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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第4章:夜空に舞う銀箔蝶
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土産話と置き土産

前回のあらすじ

 ディスパイルの実家にお邪魔する事になったアイリは、食事中の話の流れで、ロザンという青年と模擬戦を行う事になった。

真面目に訓練を行わないという話を事前に聞いてたため、上には上が居る事をその身に刻み込む事に成功した。


 

 ロザンを叩きのめした次の日。

アイリはディスパイルと、彼の妹のキャメアンと共に街に来ていた。

 キャメアンとはすっかり仲良くなり、昨日の模擬戦の後はキャメアンの部屋で話し込み、そのままキャメアンの部屋で寝たのだった。


「それにしても昨日は凄かったよね! あの消える魔法……なんだっけ?」


「シェマーね。ちょっと使うタイミングが難しいけども」


「そうそれ。もう本当に感動したわ!」


 確かにシェマーを利用するのは難しい。

姿を消すと言えば聞こえはいいが、その場から動いたら効果が失われる上に気配の遮断も出来ないとくれば、使える場面は限られてくる。

 ロザンとの模擬戦で上手くいったのは、ロザンが集中力を欠いてしまったからだ。

もし冷静なままなら、気配で気付かれただろう。


「アイリちゃんて、もしかしてお兄ちゃんより強いんじゃない?」


「う……そ、それはどうかなぁ……」


(キャメアン、それに触れてはダメよ。私としてもディスパイルの心をへし折るつもりはないからね!?)


「………………」


(ほらぁ、ディスパイルが胃の辺りを抑えてるじゃないの……)


 既にアイリはディスパイルも鑑定済みなので、ディスパイルの強さも知っている。

鑑定結果は当然アイリの方が強かった。


「そんな事よりキャメアン、なんで俺達に付いてくるんだ?」


 若干不機嫌そうにディスパイルが尋ねる。

それもそのはず、ディスパイルにとってはアイリと過ごす貴重な時間であり、そこへ妹に割り込まれては、たまったもんじゃない。


「何よ~ぅ、別にいいでしょ? それに今日で帰っちゃうって聞いたよ?」


 元々1泊2日の予定だったので、今日でアイリとはお別れという事になる。

 とはいえ、既にこの国の()()は覚えたので、アイリなら来ようと思えばいつでも来れるのだが。


「それにお兄ちゃんは最近、頻繁にアイリちゃんと連絡取り合ってたんだよね?」


「むぐっ!」


 既にお察しの通り、ディスパイルは自国にアイリを誘うため、頻繁にラインのやり取りを行っていたのだ。

 なので少しくらい自分もアイリと接してもいいではないか……というのがキャメアンの主張だ。


 だがディスパイルとしても、アイリを誘うには一応の理由が必要なため、考えに考えて理由を見いだしアイリを誘い出したである。

その涙ぐましい努力がお前にわかるかと、心の中でディスパイルは愚痴った。


「まぁまぁ良いじゃない。こうして知り合えたんだし、また遊びに来るから」


「ホント!? アイリちゃん大好きっ♪」


 ガバッと大胆にアイリ抱きついてるキャメアンを見て、ちょっと羨ましいと思いつつ、ハッとなり首を左右に振るディスパイル。

 

「……コホン。キャメアン、人通りの多い場所ではしたないぞ。ほら、早く行こう」


「あ、そうね、私ったら」


 テヘ♪ っと舌を出して笑うその顔はまさしくテヘペロだと思ったアイリだが、言ったところで理解されないので言わなかった。


 それから少しだけ歩くと、見晴らしの良い丘に出た。

丁度ディスパイルの住んでる街を見下ろす形になっており、デートスポットの1つだ。

 ……と、キャメアンがアイリに教えた。


「いい眺めでしょ~ぉ? 夜も絶景なのよ!」


(確かにいい眺めよね。何となくお昼寝したくなる感じに。街の先に海が有るのも大きいわね。この街……いや、この国のどこかにミゴルさんも居るんだろうか?)


「ねぇ、ミゴルさんもどこかに住んでるの?」


「いや、ミゴル様は邪神レグリアス様の専属だから、普段は神殿に居るはずだ」


(えーーっ!? ミゴルさんて、もしかしなくても凄く偉い人? いや、偉い悪魔族?)


 だが何故、そのような偉い存在がアイリのダンジョンに来たのかが分からない。

暇だから? という単純な理由ではないだろう。


(それに確か、私に期待してるとも言ってたし……)


 いったい何を期待されてるのか分からない。

だがここで考えてても無意味という事で、ミゴルに関しては一旦保留という形に落ち着いた。


「そういえば本当に今更だけど、私がこの国に来ても問題なかったの?」


「問題ないよ? 外の国から招待される人は結構いるし」


 率直な疑問をぶつけたが、キャメアンは何でそんな事を聞くの? とでも言いたげに、コテン……と顔を傾ける。


「そうなの?」


 再確認の意味を込めてディスパイルに顔を向けたが、やはり答えは同じだった。


「現にこうしてアイリを招待してる訳だ。問題なぞないさ。それにな……」


 そう言ってディスパイルは口ごもる。

 気のせいか、微妙に顔も赤いようだ。


「それに?」


「あぁ……その……な。た、例えばだが、その………外の国から、な……え~と…………ああ、アレだ。婿や嫁を貰う事もあるからな。まぁ、悪魔族以外が居ても可笑しくはない。あのミゴル様も天使族とご結婚なされてる」


 (そっか。悪魔族だけで繁栄してる訳じゃないのね。それにしても……)


「ミゴルさんが天使族と結婚してるのは驚きだわ」


(これにつきる。紳士的な感じだったけど、紳士的な顔で天使族の女の子を口説いてたんだろうか? ちょっと想像出来ない)


 必ずしも男性が女性を口説いてる訳ではないのだが、人生経験が少ないアイリにとっては、男が女を引っ張るものだと思い込んでる節がある。

 これはアイリの父親による自我伝の影響によるものだが。


「だが別に可笑しな事じゃない。だから……な、べ、別に悪魔族と……人間が結婚するのもな……けっして可笑しくはないんだ、うん」


 アイリとしても、この世界ならそうだろうなと思っていた。

エルフやドワーフが居るのだから、彼等と人間が寄り添う事があっても不思議ではない。


「うん、そうね。他の種族との交流があるんだものね」


「そ、その通りだ!」


 妙に力強く同意するディスパイルは、自身とアイリが相思相愛である可能性に期待を寄せるのだが、アイリの頭の中では別の事を考えていた。


(私のダンジョンに色んな人達を住まわせたいと思ってるから交流は必要な事よ。まだ3人しか居ないしね。それにこの国もまだ一部しか見て回ってないから、時間を作ってまた遊びに来よう! この切っ掛けをくれたディスパイルには感謝しないとね)


 そう考えてディスパイルに向き直る。

面と向かってしっかりと礼は言うためだ。


「誘ってくれて有難うディスパイル!」


「そ、そうか?」


「ねぇ、ディスパイル。私達これからも……」


「う、うむ……」








「良い()()()()()()()()()!」


 アイリからのこれ以上無いくらいの笑顔で言われた言葉だった。


「お……ぉ……ぉぉ……」


 そしてその言葉を聞いて真っ白に燃え尽きたように立ち尽くすディスパイルと、アチャ~……という感じで額に手をあてるキャメアン、更にそんな2人を見て首を傾げるアイリの図が出来上がった。




 その後も街を散策したのだが、ディスパイルはどんよりと沈んでいた。

その横では、原因を作った本人がキャメアンと楽しそうに話しながら歩いてるのだが。

 

「ねぇキャメアン、ディスパイルは具合でも悪いの?」


「……そ、そうね。ちょっと衝撃が強かったみたいだから。今はそっとしといてあげて?」


「そう? ならいいんだけど……」


 アイリも気になって聞いてみるも、今はそのままにしておくしかなさそうだったので、結局放っておく事にした。


「あ、そうだ! 眷族(けんぞく)達にお土産を買って帰りたいんだけど、何かお薦めの物ってない?」


「お土産かぁ……。といっても、さほど珍しい物は……あ、アレがいいかも!」


 そういってアイリとディスパイルの腕をを引っ張って走り出すキャメアン。

程なくして着いた土産屋では、色鮮やかな絵画が並べなれていた。


「ここなんてどう? 部屋に飾っとく物だけど、無いのと有るのとでは違うって言うし」


 よく見ると、動物やら建物やら更には食べ物だったりと、色んな絵画が置いてある。

キャメアンの言う通り、これならそれぞれの眷族に合った絵を土産として持ち帰る事が出来るだろう。

 最もアイカやルーは、食べられない物をお土産にされて不満を口にするかもしれないが。

というか、ドローンを通して見えてる映像で、既に2人は愚痴ってたりする……。


「うん、お土産にはピッタリだわ! 有難うキャメアン!」


「どういたしまして♪」


(うんうん、物の数だけって訳じゃないんでしょうけど、それなりの種類が有るわね。

モフモフとクロのは同じ犬の絵画になっちゃったけどま、いっか!

後は……あぁそうだ、アイカの分はどうしようかなぁ……さすがに私にそっくりな人物は居ないだろうし……いや、居ても困るから居なくていいんだけどね…………ホントに居なくていいからね!?)


 何となく嫌な予感を感じ取ったアイリは、天に向けて手を合わせた。


(ホントにお願いします。フラグになりませんように。フラグになりませんように。フラグになりませんように……っと。これだけ拝んでおけば大丈夫よね? ね? ね?)


 アイリが祈ってる間も、ディスパイルは終始燃え尽きたままだったが、さすがそろそろ戻さなきゃと思い、無理矢理話題を作ってディスパイルに振る。


「ディスパイル、そろそろ帰らなきゃならないんだけど、私に合う絵画を選んでくれない?」


 アイリの言葉に……というか、アイリの声に反応して奇跡の復活を果たしたディスパイルは、名誉挽回のチャンスとばかりに、血眼になりながら絵画を物色した。

 その結果選んだのは、蒼く神秘的な蝶が銀箔を振り撒きながら夜空を舞っているものであった。


「この絵なんてどうだろう? 銀箔蝶と呼ばれる蝶を画いたものらしい」


 ディスパイルの手で掲げられた絵画には、1頭の蝶が夜空に存在感を主張していた。

アイリは()()()()を見て一目で気に入ってしまい、自分へのお土産として購入する事に決めた。


「ディスパイル、今回は色々と有難う。そろそろ真夏日が来そうな季節だし、()()()()()()のにちょうどいい物が手に入ったわ。また遊びに来た時には宜しくね!」


「あぁ、またいつでも来てくれ!」


 さっきまでの沈んだ雰囲気はどこれやら、復活したディスパイルが見せた顔は、とびきりの笑顔だった。


「キャメアンも元気でね? また来るから」


「うん、約束だよ?」


 また来る事を約束し、そのまま自分のダンジョンへと転移するアイリであった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「そんな事があったのか」


「ええ。少なからずショックを受けてるようですわ」


 アイリが帰った後、ディスパイル達も屋敷に戻っていった。

 帰って来た2人を見た母のユノルーサは、いつも通りのキャメアンとは対称に、暗く沈んでいるディスパイルに気付いた。

 本人に理由を聞いても何でもないとしか言わないので、仕方なくキャメアンに聞いた事により、アイリとの会話のやり取りが明るみになったのだ。

 その後、見事に復活するものの、キャメアンによる「そういえば結局友達のままね」という余計な一言の前に、再び奈落の底へと沈んでしまったのである。


「ふん。まったく、我が息子ながら情けない。それしきの事で落ち込むなど」


「まぁまぁ。あの年頃なら仕方ありませんわ」


 落ち込んでる理由を知ったルードガルとユノルーサは苦笑いをしたが、ディスパイル本人にとっては重大事件に他ならない。


「それにアイリちゃんもまた来たいと言っていたようですし、その内立ち直るでしょう」


「む、そうか? それならいいが」


「ご心配ですか?」


「そ、そんな事はない! それしきの事、自分で何とかすべきだからな!」


 等と言ってはいるが、ルードガルは同じ男として息子に少々同情していた。

何だかんだ言って息子が心配なのだろう。


「コホン……。それより、ロザンが真面目に訓練を行ってるそうではないか?」


 とりあえず、誤魔化すために話題を変える事にしたルードガル。

その話題はロザンについてだ。


「そのようですよ。ただ……」


「ただ……なんだ?」


「兵士長のカノラッソが言うには、奇妙な事を始めるようになったとか」


「奇妙な事だと?」


 アイリに伸されてからロザンは、真剣に訓練を行うように成った。

これ自体は喜ばしい事だ。

 しかしその反面、奇妙な行動をとるようになってしまった。

 話だけだとどうも要領得ないという事で、ルードガル自身でその様子を伺う事にした。


「あれは……一体何をやっておるのだ?」


「それが……本人が言うには、強くなる秘結らしいのです」


 問われた兵士長のカノラッソだが、兵士長の方もよくわからないらしい。


「アレがか?」


「……はい」


 ルードガルの視線の先では、ヨガ体操もどきのポーズを決めてるロザンがいた。

 そのロザンは、右手に花瓶を、左手に水差しを、そして両足に絵画を挟んだポーズを維持していた。

 ロザンが偶然メイド達の話を聞いて、これは究極の精神統一の極意に違いないと思い込み実践してるのだ。

 そしてこれを期に、この精神統一が徐々にこの国で広がっていくのであった。


アイカ「何ですかこのスイーツの絵画は。食べれないじゃないですか!」

ルー「マスターは鬼、もしくは悪魔」

アイリ「言われると思った」

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