閑話:眷族の秘密2
前回のあらすじ
ダンジョンで召喚されるモンスターは、実は1度死んでいるモンスターだと判明。
さらに眷族化とは、そのモンスターに魂を封入する事に相当するという事が分かった。
そこで眷族達の中で生前の記憶がある者とない者とで個体差があると分かったアイリは、眷族達の記憶に残る部分に興味を示し、その記憶を一つ一つ紐解いていくのであった。
再び時は遡り、新モンスターを眷族にすべくランダム召喚を行った後の話だ。
ランダム召喚により、リヴァイ、ルー、ギンの3名が新たに眷族として仲間入りをした夜の食卓での一幕の事。
さて、ザードからの話は聞き終わったから、別の眷族にも聞いてみよう。
今度は誰にしようかな……、
「アイリはん、ここは1つワイに任せてもらえまっか?」
ホークは喋りたいだけの気もするけど、まぁいいか。
それじゃ次はホークにしよう。
「ならホーク、お願いね」
「よっしゃ!任せときぃや!」
何を任せればいいのか不明だけど、とりあえずホークの過去を聞いてみましょ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
さて、知っての通りワイはワイルドホークっちゅう魔物や。
ワイの巣は人里から離れた高山にあったはずやが、正確な場所は分からんなぁ。
そん時はホークなんて名前でも無かったし、いつ生まれたのかも知らんからな。
気付いた時には大空を舞っとった、そんなある日の事や。
「ふむ。風が心地好いな……」
……今自分ら、ワイが似合わん台詞ほざきよったと思うたやろ?
まぁ安心せい! ワイもそう思っとるさかいな…。
つーか生前の性格は違うんよ、堪忍したってや。
「む? この気配は!?」
何やよう分からん禍々しい気配を感じとったんよ。
そしたら正面から何かが接近して来よってな、ワイの真ん前に止まって話しかけてきたんや。
「ようようよーーぅ! 何か鳥頭が飛んでんなーって思ったらワイルドホークじゃーん?」
そいつはワイと同じくらいの全長2メートル近くある人形の魔獣、つまり魔人って奴だったんやと思う。
「……何だお前は?」
当然ワイは警戒して戦闘体勢に入ったで?
なんせ得たいの知れない輩が目の前にいるんやからな。
やからだけにな?
ちょ、ちょい待ちぃや! ここ笑うところやで!? 物投げるとこちゃうで!?
わ、分かったから、真面目に話したるから!
「何だチミはってか? ……フッフッフッ、そうです、私が……知る人ぞ知る邪王様の忠実なる僕である、ザ・デビル様よ!」
その魔人はザデビルと名乗ったんや。
人形で背中に翼を生やしてるんやが、当時のワイは何故か変わった人間やという認識をしよったな。
「ふむ、随分と変わった見た目の人間だな」
「その通り! ついに人間は空を飛べるまで進化したのだ! グワッハッハッハッ! ……って待てゴルァ! 誰が人間やねん!?」
「違うのか?」
「ちゃうわボケェ!!」
中々乗り突っ込みの上手い奴やったなぁ。
当時はそんな感想は抱かんかったがな。
「あんな、お前がこれまでどんな人間を見てきたか知らねぇけどな、全長2メートル以上もあって、背中に翼を生やして空飛んでる人間の事を何て呼ぶんだ!?」
「……少し変わった人間?」
今となっては有り得ない解答だったと自負できるわ……。
「おおぅ、何てこった! 俺ってば少し変わった人間だったんだ! やったね俺様、賢くなったよ♪ って待てゴル !少しか? 本当に少しだけしか変わったように見えないってか!? お前の目は節穴かよ!」
……まぁ俺がザデビルの立場だったら同じ事を思ったやろなぁ……。
「何を言っている? 目が節穴の訳がなかろう。まさかお前は節穴という物を見たことがないのか?」
「あーーうん。言われてみりゃ見たことないなぁ。そうなんだよ、目が節穴な訳ぁねぇんだよな! こいつはうっかりだ♪ ……って違ぁぁぁぁぁぁう! 節穴なんざどうでもいいんだよ! 俺が言いたいのは、テメェの目ん玉はどこに付いてんだ! って事をだなぁ……」
「ここに付いてるが?」
ワイも冷静に答えたで?
もうこれ以上無いってくらい真面目に。
キチンと右の翼で目玉を指してな。
「あーーうん。分かった。俺が悪かった。難しい言葉なんて使う必要無かったんだよな。だからよ……話はもう終わりって事だ!」
当時のワイは、これが戦闘開始の合図だとはまったく知らなかったようでな……、
「ふむ、話は終わりか。では達者でな」
「おう、また明日な! ……って、違っがぁぁぁぁぁう! お前まさか、わざとやってんじゃないだろうな?」
「何の事だ?」
「天然かよ……」
本当に思い返すと恥ずかしいんやが、実際にそうだったんやから仕方ないやろ?
「もういい! これ以上テメェに付き合ってると埒が明かねぇ! いいか? 一度だけしか言わねぇからよーーーく聞けよ? この辺りは今日から俺の縄張りにする! 死にたくなけりゃさっさと出てくんだな!」
「それは出来ぬ相談だな。ここは私が生まれ育った場所だ。他者に譲る事など出来ぬ」
そら故郷を失うなんて事は容認出来んよな?
だからワイは全力で闘う事にしたんや。
「おお? 何だ何だ? もしかしてこの俺様とやろうってか? 止めとけ止めとけ、死んだって誰も埋葬してくれねぇぞ?」
「それはこちらの台詞だ。私の全身全霊をかけて、貴様を討つ! ウィンドスマッシュ!」
「ブフォ! いきなりかよ! きたねぇぞ!?」
確かに汚いかもしれんけど、闘いに汚いもクソもないからな。
というかそん時のワイは、汚いとは思うてなかったんやがな。
「何を言う! つい先程朝の水浴びを済ませたところだ。汚くなどない! 貴様こそ、小汚ない面をしてるではないか! キチンと手入れくらいしろ!」
「なんで俺様が説教されなきゃならねぇんだよ! だいたいこの面は生まれつきだ! 死ねやぁ!」
シュッ! シュシュシュシュ!
ザデビルの奴が短剣みたいなのを飛ばしてきたんやが、ワイは華麗な動きで回避したんやで?
「フ、この大空を舞台に私に勝てるとでも?」
「くっそーーーっ! ならこれでどうだ! ダークフレア!」
何やら巨大な真っ黒い波動を膨らまして飛ばしてきたんやが、ワイの方が一枚上手やったんやなぁ。
ま、ザデビルも頑張ったと思うで?
「先程も言ったが、大空では私に勝つ事は出来ぬ!」
巨大な波動もなんのその、華麗な動きで避けたったで!
「ほほーう? やるねぇやるねぇ、やるじゃなーい? けどなぁ……早く気付いた方がいいんじゃね?」
「何? ……む? まさ……これは……」
上手く避けたつもりやったが、実は誘導されてたって事やな。
気付いたら無数の短剣に包囲されてたんよ。
あれは参ったでぇ……。
「へーい、串刺し一丁!」
「くっ! 分体演舞!」
短剣が刺さる前に分体演舞で難を逃れたんやったなぁ。
結局短剣に突かれた1体は、そのまま地上へ落下してったで。
急やったから5体にしか出来んかったから、残り4体になってもうたんや。
「おやおやー? 数が増えてるぞーぅ?」
「分体演舞は己の数を増やせるのだ。もう先程のようには行かないぞ!」
「そうかいそうかい、お前さんのスキルまでは知らんかったなぁ。てっきり二日酔いかと思ったぜぃ!」
ザデビルの奴もさすがにワイのスキルまでは把握してなかったようや。
だがしかし!
「でもよぅ、その分弱くなっちまったら意味無くね?」
1体1体の強さが弱くなってる事に気付いたみたいなんや。
もしかしたらアイリはんのように、鑑定スキルを持ってたのかもしれんな。
「つー訳で……さっさと死ねやぁ! オラオラオラオラオラーーーッ!」
形振り構わず短剣を飛ばしまくってきたんで、こっちも対抗してウィンドカッターを飛ばしまくったで!
「「「「ウィンドカッター!」」」」
「「「「ウィンドカッター!」」」」
「「「「ウィンドカッター!」」」」
だが数が多くなると制御も難しくなるんやな、お互い徐々に雑になっていったんよ。
「ちょこまかと動き回りやがって! さっさと落ちやがれ!」
「むむむ、貴様も中々やるようだな、ザデビルとやら!」
「くっつけんじゃねぇ! ザ・デビル様だザ・デビル様! 忘れんじゃねぇぞ!?」
その後も闘いは続いたんやが、お互いに決定打を欠いた状態やったなぁ。
まぁワイの方はもう1体やられてもうたが。
だがザデビルが一気に勝負に出てきたんよ!
「ええい、クソが! もう面倒くせぇ!次で決めてやる!」
「いいだろう。次で最後だ!」
「ファイナルダークフレア!!」
「「「ストームサイクロン!!」」」
ザデビルは先程使ったダークフレアよりデカいのを、俺は最大級の風魔法をかましてやったで!
つまり、ワイのストームサイクロンが火を吹いたって訳なんよ。
まぁ属性は風やけどな。
「く、く、くそったれが……」
「うぐぐぐぐ……」
それでも決着はつかんかった。
お互い辛うじて浮いてる状態で、今にも気を失いそうやった。
ああ、なんで相手の事も分かるかって?
そんなん空気で分かるやん?
だがそんな事はどうでもよかったんや。
満身創痍のワイとザデビルに危機が迫ってるとは、まったく思ってなかったんや。
「「ん? 何だ!?」」
お互い見事にハモったな。
まさか全然性格の違う2体がハモるなんて、最初で最後やったろうなぁ。
気が付くと、ワイとザデビルを覆う程の巨大な影が現れとったんや!
「ななななな、何だぁコイツァ!?」
「こ、こやつはいったい!?」
見上げてみると、なんとそこには超巨大なドラゴンが居ったんや。
そらもう滅茶苦茶ビビったで!
しかもな、そのドラゴンのあちこちに短剣が刺さってたり、細かい切り傷が有ったりしてな?
もうお前さん、いったい誰にやられたんやって状態でな?
……ああ、うん、言わんでも分かるで?
短剣はアイツので、切り傷はワイのやろ! って言いたいんやろ? せやろ?
けどな? よく考えてくれへん?
そんなん些細な事やろ?
そもそも短剣やウィンドカッターごときでドラゴンの鱗に傷が入るって、本気と書いてマジで思うてますのん?
はい、すんまへん。
しっかりと傷が付いてましたわ。
つーかさっき自分で切り傷うんぬん言うてたのを忘れてたみたいやな!
こいつはうっかりだ♪
「GOAAAAaaaaa!!」
って、そんな思考をも吹き飛ばすドラゴンさんの咆哮が、ワイの胸にズッシリと響きましたで!
当然ザデビルの奴も味わっとったみたいやで!
そらもう寝起きで不機嫌なドラゴンさんの咆哮ですよ?
喋りはしなかったけど、言いたい事は分かったで?
【我が眠りを妨げるのは誰だぁぁぁ!!】
こうですね? 分かります。
「う、動けねぇ……」
「ぐおおおお……」
そして激怒プンプン丸なドラゴンさんの咆哮で動けなくなったワイらは、仲良く胃袋へと吸い込まれましたよっと。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「っとまぁこんな感じやな」
……何というか、突っ込みどころが多々あるんだけど、結局のところ、そのドラゴンが漁夫の利を得たって事ね?
「ほほぅ、そんなに巨大なドラゴンが居るなら是非ともお目にかかりたいところじゃな」
アンジェラは巨大なドラゴンのフレーズが気になるみたい。
それにしても邪王の僕って言ってたのよね?そのザデビルとやらは。
邪王の事を調べれば、何年前くらいの事なのか分かるかな?
アイリ「ホーク、話盛ってない?」
ホーク「盛ってへんでぇ! これは事実や!」
アイカ「鳥頭なだけに記憶が曖昧なのでは?」




