ドワーフの娘
アイカからの念話を受けた翌日。
改めてアイカから状況を確認した。
「……という訳でして、ダルタネーロの身柄は拘束しました。わたくし達はセーラ様とケティ様の護衛という形で王都に送り届けるという事になります」
私が闇ギルドの連中とやり取りしてる時に、アイカの方ではダルタネーロに対する尋問が始まってたらしい。
ダルタネーロは1人だとかなり弱気になってしまい、軽く脅しただけで色々と知りたい事を聞けたみたいね。
「今回のセーラ王女襲撃事件の黒幕は、ダルタネーロ男爵の他にヒルグリムド侯爵という貴族が居り、更に他にも数名関与してる貴族が居るようです」
「成る程。でもダルタネーロの知ってる範囲の話だろうから、それ以外の貴族にも一応注意しないとね」
でも出来る事ならヒルグリムドを先に捕らえておきたいわね。
逃げられたら面倒だし。
「ですがその場合、お姉様がヒルグリムドを襲撃する事になりますので、どちらかというとお姉様が悪者にされる可能性があります」
うーん、そうねぇ。
そう考えたら先に王都に行って事情を説明する方がいいかもしれない。
「じゃあ王都に行きましょうか。前回ラムシートに行った時と同じパーティで行くから、アンジェラとセレンも呼んどいて」
「畏まりました。それでセーラ様とケティ様は如何致しますか?」
一緒に連れて行きたいところだけど、道中で目撃されると面倒な事になりそうだから、街で遊んでてもらった方がいいわね。
私の座標転移は一度行った事のある場所じゃないと行けないから、地道に歩いて向かうしかないのよね。
「私達が王都に着くまで街にいてもらいましょう。王都に着いたら転移出来るんだし」
「了解しました」
もしセーラ達が転移魔法を使えたら早かったんだけど、そもそも使えたらダンジョンに逃げ込まないのよね。
でも念のためって事で確認してみたけど、やっぱり転移魔法が使えるなんて事はなかった。
「申し訳御座いません。そのような高度な魔法は……」
「いえいえ、聞いてみただけだから気にしないで」
今思ったけど、鑑定すれば直接聞く必要なかったわね。
しかもセーラさんに謝られたし。
「では我々はアイリ殿が王都に着くまでここに居てよいのだな?」
ケティさんが嬉しそうなんだけど、この人本来の役目を忘れてるんじゃないだろうか?
「ええ、数日後に王都に帰れると思うからそれまで待っててね」
「そ、そうか、いずれ王都に帰らなくてはならないのだな……」
「はぁ、帰りたくないですねぇ……」
こらこら、何を言ってんのかしらこの2人は。
余程この街を気に入ったんだろうけど、ちゃんと帰らないとダメよ?
「ならば急いで読み上げなくては!」
あーぁ、そういえばセーラさんは本の虫だったわ。
走ってった先は、図書館で間違いないと思う。
「よし、私もうかうかしてなれないな!」
うかうかはしてないけど、ウキウキならしてそうなケティさんは、スポーツジムに向かったわね。
さて、私も行動に移るとしますか。
という訳で、早々とラムシートの街に転移して来ましたっと。
「この街は~、久しぶりです~♪」
「主よ、このまま街を出るのか?」
うーん、折角だから冒険者ギルドによってから出る事にしようかな。
一応私はこの街では有名人みたいなので。
さっきもすれ違い様に、黒神のポニーテール!って叫ばれたのよね。
人が集まってきそうだったから足早に離れたけども。
でも悪い気はしないわよ? 私だってチヤホヤされて嬉しくない訳がないし。
「街でゆっくりするのは今のゴタゴタが落ち着いたらね」
「……ですね。さてお姉様、冒険者ギルドに着きましたよ。何気に国営時の冒険者ギルドしか見てないので、以前よりも対応が良いかもしれません」
確かにそうね。
もうあの禿マスを見なくて済むなら充分よ。
新鮮な気分で扉を開けてみると、中はパラパラと冒険者は居るものの落ち着いてるみたいだ。
多分朝のピークの時間帯を過ぎたからね。
「あ、アイリちゃーん!」
受付から私を呼ぶ声が聴こえたので見てみると、そこには一番最初に訪れた時と同じ受付嬢のナタリエさんが居た。
「ナタリエさんお久し振りです!」
まさか民営になっても同じ受付嬢のナタリエさんが居るとは思わなかったから、思わず手を取って握手してしまった。
「いつ戻ってきたの?」
「実はついさっきなんです。でもすぐに出立するつもりです」
私がすぐに出立すると言うと、ナタリエさんが凄く残念そうな顔をした。
ごめんねナタリエさん、今度来る時はゆっくり観光してくから。
「そうなの……でもまた戻って来るのよね?」
「はい、次に戻って来た時はのんびりとしていきますので」
私が戻るって言ったらナタリエさんに笑顔が戻った。
そして冒険者ギルドを出る時にも絶対戻って来るように約束させられてしまった。
何だか以前と変わらない感じね?
で、私達は依頼を受けずに王都を目指そうかと思ったんだけど、何となく気になる冒険者パーティを見かけた。
その冒険者達は5人組のパーティで、内1人の少女が大量の荷物を持たされて後ろから必死に付いていってるようだ。
あ、その子を鑑定したら種族がドワーフで、名前がダミアンで年齢が21歳って出た。
外見から年下扱いしちゃったけど、実は私よりも歳上だった。
というか何気にドワーフは初めて見るわね。
「おいダミアン、さっさと付いて来いよ!」
「そうだぜ、アンタがトロいせいで戻って来るのに時間が掛かったんだからさぁ!」
む? どうやら仲間からは歓迎されてないっぽいわね……。
「す、すみません、待って下さぁい……」
息を切らしながら歩いてるけど、どう見ても便利に使われ過ぎね。
「早くしろ! 俺ぁ早く酒が飲みてぇんだ!」
「ホントにトロいんだからダミアンは……」
だったら手伝ってあげなさいよと言ってやりたいけど、他所のパーティだから余計な事は言わない方がいいわね。
そしてそのパーティは、そのまま冒険者ギルドに入って行った。
「お姉様、顔に出てますよ、あの少女を助けてあげたいのですよね?」
お節介かもしれないけどね、あんな使われ方じゃいくらなんでも……。
「ならば主のやりたいようにやれば良いではないか。いつものようにのぅ」
そうね、まずはあのダミアンって子に話してみよう。
そう思い立ち、私達は再び冒険者ギルドに舞い戻った。
中に入ってさっそく先程のパーティを捜すと…………あ、いたいた、奥のテーブルを囲ってるわね。
「ほらよ、今回の分け前だ」
そう言ってダミアンに投げ渡されたのは銅貨1枚だった。
さすがに銅貨1枚じゃ何も買えないだろう。
「あの……これだけ?」
「ったりめぇだろ? てめぇが役に立った事なんざねぇしな」
「そうよねぇ、当然よねぇ」
「貰えるだけ有り難いと思いな!」
「う……グス…………」
一連の流れを軽く見てたけど、あまりにも酷過ぎる。
絶対に助けてあげないとね!
私は意を決してそのパーティの近くまで行くと、ダミアンに話し掛けた。
「ねぇ、ちょっといいかしら、ダミアン?」
「え?」
ダミアン本人もそうだけど、ダミアンのパーティメンバーも【何で名前知ってるんだ?】って顔して私を見てきた。
スルーしてもいいけど、一応教えとこう。
「ああ、私は鑑定スキル持ってるからね。それよりもダミアン、酷い扱いされてるみたいだけど、よかったら私のパーティに入る?」
私は堂々とダミアンを勧誘した。
そして酷い扱いをされてるってところを特に強調して喋った。
さて、どういう反応するかな?
「あのぅ……あちしなんか「おい、ちょっと待ちやがれ!」
ダミアンが話してる途中でパーティのリーダーと思われる若い男が割って入ってきた。
「コイツは俺達【ペガサス】のパーティメンバーだ。勝手に勧誘すんじゃねぇ!」
コイツらのパーティ名ってペガサスなんだ。
私に言わせれば、ペガサスより暴れ馬の方がシックリくるんだけどね。
「へぇ……パーティメンバーね。その割にはただの荷物持ちをさせてるだけに見えたけど?」
「アンタにぁ関係ないね、さっさとどっか行きな!」
言葉遣いの粗い女戦士が私を追い払おうとする。
私としても、ダミアン以外には用はないのよねぇ。
「私はダミアンに用があるの。アンタ達こそ邪魔よ、雑魚のくせに」
沸点が低そうな奴等っぽいから、挑発したら乗ってくるんじゃないかと思って、軽く挑発してみた。
「ぁあん!? 誰が雑魚だゴルァ!」
酒を煽ってた男がテーブルを叩いて立ち上がる。
それを皮切りに、他のメンバーも立ち上がった。
「今のは聞き捨てならねぇなぁ!」
「そうよ、失礼よ貴女!」
「おい嬢ちゃん、怪我したくないんならさっさと頭下げな!」
うん、予想通り沸点が……いや、予想以上に低かったわね。
そんな様子をダミアンがオロオロしながら見てるけど、もう少しの辛抱だから落ち着いて待っててちょうだい。
「なら実力を見せてもらおうじゃないの……ナタリエさん? 地下の訓練施設を貸してくれます?」
「はい、いいですよ。……アイリちゃん、あんまり怪我させないようにね?」
そしてナタリエさんの発言はペガサスの連中に火をつけたらしく、より一層殺気立った。
「おい! このガキの方が強いってのかアンタはよ!?」
「え、ええと、その……」
リーダーの男に詰め寄られてナタリエさんが困ってるので、ソイツの襟を引っ付かんで地下の訓練施設まで引きずって行く。
そして施設のど真ん中に放り投げた。
「ッテェ……てめぇ、何しやがる!?」
「アンタがナタリエさんを困らせるからよ。それよりもさっさと始めるわよ、お仲間も来たみたいだし」
私とリーダーの男……いい加減名前で呼んであげよう、鑑定したから分かってるし……私とオルゼの後を追って、他のメンバーとダミアン、そしてアイカ達も下りて来た。
「ダミアン以外で全員かかって来なさい。恐いんなら来なくてもいいけども」
必要ないと思ったけど、もう一度軽く挑発しといた。
やる気の無いやつを叩きのめしても、面白くないからね。
「……ざけやがって!」
「舐めるのもいい加減にしなよ嬢ちゃん!」
やっぱり沸点が低いのね、可哀想に。
「もう怒った! その顔が変形するまでぶっ叩いてやるからね!」
「いくぜ糞ガキがぁぁぁ!」
まずは酒を煽ってた男……ノッティが剣で斬りかかって来たので、弾いて峰打ちを食らわす。
っていうか、真剣で斬りかかって来たわよコイツ! 酔っ払ってるからって、これは許せないわ!
「ノッティが!?」
ほらほらぁ、動揺してる場合じゃないわよ~? もう目の前に居るんだからね!
「え? な!? グエェェェ!」
うわぁ! やっちゃった! 気を付けてたつもりなのに、思わず鳩尾に入ってゲロッちゃった!
この女戦士……キーファは、もうお嫁には行けないかもしれない。
何故かというと、いつの間にかギャラリーが増えてたのよ。
大勢の男達にゲロを目撃されただろうからね、ご愁傷さまだけど、責任はとりません。
「さて、後は2人ね……」
「な、何なんだよテメェはよぉ!!」
オルゼがあたふたしてるけど、今更ビビったって許すつもりはないわ、精々過去の自分の行いを悔いなさい。
「消し炭にしてやるぅ!」
コイツ! 尻が軽そうな女魔法士……ニーナがフレイムキャノンを放ってきた!
これは下手すると人が死ぬレベルよ!
「フン!」
私はフレイムキャノンを手で受け止めて、ニーナに投げ返した。
「え? ギャァァァ!」
よし、命中! 威力を吸収して返したからファイヤーボールよりも弱まってた筈よ。
ただし、服が燃えちゃってるから、早く消火したほうがいいわよ?
「最後はアンタね。覚悟はいい?」
「チ、チックショーッ!」
最後に残ったリーダーのオルゼは、バカの一つ覚えのように槍で殴りかかって来たので、まずは槍を払い除ける。
ギィィィン!
「うぁ!?」
槍を手離してしまったオルゼの襟を掴んでそのまま投げ飛ばす。
「ゴブッ!」
そして先程キーファが吐いたゲロに向かって顔から着地した。
これは私のせいじゃなくキーファのせいだから、恨むならキーファを恨んでほしい。
私はもう一度辺りを見渡したけど、4人共私を見て震えてるから終了って事でよさそうね。
「さて……アンタら、私を殺すつもりでかかって来たわね?」
「ちちち、違う、そんなつもりはない! だいたいコイツらが先に暴走したんであって、俺は戸惑ったんだ!」
「ア、アタイだってそうだ! 悪いのはこの2人だ!」
確かにリーダーのオルゼは殺傷力を抑えた攻撃だったわね。
女戦士のキーファは何も出来なかっただけだけども。
「な、何だと!? 何で俺達だけが悪いって事になるんだ!」
「そうよそうよ! 狡いわよ!」
見苦しい連中ねぇ……ま、コイツらに構ってる暇はないし、とりあえず高々に宣言しましょう。
「ダミアンは貰ってくけど、文句無いわね?」
「「「「はい! 文句は一切ありませーーーーん!」」」」
まったく、最初から素直にそう言えばいいものを……。
「素直な連中なら、ダミアンをあのような扱いはせんじゃろう……」
それもそうね。
私が離れたら、またアイツらは内輪揉めし出した。
あの様子だとパーティ崩壊は時間の問題ね、どうでもいい事だけど。
「お疲れ様です、お姉様」
いや、全然疲れてないし。
それよりもダミアンは……、
「アイリさーーん! アイリさんって、凄く強いんでしね! あちしビックリしました!」
ダミアンが笑顔で駆け寄って来た。
「ありがと。とりあえず色々と話したいから上にもどりましょ」
「……成る程、そういう事」
上の冒険者ギルドに戻って改めてダミアンから話を聞くと、冒険者に成ったはいいけど誰ともパーティを組めなくて困ってたところ、あのペガサスって冒険者パーティに誘われたって事らしい。
けれど入ってみると扱いは不遇で、殆どタダ働き同然だったと。
「あちしは不器用なんで、戦闘には向かないです。でも……どうしても冒険したくて……」
成る程成る程。
さて、ここからが問題ね、王都へ行かなきゃならないのに、流れとはいえダミアンを勧誘しちゃったからね……。
「アイリ様~、ダミアンを~、街の住人として~、迎えるのはどうですか~?」
ん? 5階層の住人って事?
「あの街で~、鍛冶屋を~、やってもらうのは~、面白いかと~♪」
そっか、私の街なら安全だし、眷族と一緒にダンジョンでレベリングすれば、今よりも強く成れるもんね!
よし、善は急げって事で、さっそくダミアンを連れてダンジョンに帰還よ!
「はい、到着」
「あの……この街はどこの街なんでしか?」
突然知らない街に連れて来られても冷静で居られるとは……もしかして大物!?
「私の街よ。そしてここは私のダンジョンの中なの!」
「ほえぇ……アイリさんってダンジョンマスターなんでしね~」
んん? この子結構頭の回転が早いんじゃないだろうか?
「私としてはここで永住してもらいたいんだけど、無理は言わないわ。でもまずは、ここで冒険者をやってほしいかな?」
「も、勿論でし! 永住するかは分かんないでしけど、ここで冒険者やってみるでし!」
やった! 漸く街としての役割を果たせる時が来たわね!
「うん、ありがとう。ダミアンが記念すべき1人目の住人よ。これから宜しくね!」
「はいでし! ところで、この街は何て名前なんでしか?」
あ~、そういえば決めてなかったわね。
「主よ、この機会にズハッと決めてしまえばよかろう」
う~ん、そうねぇ……。
「心配には及びません。実は既に決めてあるのです」
「え!?」
いやいや、私は決めてないわよ!?
そんな話は1度もしなかった筈けど……。
「この街の名前はアイリーンです!」
「そうでしか! アイリーンでしね、覚えたでし!」
ちょっと待ったぁ!
「ちょっ、アイカ! 相談も無しに勝手に決めて! それにアイリーンって何!?」
「お姉様の名前を使用して、可愛く仕上げてみました!」
「まぁそう言われると悪い気はしないんだけど……って、そうじゃない! さすがに恥ずかしいわよ!」
これじゃ自分の名前を晒してるようなものじゃない!
「落ち着いて下さいお姉様。そもそも街や国の名前は人名が含まれてるケースがかなり多いのですよ。ですからアイリーンという名前でもおかしくはないのです」
それは……うん、確かにそうかも……。
「じゃあ今からこの街はアイリーンに決定!」
長らく決まってなかった街の名前がアイリーンに決定した。
アイカ「何となくドジッ子の雰囲気を持ってるようですが、いまいち印象が薄いですねぇ……」
アイリ「あえてドジッ子にしなくてもいいから……」
ダミアン「何の事でしか?」
アイリ&アイカ「何でもない」




