」
……何となく個体差が原因のような気もしないんだけど、とりあえずクロの話を聞きましょうか。
それからモフモフ、クロにバカにされてるわよ?
ブラックウルフの俺が生まれたのは、偶然にもこの魔女の森なんスよ。
けど魔女の森といっても、こんなど真ん中じゃないッスよ?
ここから北東のプラーガ帝国寄りのとこッス。
その地で俺は親から狩りを学び、群を構成する事を教えられたッス。
そりゃもう毎日毎日汗水垂らして必死な思いで……この辺は割とどうでもいいって? じゃあ省略するッス……。
それから年月が経ち、親から独立する事になり、手下となるウルフ達を集めて回ったッス。
え? ……下っ端はお前だろって? そりゃないッスよ兄貴……。
……まぁ、それはいいとして、大抵の奴は相手の実力は察知出来たッスから、自分より強い者……つまり、ランクが上の者には自然と従うようになるッス。
当然従わない奴も居たッスよ?
その場合は、実力行使って事になるッスね。
そして手下がある程度集まったところで、自分の縄張りを決めるべく動いたッス。
「これくらい集まれば問題ないだろう。聞くがいいお前達! これより我々は、我々の縄張りを確保すべく行動に移る! もうコソコソと逃げ回る生活に別れを告げる時が来たのだ!」
あの……兄貴? ……なんでそんな胡散臭そうなものを見る目をしてるんスか?
これは本当に記憶に有る部分ッスよ!
だいたい生前の自分達とは中身が違うんだから仕方ないじゃないッスか!
……じゃあ話を続けるッスよ?
「ではお前達、新天地に付いて来るがいい!」
「「「「ワオーン!!」」」」
特定の縄張りが無かったのは……いや、そもそも縄張りを持つ事が無かったのは、同格の魔物や、それ以上の強さを持つ魔物から逃げ続けてたからッス。
生存競争が激しい魔の森では当たり前の事なんスけどね。
それで、魔の森でも外側に近い場所なら低ランクの魔物ばかりなんで、そこを縄張りにしようって思い付いたッスよ。
「この辺りでいいだろう。よし、お前達、今日からここを新天地とする!」
「「「「「ウォン!」」」」」
ああ、今更ッスけど、実際は人の言葉は喋らないッスからね?
それから兄貴、俺にカッコイイ台詞は似合わないとか言わなくていいんスよ!
そんな事は俺が一番理解してるッス!
「さて皆の者、腹が減っただろう? さっそくこの新天地で狩りを行おうではないか!」
「「「「「アオーーーン!!」」」」」
俺がやって来たのは、魔の森をさらに北上したところのプラーガ帝国とミリオネック連合が近い場所ッス。
一応人里からは離れてるッスから、討伐隊がやって来る事もないだろうと思ったッス。
そして新天地に着いて早々、その地に住まう動物や魔物に対して食物連鎖って奴を教えてやったッスよ。
その甲斐もあって、僅か10日程でそこらの動物や魔物達からは頂点に君臨すると思わせる事に成功したッス。
その地での生活には自分も手下のウルフ達も満足してたッス。
何せ自分達に逆らう存在は付近には居ないんスからね。
けどそんな生活もある日突然終わる事になるッス。
その日、いつものように夜の狩りを行ってたんスけど、手下の1体が森に迷い混んだと思われる人間の男を発見したッスよ。
何故迷い混んだと分かったのかというと、冒険者にしては軽装だったんス。
見た目じゃただの村人じゃないかってくらいの軽装ッスよ。
だから最初に報告を聞いた時は、鴨がやって来たと思ったんス。
久々の人間の肉ッスよ?
テンション上がりまくるってもんッス!
それまで暫くの間、ゴブリンの肉ばっかりだったもんで。
じゃあさっそく頂いちゃおうと思ったんスけど、そうはいかなかったんス。
「オラッ!」
「ギャイン!!」
「狼5匹くらいなら問題ないな。時間は……まだ余裕がある事だし、もう少し狩りを続けるとするか」
その人間を襲わせるために5匹のグリーンウルフに命じたんスけど、あっさりと返り討ちにあったッス。
そこで鴨だと思ってた人間からとんでもない台詞が飛び出してきたッス。
この人間の口から狩という台詞が聞こえたッス。
迷い混んだと思ってた人間は、実は狩に訪れてたなんて思わなかったッスよ。
ちなみになんスけど、俺は人の言葉が理解出来るッスから、この人間の台詞も理解出来たッス。
本来なら、この人間がこの地を去るまで隠れてるのが正解だと思うんス。
この人間が異常に強いって事が理解出来たんで。
でもこの時は、軽く蹴散らされたグリーンウルフ達を見てプライドが傷付いたッス。
だから俺はこの人間だけは絶対に仕留めてやろうと思い、適度にグリーンウルフ達に襲撃させ、疲労を蓄積させてやったッス。
「時間的にそろそろ戻った方がいいな……!」
人間が帰ろうとしたので、いよいよ機は熟したとばかりに浮かれてしまい、ついつい殺気を放ってしまったッスけど、この機を逃すつもりはない俺は、すかさずグレーウルフ達に指示を出したッス。
すると突然人間は走り出したッス。
てっきり向かってくるもんだと思ってたんで。
このままじゃ逃げられる!
……と思ったその時、その人間は木々が邪魔にならない場所で立ち止まり、グレーウルフ達に向き直ったッス。
上等だと思ったッスよ。
だから計画通りその人間のスタミナを消耗させるべく、グレーウルフ達には無理に攻めさせず、ひたすら動き回らせたッス。
けど相手の人間も中々タフな奴で、取り囲んで有利な中でもグレーウルフが4体も殺られたッス。
でも相手の動きもだいぶ鈍くなってきたように見えたのと、これ以上は被害を増やしたくないという思いが重なり、一気にけりをつけるべく動いたッス。
「っ! ……まただ。先程感じたのと同じ殺気!」
さすがにもう殺気を抑える必要は無いと思ったんで、遠慮なく殺気を放ったッスよ。
そして堂々と相手の前に姿を現したッス。
「待ってやがったのか……俺のスタミナが切れるのを……」
「その通りだ」
人間にしては中々の思考能力だと思ったッスよ?
一応は自分の置かれてる状況を理解してるんスからね。
だけど残念ながら結果は変わらないって事を教えるべく、一気に相手に向かって駆け出したッス。
そのまま一撃できめようと首に狙いを定めていたんスけど、何故だか急に力が抜けてしまう感覚に襲われたッス。
仕掛けは分かんないッスけど、目の前の男が何かをした以外に説明がつかないッスから、相手が特殊なスキルを使ったんだと思うッス。
でもそのくらいで怯んだりはしないッスよ。
キッチリとお返しをするべく隠密走牙を発動して、相手の右腕を抉ってやったッス!
「ぐぁ!! ……くそがぁーーーっ!!」
咄嗟に体を捻って致命傷を避けたみたいッスけど、これで右腕は思うように振れないはず、そしてこの機に乗じてグレーウルフ達が相手の男に殺到するッスが、すぐに体勢を立て直し逆にグレーウルフ2体が返り討ちにあったッス。
「しぶといな……」
思わず本音を溢してしまったッスが、愚痴っても仕方ないのでもう一度同じように隠密走牙をしかけたッス。
「な!?」
ところがッス、なんとこの男は勘で回避しやがったッス。
初めてッスよこんな奴!
勘が良いどころの話じゃないッス。
でも悲劇はそれだけじゃ終わらなかったッス。
今度は相手から仕掛けて来たんスけど、なんと、途中からいきなり動きが速くなったッス!
「これで決めてやる!」
あわや首が切り落とされるってとこだったんスけど、首を捻って右頬を抉られた程度ですんだッス。
良かったなって兄貴、全然良くないッスよ!
無茶苦茶痛かったんスからね?
何か食おうとしても右頬からポロッポロって感じッスよ!
「ちっき……しょう! ……くっ」
でもそんな右頬の犠牲にした甲斐もあり、男は最後の力を使い果たし、その場に倒れこんだッス。
そうッス、ついにやったッス!
後は止めを刺すだけッスけど、グレーウルフ達は慎重になり様子を見てるだけのようッス。
なので俺がゆっくりと倒れた男に近付いたッス。
そしてほぼゼロ距離で男の首に噛みつこうとしたその時ッス!
「……終われねぇんだよ!!」
突然男は飛び起きて、手にした魔道具を使ったみたいッス。
バチッ!
「ぐうぉ!?」
何をされたか分かんないッスけど、何かが身体中を駆け巡ったような感覚だったッス。
ダメージはそれほどでもないんスけど、問題は……、
「か、身体が動かん!!」
身体が動かないのが一番の問題だったんス。
そしてこうなる事を予想してたらしい男は、すかさず剣を取り、俺に向かって斬りかかって来たッス。
身体が硬直してて動けない俺は、そのまま首を切り落とされてしまった。
「という事ッス」
凄まじい死闘の末にクロは敗れたのね。
しかも途中まで追い詰めておきながら最後の最後に……ってところはドラマチックね。
「クロ、お前ちぃとばかし盛ってねぇか?」
「盛ってないッスよ! 全部本当の事ッス!」
モフモフの言いたい事も分かるけど、当時のクロは今と中身が違うからね。
「今だから分かるッスけど、あの時の魔道具はスタンガンってやつッスね」
それに関しては私も気になったんだけど、少なくとも相手の男は転移者だったと見るべきね。
「それにその時の出来事は、今から1ヶ月くらい前なんスよ」
「1ヶ月前?」
1ヶ月前というと、まだこのダンジョンが開放されてない時じゃないの。
「という事は、クロは死んでからそれほど時間が経たない内に眷族になったという事になりますね、お姉様」
そうなるわね。
ん? もしかして……、
「時間があまり経ってないから、記憶が鮮明に残ってる?」
「その可能性は高いと思われます、お姉様」
これは有力な情報ね。
現時点では死亡時期が関わってるって考えるのが妥当だわ。
モフモフ「今度はもうちっとマシな嘘をつけよな」
クロ「だから嘘じゃないッス!」




