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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第3章:アレクシス王国の暗部
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ザードVSロッツローニ

前回のあらすじ

 ロードアレクシス城がボーアロッカにより急襲されてるというバニラからの知らせを受けたアイリは、王都に居るザードとホークに大至急救援に向かうよう指示を出した。

2人が城に到着すると、既に城門は破られており、城内に入り込まれた後だった。

さらに城の奥地でも戦闘が起こっており、ザードは城内、ホークは奥地へと別れて救援に向かうのであった。


「ガアァァァァァァ!!」


 直前で邪魔をされたためか、怒りを(あらわ)にするロッツローニをジッと見つめるザード。


「グガアァァァァッ!」


 そんなザードに対し気にくわないとでも言いたげなロッツローニが大剣を振り上げる。

 だがザードは見つめたままだ。


「危ない!」


 思わずミスティが声を上げるが、ザードはロッツローニの動きを冷静に見定め、自身に大剣が当たる寸前に横に身体を逸らした。

 その結果、大剣はそのまま床に振り下ろされ、ガツン! という音が周囲に響く。


「ガアァガアァ!」


 攻撃を回避された事を知ると、全身で苛立ちを表すかの如く地団駄を踏む。

だが今度は外さないとばかりに横薙ぎに振るってくるが、それをもザードは回避する。

横薙ぎをジャンプで避けると、ロッツローニの顔面に蹴りを叩き込む。


「ググウォォォ……」


 蹴りを受け尻餅をつく形で後ろに倒れるロッツローニを眺め、ザードはさもガッカリした様子で首を左右に振る。


「その程度で御座るか? いささか期待外れで御座るな」


 ザードがガッカリするのも無理はない。

ロッツローニは力が並の騎士の倍以上有るだけで、剣技に関してはさっぱりだ。

単純な剣と剣の闘いであれば、ザードの足元にも及ばない。


「グオォォォ……ガァッ!」


 ザードが手を出さなかった間に起き上がると、再び横薙ぎを繰り出す。

その動きを見極めて難なく避けるザードを見て、ロッツローニは仕切り直しとばかりに距離をとった。


 そしてすぐ側にボーアロッカの私兵の死体を発見すると、下敷きになっている剣を奪おうとした。

 しかし剣は鎧の隙間に突き刺さってる状態で、上手く抜けないと悟ると鎧ごと切り裂き、切っ先に付いた肉片を振り落とした。


「グオォォォォォォ!!」


 これで二刀流だとでも言いたいのか、ロッツローニは両手に握る剣を(かざ)して雄叫びをあげた。


「ふむ……二刀流で御座るか」


 そして自身の重い身体を奮い起たせ、ドスッドスッという音をたてながらザードに向かってくる。

 やがて攻撃範囲にザードを捉えたと思ったところで大剣を振り下ろす。


「フッ……容易い」


 だがザードも先程と同じように横に避ける。

すると今度は兵士から奪った剣がザードの真上に現れる。


「ムン!」


 連撃のためザードは避けるのが間に合わず剣で弾くと、更に大剣がザードへと迫る。


「ガガアッ!」


 まるで、もらった! とでも言いたげな叫び声と共にロッツローニの大剣がザードに直撃!




 ――する筈もなく、僅かな隙をついて後ろに下がった。

 またしても避けられた事を悔しがり地団駄を踏むロッツローニだが、そんなオーガ擬きを見てザードが宣言する。


「貴殿の力量は既に見切った。貴殿の存在は恐れるに足らず!」


 今まで様子を伺っていたザードが攻勢に転ずる。

その動きについていく事が出来ないロッツローニは、徐々に壁際まで追い詰められる。

 そして……、


 パキンッ!


 ザードの剣撃を正面から受けていたロッツローニの剣が、根元から折れてしまう。

 更にもう片方の手に握られた奪った剣を弾くと、(たちま)ちロッツローニは隙だらけになった。


「これで止め「お待ち下さい!」


 ロッツローニに止めを刺そうとしたところで、バニラによって止められてしまった。


「バニラ殿?」


「あの方はロッツお兄様なのです! お願いします、殺さないで下さい!」


「なんと!?」


 バニラの発言に驚いたザードは、一旦離れて間合いをとった。

それを見たバニラがザードに駆け寄り悲願する。


「どうか、殺さないで……お願いします、お願いします」


 そんなバニラの様子を見て、トリーも駆け寄ってくる。


「ダメです、バニラ様!」


「ト、トリー?」


「ご覧下さいバニラ様。()()はもうロッツローニ様ではないのです」


 バニラの肩を抱き、落ち着いて言い聞かせるが、それでもバニラは諦めない。

 トリーの目に視線を合わせ、真正面から反論する。


「何でそんな事を言うの? ねぇ、どうしてロッツ兄様を助けてくれないの!? 助けてよ……お願いだから……」


 トリーに掴みかかり、その身体を揺さぶりながら助けを願う。

その悲痛な姿にセーラにミスティやハンナ、ケティやマッソニーも視線を反らしてしまった。

 ただ、その中でもヨゼモナールだけはジッと見続けている。

溺愛してる妹をなんとかしてあげたいと思う心か、それとも国王の責任感からくるものなのかは本人しか分からないが……。


「……無理です。ああなっては、例え上級ポーションでも治せないでしょう」


 なんとかバニラを説得しようとするトリーであったが、尚もバニラは食い下がった。


「…………なら、エリクサーなら……エリクサーならロッツ兄様を……」


 諦めきれないバニラはエリクサーでロッツローニを助けたいと言い出した。

 だが……、


「バーミレニラ様、(まこと)に残念ですが鑑定の結果、ロッツローニ様は妙な薬によって変貌を遂げられているようです」


「……薬?」


 エリクサーを引き合いに出したバニラに、マッソニーが告げた。

宰相であるマッソニーは鑑定スキルを持っており、これまでもそれを用いて国内の政治を執り行ってきたのである。

そんなマッソニーの口から飛び出した事実に、この場に居る他の面子も驚愕した。


「はい。どうやらその薬は抵抗力の弱い者の人格を破壊し、肉体強化を極限まで行うという危険な薬だったようです。更にその効果は死ぬまで継続するらしく、もしエリクサーを使ったとすれば……」


 マッソニーが途中で言葉を濁したのは、その先を言うのを躊躇(ためら)ったからだ。

()()()()()()ものを止めるにはどうすればよいかは、想像するに難しくない。

つまり、状態を治すという事は、その者に()が訪れるという事だ。


「そ……んな……」


 力なくへたり込むバニラをトリーが手を引いて立ち上がらせ、ロッツローニとザードから遠ざかる。

こうしてる今も、ザードはバニラに近付けさせないようにロッツローニの攻撃を()なしていたのだ。

武器を失ったとはいえ、強靭な腕で殴られればか弱い者など一溜(ひとた)まりもない。


「そろそろ覚悟は決められたで御座るか?」


 ザードの方は余裕があるようで、器用に避けながらバニラの居る方を見て問う。

 だが答えたのはバニラではなくヨゼモナールだった。


「構わない、斬り捨ててくれ」


「ヨゼ兄様……」


 ロッツローニが助からないのを理解したのか、それとも諦めたのかは不明だが、バニラが悲しげな表情でヨゼモナールを見る。


「よいので御座るな?」


「ああ。これ以上犠牲を増やすのは()()も望まないだろう」


 ロッツローニを蹴り飛ばしヨゼモナールの顔を見たザードは、覚悟を決めた事を悟り、ロッツローニに向き直る。


「その覚悟……受け取り申したぁ!」


 そして倒れてから起き上がろうとしてたロッツローニの腕を切り裂き、再び仰向けに転倒したところで心臓を一突きにした。


「ウグアァァァァァァ!!」


 その後、激痛にもがいていたロッツローニは次第に大人しくなり、最後には完全に動きを止めた。


「ロッツ……兄様……」


 その様子を見ていたバニラは、目から零れた涙で顔が覆われていた。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「あらあら、あの爺ぃ(ボーアロッカ)死んじゃったのねぇ」


 満持紀子(みつもちのりこ)は、自身の手のひらにある石が砕けたのを見て、ため息混じりに呟いた。

 この石はライフストーンと呼ばれ、2つで1セットのアイテムとなっており、身に付けた者が死亡すると、石が砕ける仕組みになっている。

つまり所持者が死ぬと、もう片方の所持者にそれが伝わるのである。


「上手くいけばと思ってたけど、所詮は無能の爺ぃね」


 ボーアロッカが夜襲を仕掛けた後も、満持は潜伏先の邸に留まっていた。

理由はというと、ボーアロッカが急襲に成功すれば後から合流するつもりでいたし、失敗すれば、そのまま行方を眩まそうと考えてたからだ。


()()()を飲ませたロッツローニなら期待出来ると思ったんだけど。何せ()()()を飲んだ奴は、()()()()()本領を発揮するんだからね」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「うぅ……うっく……」


 泣いているバニラを抱き寄せ、トリーが静かに胸を貸す。


「……すまない、バニラ……」


 そこへヨゼモナールが謝罪の言葉を口にするが、ヨゼモナールの責任でもなければ誰の責任でもない。

()()()()()()()()()()……これが誰しもの本音だろう。


「陛下、ロッツローニ様は手厚く……な! アレは!?」


 マッソニーはロッツローニから黒いモヤが出ているのに気付いた。

そんなマッソニーの驚愕した顔を見た他の面子も、マッソニーの視線の先にあるものを注視する。


「な、何だこれは!?」


 ミスティが驚き声を上げる。

先程ザードが倒したロッツローニから、禍々しい黒いオーラのようなものが立ち上がっていた。

 そしてオーラを(まと)ったロッツローニが起き上がる。


「ちょ、嘘でしょ!? 確かにさっきのは心臓を刺してた筈よ!?」


 起き上がったロッツローニを見てハンナも叫ぶ。

ハンナはザードがキッチリと止めを刺してたのを見ていたのだ。

それが何事も無かったかのように起き上がるなど有り得ない事だった。


「皆の者、下がられよ!」


 緊張感のある声で叫んだザードを見た面々は、先程よりもより危険度が高まったのだと感じ取った。


「コォォォ!」


 いつの間にか禍々しい剣が携えられており、それを抜くと目の前にいたザードに対して振るってくる。


「ムム!? 先程までのは前座で、ここからが本番で御座ったか!?」


 ザードは少々勘違いをしてるが、さっきはさっきでロッツローニは充分本気だった。

だが理由が分からないが、まるで別人になったように剣筋が良くなっている。


「コォォ……コアァァァァ!」


「やるな……だが!」


 しかしザードも負けてはいない。

ロッツローニの流れるような動作に遅れる事なくついていく。


 そんな2人の後方では、マッソニーがロッツローニを鑑定していた。

そして鑑定の結果……、


死霊騎士(デスナイト)! 奴は死霊騎士(デスナイト)ですぞ!」


「何だと!?」


 マッソニーの叫びに反応し、ヨゼモナールも取り乱す。

死霊騎士(デスナイト)――主に死亡した高位の騎士がアンデッド化したもので、モンスターランクはCランクである。

 しかし、騎士でもなかったロッツローニが何故死霊騎士(デスナイト)になってしまったのかというと、勿論例の()()()が原因だ。

あの薬を服用して死んだ者は、直後に死霊騎士となって復活するからである。

 だが今回に限っては、普通の死霊騎士よりも強力な者が現れてしまった。

それは皮肉にも、ロッツローニが()()のザードとの戦闘で経験値を得てしまったからだ。


「クオォォォォ!」


「グヌッ……」


 ザードを後方に強く弾くと、透かさず闇魔法の黒いオーラの塊を投げつける。


「コアァッ!」


 投げつけたのはブラッドペイン。

これは相手の気力を大きく削ぐ魔法で、全体ステータスをダウンさせる効果がある。

抵抗力の弱い者だと、目眩を起こしたり気絶してしまい、最悪心臓麻痺をも引き起こす。

それをザードは正面から食らってしまう。


「ぐおぉぉ……」


 後ろには王女達が居るので、避ける訳にはいかなかったザードが身を呈して防いだのである。


「ザ、ザード殿!」


 ケティが助太刀に入ろうとするが、ザードはそれを手で制する。


「某ならば大丈夫。それよりも近付くと危険で御座る!」


 そうしてる間にも、更にブラッドペインを連発され追い込まれていく。

 そしてついにザードが片膝を着いてしまう。


「コァァァクァッ!」


 それを見てチャンスとばかりに死霊騎士が接近してくる。

目の前で袈裟斬りにしようとしてくるが、ザードはそれを受け止め立ち上がる。

更に鍔迫(つばぜ)り合いに持ち込み、死霊騎士を正面から見据えた。


「某に本気を出させたのは、お主で3人目だ!」


 言い終わるのと同時にザードは王者の威光(ビクトリーレイ)を発動させた。


「コァコァコァァァァァァ!」


 怪しく光るザードの両目が死霊騎士を照らす。

それと同時に急な脱力感を味わった死霊騎士は極度の混乱状態となった。

 ここで一気にケリを着けるべくザードが仕掛ける。

鍔迫り合いの末に死霊騎士を弾き飛ばすと、必殺の一撃を繰り出した。


「これで終わりだ、クロスザッパー!!」


「ゴガァァァァァァァァァァ」


 アンデッドに有効の十字架を模した斬撃の前に死霊騎士は倒れ、光の粒となって消えていった。

 こうしてボーアロッカと満持紀子の企みは、ここに潰えのだった。



マッソニー「化け物」

ミスティ「化け物」

ハンナ「化け物」

ケティ「化け物」

トリー「化け物」

ロッツローニ「……くすん」


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