王都への道のり
ダミアンにダンジョンの街アイリーンを一通り紹介し終わって、再びラムシートに戻り、冒険者ギルドにやって来た。
何でまた冒険者ギルドに戻ったかというと、ダミアンのパーティ加入手続きを行うためね。
なので面倒だけど、ダミアンも一緒に戻って来たわ。
「…………はい、完了しました。これでダミアンさんは冒険者パーティ【苺大福】の一員です。ギルドカードをお返ししますね」
「はいでし!」
これで手続きは終わったから急いで……って、ちょっと待ちなさい!
「どうしたのですかお姉様?」
「パーティ名よパーティ名! なんで苺大福な訳!?」
どうせ決めたのはアイカだろうけども、それにしたっていつの間に……。
「お姉様があの4人組とイチャコラしてる間に手続きしときました。それと理由ですが、何となくピンク色にしたかったので」
そんなしょーもない理由で……あ、分かってると思うけど、別にイチャコラしてた訳じゃないからね!? ……まぁいいわ、さっさと帰りましょ。
ナタリエさんからギルドカードを返してもらったので冒険者ギルドを出ようとすると、ロビーの隅っこに男女4人がボロボロになって放置されてるのが目に入った。
以前ホークがルーにやられたのと近い状態だなぁと思い、近くでよく見ると、冒険者パーティ【ペガサス】の4人だった。
いったい何があったのやら。と
「うぬ? コヤツらは何故このような所で寝ておるのじゃ?」
私が聞くよりも早く、アンジェラがナタリエさんに問いかけた。
「え~と……それはですね……」
どうやら私がダンジョンに帰還した直後に、私のファンクラブの連中が冒険者ギルドにやって来たらしい。
いや、ファンクラブが有るなんて知らなかったんだけど、いつの間にやら黒神のポニーテール・ファンクラブが結成されてて、ソイツらが冒険者ギルドに来た時に周囲の冒険者から昼間の1件を聞いて激怒したんだとか。
そしてああなったと……。
「主よ、早く帰還した方がいいのではないか? モタモタしてるとファンクラブとやらが戻ってくるやもしれんぞ?」
「そうですね。あの人達、アイリちゃんがこの街に来てるって事で、探し回ってるみたいだし、見つかったら追い回されそうで……」
うげっ! きっとあのマイエンジェルとか言ってた奴に違いない!
そしてファンクラブって事は、そういう奴が複数居るって事になる。
ありがとうアンジェラ、そしてナタリエさん。
その意見を採用し、すぐにダンジョンに帰還したいと思います!
私は激しい寒気がしたので、街を出てからすぐにダンジョンへと転移した。
無事にファンクラブから逃げ切り、ダンジョンに戻って来た。
本当はダミアンを街に帰してすぐにラムシートに戻ろうと思ったんだけど、そんな気力は残ってない。
戻ってファンクラブに遭遇したらと思うと……うぅ~鳥肌が立つ!
「そういう訳で今日はもう解散! 明日の朝に再出発するからそのつもりで!」
「ふむ……ならば自室でスイーツ品評会を行うとしましょう」
アイカは自分の部屋でスイーツを召喚するつもりらしい。
コアルームでやるとルーに横取りされるからね。
「アンジェラさん~、カラオケ行きましょ~♪」
「いいじゃろう。食事の前に腹を空かせるとしようかのぅ」
アンジェラとセレンはカラオケに行ったようだ。
やはりカラオケは人気があるらしいわね、今度私も歌ってみようかなぁ。
「あれ? 姉貴は王都に向かったんじゃなかったんスか?」
「ああクロか。うん、本当はその予定だったんだけどね、予定を変更して明日から頑張る事にしたから」
「へ? えーと、よく分かんねッスけどお疲れ様ッス!」
はい、お疲れ!
疲れたからもう寝るわ、お休み!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「どう、アイカ。それらしき連中は居る?」
「いえ、それらしきものはドローンでは見当たりません。向かい先の街道も問題なし、オールクリアです」
「よし今の内に転移するわ!」
今私達は何をやってるかというと、私のファンクラブと思われる連中がいないかを、ドローンを使用してチェックしてもらってたのよ。
その結果、ラムシート周辺には居ない事が分かったので、ラムシートに近い街道に転移してきたって訳。
「さぁ、色々と問題があったけど、これから王都に向かうわよ。」
ダンジョン通信で事前に確認したところ、ラムシートから王都方面……つまり西には、トレムという街があるって事が判明。
歩いて2日の距離なので、まずはそこを目指す事にした。
「歩いて2日ですか。ですがわたくし達が全力をもっ……おや? あの2人は街道の真ん中で何をしてるのでしょう?」
アイカに言われて気付いたけど、道のど真ん中で若い男女が抱き合ってるのよ。
こんな場所で何してんのかしらね。
街に近いとはいえ、街の外なのにはかわりないんだけど。
「ああロミエル、何故貴方はロミエルなの?」
「おおジュリエ、何故君はジュリエなんだい?」
………………。
「でもロミエル、貴方はロミエルなのよ?」
「すまないジュリエ、確かに君はジュリエでだった」
………………。
「ああ何て事なのロミエル、貴方が本当にロミエルなら……」
「本当に……すまない……ジュリエ、間違い……なく……君は……ジュリ……エ……」
………………。
「そ、そんな、ロミエル! お願い、ロミエルって言って!」
「ジュリ……エ……君は……最後……まで……ジュリ……エ……ガクッ」
………………。
「ロミエル? そんな……ロミエルーーー!」
「……ヘッ……クシュン!」
「ちょっとーーっ! くしゃみ!」
「あ、ごめん」
「もう、こんなのじゃ次の公演に間に合わなくなっちゃうわよ?」
「ごめんごめん、もう一度頼むよ」
「もぅ……」
どうやら劇団の人達だったみたいね。
でもなんで道の真ん中で練習してたのかな?
「街の中だと狭いからですかね?」
かも知れないけど、大通りから少し離れれば場所はあったはずよ。
「あまり大声を出すと、近所迷惑になるからではないかの?」
有り得るけど、市場の怒号の方がよっぽどうるさいと思う。
「台詞がムカツク! から~、街の外で~、やれと~、言われたのでは~?」
「「「それだ!」」」
何故かあの台詞は聞いててイライラしてくるのよねぇ。
というかセレン、ひょっとして苛ついてる?
「…………大丈夫ですよ~?」
なら最初の間はなんだったのよ。
それから次の街、トレムに着くまでに特に問題は発生しなかった。
途中何度か魔物の襲撃はあったけどね。
本来なら2日かかるはずが、その日の夕方にトレムの街についた。
理由は途中で何度か走ったからだ。
しかしアンジェラは速かったわ、さすがステータスが文字化けしてる事はあるわね。
そして今、我々は冒険者ギルドの前にやって来たのでありまーす!ってね。
「よし、今回は妾が開けるぞ」
アンジェラが素早く扉に近付き開け放った。
そして開口一番……、
「たのもーぅ!」
いらん台詞を叫んで注目を引き付けてしまったのだった……て、どうして訳も分からず叫ぶのかしら……。
「混んでるのぅ……」
あらら、随分と混んでるわね。
一瞬アンジェラに視線が集まったものの、すぐに視線が外された。
よく見ると受付には長蛇の列が出来上がっており、列の途中で足を踏んだとか踏んでないだとかで、言い合いをしてる連中もいる。
「ごった返してて時間がかかりそうだし、さっさと宿屋にいきましょ?」
「そうですね、そもそもここに来る意味は無かったと思いますが」
いや、確かにアイカの言う通りなんだけどね。
でも異世界と言えば冒険者ギルドだって小説にも書いてあったのよ。
だから何となく覗いてみたくなったという訳。
じゃあ行く先々の街で冒険者ギルドを覗くのかって?
そんなの覗いてみるに決まってるでしょ?
楽しみの1つなんだから。
でもって次の日。
朝から冒険者ギルドにやってきたわよ!
早朝という事もあって、冒険者は疎らね。
「さーて、どんな依頼が有るのかなーっと」
「随分と楽しそうじゃの」
ここ最近はダンジョンから出てなかったからね。
やっぱりいろんな場所に行くのは楽しいわ。
「お姉様、何か面白い依頼は有りましたか?」
「……無いわね」
そう簡単に面白い依頼は転がってないわね。
と、思って冒険者ギルドを出ようとしたところで後ろから声をかけられた。
「ねぇ、貴女達は冒険者よね?」
振り向くと、そこには受付嬢さんが居た。
猫耳になってるから獣人さんみたい。
緊急依頼でもあったのかな?
「そうですよ?」
「よかったぁ。実は緊急依頼が入って、ここから北に歩いて2日程の所にコルノ村という村が有るんだけど、そこに食糧を届けてほしいのよ」
ビンゴ! 緊急依頼だったみたい。
緊急って事だから命に関わるって事よね?
「ええ、出来るだけ急いでほしいわ」
「分かりました。急いで届けますね」
王都まで少々遠回りになるけど、急いで行けば問題ないでしょ。
「じゃあギルドの裏側に回ってもらえる?馬車2台分有るんだけど、あ、そうそう、御者出来る人居る?」
御者は出来ないなぁ。
だけど私には別の物が有るから必要無いんだけどね。
「大丈夫です。アイテムボックスを持ってますので」
「ええっ! 本当に!?」
すごーく驚かれた。
そういえばアイテムボックスってレアスキルなんだっけ?
「とりあえず落ち着いて下さい、どうどう」
「あ、ご、御免なさい、あたしったら。というか、あたしは牛じゃないから、どうどう言わないでちょうだい!」
なんか怒られたんだけど、牛の獣人と間違われた事でもあるんだろうか?
「フー、フー、フー」
あー成る程。
肩で息してる時は牛っぽいかも。
「……今、牛っぽいとか思わなかった?」
「いえ全然。それより急ぎましょう?」
「そ、そうね。じゃあ裏で待っててね」
どうして女の人って勘が鋭いのかしらね?
いや、女の私が言うのも変だけどさ。
「お姉様、何となく牛っぽい人でしたね?」
それ、本人の前で言っちゃダメよ?
ギルドの裏に回ると、牛付嬢……じゃなかった、受付嬢さんが馬車2台を引き連れて来た。
「これだけ有るんだけど、アイテムボックスに入りきる?」
「入れてみないと分かんないけど、多分大丈夫じゃないかと」
物量制限は無いはずだから全部入ると思うけど、一応入れてみた方がいいわね。
御者の人に降りてもらって荷台を2台……駄洒落じゃないわよ? 荷台を2台分入れてみると、すんなりと入ったので問題はないみたい。
「ほ、本当にアイテムボックスを持ってたのね……」
いや、見栄はって嘘ついてもしょうがないでしょ?
気持ちは分からなくもないけど。
「急いだ方がいいみたいなので、今から向かいますね」
「だけど本当に大丈夫?道中女性だけだと心配なんだけど……」
「大丈夫ですよ。野宿も何度かやってますし、これでも私達は強いですから!」
受付嬢さんは一瞬アンジェラを見てから納得した顔をして私に向き直った。
「じゃあ急かすようで悪いけどお願いね」
うん、アンジェラを保護者的なポジションにみたようね。
この4人の中では一番年上に見えるし、実際一番強いからその判断は間違ってないわ。
よし、それじゃあコルノ村に……の前に、
「荷台を戻す時はお姉さんに届け出ればいいんですよね?お名前を伺っても?」
「…………よ」
ん? よく聴こえなかったんだけど、何て言ったんだろ?
「ウシールよ! 悪かったわね! 牛みたいな名前で!」
いやいや、何も言ってませんって!
……確かに牛っぽい名前だけど。
というか文句なら名付けた親に言ってほしいわ。
「じ、じゃあ行ってきますね!」
ウシールさんは興奮してるのかフーフー言ってたから、その場から逃げるようにして街から出た。
「何だか今日は変な者達をよく見るのぅ」
「そういう日なんでしょうかね」
朝の劇団員の2人は変だったけど、ウシールさんの場合は名前のせいでああなったんだと思うわ。
「そんな事より少し走るわよ。暗くなってくる前に野宿出来る場所までダッシュで!」
王都に向かおうとしたけど食糧難の村が有るとの事で、結局私達はその村に食糧を届ける事にした。
困ってるなら助けてあげたいしね。
アイカ「うーーん、苺大福よりもカリカリ梅にすべきでしたかね……」
アイリ「苺大福でいいわ……」




