王族の帰還
前回のあらすじ
警備隊の先導で警備隊責任者であるトミーの邸へやって来たアイリ達だが、なんと、このトミーがダンジョンマスターだという事に気が付く。
そのトミーと話してる最中にトミーの同僚とも言えるキャメルが現れ、満持紀子とボーアロッカが行方を眩ましたと伝えられる。
だがアイリは、ヨゼモナール達を帰還させ、国王との謁見も控えてる状態。
とても捜す余裕はなさそうだが……。
「さ、準備はいいかしら?」
「ちょっと待ってください! まだ全ての本を詰め込めてないんです!」
「わたくしもです! 無理矢理詰め込むと中でケーキが潰れてしまうし、どうしましょう!」
いよいよヨゼモナール達を帰還させる当日、私達は朝食を済ませた後に、王都に転移する準備に追われていた。
いや、正確に言うと既に終わってなければならない筈なんだけど、王女2人はいまだに準備に手間取っていた。
「セーラ様、そんなに持たなくても読み終わったら新しく貸し出してもらえばよろしいのでは?」
うん、ケティの言う通りよ。
キャメルさんとかにお願いすれば、間接的に私に伝わるんだしね。
「……お願いしてもいいんですか?」
「勿論よ。でも頻繁に貸すのは勘弁してほしいかな……」
なんかセーラさんの場合だと、数日おきに催促されそうな気がするのよ……。
だからその辺は、キチンと釘をさしておかないとね。
「このままじゃ入らない……なら「姫様、今食べてはいけませんよ?」何故です!?」
こっちはバニラが、袋に入りきらないケーキをその場で食べようとしてるし……。
幸いトリーに止められて事なきを得たけども。
「バニラ、また今度お土産で持ってってあげるから、入らない物は諦めてちょうだい」
「むぅ……分かりました。アイリちゃん、約束ですよ?」
「うん、分かった。約束は守るわ」
さ~てと、ようやく準備が整ったし、これから王都に近い場所に……。
「お姉様、ヨゼモナール殿がいらっしゃらないようですが?」
え? ヨゼモナールならすぐそこに……って居ない!?
「ねぇ、ヨゼモナールはどこ?」
「む? おかしいな、先程まで隣に居たと思ったのだが……」
私もミスティの隣に居たのは覚えてるんだけど……。
「ああ王子? それなら王女2人の時間がかかりそうだからって、街のゲームセンターに行ったよ?……」
あんのアホ王子がぁぁぁ!
というかハンナも止めなさいよ!
「ハンナ、さっさと連れて来て! 今すぐ!」
「う、わわわ分かったぁぁぁ!!」
まったくもう、王族ってやつらは……。
多少のトラブルはあったけど、王都に近い街道に転移して、街門に向かった。
入場する際にも門番に何故王子達と一緒に居るんだと問い詰められたけど、ヨゼモナールから護衛として雇ってると言われて門番は引き下がった。
自分で言うのもなんだけど、こんな未成年達が護衛だと不審がられるんじゃと思ったけど、近衛隊とかは若い人達も多いらしく、あまりに幼すぎない限り不審には思われないらしい。
「実際近衛隊には、アイリよりも若い者達がいるんだよ。彼等がミスティ達より強ければ代わりに護衛をやってたかもね」
でもそれだと舐められるんじゃないだろうか? 私達も何度かカモだと思われた事があるし……。
「確かにカモに見えるやもしれんが、実際の強さの方が重要だからな。強い者を護衛にするのは当たり前だ」
昔を思い出したのか、ミスティが遠い目をしながら答えてくれた。
今の役職を得るために、相当な苦労をしたんだと思われる。
「因みにだけど、ヨゼモナール様の護衛は基本的に女性じゃなきゃダメなのよ。何故だか分かる?」
ハンナに水を向けられた。
何故か胸を強調して勝ち誇ってるハンナを見れば、理由はすぐに分かる。
ヨゼモナールに悪い虫がつかないようにするってのが目的だと考えられるわ。
「得たいのしれない女の人を、ヨゼモナールに近付けさせないようにする為ね」
これはミスティが言ってたから間違いないわ。
「やるじゃない、その通りよ。ってそう言えば、初めてアイリと会った時もそんな感じだったんだっけ?」
「そうね。ミスティは覚えてて、誰かさんは忘れてたみたいだけども」
「うん……まぁそういう時もあるわよ」
もう既に私の中では、堅物のミスティとズボラなハンナで印象が固まった。
そんな他愛もない会話をしながら歩いてると、トミーの邸に着いた。
ここに来るまでに色んな人に見られてたけど、誰も王子や王女だとは気付いてなさそうだった。
きっとヨゼモナールをハーレム野郎くらいにしか思ってなかったでしょうね。
あ、バニラの従者で御者の男の人も居たか。
全然喋らないから存在感が薄いけど。
「お久し振りです、ヨゼモナール王子、列びにセレスティーラ王女、バーミレニラ王女」
昨日とキャラが全然違うトミーが王子達を出迎えたけど、何となく無理してる感が出てて違和感が半端ないわ……。
「うん、久しいねトミー。これからすぐに登城するのかな?」
「いえいえ、まずは当邸の湯浴みにて旅疲れの汗を流していただき、昼前までに登城していただく形になります。その後、国王による王位任命と継承式が行われ、昼食をはた……失礼、昼食を挟んでアイリ殿とアレクシス19世との謁見が行われます」
旅疲れは絶対に無いと言い切れるけどね。
それにしても慣れない台詞を言い切ったトミーに拍手してあげたいわ。
途中で噛まなかったら文句なしだったけども。
日程の説明が終わり、女性陣と男性陣に別れて湯浴みを行う前に、私はヨゼモナールに耳打ちした。
「ヨゼモナールは国王と念話してない事になってるんだから、王位継承の話を聞いたら少しは驚かないとダメよ?」
「そ、そう言えばそうだな。これからは気を付けるよ」
いつかボロが出そうだから助言してあげた。
恐らく王位を継承するのはヨゼモナールだと思うから。
王女2人とは別で、ミスティ達従者と同じ場所で湯浴みを行った。
そうなると当然気になるのよね、アレのサイズが。
結果だけ言うと、ハンナ>トリー>ケティ>ミスティの順番だった。
ハンナはあれね、恐らく栄養が胸にいってしまって頭が少々……っていう典型例ね。
え、私は入れないのかって? 入れる訳ないじゃない、未成年なんだし。
今の私はまだ前線に立つには早いのよ。
……まぁどうしてもって言うなら、私と眷族達を交えてみましょうか。
その場合だと、アンジェラ>ハンナ>トリー>ケティ>セレン>私=アイカ=ミスティ
……とまぁこんな感じね。
私とアイカが一緒なのはいいとして、ミスティは……うん、ドンマイ!
湯浴みを終えて予定通り登城出来た。
髪を乾かすのに少し時間が掛かったけども、概ね予定通りらしく、今待合室のような部屋で私達4人は待たされてる状態だった。
あ、そうそう、王女2人がアイリーンの城で入ったお風呂が好評で是非とも城に備え付けてほしいと言ってたわね。
実際に湯浴みと比較して、お風呂の方が良かったと改めて実感したんだとか。
とはいえ、お風呂をダンジョン以外に備え付けるのは難しそうね。
そもそもアイリーンのお風呂はダンジョンフロアパーツの1つだから外へ持ち出す事は不可能。
浴槽だけなら召喚出来るけど、浄水と流水のシステムが無いと意味がないし、この辺は後々考えてみよう。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
アイリ達が控室で待機してる間、国王アレクシス19世が数日振りに家臣達の前に姿を現していた。
ヨゼモナール暗殺……正確にはヨゼモナールの影武者だが、その暗殺を受け部屋に籠っていた国王が謁見の間に現れたのだ。
すると、今までピリピリとしていた空気が途端に和らぎ、その場に居た貴族達から歓声が起こる。
「国王陛下! お身体の方は大丈夫なのですか?」
最初に話しかけたのは宰相のマッソニーであった。
大多数の貴族には、ヨゼモナールが暗殺されたショックで倒れたと伝わっているので、国王の身体を労る発言だ。
「うむ、もう大丈夫だ。皆にも心配かけたな。儂のいない間よくやってくれた。礼を言うぞ」
国王の復帰に貴族達の歓声も大きくなり、国王陛下万歳! と叫ぶ者も出てきた。
「耳の早い者は既に知ってようが、ヨゼモナールは生きておる。暗殺されしはヨゼモナールの影武者よ」
国王の言葉と同時にヨゼモナールが姿を現す。
すると、やはりあの噂は本当だったのか……とか、今朝見掛けたのはやはりヨゼモナール様だったのだな……等々反応は様々だ。
「しかしだ……」
だが、国王は声のトーンを落とし、神妙な顔をしつつ話を進める。
それにより歓声は収まり、辺りは静まり返る。
「残念ながら、ヨゼモナールの暗殺を企てただけでなく、セレスティーラとバーミレニラを亡き者にしようとした者がこの中に居る!」
歓声が上がる目出度い雰囲気から一転、今度はどよめきが起こる。
「その者達には制裁を下さねばならぬ!」
国王の言葉に1人の貴族がビクついた。
そしてその貴族の後ろから、近衛兵が近付いて来た。
その近衛兵に気付いた貴族は何事かと思うのも束の間、両脇を抱えられ国王の前に連れ出された。
「そうであろう? ……モルドルト伯爵!」
「へ、陛下、いったい何を……」
慌てるモルドルト伯爵だが、この男こそがプラーガの息が掛かったダンジョンマスターであるホエロスを、スラム地区に迎え入れた張本人であった。
「惚けても無駄だ! お主の取り巻きがこの場に居ない事を不審に思わぬ愚か者め!」
モルドルト伯爵には取り巻きと言える2人の貴族、ミロード子爵とシェルモール子爵がいるのだが、今日は姿を見せてない。
何故ならば、その2人は既にキャメルによって捕まってるからである。
その2人から既にモルドルト伯爵の名前が上がっており、モルドルト伯爵の邸からホエロスとの契約書が見つかっていた。
因みに契約書を探しあてたのは、ファインというキャメル達の同僚とも言えるダンジョンマスターだった。
「お待ち下さい! これは何かの間違いで「戯けが! ではこの契約書はなんだ!? 貴様の署名がしてあるではないか!!」
契約書を突きつけられ、言い逃れが出来ないと悟ると、そのまま沈黙してしまう。
「ふん、プラーガに尻尾を振った駄犬が! 連れて行け!」
「「ハッ!」」
へたり込んでいたモルドルト伯爵を、近衛兵が引っ立てて行く。
その様子を見ていた貴様達からヒソヒソ声が聴こえる。
(まさかモルドルト殿が……)
(よりによって他国に通じるとは……)
(人は見掛けによらんな……)
(これだから粗〇ン野郎は……)
「そして実に残念ながら、ボーアロッカ公爵も謀反を企てている事が判明した」
再びどよめく貴族達。
だが肝心のボーアロッカ本人の所在が掴めず、足取りを追跡してる最中だと説明し、その場を収束させた。
こうして一連の騒ぎを引き起こした者達は、全員が捕縛され、終息に向かおうとしていた。
黒幕の2人、ボーアロッカ公爵と満持紀子を残して……。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
時は遡り、アイリ達が登城する前の時だ。
この時、モルドルト伯爵は苛立っていた。
いつもなら鬱陶しいくらいに纏わり付いてくる腰巾着の2人が姿を見せず、ここ数日プラーガ帝国の工作員の姿も見ていない。
「まったく、あれだけ定時連絡は必ず行えと言っておきながら、自ら破るとは」
プラーガ帝国の工作員であった樋爪潔は、必ず定期的に現れていたのだが、数日前から見ていない。
「それにアイツらもなんだ、普段から調子の良い事をホザきおるくせに、肝心の時に居ないとは!」
樋爪潔もそうだが、モルドルト伯爵の腰巾着であるミロード子爵とシェルモール子爵も登城命令が出ているにも関わらず現れてない。
本来なら両子爵を侍らせて向かうところだが、仕方なく馬車を用意させ御者と2人で登城する事にした。
モルドルト伯爵が登城した時には、既に多くの貴族達が謁見の間に集まっていた。
そこでモルドルト伯爵は聞き逃せない話を耳にする。
「やはりヨゼモナール様はご無事だった、今朝街門から入ってくるのを見たんだ」
「本当か? 見間違いではないのか?」
「それはない。何故なら、セレスティーラ王女とバーミレニラ王女も御一緒で、複数の護衛を連れていたからな」
「それなら僕も見たなぁ。王女様もお綺麗だが、護衛の者達も美女美少女だったよ」
「そ、それは本当かね? くぅ~、なんと羨まけしからん話だ!」
その話を聞いて内心で更に苛立つモルドルト伯爵。
「(ヨゼモナールは兎も角、まさか王女2人も生きていたとは! これではもう国内の混乱は収まってしまう……)」
どうすべきかと思案していると、やがて国王であるアレクシス19世が姿を現した。
「国王陛下! お身体の方は大丈夫なのですか?」
そこへ真っ先に駆け寄ったのは、宰相であるマッソニーだ。
「うむ、もう大丈夫だ。皆にも心配かけたな。儂のいない間よくやってくれた。礼を言うぞ」
国王の復帰に辺りは祝賀ムード1色となり、モルドルト伯爵は自身の計画がもう完全に空振った様を見せつけられていた。
「耳の早い者は既に知ってようが、ヨゼモナールは生きておる。暗殺されしはヨゼモナールの影武者よ」
この事実は既に樋爪潔から聞いており、今更驚く事ではなかった。
だが、その後に続く言葉にモルドルト伯爵は戦慄した。
「しかしだ……残念ながら、ヨゼモナールの暗殺を企てただけでなく、セレスティーラとバーミレニラを亡き者にしようとした者がこの中に居る!」
貴族達のざわめきが聴こえる中、モルドルト伯爵は自身がガチガチと震えているのに気付く。
落ち着こうとしても上手く力が入らず、上半身が揺れ動く。
「(まさか……儂の計画がバレた!? いやそんな筈は……)」
ここに腰巾着の2人が居れば少しは落ち着いてたかもしれない。
だがその2人が居ない今、モルドルト伯爵は妙な孤独感を味わっていた。
「その者達には制裁を下さねばならぬ!」
「!!」
その者達……というフレーズと同時に国王と目が合ったような気がした。
いや、そんなのはただの偶然だ、そう自身に言い聞かせる。
だがここで不思議と腰巾着の2人を思い出した。
もしあの2人が両脇に居れば、国王の発したその者達というフレーズ、同時に自身へと向けられた国王の視線の意味が理解出来てしまうではないか。
しかし、不安に駆られるモルドルト伯爵に追い打ちをかけるように、ヒタヒタと足音が近付いてくるのが分かった。
まるで死神のようなその足音は、自分に向かって来ていると感じた。
やがて自身の斜め後ろで立ち止まったのに気付き心臓が跳び跳ねそうになるが、何とか堪える事に成功する。
だが、次に発した国王の言葉に、モルドルト伯爵は完全に硬直した。
「そうであろう? ……モルドルト伯爵!」
モルドルト伯爵……間違いなく国王はそう言った。
「へ、陛下、いったい何を……」
震える声で返すのが精一杯だった。
「惚けても無駄だ! お主の取り巻きがこの場に居ない事を不審に思わぬ愚か者め!」
既に国王は気付いている! ならばミロード子爵とシェルモール子爵は既に……。
「お待ち下さい! これは何かの間違いで「戯けが! ではこの契約書はなんだ!? 貴様の署名がしてあるではないか!!」
何とかこの場を収めたい一心で言葉を発するが、国王の手には見覚えのある物が握られていた。
「(バカな!? そ、それは邸の書庫に隠しておいた契約書!)」
書庫に有った契約書を見つけ出したのは、アレクシス王国に所属するダンジョンマスターのファインであった。
生活環境を整えるのがファインの役目であり、淀んだ空気を出す異物を探し出すのも得意にしているという。
そのファインが見つけた契約書を突きつけられ、最早言い逃れは出来ない。
「ふん、プラーガに尻尾を振った駄犬が! 連れて行け!」
「「ハッ!」」
ガックリと項垂れるモルドルト伯爵を近衛隊が連行していく。
そしてこれがモルドルト伯爵の最期の姿となった。
アンジェラ「やはり胸がデカイと肩が凝るのぅ」
ハンナ「分かるわ、それ」
ケティ「………………」
ミスティ「クッ……」




