緊急クエスト
瀕死の騎士をオビルさんの家に運び込んで床に寝かせる。
とりあえず、上級ポーションを使えば何とかなるかな?
「すみませんオビルさん、ちょっと場所を借りますね」
「いえ、大丈夫ですぞ。見たところアレクシス王国の騎士のようですが、何やらただ事ではなさそうですな……」
そうなのよね……。
とりあえず回復させて本人から事情を聞いた方がよさそうね。
『お姉様、この者は持って後数分です。早くしないと手遅れになります』
ヤバッ! 急がないと! 見ると騎士の顔は青白く、血が廻ってないのが分かる。
この状況だとエリクサー使うしかないわね。
でも召喚する必要があるから、ここに居る人達には口止めしとこう。
もう迷ってられないって感じに、私はエリクサーを召喚して騎士に振りかけた。
すると即効性があるため、騎士の顔はみるみると血の気が出てきた。
あ、今更気付いたけど、この騎士って女性ね。
でもどこかで見た事あるような……。
「今の薬は……お前さん、もしや名の有る錬金術士か何かかの?」
そうだ、オビルさん達には何て……いや、変に誤魔化したら余計ややこしくなりそうだし、正直に話そう。
オビルさんがいい人っぽいってのも打算的ではあるけども。
「一応内緒って事にしてほしいんだけど、私はダンジョンマスターなのよ。だから色々と召喚出来たりするわ」
「なんと! ダンジョンマスターはダンジョンから出ると大した実力は発揮出来ないと聞いておったが、大間違いだのぅ」
「すっげーな! 物が召喚されるの初めてみたぜ!」
斜め上の返答が返ってきた……。
でもスマホとのリンクがあるからどこに居ても召喚出来る私が異常なのよね。
そう考えれば、普通のダンジョンマスターならダンジョン以外だと実力は発揮出来ないっていうのは正しいわ。
あと、エマルガは珍しいのか目をキラキラと輝かせて、ラナちゃんはよく分からないって顔をしてる。
「う……」
「あ、お姉様、どうやら意識が戻ったようですよ」
ダンジョンマスターをカミングアウトしてたら女性の騎士が目を覚ましたみたい。
「……ここは?」
「ヨム族の集落で御座います。私の孫が草原で倒れてる貴女様を見つけて、ここに運んで来たのです」
「ヨム族の……すまない、感謝する。この恩は……ハッ! そうだ、ヨゼモナール様は……ヨゼモナール様はどこだ!?」
周りをキョロキョロとしながら連れと思われる人物の名前を連呼する。
もう既に事件のにおいがプンプンするけど、とりあえず落ち着かせよう。
「落ち着いて、そのヨゼモナールって人はアンタの連れなの?」
「連れも何も、ヨゼモナール様はアレクシス王国の第三王子だ!」
え? アレクシス王国の王子ってマジで言ってる!?
って事は、もしかしなくてもこの女性って第三王子の護衛…………って!
「あーーーっ! 思い出した! アンタ、ラムシートの冒険者ギルドに居た奴ね!」
やっと思い出したわ、私が冒険者ギルドの壁面に貼り出されてる依頼書を眺めてたら、声をかけてきた男の連れよコイツ!
確か名前はミスティだった筈。
「む? ……あ、お前は冒険者ギルドに居た生意気そうな小娘!」
ムカ!
「何が生意気よ、アンタらは意味もなく私を睨んできたじゃない!」
「何を言う! 意味ならあるぞ、ヨゼモナール様に不審な輩を近付けないようにするのも、我々の役目なのだ!」
「不審も何も、あの男から近付いて来たんじゃ……」
あれ? もしかして……、
「……ねぇ、あの時の爽やかな青年がヨゼモナールだったりする?」
「……そうだ。あの御方こそ、アレクシス王国で次期国王の可能性が最も高い、ヨゼモナール第三王子だ」
やっぱり……。
あの時はお忍びだったって事ね。
「それで、アンタはいったい誰にやられたの? まさかただの盗賊にやられたって訳じゃないんでしょ?」
話しながら鑑定してみたら、ミスティのステータスは意外と強かった。
いや、意外って言ったら失礼かもね、王子の護衛だから強くないといけないだろうし。
「そ、そうだ、ヨゼモナール様が他の派閥が放った刺客に追われてるのだ! 急いで追いかけなければ!」
マズイわね……セーラさんを保護してる以上、ヨゼモナールに死なれたら余計にややこしくなる。
セーラさんの話だと、今アレクシス王国内は次期国王を廻って派閥争いが激化してるっていうし、最悪レミエマがセーラさんの後ろ楯になって、ヨゼモナールを始末したように見られるかもしれない。
「分かった、私達も協力するわ」
「お前達が?」
まだ若干不審がってるけど、今の状況だと1人じゃどうしようもないでしょ。
「急に信用しろって言うのも難しいかもしれないけど、今は急ぐんでしょ?」
「……その通りだ。ありがとう、感謝する」
じゃあ一旦外に出よう。
お昼御飯がまだだけど、それどころじゃなくなったわ。
「念のためオビルさん達は集落から出ないでね。刺客にバッタリ出会う……なんて可能性もあるから」
もしかしたら、目撃者は全員始末するって考えの刺客もいるかもしれないしね。
「分かっておるよ。暫くは大人しくしとくわい」
オビルさん達に注意を促して集落を出たところでアンジェラの出番よ。
ヨゼモナールを捜すには、アンジェラのあのスキルが必要だから。
「おいお前達、私はこんなのんびりしてる隙はないのだぞ!?」
のんびりしてるつもりはなかったんだけど、ミスティにはそう見えたみたい。
「落ち着いて、居場所ならアンジェラが探知出来るから。そうよね?」
「うむ。あの時の男の居場所が分かればよいのじゃな? 妾に任せよ」
アンジェラが目を閉じて集中する。
その横でミスティが、そんなので大丈夫か? とか言ってくるけど気にしない。
というかちょっと黙ってなさい……。
「よし、分かったぞ。ここから南西の山の中じゃな」
「ほ、本当か!?」
「うむ。だが急いだ方がよいかもしれん。何やら複数の敵対反応に追われているからの」
どうやら生きてはいるけど、追っ手を撒けてないんでしょうね。
「急ぎましょう。アンジェラ、案内して!」
「任せるがよい!」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「ヨゼモナール様、大丈夫ですか?」
「ハァハァ……僕は……ハァハァ……まだ大丈夫……ハァハァ……」
くそっ! よもやヨゼモナール様の居場所がバレてしまうとは……。
敵は恐らく複数の貴族がいる筈。
ヨゼモナール様は次期国王筆頭という事で、当然他の派閥から真っ先に狙われる存在だ。
それを危惧して城から離れて潜伏してたのだが、それが仇になってしまった……。
「ミ、ミスティは……無事だろうか……」
あたしと同じくヨゼモナール様の護衛をしていたミスティは足を斬りつけられてしまい、このまま一緒に居ては足手まといになると言って、追っ手の足止めのために残った。
「大丈夫ですヨゼモナール様、アイツは簡単には死にません」
「そうか……」
などと心にも無い事を言ってしまったけど、恐らくミスティは助からないだろう。
負傷した身で足止めを任せてしまったし、長くは持たないと思う。
「すまないハンナ、僕がお忍びで外遊したために君達を巻き込んでしまった……」
「お、おやめください! 決してヨゼモナール様のせいじゃないです!」
それにヨゼモナール様を命に代えてもお守りするのが我々の勤め。
残念だけどミスティの事は諦めるしかない。
「見つけたぜ! おーい、ここだここだ!」
ちっ! 追い付かれたか!
「急ぎましょう、ヨゼモナール様!」
「分かった!」
見ればすぐそこまで追っ手が迫って来てた。
あたしは再びヨゼモナール様の手を引いて走り出したが、10分くらい走ったところで絶望を目にする事となった。
「こ、これは……」
「絶壁か……」
これ以上進むには、崖をよじ登る必要があった。
だが当然今のあたし達にそんな余裕はないし、引き返す事も出来ない。
「へ、ようやく終わりそうだぜ!」
「今回は久々の高額報酬だからな、逃す訳にゃいかねぇ」
絶壁を背に、ゴロツキのような男達に追い詰められてしまった。
こうなれば一か八か、強行突破をするしかないか……。
「さて、鬼ごっこはもう終わり……という事で宜しいかな?」
ゴロツキ共の背後から、道化師のような格好をした不気味な男が姿を現す。
この男の使う妙な魔法のせいで、あたしの本来の力を上手く発揮できないんだ。
それに、ミスティを置いていく事になったのも、この男のせいでもある。
「大人しく後ろのヨゼモナールを引き渡してくれれば、命の保証をして差し上げてもいいんですがねぇ……」
ヨゼモナール様が助からなければ、あたしだけ助かったところで意味なんてない。
「ふざけんな! ヨゼモナール様はあたしが守るんだ! 貴様なんぞに渡すか!」
「やれやれ……強情なのも困りものですねぇ。仕方ない……お前達、その2人を纏めて始末しなさい」
言葉とは裏腹にあまり困って無さそうな男の命令により、ゴロツキ達がジリジリとにじり寄る。
「だが俺としちゃあよ、その女は後で味見をしてぇんだけどよぉ……」
「それ、俺も賛成だぜ!」
「俺も俺も!」
くっ、力が発揮出来ればコイツらなんかに遅れはとらないのに!
「終わったら確実に始末する……というのなら構いませんがね」
「しゃあ! ありがてぇ。それならやる気が出るってもんだ! いくぜぇ!」
斬りかかって来た男の剣を払おうとするが、やはり身体が言う事をきかず、そのまま押し倒されてしまう。
「くそっ! こんな奴等に!」
「へへ、か弱い騎士様じゃねぇか。ちぃとばかし俺と遊ぼうぜぇ!」
くそぅ……このような形で……申し訳ありません、ヨゼモナール様……。
「くそぉ! ハンナから離れろ!」
そこへ何とかゴロツキの男をハンナから引き離そうとヨゼモナールが剣を振るが、難なく男に受け止められる。
「へっ、弱いんだよ雑魚が!」
「ガハァ!」
そのまま剣を払いのけられ、殴り飛ばされてしまった。
「テメェはそこでこの女が極楽に行くところを見とくんだな!」
そう言って男がハンナに手を伸ばそうとしたその時、何故か男は急に後方へと吹っ飛んでいった。
それを見た他のゴロツキと道化師の男、更にヨゼモナールとハンナまでが、何が起こったのか理解出来ていなかった。
「おいギュンター、何があった!?」
「ぐっ……くそぅ、何だか分からねぇが、いきなり後ろに飛ばされちまった!」
吹き飛んだ本人も、理解出来てないようだ。
だがそんな状況でどこからともなく声が聴こえてきた。
「アーアー、テステス……コホン。そこのゴロツキ共と怪しいピエロ、武器を捨ててその場に伏せなさい」
「な、何だこの声は……」
「どっから聴こえてくるんだ!?」
声はすれど姿が見えない相手に、ゴロツキ達は狼狽える。
この声は、ハンナの近くで待機しているドローンから発せられるアイカの声だ。
勿論の事、ドローンは特殊迷彩により姿を消している。
「(バ、バカな! この我輩が気付く事が出来ない相手だと!?)」
狼狽えてるのは道化師の男も同様であった。
だがそんな道化師の心情など関係なしにアイカの声が再び発せられるが、その内容は先程よりも驚愕させるものであった。
「分かってないようなのでもう一度言います。そこの冒険者パーティ【ワンカップの誓い】の4人と、メッザーとかいう男。武器を捨ててその場に伏せなさい。従わないようなら命の保証はしません」
再度の警告は、いつの間にか鑑定スキルを使用されたかのように、自分達の素性を明かす内容だったため、男達の動揺は激しくなった。
そしてここで恐怖を振り払うためか、ワンカップの誓いの1人がハンナを人質にしようと動いた。
「誰だか知らねぇが、テメェこそ姿を現せ! でなきゃコイツを……グガガガガガガガガ……オブゥ……」
警告に従わず、勝手な真似をしたルポンズという男はドローンに備わっていた機銃により蜂の巣になり、その場に伏せた。
それを見た他の男達(ピエロ含む)は、サーッと血の気が引いていく。
銃器など知る筈もない者達がそれを見て驚愕したのもあるが、それに加えて目に見えない相手からの攻撃である。
一瞬で強制的に地面に伏せられた男を見た彼等は、既に戦意を喪失しつつあった。
「こちらの警告に従わないようなので、これから掃討作業に「わ、分かった! 従う、従うから殺さないでくれ!」
たった今仲間を失った男達は、二の舞に成りたくないばかりに武器を放り投げその場に伏せ、道化師の男も同様に従う。
この時点でアイカの目的はほぼ達成された。
目的というのは、絶対的な恐怖心を与えて相手の行動を制限するというものである。
それ故に、あえて機銃による銃撃を行ったのであった。
「いったい何が……」
だがヨゼモナールとハンナも、何が起こってるのか分からないでいた。
気付いたらハンナを人質にしようとした男が、砂利のようなもので体中を穴だらけにされてたのだ。
それを行ったのは、自分達以外の何者かによるものだろうが、その相手が見えない。
地に伏せてる男達を前に、どうする事も出来ずにいた。
だがそんな状況も束の間、男達の後方から走ってくる者達が視界に映る。
「ヨゼモナール様! ご無事ですか!?」
「ミスティ! 無事で良かった!」
「え……本当にミスティなの!?」
ミスティがヨゼモナールとハンナの元に駆け寄る。
ヨゼモナールは再開を喜び、ハンナは諦めていた相方の生還を神に感謝した。
「でもミスティ、アンタは足を負傷した筈じゃ? それにあの妙な魔法は……」
「彼女達に助けられたわ。私は生死をさ迷ってたけど、きっと上級ポーションを使ってくれたんだと思う。さっきの魔法も彼女達によるものよ」
ハンナの質問に答えつつ視線をアイリ達に向けたのを見て、ヨゼモナールとハンナもアイリ達をみる。
「おや? 彼女達は以前ラムシートであった冒険者パーティのようだね」
どうやらヨゼモナールはアイリ達を覚えてたようだ。
それとは反対にハンナは忘れてしまったらしく、首を傾げている。
「そうです。あの時はただならぬ実力を感じ取ったのでつい睨んでしまいましたが、やはり只者ではありませんでした」
そう言いつつミスティは、蜂の巣になった男に視線を移す。
「あの道化師の男も妙な魔法を使うけど、あの娘達の魔法も群を抜いてるね」
冷静に言うハンナだが、アイリ達の目的が分からないので警戒を高めた。
「あの時は駆け出しだと思ったけど、実は相当な実力者だったとは……。しかしよく協力してくれたね。見返りに何か要求されたのかい?」
「いえ、何も要求はされてません。ですがヨゼモナール様を救出した後に、話したい事があるそうです」
何やら話があるらしいという事で、ヨゼモナール達は暫し待つ事にした。
一方のアイリ達は、ワンカップの誓いとメッザーという男の前に立ち、溜め息をついていた。
「またコイツらなの……」
「そのようです。既に思い出してるでしょうが、あのワンカップの誓いです」
ワンカップの誓い……ラムシートでロドリゲスの専属護衛として雇われてた冒険者。
ロドリゲス幽閉の際に解雇されたのを最後に行方をくらましてたが……。
「とうとう王族にまで手を出す輩に成り果てたのね。もう面倒だからそのまま気絶させといて」
「承知じゃ」
アイリの指示で3人の男達に手刀を入れるアンジェラ。
難なく彼等を伏せたまま気絶させた。
さて、問題はコイツね、メッザーとかいう奴なんだけど、鑑定の結果コイツはとあるダンジョンマスターの眷族である事が判明したわ。
名前:メッザー 種族:自動人形
性別:男? 職種:ホエロスの眷族
ダンジョンマスターの名前はホエロスっていうのね。
問題はどこに居るか分かんないって事なんだけど……。
『主よ、コイツを解放してダンジョンに帰還させればよいと思うぞ?』
『いや、ダメでしょそれじゃ。折角捕まえたんだから、情報を聞き出さないと』
アンジェラは帰していいんじゃないかって念話で言ってきたけど、さすがになにも情報を得られずに解放するのはいただけない。
『お姉様、アンジェラはメッザーをわざと解放して、ダンジョンの場所まで案内させるつもりだと思います』
『……あ、成る程、納得納得。なら適当に脅して解放しちゃいましょ』
「アンタ、これに懲りたらもう悪さはしない事、いいわね?」
「解放していただけるのか? これは有り難い、この御恩は忘れませんぞ!」
そう言ってメッザーは、一目散に山を下って行った。
さて、黒幕のダンジョンマスターの件はひとまずこれでいいわね。
後は王子達の方ね、ちょっと待たせてるし、さっさと用件を伝えましょ。
アイリ「機銃まで備わってたあのドローン……」
アイカ「それでも特殊迷彩のスキルより低コストでした」




