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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第3章:アレクシス王国の暗部
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閑話:もう1回遊べるドン

「それじゃ後は任せるわ」


「ああ、色々とすまんな」


 ダンジョンマスターの少女、アイリに成す術なくやられた俺達は、サクサロッテ共和国に連れて来られた。

 そんな俺達をソルギムの街のギルドマスターに預け、ボスは1人アレクシス王国へと帰って行った。

そして今、ギルマスのブラードという男と俺達の情報交換が行われようとしていた。


「さて、お前達に頼みたい事があるんだが、アイリから話は聞いてるか?」


「大まかには聞いている。なんでも、この街を勢力圏に置いていた闇ギルドが潰れてしまったとかで、他所の闇ギルドが触手を伸ばしてるという話だとか?」


 この話は両足を食い千切られた時に聞いた事だな。

エリクサーのお陰で後遺症も無く完全に元通りだが、なるべく思い出したくはない……。


「その通りだ。まぁ一部訂正するなら、潰れたのではなく潰したというのが正しいがな……」


 それは何となく想像出来る。

あれだけ強力なモンスターを眷族(けんぞく)にしているのならば、闇ギルド1つや2つを潰す事なんざ朝飯前だろう。


「その影響で、最近になってから他の街を拠点にしてる闇ギルドに目を付けられてな、この街を牛耳ろうとしてやがるんだ」


「成る程な。闇ギルドの存在は他勢力からの抑止力になるが、その闇ギルドが無くなっている今が、まさにチャンスなんだろうな」


「そういう事だな……」


 闇ギルドは基本どの街にも存在する事が多いのだが、もし街に闇ギルドが存在しない事が知られてしまうと最悪の場合、その街を巡って大規模な抗争が発生する事もある。

 幸いこの街は、1つの闇ギルドに狙われてるだけで済んでるようだが。


「だいたい何だって闇ギルドを潰しちまったんだ? そんなに危険な奴等だったのか?」


 ここでハットが口を挟んでくる。

出来れば俺1人の方が話がスムーズにいくと思うんだが、知りたい事でもあったので、ブラードの返答を待つ事にした。


「ああ、それなんだけどな、この街から1時間程歩いた場所にダンジョンが有るんだが、事もあろうに前の領主がダンジョンコアを狙って攻略を始めやがってな、それを阻止したのがアイリなんだよ」


 何故か武勇伝のように語るブラードだが、この男もアイリに助けられた口かもな。


「ふむ……だがそれだと闇ギルドとは関連が無いように感じるが」


「ああ、すまんすまん! ここからが肝心なんだが、ここの前領主は闇ギルドと密約を交わしてたらしくてな、ダンジョンコアを闇ギルドに売り払うつもりでいたらしく、それに気付いたアイリに、闇ギルドごと潰されたって訳さ」


 ふむ……それだけ聞くと、ボス(アイリ)はダンジョンを狙われるのを嫌ってるように感じるが、続いたブラードの言葉に納得した。


「因みにな、その狙われたダンジョンはアイリの知り合いのダンジョンだったらしい。アイツは身内や知り合いに火の粉が降りかかると、烈火の如く怒り出すからな」


 そういう事か……。

 つまり、俺達が引き受けたあのダンジョン攻略も、知り合いのダンジョンだったという事なんだろう。


「分かる分かる。ここに入って来た時も、皆ボス(アイリ)を見てビビってたもんね。多分あれでしょ、ボス(アイリ)に手を出そうとした奴が、返り討ちにあったんでしょ?」


 何故かデールが楽しそうに語るが、多分そうだろうと俺も見ている。


「やっぱ分かるか? このギルドに出入りしてた女好きのパーティが居たんだが、事もあろうに2度も手を出そうとしてトラウマになったらしいな。ソイツらは既に拠点にする街を変えたみたいだが」


「おいおい、アレ(アイリ)に2度も手出しするとか勇者かよ!」


 不覚にも、俺もハットの言うように、ソイツらが輝かしく見える。

勿論バカな方向性で。


「っと……話が逸れちまったな。要は別の闇ギルドの連中が街に入り込んで来やがったんだが、ソイツらがまた暴虐的な連中でな、治安が著しく低下中な訳だ。新しい領主様はまだまだ不慣れで、とても手が回らないようだ」


 どうやら随分(ずいぶん)と小者の多い集まりのようだ。

大抵の闇ギルドは、目立たないように行動するのを鉄則にしている。

それが目に見える影響を自ら与えている時点で、闇ギルドと言うよりはただのチンピラの集まりに見えるな。

 そして今の領主には期待出来ないと。


「で…………よっと、これが街全体の地図なんだが、そこそこの広さだろ? 既に街に入り込んでるって事は、何処かに拠点が有る筈なんだが、それすらも不明のままだ」


 ブラードが引出しから地図を取り出して、テーブルの上に広げて見せる。

 折角だし、頭に叩き込んでおこう。


「そうだ、ついでに言うと、ここがお前さん達の拠点な。冒険者ギルドから近い方が有り難いんでな」


 そう言ってブラードが指したのは、冒険者ギルドの裏手にある民家だった。

恐らく今は、空き家になっているんだろう。


「それでな、この青いラインを引いてる所が元々治安の悪かった場所で、この赤いラインを引いてる所が最近になって悪化し出した場所って事になる」


 青いラインは主にスラム街とその近辺だが、

赤いラインを見ると、街全体を外側から内側に向けて侵食してるのが分かる。


「ここには何が有りますか?」


 不意にヤミーが声を上げる。

そのヤミーが指した場所は、赤いラインからやや離れた、かなり大きな施設のようだ。


「そこか? そこは闘技場になってるぞ。その周辺は特に治安は悪くないが……」


 冒険者ギルドのギルマスであるブラードが言うのなら、そうなんだろうな。

 だがうちの分析家は違う見方をしたようだ。


「ボルチェ、ここが怪しいです」


 一見怪しいところは無いように感じた闘技場が、ヤミーから見て怪しく見えたようだ。


「闘技場か……ブラード、闘技場の支配人は居るのか?」


「元々闘技場は領主のものだった筈だな。だが前領主が闇ギルドに暗殺されちまってな、上手く引き継ぎがされてないのかもしれん」


 調べる価値は有りそうだな。

闘技場が開いてる時間帯に潜り込んでみよう。






 夜になり、さっそく闘技場へと足を運ぶ。

そこでは観戦するだけでも可能だが、参加者に賭けて遊ぶ事も出来る。

 だが目玉は何と言ってもチャンピオンとの試合だ。

現在のチャンピオンは、10日程前にその座を勝ち取った新チャンピオンらしい。


「試合は主催者も観戦してる筈だ。ハットはヤミーとカンマを連れて主催者の正体を突き止めてくれ。」


「任せろ!」


 3人は観戦席へと散って行った。


「オリベルは参加者として試合に参加してくれ。くれぐれもチャンピオンと当たったら注意しろよ?」


「分かってるぜ」


「残りは俺と一緒に闘技場周辺の張り込みだ。怪しい奴が居たらマークしろ」


「「「了解」」」


 さて……ヤミーの考えが正しければ、闘技場は闇ギルドの支配下に置かれてるらしいが、果たして……。






『皆様、大変お待たせ致しました! これより、チャンピオンマッチを開催致します!』


「「「「「「オオォォ!!」」」」」」


 凄まじい熱気が闘技場を響かせる。

 このソルギムの街の数少ない娯楽と考えれば当然かもしれない。 

 司会者は、マイクと呼ばれる声を遠くまで響かせる魔道具を手に持ち、観客を煽る。


『さぁまずは最初の挑戦者の登場だ。1人目の挑戦者は、傭兵団で斬り込み隊長を勤めてる男、ラゴスだぁ!』


「「「ヒューヒュー♪」」」


『そしてその挑戦を受けるのは勿論、ソルギムのヒーロー、ソルギムのスター、ソルギムのチャンピオン、ミスターナードッツだぁぁぁぁぁぁ!!』


「「「「「ウォォォォォォ!!」」」」」


 一際大きい歓声と共に現れたチャンピオンは、覆面を被り、上半身が裸のムキムキマッチョな中年男だった。

 そんなマッチョなチャンピオンは、挑戦者と比べて明らかに声援が多いという点を見れば、人気の高さが(うかが)えるというものだ。


『さぁ準備はいいかご両人? それでは、ラウンド……ワン…………ファァァァイトゥ!』


 司会者の合図と共にナードッツに向かっていくラゴス。

刃を潰したバスタードソードで斬りかかるが、それを難なく両手で白刃取りすると、そのまま剣をへし折ってしまった。


「な! 剣が!?」


「甘いぞぉっ! その程度で俺様に挑むたぁバカな奴め!」


 折れた剣を投げ捨て、ぶっとい腕でラリアットをかますと挑戦者は壁に激突し、そのまま気を失った。


『ウィナァァァ、ナードォォォォッツ!!』


「「「「「ウオォォォォ!!」」」」」


 圧倒的な力を見せ付けたナードッツは、拳を突き上げ、自らが絶対的な勝者である事を証明した。


 続く第2試合も、槍使いの男がリーチを生かして挑むが、決定打を欠いている内にナードッツに接近を許してしまい、殴り倒されてしまう。


『皆様、いよいよ本日最後の試合となりました。最後の挑戦者は、新人冒険者として登録したばかりの男、Gランク冒険者のオリベルだぁ!』


「「「「「ブゥーブゥー!!」」」」」


 観客達からブーイングが発生する、

 Gランクの冒険者がチャンピオンに挑んだところで勝てる筈がない……というのが理由なのだが、試合開始直後、観客達の予想だにしない出来事が発生する。


『さぁ準備はいいかご両人? では、ファイナル……ラウンド…………ファァァイトゥ!』


 だが試合が始まってもオリベルは動かず、黙ってナードッツを見ていた。

これに対して観客は2度目のブーイングを起こすが、それに動じずオリベルは動かない。


「先手を譲ってやろうと思ったのだが……掛かって来ないのならこちらから行くぞ!」


 動かないオリベルを見て、巨体を揺らしつつナードッツは殴り掛かる。

それをオリベルは落ち着いて、バックステップで回避した。

 尚も果敢に殴り掛かるがオリベルには当たらない。


「ぬぅぅ……やりおる。だが!」


 再び掛かってくるナードッツは、時折フェイクを交えながら掛かるのだが、それでもオリベルにはかすりもしない。

 その様子を見ていた観客達は、次第にざわめき始めるのだった。


「そろそろ終わりにしようか……拘束せよ! アースバインド!」


 オリベルがアースバインドを発動させる。

この魔法は相手の足下を縫い付けて、両足を動かせないようにする魔法だ。


「ぬぐぉ!?」


 足を動かせなくなったため、バランスを崩し、両手を地面についてしまう。

そのままナードッツの背中に乗っかり、降参するまで踏みつけるという前代未聞な闘いを披露しての勝利となった。


『それまで! 勝者オリベェェェル!!』


「「「「「ウオォォォォォ!!」」」」」






 試合後、俺達は闘技場の外で合流した。

そして情報の精査を行いつつ、()()()()に向かって歩きだす。


「まずは俺達からな。観客席に護衛と娼婦のような女を侍らせてたオッサンが居たから、会話を盗み聞きしてきたぜ。」


 自慢気な顔をして言うハットを見て思い出したが、こういう表情をドヤ顔というらしい。

そうボス(アイリ)が言ってたから間違いないんだろう。


「結果はビンゴ! その闇ギルドの首領は、チャンピオンを倒したオリベルを勧誘したいって言ってたぜ」


 当然ながらオリベルは、チャンピオンを倒した後のチャンピオンの座を辞退した。

 それを見て闇ギルドの首領は、構成員か護衛にしようと考えたようだ。

 因みに首領の詳細は、ヤミーの鑑定スキルによって明らかにされたものだ。


「では俺の方からはコレだ」


 俺は大量の金貨を詰め込んでいた袋を開いてみせた。

あえて()()()()()()()()()()()()()


「おお、さすがボス。お金持ちぃ!」


 この金貨は、試合が始まる前にオリベルに賭けておいたものだ。


「そんなに儲けて、何に使うつもりだい?」


 疑問に思ったノアーミーが尋ねてくるが、それの答えは決まっている。


「釣りだよ。金の匂いに釣られる奴等が居るのさ」


 直後行き止まりに着くと、振り向き様に()()()へと尋ねた。


「そうだろ?」


 すると、暗闇からゾロゾロと現れる男女が20人近く。

その中のリーダー格がボルチェに答えた。


「おう、その通りだぜ。分かってんなら話が早い。その袋をこっちへ寄越しな」


 舌なめずりをしながら近付いてきた男に対し、ボルチェは最高の笑顔でもてなした。


「そんなに欲しいならくれてやろう」


 片手に掴んだ有りったけの金貨を、リーダーの男の口に無理矢理詰め込む。


「ふ、ふごぉぉぉ!?」


 喉を詰まらせてる男を他所に、ボルチェ達は次々とならず者をぶちのめしていく。

 結局、ものの数分でならず者共は捩じ伏せられたのだった。


「オェ……ぐぞ、何枚か飲み込んじまった」


 漸く詰まらせた金貨を吐き出したリーダーは、信じられない光景を目にした。


「あ、あれ? これはどういう……」


「さて、知ってる事を全て話して貰おうか」






 不運にも数枚の金貨を飲み込んだリーダーの男は、巻き上げた金の殆どを、闇ギルドの首領に渡していると話した。

 それ以外にも、暗がりで住民を襲ったりしている事も自白した。


「やはり新しい闇ギルドは小者の集まりだという事がはっきりしたな」


 普通ならば、自分達が根城にしている街への手出しは控えるものだ。

そうしなければ、最悪国から討伐軍が差し向けられるからな。


「カズヨ、ブラードに報告して、コイツらを回収させてくれ」


「分かった!」


 カズヨを見送ってると、リーダーの男がボルチェ達にすり寄ってきた。


「あんたら強かったんだな! 俺達を手下にしてくれなガハッ!」


 寄ってきた男に、素早く手刀を叩き込む。


「悪いが、素行の悪い手下はお呼びじゃないんでな」


 そして男は気絶した。

 後日、この男の尻から幸運が訪れるが、それは別のお話である。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 その頃、闘技場の地下では、闇ギルドの首領であるディクソンが部下からの報告を待ちわびていた。

今日に限って賭け試合の結果で、主催者側が大損するという事態に陥り、その金を取り戻すべく追っ手を差し向けたのだ。


「まさかGランクの冒険者に金貨を賭ける奴が出てくるとはな……」


 Gランクの冒険者として参加したオリベルは、勝敗での配当がバカのように跳ね上がってしまったのだ。

そこへボルチェが金貨を数枚賭けた事で、大金を手にしたのである。


「だが取り戻せば問題ない。そうすれば損失は「チャラになる……ってか?」


 突然部屋に乱入してきた黒装束の者達に、ディクソンは驚き腰を抜かす。


「だ、誰だお前達は! 上に居た護衛達はどうしたというんだ!?」


「質問が多いぜオッサン。まず俺達は、今度から新しくこの街の闇ギルドとして活動する事にした集まりだ。組織の名前は募集中だぜ?」


 腰を抜かしてる首領に、ハットは上から覗き込むようにして話しかける。


「や、闇ギルドだと? くそっ! 折角手に入れた街を手放すものか!」


 起き上がったディクソンは、懐から杖を取り出そうとする。

その杖は、無詠唱というスキルをエンチャントされた杖で、かなり前に裏オークションで入手した物だった。


「探し物はコレかい?」


 しかし、背後に回り込んだデールによって、既に杖は奪われてしまっていた。


「な!?」


 信じられないと思っただろうが、もう遅い。

首領ディクソンは何も出来ずに降参するしかなかった。


「くそぅ……お、お前達は化け物か!」


「化け物……か」


 何処か遠い目をしたボルチェだが、すぐにディクソンに視線を向けて告げる。


「1つ言っておく。お前は()()を見た事が無いからそう言えるんだ」


「グエッ!」


 数発殴ってディクソンを気絶させた。

ブラードに引き渡す必要が有るため、殺す事は出来ない。


 これで冒険者ギルドからの依頼は達成されたのだが、数日後、またボス(アイリ)からの依頼が出された。

 今度の依頼は、アレクシス王国のボーアロッカ公爵と、それの補佐役の満持紀子を追ってほしいとの事だった。

 まだ少し不安が有るが、カズヨに復讐相手を殺させる機会をくれた事に感謝しつつ、俺達はアレクシス王国へと転移した。




ブラード「先日、尻から金貨を出したチンピラが居たんだが、何かしらないか?」

ボルチェ「隠し芸か何かだろう」

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