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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第3章:アレクシス王国の暗部
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セーラとヨゼとバニラの再会

「私はダンジョンマスターのアイリ。あなた達の派閥と目的を言いなさい」


 騎士達を見下ろした少女は、自らをダンジョンマスターであると告げる。

見た目は普通の人間の少女であるが、彼女の前に並んだウルフ達がアイリがダンジョンマスターであると裏付けた。 


「ダンジョンマスター!? そ、そんなのが何故こんなと「グルルルゥ!」ヒィ!」


「質問に答える以外の発言は許可しないわ」


 無駄口を開いた1人の騎士に対して、ウルフが唸り声を上げて威嚇した。


「ほら、無駄口を開いてる暇があるならさっさと答えなさい」


 アイリが若干イラつきながら喋ってる事に気が付いた騎士の1人は、これ以上機嫌を損ねたくないという思いから積極的に話し出した。


「我々はボーアロッカ公爵様の私兵です。表向きはロッツローニ第一王子の派閥です」


 表向き? つまり、本当はどの派閥にも属してないって事?

 それとも……。


「つまり……どういう事?」


「ボーアロッカ公爵様に忠誠を誓っておりますので、強いて言えばボーアロッカ派という事になります」


 ふーん?

要するにボーアロッカ公爵というのが黒幕って事か。

 なら満持法子(みつもちのりこ)と共謀してる可能性が高いわね。

アレクシス王国にとっては、ぽっと出の満持なんて大して重宝しないだろうから、満持が策謀を巡らすには有力者の後ろ楯が必要の筈よ。

 もしその有力者がボーアロッカ公爵だとしたら、満持がダルタネーロ男爵やヒルグリムド侯爵と接触するのは容易いわ。


「で、そのボーアロッカとやらはどこに居るの?」


「今は王城にて、ロッツローニ王子の身辺警護を指揮してる筈です」


 身辺警護? ……あ、成る程、表向きはロッツローニ王子の派閥だから()()をしてるって事ね。


「ボーアロッカの目的はなに?」


「現王族を排除して、ボーアロッカ様の一族が新しく王国を継いでいく事です」


 話がデカ過ぎるんだけど、そんな事が可能なんだろうか?

というか、このボーアロッカ公爵ってのが、4つの派閥を争わせたのね。

 それならヨゼモナールの影武者を暗殺したのもボーアロッカ公爵が?


「ヨゼモナール王子の暗殺は正確には不明ですが、ボーアロッカ様の手の者が実行したと聞いております。後はセレスティーラ王女とバーミレニラ王女を亡き者にすれば、ロッツローニ王子が後継者として残るのみです」


 この状況で嬉しそうに語ってる騎士もどうかと思うけど、よく出来た流れではあると思う。

最後は病弱なロッツローニが病死した様に見せるつもりなんでしょうけども。


 それにしてもセーラさんは兎も角、バーミレニラ王女には派閥の貴族が側に付いてると思ったんだけど、何で居ないのかしらね?

普通なら護衛は絶対付いてる筈よ。

たから簡単に暗殺されそうに無いと思うんだけど……。


「いったいどうやってバーミレニラ王女の派閥貴族を退けたの?」


「詳しくは分かりませんが、貴族同士を疑心暗鬼にする策を施した……と言われてます」


 離間工作って事?

やはりこれは知恵を授けた存在が居るわね。

そしてその存在は恐らく……、


「裏で色々と工作してるのは誰? もしくは誰の指示によるものなの?」


「はい、ボーアロッカ公爵様の補佐として新しく配属された、ミツモチノリコという軍師です」


 やっぱり……。

満持紀子はそうとう悪知恵が働くと見えるわ。

さっさと捕まえないと不味いわね。


「じゃあ最後の質問。満持紀子はどこにいるの?」


「ボーアロッカ公爵様とともにロッツローニ王子を側で支える役目を受けているそうです」


 2人共ロッツローニの側に居るなら好都合ね。

上手くいけば纏めて捕縛出来るかも。

 とりあえずコイツらは眠らせて……と思ったけど、もう1つ聞きたい事があったんだった。


「最後の質問と言った手前で悪いんだけど、もう1つ質問。ダンジョンマスターのホエロスって奴を知ってる?」


「ホエロス……いえ、会った事も聞いた事も御座いません」


 ホエロスを知らない?

ならボーアロッカ公爵とホエロスって奴は別勢力って事?


『お姉様、読心スキルで見ましたが、本当に知らないようです』


 うーーん、だとすると少し面倒ね、纏めて一網打尽には出来ないか……。

 まぁ考え過ぎても仕方ないわね。


「セレン、子守唄を発動して」


「はい~♪」


 さーてと、お次はバーミレニラ王女って……ああ!


「ちょ、セレン、ストップストップ! バーミレニラ王女まで眠っちゃってる!」


「………………」


 ……あのね、歌ってる途中で止められて苛つくのは分かるけど、せめて顔に出さないようにしてちょうだい!

ものっ凄い不満顔をしてるわよアンタ!


「おーい、起きろー、起きてちょうだーい」


「う……あ、あれ? わたくしは……」


 顔をペチペチやったら起きてくれた。

隣のメイドさんも起こしてあげよう。


「……う、あ、姫……様?」


 よし、何とか2人共起きてくれたみたい。

後は……あ、居た居た、御者をやっていた男の騎士をアンジェラが担いできた。


「起きて早々悪いんだけど、私のダンジョンに来てもらっていい? そこで詳しく聞きたいんだけど」


「あ、あの、それってつまり……」


 そう、私のダンジョン街に招待しようと思いまーす♪ ってね。


「お、お待ちください!」


 ん? メイドさんが突然土下座し出した?

いったいどういう事?


「お願いです。どうか姫様だけはお助け下さい! 私が身代わりに成りますから! どうかお願いします!」


 ……どうやらとんでもない勘違いをされてしまったらしい。

恐らくバーミレニラ王女を、生け贄か何かにするとでも思われたのね。


「あのね、普通に招待するだけだからね? 取って食ったりしないからね?」


「ほ、本当ですか?」


「ホントホント、ただ情報が欲しいだけだから」


 さてと、誤解も(多分)解けたし、他の騎士達は全員眠ってるのを確認したから、ダンジョンに転移しましょうか。






 座標転移(ハザードワープ)でダンジョンに戻ってきた。

1度セーラさん達と会わせて安心させてあげた方がいいと思って、ダンジョン5階層の城に案内した。

今現在、城の客室をセーラさんとヨゼモナールに貸してるので、そこに向かっている……というか、もう着いたけどね。


 コンコン


「セーラさん、起きてます?」


「はーい、起きてますよ」


 どうやら起きてるようだ。

本を必死に読み漁ってるから、部屋に持ち込んでるのね。


「今晩は。セーラさんに会わせたい人がいるから連れて来たのよ」


「会わせたい人……ですか?」


 首をかしげるポーズはちょっと可愛いけど、視線は読んでる本に向けられたままなのはどうかと思うわ……。

 まぁ兎に角。


「バニラ、入ってきて」


「え!?」


 バニラという名前に反応して、セーラさんは初めて顔をあげた。

バニラというのはバーミレニラ王女の事よ。

 普段親しい人達からはバニラと呼ばれるらしいわ。

なので私もバニラと呼んでいいか聞いたら、構いませんとの事だったから、私も遠慮なくバニラと呼ばせてもらう事にした。


「セーラ姉様!? 無事だったのですね!」


「バ、バニラ、なの?」


「はい! バニラです!」


「……よかった。ヨゼ兄の影武者が暗殺されたって聞いてから落ち着かなかったのよ」


「わたくしもです。セーラ姉様がご無事で良かったです」


 ひしっと抱き合ってる2人。

でもセーラさんは、随分と本に夢中だったような気がするんですが……。


 そしてバニラの方は、セーラさんの胸を借りて泣いちゃってる。

でもついさっき殺されそうになってたから、仕方ないと思うわ。


「我々も居るのだがな……」

「蚊帳の外ですね、私達……」


 ケティとトリーは放置状態にされてるけど、感動の姉妹の再会ってやつよ、まだ熟睡中の御者の男と一緒に諦めてちょうだい。


「あの、アイリさん、有難うございます!」


「いいのよ。セーラとバニラを助ける事が出来たのは偶然なんだしね。それから私の事は、さん付けで呼ばなくてもいいわよ?」


 鑑定して分かったんだけど、バニラは私と同じ13歳だった。

同い年からさん付けで呼ばれるのはちょっとねぇ。

 

「そんな、命の恩人を呼び捨てには出来ません!」


「いや、でもね?」


 私がバニラって呼ぶのに対してアイリさんて呼ばれると、上下関係が出来てるようで嫌なのよね。

 出来れば気安く呼びあいたいんだけど。


「ならアイリちゃんて呼べばいいんじゃないかしら?」


 というセーラさんの提案。

よく考えたらセーラさんにもさん付けで呼ばれてたわ。


「では……アイリちゃん……でいいかしら?」


「それでいいわよ」


「それなら今度からアイリちゃんって呼ばせてもらいますね」


 さん付けで呼ばれるよりは全然ましになったわ。

セーラとバニラが笑顔になったところでもう1人生存者、ヨゼモナールが部屋に入って来た。


「バニラが無事に保護されたと聞いたけど、バニラは来てるのかい?」


「あ、ヨゼ兄様」


「………………」


 ここで感動の兄との再会なんだけど、バニラがヨゼモナールを見て固まってる。

いったいどうしたのかと思ってたら……、






「イヤーーーーーーッ、悪霊です! ヨゼ兄様の悪霊です!」


「ちょ、ちょっとバニラ、その人は本物! 本物のヨゼモナールだから!」


 ヨゼモナールが死んだと思ってたバニラがヨゼモナールを見て発狂してしまった。


「あ、あのバニラ? 少し落ち着きましょ、ね? ね?」


 セーラさんが必死に宥めようとするけど効果は薄い。


「悪霊退散、悪霊退散、早く成仏するのです、この悪霊め!」


「あ、悪霊……」


 尚もヒートアップするバニラとは反対に、悪霊呼ばわりされたヨゼモナールは物凄い落ち込みようだわ……。

 ミスティの話だとヨゼモナールはバニラを溺愛してるらしくて、その溺愛してる妹に悪霊呼ばわりされて部屋の隅で膝を抱えてしまった。

案外打たれ弱いのね、ヨゼモナール……。


「オークより醜い悪霊め! 存在価値ゼロの悪霊め!」


 これは耐え難いものがあるわね……。

私もお姉ちゃんに同じこと言われたらショックで寝込むと思うわ。


「オークより醜い……存在価値ゼロ……」


 あらららら……ヨゼモナールは真っ白に燃え尽きちゃったわ……。


 それから1時間後。

 ようやくバニラが落ち着きを取り戻し、誤解も解けた事でヨゼモナールも復活した。

必死に謝ってるバニラを全然気にしてないと言って抱き抱えるヨゼモナールだけど、思いっきり気にしてたわよね? まぁいいけど。


「それよりバニラ、ここには見たこともない珍しい本がいっぱい有るんですよ! 一緒に読みまくってやりましょう!」


 読みまくってやるって……セーラさんは本に関わると野蛮人になるわね。


「そうなんですね……って、お姉様、それどころではありません! ヨゼ兄様とアイリちゃんも聞いて下さい!」


「お、落ち着きなさいバニラ、慌てなくても本は逃げませんよ?」


 いやいや、明らかに本の事じゃないと思うんだけど。


「本の事は一旦置いといて下さい! お城が大変なんです!」


「む、城がかい?」


 お城という事は国王や王妃が居るお城の事かな? 

もう既に満持紀子の離間工作で、貴族達が右往左往してるのかもね。


「貴族達の対立が激化してしまい、更に敵味方の区別がつかなくなったので、お父様とお母様は本当に信頼出来る者だけを側に置いて、他の貴族達を近付けないようにしたみたいです」


 正しい判断だと思うわ。

それなら一応は、国王や王妃は無事だと考えてよさそうね。


「ですがヨゼ兄様の影武者が暗殺されてしまったというのが気掛かりなのです。わたくしよりも警備は厳重だった筈なのですが……」


 うん、確かに。

城で影武者をやってるんだから、当然警備は厳重な筈。

その警備を掻い潜って影武者を暗殺した奴が居るって事ね。

これは1度城に行って調べてみないと分からないわ。

 でも今日はもう遅いから、動くなら明日からにしよう。


「バニラ、その辺は私も協力して調べてみるから、王都が落ち着くまでここに居るといいわ」


 新たに保護したバニラとトリー、そして御者の男を適当な部屋に割り当てる事にした。

 特に御者の男は目を覚ましたら事情説明に苦労するかもしれないけど、その辺は割りきる。

私も疲れたし、今日はもう寝よう……。






 そして次の日の朝、久しぶりの来客がやって来た。


「おっはー! お久しぶり!」


 ハイテンションの女神、クリューネ!

って、なんで朝っぱらからテンション高いのよこの女神……。


「はいはい、おはよう御座います」


「アレアレ? な~んか扱いが雑な気がするんですけど~?」


 気のせいです、朝からこんなハイテンションに合わせられる人はいません。

いるとしたら、いけないお薬をキメた人だけでしょう。

 それでいったい何の御用でしょうか?


「用って程の事でもないんだけど、アイリちゃんに言っておかないといけない事が出来ちゃってね、それでこうして来てあげたのよん♪」


 最後の方は若干イラッときたけど、何か言いたい事があって来たみたいね。

クリューネの表情に真剣さの欠片も見えないから、大した事ではないんだろうけど。


「そ、そうそう、大した事じゃないからね、もう全然大丈夫よ! だからそんなに身構えないで聞き流してくれていいからね?」


 ……怪しい。

大した事じゃないなら、態々言いに来る事もない筈。


「そ、そんな事ないってば! 全然余裕よ、楽勝よ! うん、よく考えたら話すまでもなかったわね」


 …………ますます怪しい。

これは詳しく聞く必要がありそうね。


『アイカ、女神用の()()を私の部屋に持ってきて』


『女神様がいらしてるんですね、畏まりました』


 さて、アイカが()()を持って来るまで引き留めておこう。


「うん、今日のところはこの辺で「クリューネ、お茶を用意するからちょっと待っててくれる?」あ、ハイ」


 さて、素直に話してもらおうかしら。






「ねぇ、何でこんな酷い事をするの?」


「そうねぇ、誰かさんが素直に話さないからじゃないかなぁ」


 今、何をしてるかというと、クリューネが来たらお土産で渡そうと思ってた和菓子の詰め合わせを、クリューネの目の前でアイカに食わせるという暴挙を行っている最中なのよ。


「うーーん、この生八つ橋の上品な甘味は最高ですね!」


「この栗ぜんざいも絶品。もしくは最高峰」


 呼んでないけど何故かルーまで居るし。

まぁお菓子がどんどん無くなっていくから、クリューネに対しては効果絶大だしいいか。


「分かった、話す、話すからコイツらを止めて!」


「その前に話してくれない?」


「あーもう分かった! カラオケボックスを作ったって聞いたから試しにやってみたの。そしたら気分が高揚しちゃって、ついつい力を解放し過ぎてカラオケボックスが吹き飛んでしまったのよ! ね、もういいでしょ!?」


「……あ~うん、もういいわ」


「しゃあ! オラ、どけよガキども! それはアタシんだぞ!」


 そう言ってアイカとルーとクリューネが我先にと和菓子を食べ尽くしていった。


 というか勝手に人ん家のカラオケボックスを使用して吹き飛ばすとか、何て事をしてくれるんだろうこの駄女神は……。


「お姉様、そろそろセーラさん達も目を覚ます頃だとおもわれます」


 あ、そろそろ朝食を用意しないとね。

食べ終わったら城に乗り込むとしますか。



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