王都警備隊トミー
前回のあらすじ
アイリ「アンジェラ、君に決めた!」
アンジェラ「任せろ、せいや!」
ホエロス「アベシッ!」
セレン「起きろ~」
ホエロス「ホンゲーーーッ!」
ホエロスを叩き起こしてスラム街を移動する。
セレンのお陰で無事(?)ホエロスが復活したので自力で歩いてもらってるわ。
そんなホエロスの盛大な叫び声を聴いた住人達は、余程関わりたくないのか遠巻きに眺めるだけで誰も近寄っては来ない。
私としては邪魔されなきゃいいから放っておこう。
……と、アイリは考えたが、スラムの住人達は先程柄の悪い男達がアイリ達によって連れ去られるのを見ているので、単純にアイリ達に恐怖心を持ってるだけである。
だがそんなアイリ達に近付く者達も居た。
「おいお前達、先程魔物の叫び声のようなものが聴こえたという報告を受けたのだが、そのようなものを見たか?」
話しかけてきたのは王都の警備隊だった。
どうやらホエロス叫び声が魔物の雄叫びに聴こえたらしい。
「あ、それ、コイツの叫び声だと思います」
一応ホエロスを前に出してみる。
「……随分と汚ない顔をした奴だが、この男の叫び声が魔物と間違われたというのか?」
「はい、多分そうだと思います。なんなら聴かせましょうか?」
「うむ、宜しく頼む」
まさかのリクエストにより再び顔面にワサビを塗られたホエロスは、見事叫び声をあげる。
それを見た警備隊は納得したようで、一応参考人として付いてきてほしいと言ってきたので付いていく事になった。
行先はどうやら貴族街の方らしく、徐々に街並みが整った見栄えになっていく。
途中でスラム街に居た男達が連行されていくのを見たけど、何の罪で捕まったんだろ? 都内迷惑条例でも存在するんだろうか?
「着いたぞ。この邸だ」
着いた場所は大きな邸の前だった。
てっきり詰所に連れてかれると思ってたんだけど全然違ったわ。
中に通されて待合室のようなところで少し待たされた後、責任者に会って話してもらうって事で応接室に案内される。
中に入ると、責任者と思われる中年の男が既に待機していた。
「おう、座って楽にしてくれ」
邸を見る限り貴族だと思うんだけど、気さくな感じで貴族らしさは感じない。
「俺は警備隊の隊長をやらされてるトミーってんだ、宜しくな。さっそくだが、スラム街の方で魔物の叫び声が聴こえたっていう報告があってな、もし本当なら大問題なんだ」
そりゃ魔物が街中に居たら問題だろうけど、何か大袈裟な感じがするわね。
「え~~と、私達は王都に来たばかりで詳しく知らないんですけど、大問題なんですか?」
「おうよ、何故かってぇとな……」
既に分かってた事だったけど、王都は全体が結界で覆われてるから魔物が侵入する事もないし、転移しようとしても弾かれる。
もし魔物が侵入してたら、その結界に異常が発生してるって事になるらしい。
「成る程、なら問題ないわね、原因はコイツの叫び声だから」
「それは部下から聞いたが本当か? 自分の部下を疑いたくはないが……」
逆の立場なら、私もそれを鵜呑みにはしないわね。
「なら聴かせましょうか?」
「ああ、宜しくた……」
トミーさんが言い終わる前に、ホエロスがその場でジャンピング土下座を開始した。
「た、頼む。それだけは……それだけは止めてくれぇ……」
さすがに3度目は回避したいらしい。
それにしても、腕を縛ってる筈なのに見事な動きだったわ。
「……そういや気になってたが、コイツは何でお前達に連行されてんだ?」
さて、どこまで話したらいいのやら。
まさかダンジョンマスターだと言うと、ややこしくなりそうだし……。
「トミー様、それは……あ!」
「ん? なんだ?」
私もトミーさんも首を傾げる。
アイカは何に気付いたんだろ?
「トミー様、わたくしはダンジョンマスターであるアイリお姉様の眷族のアイカです」
「ダンジョンマスター!?」
アイカったら、いきなり何を!?
トミーさんが目を白黒させて驚いてるけど、私も驚いてるわ。
『落ち着け主よ。アイカは気付いたのじゃよ、トミーがダンジョンマスターだという事にの』
ああ分かった! アイカはダンジョンマスターには様をつける癖があるんだった。
……というかアンジェラはよく覚えてたわね。
「トミーさん、アイカにはちょっと特殊なスキルが有って、相手がダンジョンマスターかどうかの判別が可能なんです。それでアイカはトミーさんがダンジョンマスターだと気付いたんですよ」
「マジかよ! なら隠してもしゃーないな。 お前らの言う通り、俺はダンジョンマスターのトミーよ、改めて宜しく頼まぁ」
トミーさんて裏表が無い性格なのか、さっぱりしててとても接しやすい感じがするわ。
「じゃあ私も改めて、ダンジョンマスターのアイリよ宜しくね」
「妾は眷族のアンジェラじゃ」
「同じく~、眷族の~、セレンです~♪」
まさかキャメルさん以外にもダンジョンマスターが国で働いてるとはね。
というかキャメルさんも教えてくれればいいのに……。
「……あの~、話の続きなのですが、よろしいでしょうか?」
「おお、悪ぃ悪ぃ。続けてくれ」
トミーさんがダンジョンマスターなら話が早いって事で、これまでの経緯を話した。
ヨゼモナールの件は噂だけでしか聴いてなかったらしく、無事で良かったと安堵してた。
「かぁ~マジかぁ! つーかあの女、俺にわざと黙ってやがったな!」
トミーさんの言うあの女とはキャメルさんの事で、この2人は仲が悪いらしい。
今現在アレクシス王国には、内政官のキャメルさん、警備隊のトミーさん、そして環境維持のファインさんの3人が属してるようだ。
もう1人のダンジョンマスターとも顔合わせをしときたいわね、少なくとも私よりアレクシス王国の事に詳しい筈だし、情報交換出来るなら儲けものよ。
コンコン!
「旦那様、キャメル様がお見えになられてますが、いかが致しますか?」
どうやらキャメルさんが来たらしく、部屋の外からメイドが伺いをたててきた。
「ああ、ちょうどいいや、通してくれ」
「畏まりました」
まさかすぐにキャメルさんと再会する事になるとは思わなかったけど、満持紀子はどうなったんだろ?
気になるから聞いてみよ。
「旦那様、キャメル様をお連れしました」
「おう、入ってもらってくれ」
ガチャ!
「ちょっとトミー、なんで通信に出ないで寛いでんのよ!?」
ドタドタとトミーさんの前までやって来たかと思ったら、テーブルを叩いて抗議してる。
「通信? …………ああ、すまんすまん、忘れてたわ!」
「ア~ン~タ~わ~……」
マ、マズイ、このままだとキャメルさんの雷落としに巻き込まれる! キャメルさんはキャメルさんで私に気付いてないっぽいし。
「それよりお前、なんだってアイリの事を黙ってやがったんだ!?」
「教えるも何も、アンタが通信に出ないんじゃ言えないでしょーが!」
「うっ……そ、そりゃすまんかった……」
残念ながらトミーさんは敗北したようだ。
そしてこの混沌とした状況の中、口を開いたのはアイカだった。
「落ち着いてくださいキャメル様。結果的に私達は知り合う事が出来ましたので。それよりも公爵達の状況はどうですか?」
「え!? あ、あぁ……貴女達も居たのね。気付かなくてごめんね?」
アイカのフォローによりキャメルさんが落ち着いてくれた。
「そうだぜ? アイリ達の前でみっともねぇぞ?」
「……ぁあ!?」
ちょ、トミーさん、一言余計だって! またキャメルさんの髪が逆立ってきてるじゃない!
「落ち着かれよキャメル殿。話が進まんぞぃ」
「そ、そうね……」
「トミーさんも~、蒸し返さないで~、ください~」
「すまんな」
ナイスよ、アンジェラとセレン!
やっぱり私の眷族達は優秀だわ。
それじゃあ私も優秀なところを見せようと思う。
「まずはコイツ、ヨゼモナールの影武者を暗殺したダンジョンマスターのホエロスよ。尋問したら自白したわ」
そう言って、いまだに土下座中のホエロスを指した。
「そういう事か。お前さん達がコイツを連れてた理由が分かったぜ」
本当はキャメルさんに引き渡そうと思ってたけど、ホエロスはトミーさんに任せよう。
「そう、アイリ達の方は上手くいったのね。こっちは少々厄介な事になりそうよ」
「え、どういう事ですか?」
私の質問に答える前に、キャメルさんは結界を張ったようだ。
つまり、これから話す事は絶対に外部には漏らしてはいけない事なのね。
「アイリから情報を得る前に、ボーアロッカ公爵からバーミレニラ王女がダンジョンマスターに拐われたから、捜してほしいって依頼がきてたのよ」
うわぁ……それは完全に私のせいね。
「あ、勘違いしないでね? 別にアイリがバーミレニラ王女を保護した事を責めてる訳じゃないから」
……よかった、私のせいで話が拗れたらどうしようかと思ったわ。
「それでね、ボーアロッカ公爵にはどう報告したらいいかと悩んでたら、ファインから通信があったのよ」
「ファインの奴から? あいつから通信してくるなんて珍しいな」
ファインって確か、アレクシス王国に属してるもう1人のダンジョンマスターだったわね。
そのファインって人は、普段はダンジョン通信を使う事が少ないらしい。
「ええ。でも事は大事よ、なんせボーアロッカ公爵が姿を眩ましたんだから」
「公爵が!?」
どういう事? まさかこっちの動きに気付かれた!?
「公爵は通信用の魔道具を身に付けてるんだけど、話しかけても応答が無いのよ」
という事は、公爵本人に何かが起こった可能性もあるわね。
ハッ!? そう言えば満持紀子は!?
「キャメルさん、満持紀子は何処に居るんですか!?」
私の質問に首を左右に振るキャメルさん。
どうやら公爵と一緒に姿を眩ましたようだ。
「その2人は行方不明だけど、プラーガ帝国と内通してたモルドルト伯爵の方は、どうにかなりそうよ」
それは良かった。
最大の懸念事項は残ってるけど、厄介事は少ないに越したことない。
「それでね、アイリには明日にでも保護してる王族達を連れて来てほしいのよ。その後は国王陛下との謁見ね」
「あ、ようやくヨゼモナール達を帰す事が出来るんですね!」
ただし、ヨゼモナール本人には念話ピアスの件で、おはなししないといけないんだけども。
「それで国王との謁見っていうのは……」
「国王陛下が直接アイリと話したいそうよ」
うえぇ……礼儀作法とか知らない私に、それは如何なものかと愚考しますが……。
「国王は細かい事は気にしない性格だぞ? 寧ろ話しやすいんじゃねぇか?」
うーーん、トミーさんが言うならそうなのかもしれないけど……。
「何を心配してるか知らないけど、話し方がアレだからっていきなり処刑したりしないから大丈夫よ」
「そこまで言うんなら……」
「なら決まりね。明日の朝に王子達を連れてここに来てちょうだい。その際に、アイリ達は護衛って事にしといてね」
なんかいいように使われてる気がするけど、事態が終息に向かってるって事で良しとしよう。
後は公爵と満持紀子を捜す必要があるか……。
「という訳で、明日の朝に王都に連れていく事になったから」
その日の夜にダンジョンに戻って来た私は、5階層の城にヨゼモナール達を集めて、いよいよ王都に戻れる時が来たと伝えた。
「「「はぁ……」」」
……伝えた結果がこのため息なんだけど、そんなに王都に戻りたくないのかしら……。
「参ったなぁ、まだハメ技を極めてないんだが……」
ヨゼモナールは格闘ゲームにハマってしまったらしく、飽きずに何時間もプレイしてるらしい。
リアルファイトは弱いんだから、少しは身体を鍛えなさいっての……。
「私もです! まだまだ読まなければならない本が沢山有ります!」
セーラさんは使命みたいに言ってるけど、断じて使命なんかじゃない。
本人が熱く語ってるだけよ。
「折角ルーちゃんと大食い競争しようと思ってましたのに……」
バニラ……お願いだから、それ以上バカ食いしないで。
確実に肥るから。
どうやら王族の3人はダメっぽい。
こういう時は従者に任せるべきね。
「最後の晩餐か……」
「名残惜しい……」
はい、こっちもダメでした。
といっても彼等が何を言ったところで王都に帰す事は決定事項だけどね。
以上で話は終わりって事で、ヨゼモナール以外は各自の部屋に戻ってもらった。
ヨゼモナールには直接確認しないといけない事があるからね。
「それで、僕に話とはなんだい?」
キャメルさんの話が本当なら、ヨゼモナールを通して国王陛下にダンジョンの事が伝わってる筈。
キャメルさん達からの国王への印象は良いみたいだけど、それはアレクシス王国に属してるからで、私に対しては同じだとは限らない。
私はアレクシス王国と良好な関係でいれるならいいけど、取り込まれるのは遠慮したい。
「ヨゼモナール、ここにいる間、何をしてたのかしら?」
念話ピアスという単語は出さないようにしてヨゼモナールに問いかける。
「……なんの事だい?」
動揺してる……。
ヨゼモナールは嘘をつくのは苦手らしいから、ハッタリなら通じそうね。
「このダンジョンはね、スキルを発動すると分かるのよ、スキルの発動地点がね」
「ほぅ……だが僕は特殊なスキルは持ってないよ」
「うん、それは見れば分かるわ。でもね、スキルじゃなくてもアイテムを使用しても同じく関知出来るのよ」
「!!」
これは完全に嘘だけど、ヨゼモナールには効果があったみたい。
「……分かった、僕の負けだよ。確かに僕は念話を使用した。けどこれは王族のみに伝わるアイテムだから、例え命の恩人でも他人に教える事は出来ないんだ」
「いえ、それだけ確認出来れば大丈夫よ。王族の秘密って事なら黙っててあげるから。それで、国王は殆ど知ってるの?」
「ああ、知ってるよ。ここに来てから妹達が無事なのを伝えたし、ダンジョンに街がある事もね」
やっぱり、殆ど伝わってたのね。
まぁ悪意が無いから良しとしとこう。
「アイリ、分かってると思うけど、くれぐれも内密に頼むよ。特に他国には知られたくないからね」
「分かってるわよ。この国の足を引っ張る事はしないから安心してちょうだい」
これでよし。
もしアレクシス王国と交渉する事になっても、後手後手にならずにすむわ。
セレン「お2人は~、仲が良いのですね~♪」
キャメル&トミー「「良くない!」」
アイリ「セレンも余計な事言わない」




