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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第3章:アレクシス王国の暗部
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交渉

「ええい、クソッ! いったい何がどうなっている!?」


 ダンジョンに吸い込まれたダルタネーロは苛立っていた。

1階層のボスを撃破し、順調に攻略は進んでいるはずだった。

 しかし、前方が騒がしくなったかと思えば、ダンジョンが兵士を吸い込みだしたのだ。

そしてなす術無くダルタネーロもダンジョンに吸い込まれたという流れだ。


「誰でもよい、いったい何が起こってるのか説明せよ!」


 自身が吸い込まれてから暫しの間呆然としていたが、ようやく正気に戻ったところで近くの兵士達に説明を求めた。

 だが何が起こってるのか知らないのは兵士達も同じであり、答えられる者は1人もいなかった。

 だがそんなダルタネーロに1人の兵士が近付いて来た。


「ダルタネーロ様、この先のボス部屋に、このダンジョンのダンジョンマスターが居ます」


「何、それは本当か!?」


「ハッ! 少なくとも眷族(けんぞく)を引き連れているところを見れば、ダンジョンマスター本人の可能性が高いかと」


 理由は分からないが、本人がノコノコと出てきたのは有り難いとダルタネーロは思った。

セレスティーラの安否を確認出来しだい始末すればいいだけだ。

 ダンジョンに吸い込まれたとはいえ、兵士達に死人が出た訳ではない。

どんなに強力な眷族が居ても、約1500人の兵士を相手に闘える魔物など居ないだろう。

 そう高を括りダルタネーロはボス部屋へと向かった。


 ボス部屋に到着すると、すでに兵士達が整列して待機しており、ボス部屋の中では何故かテーブルと椅子が用意されていた。

 だだっ広いボス部屋にポツンと置かれたテーブルと椅子の図は中々シュールだが、そんなテーブルの反対側にはダンジョンマスターであるレミエマと眷族のギブソン、そしてアイカが椅子に座っていた。

ダルタネーロに気付いたアイカが椅子に座るよう促す。

それを見たダルタネーロは、やや不思議に思うも特に気にせずにそのまま椅子に座った。

 こうしてダンジョンマスターと侵入者の交渉が始まった。

もっとも、ダルタネーロとしては交渉するつもりなど毛頭ないだろうが。

そんな中最初に口を開いたのは、ダンジョンマスターであるレミエマであった。


「さっそくですが、このダンジョンに過剰なまでの手勢を引き連れ訪れた理由を伺いましょうか」


 話し方は丁寧に尋ねてるように聴こえるが、裏では【こんな真似してどういうつもりだゴルァ!?】と言ってるのである。

 そもそも名乗らずに本題を切り出した事で、レミエマの方は怒っているというアピールになっている。


「理由な……それはそちらがよく知ってるのではないか?」


「どういう意味でしょう?」


 最初からはぐらかして来ると予想してたレミエマは、すぐに切り返した。


「惚けても無駄だ。このダンジョンの近くで、セレスティーラ王女とその従者が行方不明になったのだ。と、なれば、このダンジョンが関わっていると考えるのが妥当ではないか?」


 だがダルタネーロも本性を出さない。

それどころか、セーラとケティを拐っただろうと言ってきた。


「成る程。その話が()()()()、このダンジョンが怪しいと思うのは頷けますね。ですがダンジョン周辺は捜索されてないようですが、それは何故です?」


 例えダンジョンが怪しくても、その周辺を捜索しないで決めつけるのはおかしいのではないか? というのがレミエマの言い分。


「ん? まるでダンジョン周辺を把握出来るような言い方に聞こえるが?」


 空かさず探りを入れるダルタネーロ。

もしダンジョン周辺を把握出来るのなら、セーラとケティが兵士達に追われてダンジョンに逃げ込んだ事を把握している事になる。


「出来ますよ勿論」


 特に誤魔化す訳でもなく出来ると答えたレミエマだが、実際はアイカのドローンのお陰だ。

 そんな事実があるとは知らず、ダルタネーロは内心で舌打ちした。

これではダンジョン周辺を捜索したと虚言する事は出来ない。

 そこへレミエマからの追撃が始まった。


「貴殿方が街道を封鎖しているのも知ってますし、その街道からセレスティーラ王女と従者のケティが貴殿方に追われてこのダンジョンに駆け込んだ事も知っています」


 街道の方はアイカのドローンからの情報で、

2人が追われていた話はセーラ達から直接聞いた事だ。

なので、ダルタネーロのやっている事はお見通しだという意味での先程の発言になる。


「では改めてお聞きします。ここを訪れた理由は何でしょうか?」


 今までよりも少し語気を強めて発言するレミエマに、思わず苦虫を噛み潰した顔をしたダルタネーロだが、すぐに澄まし顔を取り繕う。


「……2人を連れ戻しに来たのだ。これ以上は内政干渉だぞ?」


 苦しい状況に追い込まれたダルタネーロは(にじ)み出た汗を拭いつつ、これは()()()()()だからお前達は関わるなと暗に言ってきた。

 だがレミエマとしても、そのまま2人を返すつもりはない。

返した途端、2人は口封じに殺されるだけだ。


「お2人は帰りたくないようですよ? 私としても、お2人が無事に帰れる保証がないのであれば、返すつもりはありません。お引き取り下さい」


 話し方は丁寧だが、要するに【てめぇら臭いからさっさと帰れ】である。

こうなるとダルタネーロがとれる行動は2つしかない。

諦めて素直に帰るか、今ここでレミエマを仕留めてしまうかだ。

 そしてダルタネーロが選んだのは、剣を抜く方だった。


「ならば交渉は決裂だな。お前達、そいつらを始末しろ!」


 だが呼び掛けには誰も応じなかった。

それどころか兵士達はダルタネーロを取り囲んだ。


「お、お前達、何をしている!?」


 慌てて椅子から立ち上がり周囲を見渡すが、やはり誰1人として動く者は居ない。


「んなもん決まってんだろ。てめぇに従ってたら命がいくつ有っても足りねぇよ!」


「んなっ!?」


 まさか自分に反抗する者が現れるとは思わなかったので大口を開けて驚く。

 だがそれだけでは終わらなかった。

1人の兵士がぶちまけた不満に、周りの兵士達も同調したのだ。


「俺達を無駄死にさせる気か!」

「やってられるか、こんな闘い!」

「やるなら1人でやれ!」


 次々に不満を浴びせられるダルタネーロは理解が追い付かず、ただただ唖然としていた。

 この事態は例えダルタネーロではなかったとしても予測出来なかったであろう。

では何故このような事態になってるのかというと……、


「上手くいったみたいですね」


「はい。このドローンが有れば、向かうとこ敵なしです」


 満足げにドローンを高々と掲げるアイカだが、今現在も特殊迷彩(ステルス)が発動してるので、手を突き上げただけにしか見えなかった。


「しかし凄い性能だな、そのドローンという魔道具は。まさか過去を映す事が出来るとは」


 ギブソンは少々勘違いをしているが、アイカが行ったのはドローンを使用してモフモフが約500人の兵士達を蹴散らしてるところを録画し、それをここに居る兵士達に見せたのである。

 映像には一方的に食われている兵士達が多数映っており、これを見て闘いたいと思う頭のおかしい奴はいないだろう。

 この催しはダルタネーロがボス部屋にやって来る前に、既にアイカにより行われていたりする。


「皆さん、今ならダンジョン内のモンスターに攻撃命令は出していませんので、無事に帰国する事が出来ますよ?」


「「「「おおっ!!!」」」」


 レミエマの発言により、兵士達はゾロゾロと出口に向かって歩き出した。

 やがて兵士達が全員ボス部屋からいなくなり、その場にはレミエマ、ギブソン、アイカ、そしてダルタネーロの4人が残った。

因みに、ちゃっかりとダルタネーロの側近も、兵士達に混ざり出口に向かって行った。


「さて、哀れな領主さん。これから()()()交渉を行いましょうか。フフフ……」


 後にダルタネーロが周囲に語るのだが、この時のダンジョンマスターの顔は、まるで悪魔の微笑みで、背筋が凍るようだと感じたらしい。






 ダルタネーロ男爵の背筋が凍ってる頃、アイリと闇ギルドの構成員達との話し合いも行われていた。

 両足を失った4人は、とりあえず止血だけ済ませた状態だ。


「あまり時間が無いから単刀直入に言うわ。あんた達、これからは私の命令に従いなさい」


 構成員達の顔には、やはりそうかという顔色が伺えた。

態々止めを刺さずにおかれた時点で何となく予想はついていたらしい。

 そして暫し考える素振りを見せていたボルチェが(おもむろ)に口を開いた。


「……1つ確認したい。俺達に何をやれと言うんだ?」


「うーん……まぁ教えてもいいか。実はとある国の街にあった闇ギルドが潰れちゃって……まぁ潰したとも言えるんだけど。その後に別の闇ギルドが触手を伸ばし始めたんだけど、これが相当ヤバい連中みたいなのよ。既にボチボチ被害が出てきてるらしくてね、何とかしてくれって冒険者ギルドのギルマスに頼まれちゃって」


 これはほんの少し前に、サクサロッテ共和国内に居るダンジョンマスターのユーリからアイリに通信が来たのだが、何でもソルギムの街が別の闇ギルドに狙われ出したのだが、普通の傭兵や冒険者では分が悪く、中々尻尾を掴む事が出来ないらしい。

今は徐々に構成員を増やしつつ街を牛耳ろうとしており、一般人の被害が増えつつあった。

 困り果てた冒険者ギルドのギルドマスターであるブラードは、アイリの存在を思い出してユーリのダンジョンに赴き、ユーリにアイリと連絡をとってほしいと頼んだようなのだ。

 ユーリを経由してソルギムの街の治安が悪化しつつあると聞いたアイリは、今タイムリーに遭遇している闇ギルドの連中に対処させようと思い立ったのであった。


「成る程な。確かに俺達ならうってつけだろうな」


「うん。そういう事」


 それからもう1度考える素振りを見せてからアイリに向き合うと……、


「……わかった。引き受けよう。どのみちそれしか生き残る道は無いのだろう?」


「ええ。その通りよ」


 もし断れば彼等を生かしておく理由はないため、最終的には殺す事になる。


「ただし1つだけ条件がある。これをのんでくれるなら、黙って指示に従おう」


 ふーん? 条件ね。

でもこの状況での条件って事は無理難題ではないはずよ。

 さて、いったいどんな内容なのかしら……。


「で、その条件ってのは何?」


 受け入れる()()とはいっても現実彼等には拒否権はないので、条件というよりはお願いと言った方が正しいかもね。


「恐らくだがお前さんに従うって事は、受ける依頼は限られてくるって事だろ?」


「そうね。少なくとも罪のない人達を手に掛ける事は許さないわ」


 彼等は今までターゲットの素性まで気にしていなかった。

 善人だろうが悪人だろうが、依頼として受けた以上は確実に始末する……というのが彼等のやり方だった。

 しかし今度からは、アイリの了解なしに依頼を受ける事は出来なくなる。


「リムシールの街に仲間を残してるんだが、その内の1人に異世界からの転移者がいてな、そいつが言うには友人を殺した相手がアレクシス王国の重臣として召し抱えられてるらしいのだが、そいつを殺す許可がほしい」


 あら? 随分と重い話になって来ちゃったみたい。

でも即答は出来ないわね。

その転移者……多分地球の人間だと思うけど、その人に直接聞いてみる必要がある。

さすがにただの逆恨みで殺していいとは言えないし。


「なら今からその人に会って確認してみましょうか」


 え? 今から? って顔をしてるけど、あんまり時間をかけたくないしね。

ソルギムのような見知った街の環境が悪くなるのは避けたいのよ。


『アイカ、空間隔離を解いてちょうだい』


『了解です、お姉様』


 素早くアイカとの念話で、ドローンによる空間隔離の魔法を解除した。


「じゃあアンタ……確かノアーミーだっけ? それとアンタがボルチェね。その人が居るところまで転移してちょうだい。もう空間隔離は解除してるから」


「あら、本当に解除されてるわ。これなら転移出来るわね」


 もう今更だが、何故名前を知ってるだとか、何故転移魔法を使える事を知ってるだとかの疑問は、構成員達には湧かない。

 恐らくアイリが鑑定スキルを使ったのだと察したし、尚且つダンジョンマスターなのだろうという当たりもつけていた。


「モフモフ、ルー、すぐ戻るからそれまでお願いね? 後コレ。エリクサーだからそこの3人に使ってあげて」


「「了解(ですぜ!)」」


 本当はボルチェだけでもよかったんだけど、さすがに両足千切れたまま残りの3人を放置するのは(はばか)られるしね。


「ボルチェもコレ使っといて」


「感謝する」


 気軽にポンッと渡すアイリだが、こんなに雑にエリクサーを扱う者はアイリが初めてである。

ボルチェも言葉少ないが、内心では充分驚いている。

 そんなボルチェとノアーミーに転移魔法を……正確にはテレポートという無属性魔法を使用させ、リムシールにある彼等のアジトに転移した。


アイリ「もうドローンだけ有ればよくない?」

アイカ「いえ、ドローンは主人公じゃありませんので」

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