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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第3章:アレクシス王国の暗部
58/255

圧倒的存在

7/17 一部登場人物の名前が間違ってましたので訂正しました。

ストーリーに変更はありません。

 不審な魔術師がダンジョン付近から去る1時間程前、ダルタネーロ率いる軍勢がダンジョンの外で先発隊の吉報に湧いていた。

 突破は無理だと言われてた1階層のボス部屋をあっさりと突破したためだ。

 最初にラッカーソンが討ち死にしたと聞いた時は動揺したが、実際に当たってみればなんて事はない、数の暴力で強引に突破出来たと聞いた時は、ラッカーソンが無能なだけだったと結論付けるに至った。


「やはり出来立てのダンジョンなど大したものじゃない。まったく、ラッカーソンも所詮はお飾りの隊長に過ぎんかったという訳だな」


「まったくですな。奴が無能者でなければ、こちらがとばっちりを受ける事もなかったでしょうに」


 ダルタネーロの側近も同調する。

彼等にしてみれば、ラッカーソンが失敗しなければヒルグリムド侯爵の叱責にあう事もなかったと恨み節だ。


「しかし既に闇ギルドの連中とは契約を済ませてしまったしな。今更必要なかったとは言えぬし、どうしたものか……」


「それは仕方ありません。今回は無駄な出費となりましたが、懇意に出来たと考えれば悪くないかと」


「うむ、それもそうか」


 何かと口の回る側近に丸め込まれ、ひとまず闇ギルドの件は落ち着いたのだが……。


「む? 何やら前方が騒がしいが、何かあったのか?」


 前方……すなわち、ダンジョンに近い所でざわついてるのを見たダルタネーロが側近に問う。


(わたくし)めが確認してまいります故、暫しお待ちを」


 側近が確認のために向かうと更にざわつきが大きくなり、気が付くとすぐ目の前に居た兵士達がダンジョンの入口に吸い込まれていくところだった。

 まるでダンジョンが意思を持って兵士達を取り込んだように見えた側近は、急いでダルタネーロに報告すべく引き返そうとするが、それも間に合わずに兵士達と一緒にダンジョンに吸い込まれていった。


 その場に居た兵士達の3割がダンジョンに吸い込まれた時点で、(ようや)くダルタネーロは気付いた。


「な!? 兵達が吸い込まれていく!?」


 驚きと戸惑いでその場に立ち尽くしたダルタネーロだが、結局どうする事も出来ず、ひたすら吸い込まれていく兵士達を見ている以外に出来る事はなかった。

 やがてダルタネーロも何か強力な力により自身も吸い込まれようとしたため近くの柵にしがみついたが、その抵抗もむなしく柵もろともダンジョンに吸い込まれていった。


 しかし一方では難を逃れた者達も存在した。

彼等は聡明な思考と冷静な判断力により、これまで生きてきた者達だ。

 それ故に前方で起こった異変をすぐに察知し、後退して様子を伺っていた。

 その者達はアレクシス王国内に巣くう闇ギルドの構成員。

彼等はダルタネーロの急な依頼に応じたリムシールを拠点にしている構成員で、どんな依頼に対しても油断せず手加減もしない手段も選ばないといった、言うなればプロ意識の高い者達であった。

 そして今その者達の纏め役を務める男、ボルチェが口を開いた。


「ヤミー、何が起こったか分かったか?」


「まず使用されたのは風属性のドローサイクロンという魔法です。これは指定した範囲のものを根こそぎ使用者側に吸い寄せる魔法となっています。また使用したのはダンジョンそのものではなく、ダンジョン内に居る何者かという事になりますが、現時点では使用者の詳細は不明です」


 ヤミーと呼ばれた銀髪の女が説明する。

ヤミーは分析力に優れており、構成員の中では詳細が分からない相手がターゲットの場合に重宝されている存在だ。


「おいおい、冗談はよせよ。気配察知のスキルを持ってるお前が掴めねぇたぁどういうこった?」


 構成員の1人であるハットが言ったように、ヤミーには気配察知のスキルを所持しており、更には鑑定スキルまで所持しているという大変貴重な存在だったりする。


「冗談を言った覚えはありません。正体不明の敵がドローサイクロンを使用したのは事実、それがダンジョンマスターなのかも不明です」


「つまり、気配察知を掻い潜った存在が居るって事だな?」


「そういう事になります」


 ここで初めて構成員達に動揺が走る。

今まで気配察知で発見に至らなかった相手は存在しなかったのだ。

 だが今日は違った。

今彼等は、かつてない恐怖を少しずつ感じ取っているのだ。


「安全策で引くべきか……」


「あー、それはダメよダメダメ」


 構成員の纏め役であるボルチェは素直に引いた方が良さそうだと考え始めていたが、それに待ったをかける人物がいた。

それは構成員の1人、ノアーミーという金髪の女であった。


「何故だ、ノアーミー?」


「だってここ、空間ごと隔離されてるんだもの、逃げたくても逃げられないわよ?」


「なんだと!?」


 このノアーミーという女は転移スキルを所持しており、構成員の運搬役だったりする。

そのノアーミーが転移スキルが発動しない事に気付いたのだ。


「多分ディメンジョンシャッターが発動してるっぽいわ。この魔法は指定した範囲を空間ごと切り取ってしまうのよ。そして切り取られた空間は、内外問わず術者以外干渉する事が一切出来ないのよ。私もさっきから転移しようとしてるんだけど、全然ダメみたいね」


 自分達は既に逃げられない状況下にあると言われて動揺が更に強くなる。


「そんなバカな! 俺の魔力察知には何の反応もなかったんだぞ!?」


 今叫んだのはオリベルという魔族の男だ。

オリベルは、魔力察知のスキルを持っているので、近くで誰かが魔法を発動しようとすれば真っ先に気付くはずだったのである。


「オリベル、嘘だと思うんならここから出ようとしてみな!」


 ノアーミーに言われてその場から離脱しようとしたが、目に見えない壁がそれを阻んだ。


「な!? ……んだよこれ……どうなってんだ!?」


「言った通りよ。今私達は空間ごと隔離されてるの。これは間違いなく意図的にされた事よ」


 魔力察知すら掻い潜られるという異常な事態だが、その状況下でもボルチェは冷静さを保っていた。

 そして冷静に相手を見抜こうとしていた。


「察知系のスキルを遮断出来る存在なんぞ限られてる。少なくともこりゃAランク以上の魔物の仕業だな。そうでなきゃどこぞの勇者様だ」


「「「「Aランク以上!?(だと!?)」」」」


 Aランクの魔物ともなれば、国の軍隊が討伐隊として出陣する事なる程の事態である。

とても少人数で対応出来る事ではない。


「これは驚きました。中々聡明な思考をされるのですね」


「だ、誰だ!?」


 突然知らない声がかけられ、辺りを見渡す構成員達。

 するといつの間にか彼等の近くに1人の少女が出現していた。

ちなみに驚いて声をあげたのは、纏め役のボルチェではなく獣人のハットである。


「一応名乗っておきましょうか。わたくしはアイカと申します」


 闇ギルドの構成員の前に姿を現したアイカ。

一見無防備に見えるが、ドローンで発動させた

結界により守られてるため安全である。

そもそもアイカの場合はダミーコアを埋め込んだ自動人形(オートマタ)なので、死ぬ事は無いのだが。


「ヤミー……」


 小声でボルチェが呟くと、ヤミーはその意図を察し、素早くアイカを鑑定する。

そしてアイカを鑑定したヤミーは数歩後ずさりつつボルチェに答える。


「コイツは危険。手を出さない方が無難」


「それほどか……」


 その返答にさすがのボルチェも驚く。

先程アイカが気配を察知させずに現れた以上の驚きだ。


「ボス……」


 オリベルが顔で合図する。

アイカが出現してから皆独自で得意な距離を取り終わった……要するに戦闘準備は出来ているという合図だ。


「折角ですが、わたくしは兵士達の相手をしなければならないので、貴殿方の相手は別の者にしてもらいましょう」


 そう言うと、アイカの後ろからモフモフとルーが構成員達の前に姿を現し、アイカはダンジョンに戻っていった。


「ひぃっ!!」


「ど、どうした! 何があった!?」


 モフモフとルーを鑑定したヤミーが怯えるように後ずさる。

 その様子に驚いたガオランがヤミーに呼び掛ける。


「デ、デ、デルタファング! それに……それにこっちはオリハルコンゴーレムよ! 人化してるけど中身はオリハルコンゴーレムだわ!」


「「「「な!?」」」」


 構成員全員が驚く。

どちらもSランク以上の魔物だという事は全員が知っている事だった。

 (シングル)ランクとSS(ダブル)ランク……国が滅びる可能性すらある魔物が2体もいる。

 この時点で彼等構成員に残された道は2つ。

挑んで死ぬか、諦めて殺されるかの2択しかない。


「……まさかこれほどの相手だったとはな。どうやら覚悟を決める必要がありそうだ」


 だが彼等も今まで楽して生きてきた訳ではない。

幾多の危機を乗り越えて生きてきた者達だ。

敵わぬ相手であろうとも、黙って殺されるつもりはなかった。


「ふん、上等よ。エルフの意地を見せてやろうじゃないのさ!」


 ノアーミーは最初から挑む気だったらしく、得意魔法の詠唱に入る。


「出来れば最後の晩餐を楽しみたかったが……仕方ねぇよな!」


 ノアーミーに続いてオリベルも闘う気のようだ。


「そうこなくっちゃな。俺だってやるぜ! ……ヤミー、いつまでも腰抜かしてる場合じゃねぇぞ!?」


「わ、分かってるわよ! あ、カンマ、ありがとう」


「………………」


 ハットもやる気を出し、ヤミーを助け起こした無口な獣人カンマ、そして起こされた直後に素早く詠唱に入ったヤミーも当然闘うつもりだ。


『面白ぇ、一丁派手に行こうじゃねぇか!』


『ちょ、モフモフ!』


『ああ、()()()だろ? 分かってるって!』


 モフモフもやる気満々に今にも全員食い散らかしそうだったので、ルーが慌てて止めようとしたがモフモフからは大丈夫だと言い返された。

 そんなやり取りを念話で行っていたのだが、構成員達からは隙があったように見えたらしく、一斉にモフモフへと殺到した。


「っせい!」


『いい動きだ。……だが!』


 最初に斬りかかって来たのは纏め役のボルチェだった。

 モフモフはボルチェのダガーを素早く避け、逆にボルチェの首に噛みつこうとする。


 ギィィィンッ!


『何!? おっと……くっ!』


 しかし、ほぼ勘で予測したボルチェは、首から数センチのところで辛うじてガードした。

 そしてそこからオリベル、ハット、カンマが次々と襲いかかり、ボルチェを仕留めそこなった。


『やるな。さすがに闇ギルドだけの事はある』


「ふ……冥土の土産としてその誉め言葉は貰っておこう」


 ボルチェは意外にも嬉しそうに話した。

Sランクのデルタファングから誉め言葉を貰える存在など居ないと知っているからだろう。


 しっかし連携は見事としか言いようがねぇな。

ルーの方も物理攻撃は効果が薄いと知ってるからか、きっちり魔法で足止めしてやがる。


『ルー、そっちはどうだ?』


『直接のダメージとしてはいまいちだけど、足止めだけなら効果的。魔法を使ってきた2人は最初から私の足止めだけが目的だったと思っていい』


 成る程な。

まぁ(シングル)ランクとSS(ダブル)ランクの2体を同時に相手するバカな奴等じゃなくて良かったぜ。

これなら()()って事でいいな。


 等と考えてるモフモフだが、これは彼等構成員の戦闘能力を調べるためのもので、モフモフの独断ではない。

先程のボルチェへの噛みつきも、本来ならギリギリで止めて挑発しようと思っただけなのだが、それを見事に防いでみせたボルチェに対して評価を上げていた。

 ルーの方も同様で、どのような行動をとるのかを見ていたのである。

 では誰の指示で行ってたのかと言うと……


『姉御、終わりやしたぜ。連携は問題なしでさぁ』


『ルーの方も終わった。どこぞの駄犬より余程頭がいいと思った』


『2人ともご苦労様。それじゃ1度叩きのめしちゃって。多分そうしないと言う事聞かないと思うから』


 2人に指示を出していたのはアイリ。

アイリには目的が有るらしく、彼等を調査して使えそうなら生け捕りにするように命じたのである。


『『了解(だぜ!)』』


 実はこうしてる間にもモフモフとルーには常に攻撃が繰り出されているのだが、モフモフは難なく避け続け、ルーは微動だにしなかった。

 だがこの後、構成員達は本当の絶望を目にする事になる。


『それじゃあ本気で行くぜ!』


 急に動きが速くなったモフモフに付いていけず、構成員達は焦り出した。


「くっ、さっきよりも速く!」


「まさか今までのは本気じゃなかったってのか!?」


『当たり前だろうが!』


 更に加速したモフモフに完全に反応が出来なくなったボルチェの両足を噛み千切る。


「グアァァァッ!!」


「ボス!」「頭ぁ!」


『動きが止まってるぜ?』


 続いて完全に動きが止まったオリベルとハットも、ボルチェと同じように両足を噛み千切られた。


「ギィヤァァァッ!!」

「ヌグッ! クソガァァァッ!!」


『これで最後だな』


「ぐっ! くぅぅぅ!」


 そして残されたカンマも同じように両足を噛み千切られる事となった。


 一方のルーも、遊びは終わりだと言いたげにヤミーの水魔法ギガフリーズにより凍りついた全身を強引に動かして拘束を解き、ノアーミーの樹魔法プラントジェイルにより足下に絡み付いた蔦を引き千切った。


「うっそーっ!? 本気で拘束してたはずなのに!」


『あんなものでは拘束にならない。あれで拘束してたつもりなら、貴女の頭はおめでた過ぎる。むしろモフモフ以下』


 慌てて再度拘束しようとしたヤミーとノアーミーだったが……、


『周りをよく見る。既に他の4人は某駄犬により戦闘不能』


「「な!?」」


 ルーに言われて周りを見る2人だが、そこには既に両足を失った4人が転がされていた。

 それを見て悔しそうにルーを睨む2人。

もう自分達は助からないし、この状況から逃れる事は出来ない。

徐々に絶望が2人を染めつつあったのだが、そこへ新たな人物が現れた。


「モフモフ、ルー、お待たせ。ここからは私に話をさせてちょうだい」


 現れたのは我らが主人アイリ。

そしてアイリの手には、部位欠損をも治す事が出来る最上級ポーション……通称エリクサーが握られていた。


モフモフ「なぁ、戦闘中に駄犬とか言わなかったか?」

ルー「気のせい」

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