国王との謁見
前回のあらすじ
ヨゼモナール達を連れて王都にやって来たアイリ達は、トミーの邸で湯浴みを行ってから登城した。
国王との謁見の前に王位継承が行われるので、その間、控室にて待機してるのであった。
王位継承が行われている間、私達4人は客室にてひたすら待たされていた。
確か予定では、王位継承の後に昼食になる筈なんだけど、まさか私達だけ昼食無しとか言わないわよね?
時刻は昼を過ぎたあたりだから遅いって事はないんだけど、暇すぎるためか時間が経つのが遅い感じがするのよ。
そんな中、アンジェラとセレンは読書をしてて、アイカはスイーツを侍らせつつそれらを味わっていた。
アイカは兎も角、アンジェラとセレンが読書とは珍しい。
いったい何を読んでるのか気になったので後ろから覗いてみると、アンジェラの読んでいる内容は……肩甲骨を鍛える? 姿勢を正して動きを良くする? ……なんだかよく分からない内容だけど、何となくアンジェラには効果が薄いんじゃないかと思える。
そもそもそれ以上鍛えてどうするのかと。
「いや、妾は人体の構造に興味があっただけなのだがのぅ」
それなら保健体育の教科書の方が役立ちそうな気もするんだけど……。
一方のセレンが読んでるのは、【この一冊で若返りの秘訣が貴女のモノに!】って書いてある本。
セレンの見た目だとこれ以上若返る必要はなさそうだけど、もしかして見た目以上の年齢なんだろうか?
でもこれに触れると危険だと私の中の何かが訴えてくるので、あえて触れたりはしない。
コンコン!
「失礼します。お食事をお持ちしました」
おっと、ソファーでゴロゴロしてたらメイドさんが昼食を運んで来てくれたわ。
忘れられてなくて良かった。
メイドさんは部屋に料理を運び終わると、一礼して退室した。
「やっと昼食の時間ですか。お姉様、早くたべましょう!」
散々スイーツを食べてた筈だけど、甘いものは別腹って事なんでしょうね……。
「ふむふむ、やはり焼いた肉は美味いのぅ」
あ、コラ、手掴みで食べちゃダメでしょアンジェラ!
「周りを汚したりしちゃマズイから、ちゃんとフォークとナイフを使って!」
「むぅ……仕方ないのぅ」
汚れた手でアチコチ触る前に、急いでおしぼりを召喚した。
こんな事で召喚する羽目になるとは思わなかったわ……。
「すみません、お姉様。わたくしにもおしぼりを頂けないでしょうか?」
どうしたのかとアイカを見たら、既にスープを溢していた。
もう、しょうがないわね! アイカの両手にスープが付着してるから、私が召喚するしかないわ!
「ふぅ……助かりました、お姉様」
「はいはい」
再び召喚したおしぼりで、アイカの両手を拭いてあげた。
がっつくから溢すのよ、まったく……。
「うぬぬぬ……こしゃくな奴め、中々切れぬではないか!」
「アンジェラ、フォークとナイフが逆よ」
そりゃフォークで肉を切るのは難しいわ。
というか気付きなさいっての……。
「んぐ、んぐ、んぐ……ふぅ、中々のお手前で」
「アイカ、こういう場では、スープは掬って食べるのよ。ほらぁ、口許にスープが付いてるじゃない」
アイカの使ってたおしぼりで、口許を拭いてやる。
アンジェラとアイカがこの有り様だし、もしかしたらセレンにもおしぼりが必要かも知れないと思ったんだけど……、
パシャパシャパシャ!
「どうかされましたか~?」
セレンはフィンガーボールで顔を洗っていた。
どうやら私達一同は、テーブルマナーを身に付ける必要があるのかもしれない。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「陛下、もうすぐヨゼモナール様とセレスティーラ様、並びにバーミレニラ様をお救いになられたダンジョンマスターが到着致します」
「分かっておる。それに儂はもう王位をヨゼモナールに継承したのだ、陛下ではなくオーディスと呼ぶがよい。……それよりもどうじゃ、どこも可笑しなところはないか?」
「いえ、可笑しなところは見当たりません。誰がどう見ても立派な元国王であります」
「うむ、ならばよい! ……いや、元国王という響きが良くないが……まぁいいわぃ」
アレクシス19世……もといオーディスは、王子達を救済したダンジョンマスター、つまりアイリとの面会に備えていた。
実は念話リングを通してヨゼモナールからアイリの話を聞いた時から、アイリと会うのを楽しみにしていたりする。
何故かというと、まずアイリが異世界から来た可能性が高いという事を予想したからだ。
見たことの無い本に、食した事の無い料理、これらが意味するのは、ズバリ異世界の文化で間違いないだろうという事だ。
実のところオーディスは、今までに何度か異世界から召喚された勇者と謁見しているのである。
その勇者を召喚したのは、魔女の森を挟んで東側にあるプラーガ帝国で、過去に召喚されている勇者の中にはプラーガ帝国の使者としてアレクシス19世に謁見している者もいた。
そしてその際に勇者が口にした言葉が、【貴方こそ王の中の王だ】という言葉であった。
当然国王は、この言葉に大変気分を良くしたと言うのだ。
他にも2人程の勇者と謁見を行ったのだが、いずれも同様の言葉を残している。
そういった理由も有り、国王はアイリと会うのが楽しみで仕方ないのだ。
勿論、王子達を救ってくれたという理由もあるのだが。
「オーディス様、ダンジョンマスターのアイリ殿が到着いたしました」
「うむ分かった。すぐに参ろうぞ」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
問題が有りすぎた昼食を済ませるとバニラの専属メイドのトリーが部屋にやってきて、これから国王との謁見という事で謁見を行う部屋に案内される事になった。
いや、王位継承は済んでる筈だから、元国王ね。
因みに謁見するのは私だけという事で、アイカ達はもう少し待ってもらう事になった。
「それではオーディス様のいる部屋へ案内致します。今回は非公式でお会いになられます。ですので謁見の間とは違い、護衛以外の貴族は居ませんのでご安心を」
それは有り難いわ。
口煩い貴族が居たら何言われるか分かったもんじゃない。
礼儀作法なんかは、さっきの昼食でお察しの通りだしね。
「国王の部屋はこちらの『ドン!』キャ!」
話しながら部屋を出たところで横から誰かがぶつかって来た。
私はトリーを助け起こして、ぶつかって来た相手を見る。
相手は私よりも少し上くらいの女の人だった。
「も、申し訳有りません! お怪我は有りませんか!?」
相手はどう見ても貴族っぽい服装だったので、トリーは慌てて駆け寄った。
ぶつかって来たのは相手の方なのに、ぶつかられたトリーが謝ってるのは身分上仕方のない事なんでしょうね。
「……っと。いえ、大丈夫よ。私こそ余所見をしてたみたいで御免なさいね?」
自力で起き上がったその女性は特に怒る訳でもなく、笑みを浮かべてそのまま去って行った。
多分相手は貴族なんだろうけど、典型的な悪女じゃなくて良かったわ。
「はい、良心的な方で助かりました。……さ、参りましょう、アイリ様」
「うん」
先程までいた部屋とは違い、一際豪勢な造りをした部屋に通された。
また待たされるのを危惧したけれど、それほど待たされる事はなく、すぐに元国王が入ってくる。
その姿を見てアイリは、一目でこの人物が国王だったに違いないと思った。
それだけの特徴があったのだ。
そんな元国王の姿を見て、思わず条件反射的に跪いてしまった。
「もっと楽にするがよい。ここには口煩い貴族や宰相は居らぬからの」
トミーさんの言ってた通り、割と親しみやすそうな人だわ。
思わず顔を見て跪いちゃったけど、必要無かったみたい。
「ありがとう御座います。では楽な姿勢で話させていただきますね。魔女の森の中心に存在するダンジョンのダンジョンマスターをしております天前愛漓と申します。アイリとお呼び下さい」
「儂はオーディス・サーク・ロードアレクシス・アレクシスだ。儂の代で19代目という事でな、アレクシス19世を名乗っておる」
でたぁ、よく分からない長い名前……。
間違いなく自己紹介するだろうと思って、ここに来る前にトリーに確認したんだけど、最初のオーディスというのが名前で、次のサークが国の象徴である通貨単位、その後のロードアレクシスは王都を繁栄させてるからという理由で王都の名を、最後のアレクシスは初代国王の名前らしい。
その長い名乗りに意味は有るのかと問いたいけれど、単に見栄えの問題だろうから深く考えない事にする。
「ヨゼモナール達が無事であったのはそなたのおかげじゃ。そして此度、無事にヨゼモナールに王位を継承する事が出来た。ありがとうアイリよ、心から礼を言うぞ」
そう言って頭を下げたオーディスさんは、器の大きい人だと感じた。
元とはいえ国王だった事には変わらないし、一般人に頭を下げるなんて普通は有り得ないからよ。
そして予想通りヨゼモナールが国王になったわね。
「いえ、助ける事が出来たのは偶然でした。従者の人達が王子達を守っていなければ助けられなかったと思います」
「そうだのぅ、あの者達にも感謝しておる。だが謙遜はせんでよいぞ、お主のおかげで陰謀を企てた者達を捕らえる事が出来たのだからな」
つまり黒幕の事ね。
今回の黒幕は、ボーアロッカ公爵と満持紀子、それからプラーガ帝国から送られてきた樋爪潔と、そのプラーガ帝国に加担したモルドルト伯爵とダンジョンマスターのホエロスね。
「内政官のキャメルからも聞いておる。件のダンジョンマスターとプラーガ帝国の工作員は、トミー伯爵が尋問中との事だ。それからボーアロッカに関しては捜索中らしいの」
実はヨゼモナール達を王都に連れてくる前に、ワンカップの誓いの3人と樋爪潔を連れてトミーの邸に預けて来たのよね。
いつまでもダンジョンに置いときたくなかったし。
ホエロスは既に前日にトミーに預けてたから、そっちも問題なしね。
後はボーアロッカ公爵と満持紀子を捕まえる事が出来るかどうかだけど、もし既に国外に逃亡しているとすれば捕縛は難しいかもしれない。
「国王様、ボーアロッカを補佐してた満持紀子という女が居たはずなのですが、ご存知ありませんか?」
「うーむ、見たような気もするし見たことが無い気もするのぅ。すまぬが儂には分からぬな」
そっかぁ……残念だけど仕方ない、多分ボーアロッカ公爵と一緒に逃亡していると思うけど、後でキャメルさんに確認してみよう。
「それよりもじゃ。アイリよ、儂の顔をよく見てくれ、コイツをどう思う?」
「顔……ですか?」
「そう、顔じゃよ」
なんかオーディスさんがウリウリって感じに顔を近付けてくるんだけど……。
それに顔をよく見ろと言われても……ん?
ああ! 成る程ね! これは確かに。
「オーディスさん、どこから見ても完璧な王様に見えます。キングオブキングです」
「おお、そうかそうか! やはりそうか!」
上機嫌に成ったけど、これで良かったんだよね?
乗りでキングオブキングとか言っちゃったけど大丈夫よね?
程なく謁見は終わり、元国王は上機嫌のまま退室していく。
アイリの返答は元国王の希望通りのものであった為に、上機嫌となったのだ。
勿論アイリが出任せを言った訳ではない。
キチンと元国王の顔を見て答えたのだ。
では何故アイリの口からあのような台詞が飛び出したのか。
それは過去に謁見した勇者の1人が残した言葉がヒントになる。
その勇者が呟いた言葉を、同じ控え室にいたメイドが聞いた内容がこちらだ。
【実に……実に見事な王様だった。あれほど見事なトランプの13は見たことがない】
この事はすぐに国王の耳にも入る。
しかし、トランプの13が何を意味するのかは、いまだに謎に包まれたままだ。
そんな事があり、トランプの13というフレーズは、シークレットフレーズとして書庫の書物に記録されてるのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
アイリが元国王のオーディスを適当に誉めちぎってる頃、アレクシス王国所属のダンジョンマスター達は必死の捜索を行っていた。
新たに王冠を被ったヨゼモナールの指示に従い、捕縛する前に逃亡したボーアロッカ公爵と満持紀子を捕らえるためだ。
キャメル
『どう? 何か情報は得られた?』
トミー
『いや、ダメだな。ホエロスも樋爪潔って奴もボーアロッカ公爵の事は何も知らんらしい。元々グルじゃない以上、関わる事も無かっただろうしな』
キャメル
『そう……でも王都に居る事は確かよ。王都からの出入りのチェックは厳しくしてるからね。隙を見て逃亡するつもりなのか、それとも……』
トミー
『少数精鋭で城を急襲する……か? さすがにそれは無いだろ?』
既に王位継承は済んでおり、影武者の暗殺を実行したダンジョンマスターはもう居ない。
国軍の指揮権もヨゼモナールが握ってるので、ボーアロッカの味方は自身の私兵しか居ない。
ファイン
『お2人共、美しい僕が失礼するよ』
トミー
『お前かよ……』
キャメルとトミーのダンジョン通信に割り込んで来たのは、アレクシス王国に所属する3人目のダンジョンマスター、ファインであった。
ファイン
『なんだねトミー。美しい僕が来たらいけない理由でもあるのかね?』
トミー
『ねぇよ。それより話があんだろ? さっさと話せ』
ファインの性格は少し……いや、そこそこ……いや、割りと……いやいや、かな~り変わっており、俗に言う変人の部類に入る潔癖性の男エルフであった。
そのため、キャメルとトミーは会話する度に頭を痛めていた。
ファイン
『あまり美しくない対応だが……まぁいい。実はだね、もぬけの殻だったボーアロッカ公爵の邸に、出入口を巧妙に偽装された地下通路を発見したのだよ』
キャメル
『なんですって!? まさか他にもダンジョンマスターが絡んでるんじゃないでしょうね?』
ファイン
『それはないから安心したまえ。ただね、通路の先に進むのに多少の知恵が必要なのだよ』
トミー
『どういうこった?』
ファイン
『つまりだね、謎解きや暗号のようなものが必要で、捜索が難航してるのさ』
ダンジョンの一部では、謎を解く事で扉が開くような仕掛けも存在する。
今回はそれがダンジョンではない普通の通路に設置されてるようだ。
キャメル
『だったら私達も協力するわ』
トミー
『だな。アイリが言うには、ボーアロッカを補佐してた満持紀子って奴が特に危険らしいからな』
ファイン
『ありがとう諸君。美しい僕が感謝するよ』
いまだに居場所を掴めないボーアロッカ公爵と満持紀子を捕縛するため、3人のダンジョンマスターは協力し地下通路を捜索するのであった。
アイカ「結局わたくし達は、何をしに城まで来たのでしょう?」
アンジェラ「昼食を食いに来たのではないのか?」
セレン「お城の見学とか~?」




