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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第4章:夜空に舞う銀箔蝶
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捕獲前の一騒動

前回のあらすじ

 銀箔蝶を手に入れたいアイリは、ホーク、ザード、モフモフの3人を引き連れて、ヨム族の住む大草原の中心部にある湖へと足を運んだ。

そこでは大勢の冒険者達が銀箔蝶の捕獲を目論んでおり、それに負けじとアイリ達も参戦した。


 テントを張り終わると、一息つくついでに自己紹介を行った。

 彼等は【エレムラブ】という冒険者パーティで、マンシー、ミゲール、ジュリア、マルティネスの4人パーティだ。

そんな彼等の目的は勿論、銀箔蝶(ぎんぱくちょう)


 ……なんだけど、他の冒険者とは少々事情が異なるみたい。




「布教活動?」


「はい。まだ世界にエレム教徒は多く居ませんが、より大きな名声を(とどろ)かせれば、きっと入信者が増える事でしょう」


 そう力説するのは、20代前半に見えるリーダーのマンシーさん。

聖戦士というジョブらしい。


「落ち着かんかマンシー。……すまぬなお若いの。コヤツは少々熱血なところがあってな……」


 つづいてサブリーダーのミゲールさん。

初老に差し掛かったあたりの男性神官だ。


「いえ、私は気にしないので……」


「そう言っていただけると助かります。それと、先程はお力添えありがとう御座います」


 そして丁寧な物腰のジュリアさん。

マンシーさんより、やや年上に見える。


「その通りです! さすがはエレム様のお導きといったところでしょう」


 最後に細身の若い男性のマルティネスさん。

この人は、事ある毎にエレムという名前を口走っている。

 そういえば、エレム教徒ってフレーズをマンシーさんの口から聞いたけど、エレム教という宗教があるのね。


「ご存知ありませんか? 我が国グロスエレムでは国教であり、知名度はかなり高いと思ったのですが……」


 ……聞き間違いじゃないわよね?

今マンシーさんの口から、グロスエレムって聴こえたんだけど……。


「おぅ、グロスエレムかいな。確かキチガイ国家として有名だったと思うで!」


「キ、キチガイ国家……」


 ああ、なんかマズそう。ホークの一言で、マンシーさんの顔がひきつってきてる。


「それはとんでもない誤解です! 本来エレム教というのは、地上に生きる全ての者達に、等しく生きる権利が有るという教えなのです!」


「わっとっと……、あんさんいきなり大声出さんといてくれまっか?」


「そうだぞマルティネス、そういった行動の一つ一つが、エレム教を貶める事に繋がるのだ」


 マルティネスさんが反論するけど、グロスエレムって確か、人間至上主義で獣人やエルフは家畜以下みたいな扱いだった筈よね……。


「し、しかしミゲール殿……」


「今の腐った上層部を見みてみよ。キチガイと言われても致し方あるまい……」 


 ふむふむ……グロスエレムの上層部は腐敗が酷いという事なんでしょうね。

もしかしたらその上層部とやらが、ダンジョン撲滅を訴えてるのかもしれない。


「む? 上層部というと、教祖にあたる人物で御座るか?」


「そうだのぅ。教祖とその取り巻き連中じゃな。先代の教祖から悪評が目立つようになってしまったのだが、今の教祖はそれ以上に酷い有り様だ」


 グロスエレムの人間にも、ミゲールさんみたいなまともな人が居るのね。

それに聞く限りだと、上に立ってる人間が狂ってて、グロスエレム全体がおかしくなってきてるっぽいわ。

 案外グロスエレム教国も、元はまともな国だったのかもしれない。

残念ながら今のグロスエレムは、他種族を弾圧してダンジョンの存在も悪と決めつけてるようだけど……。


「このままではエレム教そのものが諸悪の根元と言われかねません。……いえ、既に人間以外の種族にとっては、諸悪の根元になりつつあります。我々は何としてでもエレム教の間違った認識を正し、世に広めねばなりません。これは我々に与えられた使命なのです!」


 またマンシーさんが力説してる。

周囲の冒険者達もそろそろ寝始めるだろうから、トーンを下げてほしいんですが……。


「ご理解いただけましたか!?」ズイッ


 ちょ、マンシーさん、顔が近い顔が近い!


「分かった、分かったから。マンシーさん落ち着いて……」


 ゴツンッ!


「いったーーい!!」


「まったくお主は……、アイリ殿、度々すまぬのぅ。コヤツは布教に熱が入り過ぎるところがあるのでな……」


 ミゲールさんの拳骨により、マンシーさんの暴走は収まったみたい。

とりあえずマンシーさんは、布教活動の前に自信の精神を安定させた方がいいと思う。


「布教活動は分かりましたけど、それと銀箔蝶はどういった関係が?」


「それはですな……」


 ミゲールさんの話によると、銀箔蝶を捕獲すれば注目が集まるから、それを利用して現状のエレム教に対する偏見を無くし、本来の正しいエレム教を幅広く伝えていこう……という考えらしい。

 何はともあれ銀箔蝶を捕まえる事には変わらないので、夜間を共同で見張る事にし、夜が明けるのを待った。






「おはよう御座います、アイリ殿!」


「あ、うん、おはよう……」


 朝っぱらから元気なマンシーさんの声で、二度寝しようとした私の決意が揺らいだ。

ただ何となく目が覚めたからテントから顔を出しただけなのに、いきなり冒頭の台詞よ。

おかげで目が覚めつつあるわ。

 今はまだ午前5時を過ぎたあたりで、周囲の冒険者達も動いてる人は少ない中、マンシーさんは1人でストレッチをしてたようだ。


「見てください、朝日が綺麗ですよ!」


「そうですね」


「こっちも綺麗です、湖に反射してます!」


「そうですね」


「風が心地いいですね!」


「そうですね」


「小鳥の(さえず)りを聴くと、朝だという感じがしてきますね!」


「そうですね」


「あ、誰か湖に落ちたみたいです。そそっかしい冒険者ですね!」


「ソウデスネ(棒)」


「この慎ましい平和は、全てエレム様のご加護のお陰ですね!」


「………………」




「アイリ殿! そこはそうですねと言うところでしょう!?」


「ソウデスカネ(棒)」


 この人達は嫌いじゃないけど、正直エレム教はどうでもいいしね。

少なくとも入信するつもりはないわ。

もし私がダンジョンマスターだとバレたら、刺客とか差し向けて来そうだし。


 ……って、そんな事より銀箔蝶よ銀箔蝶。

特に私の場合は、捕獲しないとダンジョンに帰れないんだからね。


「マンシーさん、銀箔蝶は見かけましたか?」


「いえ。私は1時間ほど前に起きましたが、それらしきものは見てませんね」


 1時間前って……午前4時じゃない!

そんな時間に起きて、いったい何をやってたんだか……。


「目が覚めてしまったので、とりあえずストレッチでもしてようかと思いまして。あ、そうそう、ストレッチの前に、湖の周辺を軽く1周してきましたよ」


 …………東京ドーム3個分くらいの大きさがあると思われる湖を朝っぱらから1周するとか、もしかしなくても脳筋なんじゃ……。


「さすがにもう1周はしたくないですね。ハハハハハ!」


「ソ、ソウデスカ……」


 今の会話のどこに笑える要素があったのか、分かった人は早急に教えてほしい。


 ……とまぁ、朝から疲れる展開が訪れた訳なんだけど、結局その日は銀箔蝶(ぎんぱくちょう)が姿を現す事はなかった。

 けど次の日……また次の日と銀箔蝶が現れない日々が過ぎてく中、ぽつりぽつりと冒険者がテントを片付けて帰っていく。


「諦めて帰ってしまう冒険者がいるのね?」


 まさか短期間で帰っていく者達がいるとは思わなかった。

 今も、初日にマンシーさん達に絡んだ男達5人が帰っていくのが見えた。


「彼等にしてみればギャンブルみたいなものなのでしょう。実際収穫が有るかどうかは、やってみなければ分からないのですから。そんな事に時間を費やすより、ダンジョンにでも潜ってた方が余程実りが有るというものです」


「哀れな彼等はエレム様のご加護が得られなかったばかりに、諦めざるを得なかったのでしょう」


 ……マルティネスさんの言ってる事は兎も角、マンシーさんの言うように冒険者としての生活がかかってるなら、キチンとした収入が無いとダメよね。

 その点私の街……アイリーンは、森林エリアや鉱山エリアから資源を獲られるようになってるから、冒険者達が困る事はないわ。

そもそも3人しか居ない状況を改善しないといけないんだけれどね……。


「中には食料が尽きかけた冒険者が、街に戻るというケースも有るみたいですよ。特に今回初めて挑む冒険者は、そういった問題に直面しやすいのだと思います」


「おおエレム様、食料ごときで窮地に陥る哀れな冒険者達にご加護を!」


 成る程、ジュリアさんに言われて気付いたけど、私達はアイテムボックスが有るから食料に困らないのよね。

 私がダンジョンマスターだという事は彼等には話してないけど、アイテムボックスを持ってる事は初日に話してある。

後で追及されると面倒くさいし。

 それとは別にマルティネスさん、少々ウザいです……。


 そんな感じで、食料が無くなったら大変ねぇみたいな事を他人事のように話してた次の日に事件は起きた。




「誰だ! 俺達の食料を盗んだ連中は!?」


 今大声を上げた1人の青年のパーティが所持してた食料が、何者かに盗まれたようだ。

 他の冒険者達が遠巻きに見てる中、青年とその仲間達3人は、周囲の冒険者を威嚇(いかく)するように睨みつける。


「おいお前ら、言い掛かりはよせよ。夜に見張りを立ててたら、盗まれる事なんざないだろうがよ!」

「だよな。普通見張りを立てるのは当たり前だぜ」

「そうだそうだ、自分達の不始末を他人のせいにするな!」

「それに本当に盗まれたのかどうかすら怪しいよね……」


 けど他の冒険者達も黙ってはいない。

 血の気の多さもあってか、疑われたままで気分の良くない者達は、すぐに突っ掛かっていく。

 (たちま)ち避難の的にさらされた青年のパーティは一瞬怯むが、それでもすぐに言い返した。


「見張りはちゃんとやっていた! 恐らく隠密スキルを所持してる奴が居る筈だ!」


 それを聞いた冒険者達は、ピタリと言葉を止める。

もし青年の言う通りだとしたら、食料どころか命すら危うい。

 隠密スキルとは、他人に気配を察知されずに行動する事が出来るスキルなので、それを所持してる者は他人から危険視される傾向が強い。

なので、所持者の多くは人前でバレるような使い方はしないのだが……。

それにそのようなレアスキルが有れば、冒険者なんぞより国に取り入って雇われた方が、生活面で苦労はしない。


 とは言え、もしもを考えて行動するのが冒険者という者。

可能性は低くても、それを完全に排除出来ない事が分かった結果、今まで団結して青年のパーティを避難してた冒険者達は、互いに距離をとり始める。


「私達も他人事じゃないわね」


「そうですな。初挑戦で食料が心許なくなった者が、偶然隠密スキルを所持してる可能性もありますでな」


 ミゲールさんの言った事も有り得るし、一応夜の間は警戒を(おこた)らないようにしよう。

 しかし、そんな私を嘲笑うかのよに、次の日の朝にも遠くにテントを張ってた冒険者パーティの食料が、同じく盗まれた事が判明した。




「くそが! やっぱり隠密スキルを持ってる奴が居やがる! どこのどいつだ、ふざけたまねしやがって!」

「よくも我等【完熟ミニトマト】の食料に手をつけやがったな!?」

「くそぅ……我輩の情熱がトマトのように燃えるのだ!」


 どちらかと言うと、完熟デカトマトと言った方がしっくりきそうなガタイの冒険者3人が、自信の武器である斧を振り回しながら叫んでいた。


「これは注意が必要ですね。今日の夜からは2人体制で見張りを行いませんか?」


 危機感を感じたマンシーさんが、2人1組での見張りを提案してくる。


「その方が良いかもね」


 断る理由は無いので、この日の夜から2人で見張る事になった。

 そしてその日の夜の事……。


『姉御、遠くで隠密スキルを発動中の奴が居やすぜ!』


 騒動の原因と思われる存在は、あっさりと見付かった。 


『本当なの!? なら気付かれないように近付いてちょうだい。他人の食料を手にして、テントから出た瞬間を捕まえて!』


 モフモフからの念話では、ソイツは単独で動いてるようなので、捕縛はモフモフに任せよう。


『承知しやしたぜ!』


 これでよし。

 後は捕まえた後どうするかね。


「アイリさん、 先程モフモフさんが出ていきましたけど、どうかなさったのですか?」


 あっと……説明してなかった。

 今現在私は、ジュリアさんとペアで見張ってたのよね。


「犯人を見つけたらしいのよ」


「え? 犯人を!?」


「そう。だから捕縛しに行ったの」


 それから数分後、モフモフの念話で犯人を捕まえたという報告を受け、見張りをジュリアさんに任せると、モフモフの居る場所に向かった。



 現場に到着すると、既に被害にあったの冒険者と野次馬による人だかりが出来ており、その人だかりを掻き分けて中に入って行くと、モフモフによって拘束された少年が周囲に怯えるように縮こまっていた。

更にその傍らでは、少年の仲間と思われる同年代の少年が食料の大量に詰まった袋を抱えている。


「間違いねぇ。コイツの持ってる袋は俺達の食料が入ってた袋だ!」

「我等の食料も入ってるぞ。……ほれ、その真っ赤なミニトマトは我等のものだ!」

「くっ、全く気付かなかったぜ……」


 とりあえず奪った食料は各パーティに返して、少年達の身柄は私が預かる事にした。

それでも食料が減ってしまった分は多少は有るため、私の所持してる食料を分け与えて強引に納得させた。

 強引にというのは、最初の被害にあったパーティが食料を分けても愚痴り出したからよ。

多分少年達を奴隷商に売るつもりだったんだと思うわ。

 だけど捕まえたのはモフモフだから、モフモフの主人である私に少年達の身柄を好きにする権利がある。

なので文句が有るならモフモフに言えって言ったら、モフモフの顔を見て大人しく引き下がった。

 そんな訳で、少年2人に対する処遇なんだけど……。


「神の名において裁くべきです! 他人の持ち物を盗むなど言語道断!」


 ……と、想像通りに力説するのが、ご存知マンシーさん。


「そうですね。罪を認め、罪を償うのは共存する上で必要な事です。祖国に連れ帰り、エレム様の裁きを受けるべきです!」


 更に追い討ちをかけるように捲し立てるのは、エレム大好き人間のマルティネスさん。

ミゲールさんとジュリアさんは静観の構えね。

 でも2人共勘違いをしてるようだからハッキリ言おう。


「この少年2人は、私が街に連れて帰るわ。そもそも私達が捕まえたのだから、問題ないわよね?」


 もしこの2人をグロスエレムなんかに連れて行ったら、間違いなく死刑になる。

まだ私と同じくらいの年の男子が簡単に死ぬのはおかしいと思った私は、2人をダンジョンに連れてく事にした。

グロスエレムじゃなくても、隠密スキル持ちは権力者によって悪用されかねないし。

 お節介なのは分かってるけどね……。


「まぁアイリ殿がそう仰られるのでしたらやむを得ません……」


 マンシーさんが一応は認めたので、マルティネスさんも引き下がった。

 これでこっちは大丈夫ね。

後は少年達の方なんだけど……。


「まずは名前を教えてくれる? 私はアイリって言うんだけど、貴殿方は?」


「僕はトーマスです」


「俺はジェリー」


 トーマスとジェリーね。

鑑定の結果、2人共半獣人(ハーフビースト)と出たわ。


「それで、どうして盗みなんかしたの?」


「それは……」


 私の質問に答えたのはトーマスだった。

彼が言うには、ハーフビーストは獣人よりも力が劣り、人間よりも知性で劣るため、人間と獣人双方に見下されている種族らしい。

 彼等は主に、山奥の人目につかない場所で生活してると。両親を失ったりして人里に下りて来る事もあるんだけど、彼等を保護するような仕組みは当然無く、結局は路頭に迷う事になるのだとか。

 そんな訳で2人はテンプレの如く路頭に迷ってる最中に、偶然にも銀箔蝶の話を耳にする。

思考の結果、これに賭けるしかないと思った2人は噂の湖までやって来たのだけど、そこで食料が尽きてしまい、やむを得ず盗んだという事らしい。

 因みに、隠密スキルを所持してるのはトーマスの方ね。


「事情は分かったわ。今から貴殿方2人は街に連れてくけど、悪いようにしないから大人しくついて来てちょうだい」


 留守の間をザードとホークに任せると、私とモフモフは2人の少年を連れて湖から離れる。

そして人目がつかないところまで移動すると、ダンジョンへと転移した。






アイカ「コラ、ルー! お菓子のくずを落とすんじゃありません!」

ルー「はーい(棒)」

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