冒険者ギルド
ラムシートの街へ入場するため、列の最後尾に並んで何となく前方を見ると……。
うん、いる、猫耳生やしたり尻尾出したりしてる獣人って存在が。
「初めて見たけど、本当に居たんだ……」
話には聞いてたけど、実際に見るとやはり異世界なんだなと思う。
いや、既に魔物を見てるから今更か。
入場の際に、本来は身分証代わりになるギルドカードが必要だったんだけど、当然持ってるわけはないので、その場合は銀貨1枚を徴収される。
合計銀貨4枚が必要なんだけど、当然持ち合わせがないため、ドルトンさんに報酬から減額ってことでお願いした。
「道中助かりました。私はアルバムーン商会に勤めておりますので、もしお探しの品があれば、是非アルバムーン商会へお立ち寄りください!」
「うん、機会があれば是非」
報酬の銀貨40枚を受け取りドルトンさんと握手を交わすと、ドルトンさんは、そのまま街の奥へと向かっていった。
報酬を受け取る際、私が受け取った報酬額を見てカインさんが驚いてるのを見ると、かなり高額なのだと思われる。
「確か冒険者ギルドに行くって言ってたよな? 冒険者ギルドはこの中央通りを暫く進んでくと、右手側に冒険者ギルドと併設された訓練所や宿屋があるぜ。デカイ建物だから直ぐにわかると思う」
見た目は粗暴そうに見えるカインさんだが、根はいい人なんでしょうね。
「わかったわ。ありがとう」
「困ったことがあったら是非力になりたい。君たちは命の恩人だ」
ガルベスさんは身長が2㍍くらいあるから、見下ろされる形になってしまい威圧感が凄いが、この人も真面目な人だ。
「縁があったらまた会いましょうね」
ちょっと小悪魔っぽい雰囲気のメージェさんはとても気さくな人だったわ。
「んじゃあな、あばよ!」
「はい、またね!」
カインさんたちは自分たちの宿屋に向かったのかな?
私たちも宿屋の確保をしたいけど、先ずは冒険者登録ね。
その次に大量にある魔物の死骸。
これを冒険者ギルドで買い取ってもらおうと思う。
死骸は私のアイテムボックスに全て入れてある。
アイテムボックスの取得に、DP30000も必要だったけど、必要経費ってやつね。
当然取得にはアンジェラの協力が必要だったので、アイテムボックスがあれば、ダンジョン外でもスイーツや新鮮なお肉をお楽しみいただけることを力説し協力させた。
けどここだけの話、私のスマホがあればいつでもスイーツを出せるんだけれど、特に教える必要がないので教えてない。
暫く歩いてると、カインさんの言ってた通り、右手側に冒険者ギルドらしき建物が見えてきた。
「あそこが冒険者ギルドね」
「そのようですね。早く入りましょう!」
「あ、ズルいのじゃ、妾が開けるのじゃ!」
子供かあんたら……。
いや、アイカの方は子供か。
そして扉の前で一度深呼吸をしてから、扉を開き中に入った。
中に入ると、受付に並んでる者、依頼らしき貼り紙を見てる者、テーブルを囲んで話し合っている者と、様々な者たちが居た。
とりあえず私たちは、列に並んで順番を待つことにした。
そして待つこと10分、ようやく私たちの番が回ってきたと思ったその時……
バァァンッ!!
勢いよく開かれた入口から、柄の悪そうな4人組の男たちが入ってきた。
「今日も上手いこといったなぁおい!」
「だなぁ、これならランクアップも近いぜ!」
「おぅよ!」
「「「「ゲェアッハッハッハ!!」」」」
下品な笑い声を上げて受付の方に近付いてくる男たち。
その途中で、私たちの後ろに並んでる者たちを押し退ける。
「オラ、邪魔なんだよどけ!」
押し退けられた者たちは、悔しそうにしながらも、男たちの後ろへ並び直す。
しかしどこにでも居るのね、こういう輩ってのは。
(おい、またアイツらだよ……)
(本当に迷惑よねぇ……)
(あぁ、あの女の子たちも絡まれるな……)
周りからヒソヒソ声が聴こえる。
どうやらこの4人組は有名らしい。
「オイ! そこのガキ共もどきやがれ!」
「そもそもここはガキが来るところじゃねぇってんだよ!!」
「ガキは大人しく家で遊んでな!」
そーら来た。
譲ってもいいけど、はっきり言って癪よね?
譲ってやる義理もないし。
(あの子たちも可哀想に……)
(できれば何とかしてあげたいけど……)
(あぁ僕のエンジェルちゃんが!)
一々相手にするのも正直面倒臭いし、無視して受付してもらいましょうか。
「冒険者登録をしたいんだけど」
「あ、はい……冒険者登「テメェ! 無視してんじゃねぇーっ!」」
チッ……うっさいわね。
というか列の割り込みって、ギルドじゃ何も対処しないのかしら?
「ねえ受付嬢さん、こういう割り込みってギルドは何も言わないわけ?」
「ハッ、ギルドが冒険者同士のトラブルに関与しないのは常識だせ!」
「その通りだぜ! わかったらどきな!」
……あーほんとうっさい。
でも冒険者同士のいざこざに関与しないっていうのは、ギルド職員に確認する必要があるわね。
「……そうなの?」
「はい。冒険者ギルドでは、冒険者同士のトラブルには関与することはありません」
「私たちはまだ冒険者になる前の一般人なんだけど?」
冒険者ギルドに来てるけど、私たちはまだ冒険者じゃないのよね。
「申し訳ありません。本来なら仲裁するのですが、かなり前に冒険者ギルドのギルドマスターが代わってから、冒険者ギルドに来てる以上、冒険者と一般人との区別はしないと定めてしまったのです」
ふーん?
なんかギルドマスターが好き勝手にやってる感じに見えるけど、このギルド大丈夫なんだろうか?
でも命に関わる重要な部分はキチンと確認すべきよね?
「それは怪我人や死人が出ても……かしら?」
「う、そ、それは……」
「おい! いつまでゴチャゴチャ言ってやがんだ!」
「テメェらはさっさとどきゃいいんだよ!」
チンピラがしびれを切らして私に掴みかかってきたので、その手を捕っておもいっきり入口の方へぶん投げた。
「げふっ!!」
……………………………………………………。
投げ飛ばした直後、ギルド内なシーンと静まり返った。
投げ飛ばされた男の仲間も、他の冒険者も、受付嬢も、今何が起こったのか理解が追い付いてないようだ。
一方のアイカとアンジェラは、ニヤニヤして眺めてるけど、セレンは普段通りニコニコしていた。
よし、今のうちにコイツら鑑定してみよう。
この鑑定スキルを獲得するには、DP20000もかかったのよ。
せっかく手に入れたなら使わないとね。
名前:ギュンター レベル:24
HP:186 MP:21
力:212 体力:246
知力:74 精神:58
敏速:197 運:12
【スキル】剣Lv3
【魔法】
今目の前にいる男のステータスがこれ。
一般人よりは遥かに強いが、所詮はその程度、ハッキリ言っちゃえば雑魚よ。
少なくとも私は脅威に感じない。
名前:ボッツ レベル:22
力:191 体力:224
知力:78 精神:65
敏速:213 運:14
【スキル】弓Lv3 短剣Lv2
【魔法】
その隣りの男。
さっきの男と同様ね。
ちなみにだけど、鑑定や自分で行うステータス表示は、任意で情報を絞りこめる。
つまり、要らない情報は遮断できるってこと。
力:198 体力:218
知力:69 精神:61
敏速:199 運:14
【スキル】槍Lv3
【魔法】
更に横にいる男。
こうやって名前やレベルを非表示にもできる。
でもこれじゃあ名前がわかんないから‥‥。
名前:トット 種族:人間
性別:男 職種:Dランク冒険者
レベル:25
HP:175 MP:33
力:198 体力:218
【ギフト】
こんな表示も可能なのよ。
そしてコイツの冒険者ランクはDね。
名前:ルポンズ レベル:23
HP:205 MP:48
力:186 体力:208
知力:76 精神:58
敏速:203 運:11
【スキル】剣Lv3
【魔法】
最後にコイツが私が投げ飛ばした奴。
こうして見ると、全員同じくらいのステータスだから、コイツら全員Dランク冒険者だと思うわ多分。
だけれど、この4人が束になって襲ってきても、私の敵じゃないわ。何故なら……
名前:アイリ レベル:147
HP:2860 MP:3758
力:1694 体力:2247
知力:3938 精神:3511
敏速:3242 運:50
【ギフト】ミルドの加護
【スキル】相互言語 剣Lv5 格闘Lv4
【魔法】火魔法Lv5 水魔法Lv4 無魔法Lv3
御覧の通りよ。
お分かりいただけたかしら?
「お、おいテメェ、な、何しやがった!?」
あ、4人組の内の1人が復活したみたい。
「何って、普通に投げ飛ばしただけよ? ちゃんと手加減したから、大丈夫だと思うけど?」
「ふ、ふざけんじゃねぇ!」
「もう、許さねぇぞゴルァ!!」
どうやらまだ勝てる気でいるようね。
見た目だけじゃ相手の力量は測れないってことを教えてあげましょうかね。
でも、叩きのめす前に……。
「ねぇ、もう一度聞くけど、ギルドは関与しないのよね?」
「え、は、はい。関与しましぇん」
「私は一般人だけど、衛兵呼んだりしないわね?」
「はいぃ! 今ここで行われてることは絶対関与しましぇん! 私は何も見てませぇん!」
よし、言質はとったから、何か言われても突っぱねてやるわ!
『アイカ、アンジェラ、あとセレン。手を出しちゃ駄目だからね?』
『はい、お姉様の思うままにやってください』
他の2人も頷いてるわね。
「ほら、さっさと掛かってきたら? 4人纏めてでいいからさ?」
「クソッ! 調子に乗りやがって、お前らやっちまうぞ!」
「「「おうっ!」」」
かけ声と共に一斉に殴り掛かってくる4人だけど、何の工夫もなく掛かってきたのにはガッカリだわ。
時間の無駄だしさっさとけりをつけよう。
「雑魚が、粋がるんじゃあないわよ!」
中途半端にやって舐められるのは嫌なので、骨折くらいは覚悟してもらいましょうか。
「がはっ」「ぐふっ」「げぼぉ」
開始3秒で3人をノックアウト。
やり方はとっても簡単、相手より速く動いて殴るだけ。
って、3人目の奴、おう吐しやがったわ、バッチィわね!
「……え?」
で、状況を理解してない4人目を、後ろから踵落としで沈めてやった。
さて、それじゃあ改めて……。
「冒険者登録をお願いしたいんだけど?」
この日、ラムシートの冒険者ギルドで新たな伝説が生まれた瞬間であった。
この後、多少の尾びれ背びれが付いてくることになるのだが、目撃した者は皆口を揃えて言うのだ。
『まるで天使のようにふわりと舞って、たちまち男たちを叩きのめしてしまった』
これを機にラムシートの街周辺では、女性冒険者が僅かながら増加傾向に向かうのだった。
アイカ「お姉様、最後の1人を沈めた時、正面に居た男がパンツ見てましたよ」
アイリ「すぐにソイツを捕まえてきなさい!」