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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第3章:アレクシス王国の暗部
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烏合の衆と闇ギルド

 リムシールの街の領主であるダルタネーロ男爵は、自身の持つ9割の兵力を率いて街から出陣した。

ヒルグリムド侯爵が帰った後すぐに行動を起こしたため、すでに日は沈みつつあったが、街の平民達には夜間の軍事演習だと説明してある。

 そしてダルタネーロが率いるのは約2000の兵士達だが、やはり数が多すぎるので後に騒がれるのは確実である。

それを正当化する理由を考えねばならないのだが、それよりも今はダンジョンに注視すべきだと自身に言い聞かせダンジョンを見据える。


 だが先頭の兵士達の後ろで、兵士達とは違う装備を身に付けた集団がいた。

彼等は正規の兵士ではない。

ならば彼等の存在は何なのかというと……、


「頭ぁ、急な仕事って事で来てみりゃ何なんですかねこの兵の数ぁ……」


「さあな。だがそれだけ本気で、()()()()()()()()()()って事なんだろう」


「この兵力の上に更にうちら闇ギルドに頼る程の相手って事ですかい? この規模で真っ先に思い付く相手って言ぇあ、ミリオネック商業国かグロスエレム教国くらいですがねぇ……」


 彼等は闇ギルドの者達だった。

闇ギルドとは、金さえ積めばどんな事でも引き受ける集団であり、その引き受ける仕事のほとんどは犯罪である。

 当然慈悲は無く、金を積まれて幼女を殺せと命じられれば、何のためらいもなくターゲットの幼女を殺すだろう。

 そんな彼等への仕事として依頼されたのは、出来たばかりのダンジョンに巣くうダンジョンマスターの殺害と、そこに逃げ込んだセレスティーラ王女と従者の捕縛もしくは殺害だ。


「何処の誰が相手でも関係ない。我々は依頼された通りの事をすればいい。ハット、お前も無駄口が多いぞ」


「へいへい」


 その会話を最後に2人は口を閉ざした。

口を閉ざした2人の更に後方に、一際目立つピカピカと輝く装備品に身を固めた男が居た。

此度の作戦を指揮するダルタネーロ男爵だ。

失敗が許されないため、自らが指揮をとる事に決めたのだ。

やがてダルタネーロの前に、彼にとっては忌々しきダンジョンがその姿を表した。


「ここがそのダンジョンだな?」


「はい。レノッソの報告によれば、1階層はボス部屋以外は捜索を終えているようです。捜索の結果、セレスティーラの遺留品は見当たらず、亡骸も確認出来てないため、生きている可能性があります」


「チッ!」


 側近の言葉にダルタネーロは舌打ちする。

セレスティーラの亡骸さえ確保出来れば、最悪ダンジョンなんぞ放っておけばよいと考えたからだ。

 だが生きてる可能性がある以上確かめねばならなかった。


「すぐにボス部屋の攻略にかかれ! なんとしてでもダンジョンマスターを仕留めるのだ!」


 総員2000名の内500名の兵士が列を成してボス部屋へと進む。

事前にダンジョン内部を調査したレノッソ達により1階層のマッピングは完了しており、ボス部屋への最短ルートを通って進軍させる事が出来た。

 そしていよいよ先頭の兵士達がボス部屋へ到着し、中に突入しようとしていた。


「ここには未知の敵が居ると聞く。だがこの数でかかれば問題はない。どんな見た目でも容赦するな! 突撃ーーーぃ!」


「「「「「オオォォォ!!」」」」」


 先頭の兵士に続いて後続もボス部屋になだれ込んで行く。

 今回ボス部屋に配置されていたのはオーガ1匹とゴブリン5匹だった。

そのため多少の犠牲は出しつつも、数で畳み掛け強引にボス部屋を突破したようだ。

 この報告を受けたダルタネーロは満足そうに頷き、2階層を徹底的に捜索する事を命じたのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 だが突破された方は穏やかではない。

前回も数で押し切られそうになったところをルーの助太刀によって回避されたのだが、今回はその倍以上の数を充ててきたのだから。

 だがダンジョンマスターのレミエマも黙ってはいない。

1階層が突破されたのを見て、すぐに手を打ったのだ。


「アイカさん、来ていただき有難う御座います。他の眷族(けんぞく)さんも」


 レミエマが打った手とは、アイリに助けを求める事だった。

とても単純な手だが、とても効果的な手とも言える。

付け加えれば、敵にとっては悪夢の始まりであろう。


「任せて下さい。お姉様はセーラさんとケティさんに付いてますので、今回はわたくしが張り切らせていただきます!」


 アイリはお客の2人を相手にしてるので、代わりにアイカが()()を持参してやって来た。


「ルーから話を聞いて来たぜ。今回は俺が食いまくってやらぁ!」


 そして眷族のモフモフは、ルーから多人数を相手に闘った事を聞いて、戦闘狂の血が騒いだために参戦しに来たのである。


「コアルームを絶対に死守するためにルーが選ばれた。終わったらご褒美くれても……いいのよ?」


 前回に引き続きルーの出番である。

アイリが万が一を懸念して、ルーにコアルームの絶対死守を命じたのだ。


「レミエマ様、ダンジョンの外に約1500人の兵士が待機してます。宜しければダンジョンに吸い込む事も出来ますが、いかが致しましょう?」


 さっそく持参したドローンを飛ばしてダンジョンの外を確認したのだ。

 その様子をドローンを通じて見たレミエマは、改めてアイリに助けを求めて良かったと再認識した。


「はい、お願いします。ただ殺すのは待って下さい。さすがに2000人近くの兵士を手に掛けたとなれば、アレクシス王国そのものの敵対心が上がってしまいます」


 2000人近くをダンジョンに吸収すればDP(ダンジョンポイント)も相当貯まるのだろうが、そうなればダンジョンマスターを討伐せよという王族や貴族が必ず出てくるだろう。

 そうなるとアレクシス王国との交渉が、開始する前に終わってしまう可能性すらある。


「ですので指揮官を捕らえてもなお挑んで来る者以外は、そのまま帰還させようと思います」


「了解しました。では後程吸収しておきます。数が多いので入口付近が混雑しますがご了承下さい」


 アイカはドローンを操作して、ダンジョン外にいる兵士全てダンジョンに放り込むための準備に入った。


「2階層を捜索中の奴等は俺に任せてくれ」


 今現在、敵はダンジョン2階層を捜索中のため、いずれボス部屋までやってくる。

それまでに急襲して戦意を低下させる役目をモフモフが請け負った。


「分かりました。ただ、逃げ出した者達はそのままでお願いします」


「分かったぜ」


 そしてボス部屋のボスはルーが担当する事になった。


「大丈夫。状況が悪化したら本気だすから」


「悔しいですが、これだけの数を相手に私達だけでは撃退は無理です。ルーさん、宜しくお願いしますね」


「ルーもいいけど、お菓子「おいルー、姉御からあまり要求するなと説教されたばかりだろ?」…………シューーン……」


 お菓子の催促が失敗に終わると、諦めて2階層のボス部屋へと向かった。


「本当に頼もしいわね。これでアイリさんには2度とも助けてもらった事になるわ……」


 レミエマは心からアイリに感謝した。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 その頃、ダルタネーロの指示で突入した約500名の兵士達は、2階層を捜索していた。

突破するのは無理だと言われてた1階層を突破したため、兵士達の士気は高かった。


「どうだ、ボス部屋は見つかったか?」

「いや、まだ見つからないな。そっちはどうだった?」

「こっちは行き止まりだったから戻ってきたところだ」

「これ以上奥には進めなかったから、ここまで来る途中に有ったんだろうな」

「ならさっさと戻ろうぜ。増援されると分け前が減る」


 今回の作戦においてダンジョンマスターを討伐した者には、特別手当が出ると事前に伝わっており、皆目を¥マークにして捜索している。

 だがそんな彼等に不穏な空気が流れ始める。


「あれ? この辺りを捜索してた奴等はもっといなかったか?」

「そういやそうだな。どこ行ったんだ?」

「おい、まさか抜け駆けされたんじゃないだろうな!?」

「その可能性が高いな。念のため1度集合かけてみるか」


 その後すぐに開けた場所で集合するも、やはり数が少ないのに気付いた。


「やっぱり少ないな。500人いたのが400人くらいに減ってやがる」

「くっそ、どこかにボス部屋が有るはずだ、急いで探すぞ!」

「ちきしょう、抜け駆けしやがって!」


 それから30分後、再び同じ場所に集合したが、またしても数が減っていた。


「おい、どうなってやがる! もう200人くらいに減ってるじゃねぇか!」

「し、知らねぇよ!」

「……おい、何かおかしくないか?」


 そしてついに、1人の兵士が異変に気付き始めた。


「何がだよ!?」

「まぁ落ち着け。だいたいよ、いなくなった奴等の痕跡がどこにも無いってのが妙だと思わないか?」


 その言葉にその場に居た兵士達が思考を巡らせ始める。


「……確かにそうだな」

「勝手に帰る訳ねぇしな」

「ならいったいどこに消えたんだ?」


 徐々に不安が増してきた兵士達は、現状を伝えるため1度報告に戻る事にした。

 しかし、彼等がダンジョンを出る事は2度となかった。


「やっぱりおかしいぞ。さっきまで後続の部隊が居たはずなのに、いつの間にか居ねぇ!」

「そんな……まさか罠が仕掛けてあるのか?」

「わからん。わからんが気を付けろ! 何かがおかしい! 周囲に注意しろ!」


 1人の兵士が怒号をあげ、他の兵士達は周囲に神経を研ぎ澄ます。

この時既に100人を切っていた。


『もうそろそろ良さそうだな』


 渋い男の声が兵士達の頭の中に響き渡る。


「おい、今喋ったのは誰だ!?」

「いや、誰も喋ってねぇはずだぞ!?」

「そうだ、今のは頭の……」


 頭の中に聴こえたとでも言いたかったのかもしれないが、彼はその言葉を発する前に絶命した。


「おい、何があった!?」


 先程声が聴こえた方を見た兵士は、そこに血溜まりだけが残されているのに気付いた。


「て、敵だ、敵が居るぞーっ!」


 その声に周りは慌てふためく。

しかも敵の姿が見えない事も合わさって、混乱は大きくなっていく。


『うるせぇぞ。今更騒いだって後の祭りだ』


 そこへ容赦なく攻撃を加える正体不明の敵。

気付けばもう数名の兵士達が残されるのみとなっていた。


「ななな、何が、ななななんで」

「どどどどうなってるぅぅぅ!」

「な、何だよ、何が居るってんだよ!」

「ひいぃぃぃぃぃ!」


『ふん。所詮は烏合の衆ってやつか』


 残された数名も、パニックを起こしながら消えた兵士達の後を追った。






 500名の内の9割はモフモフが食い散らかしたが、残りの1割は他の兵士達を出し抜くためにボス部屋の報告をしなかった者達だ。


「ここが2階層のボス部屋だな」

「ああ。他の連中は先に進んじまったから、ここは俺達だけで行こうぜ?」

「勿論だぜ。報酬は早い者勝ちってな!」


 幸運にもボス部屋を発見した彼等は約50名の兵士達だ。

 命令では全員でボスに当たれと言われてたのだが、彼等は報酬を独占するためにボス部屋の報告をせずにそのまま突入した。


「ここから先は通さない。ルーが居る限り永遠に無理」


 50人の兵士の前に現れたルーは、両腕を振り回し駄々っ子のように見えた。


「何だぁこのガキは!?」

「ここのボスらしいぜ?」

「こんなのがボスとは笑わせる!」


 しかし不運な事に、ルーの恐ろしさを知ってる兵士はこの中には()らず、彼等はルーを見た目で判断してしまった。


「見た目で判断するのはバカのする事。もしくはアホのする事」


「誰がバカだ、糞ガキが!」

「ガキが意気がるんじゃねぇ!」


 尚も侮る兵士達に、ルーは溜め息をつきながら人化を解除した。

ルーが人化を解除する事、つまりSS(ダブル)ランクのオリハルコンゴーレムが彼等の前に姿を現す事になるのだ。


「ゴゴゴ、ゴーレムだとぉ!?」

「バ、バカ言うなよ! こんな巨大なゴーレムなんて知らねぇよ!」


 ルーの元の姿は巨大なゴーレムで間違いない。

間違いないが、ただの巨大なゴーレムだという認識は間違っている。


「こ、こ、こいつぁオリハルコンゴーレムだ!」


 やがて1人の兵士がルーの正体を看破する。


「オ、オリハルコンゴーレムって確か……」

「ああ、SS(ダブル)ランクのゴーレムだ……」

「ばばば、ばか言ってんじゃねぇ! こんなとこにSS(ダブル)ランクの魔物なんているはずねぇだろ!」

「ハハハ、こ、これは悪い夢だ……」


 腕を振り回しながら暴れまくるルーに手も足も出ずに狩られ続ける兵士達。

それは闘いではなく、一方的な虐殺に等しいものではあったと言える。

 そんな中、虐殺から逃れるためにボス部屋を離脱しようとした兵士達は、入口に居る狼の存在に気が付いた。

 その狼はご存知の通りモフモフなのだが、人化を解いたルーと比較すると弱そうに見えるのはどちらかと聞かれれば、間違いなくモフモフという答えが出てくるはずだ。

 一斉にかかっていった兵士達を瞬時に狩り尽くしたモフモフを見た兵士達は、既に自分達の命運は断たれた事を悟り、無気力のまま狩られていった。

 そして狩りが終わった後……、


「チッ、もう終わりかよつまんねぇ……」


「それは私の台詞。それに人の獲物を横取りするとは良い度胸だ犬っコロ、もしくは駄犬」


「んだと! 誰が犬っコロだ! だいたい駄犬ってなどういう意味だ!?」


「……可哀想だから後で教える」


「おう悪ぃな」


 頭の弱いモフモフに同情したルーが、駄犬の意味を教える約束をしてしまった。

 だが教えたら教えたで、再び怒り出すだろうが。


「って、そうじゃない。私の獲物を盗るのはダメ、絶対」


「へっ、テメェが遅いのが悪ぃんだよノロマが」


「ノロマ…………カチーン。人が気にしてる事を言った。もう許さない」


「気にしてたのかよ……」


 取っ組み合いが始まろうとしたところで、アイカが2人を止めた。


『2人とも、遊んでないでダンジョン入口に来てください。レミエマ様が交渉されるようなので。既にダンジョン周辺にいた連中は全て中に取り込んだのですが、その中に強者が紛れているようなのです』


 どうやら外にいた兵士達は、全員ダンジョン内に閉じ込められたようである。

 そしてアイカの説明に出てきた()()というキーワードにときめいたモフモフは、再び人化したルーを背中に乗っけて入口へと急行した。


「モフモフが生き返った」


「おうよ、強者が俺を呼んでやがるぜ!」


 まだまだ闘い足りないモフモフは、犬歯を輝かせながら入口へと走るのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 ダンジョンの外に居た兵士達を根刮ぎ吸収したアイカだが、その様子を更に遠くで見ている者が居た。

 ローブで全身を包み込んでるため顔は見えないが、高所にある木の上から見下ろしてる状態なので、恐らくは魔術師だろうと思われる。

 その魔術師は、ダンジョン外に居た者達が全て居なくなったのを確認すると、すぐに別の場所に転移した。






 顔の見えない魔術師が転移したのは、何処かの街にある邸であった。

そこである人物に報告を行っていた。

そしてその貴族と思われる人物は報告を聞き終わると、閉じていた目を開き、正面に座っているローブの魔術師を見据えた。


「そうか……ではセレスティーラはそのダンジョンに匿われてると考えてよさそうだな」


「はい。ですがダルタネーロはダンジョンの攻略には間違いなく失敗するでしょう」


「ほう? 理由を聞こうではないか」


 報告を聞いていた貴族の男は、ダンジョンはそのまま攻略されるだろうと考えてたが、何故かローブの魔術師は自信満々に発言したので、少し興味を示したようだ。


「かのダンジョンには、某にも看破出来ぬ何者かが潜んでおります。そしてその強さは未知数で、アレクシス王国の全兵力を投入しても勝てない可能性があります」


「な、なんと! それほどか!?」


 ここで初めて貴族の男は驚き仰け反った。

目の前の魔術師をそれなりに信用しているのか、その魔術師の見立てではダンジョンはアレクシス王国に対抗できる程の戦力を有しているという事になる。


「はい。ですので、かのダンジョンを刺激するのは避けた方が無難だと判断します」


「ううむ……セレスティーラは放って置くしかないか…………ならば、他の王族だな。特にヨゼモナールは第一優先だ」


「心得ております。お任せ下さい……モルドルト伯爵」


モフモフ「で、駄犬ってのはどういう意味なんだ?」

ルー「無駄毛の多い犬の事」

モフモフ「マジか! ちょっくら手入れしてもらってくらぁ!」

ルー「……やはりモフモフは駄犬」

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