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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第3章:アレクシス王国の暗部
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お客様来ダン

 送り出したルーが昼前に帰って来た。

 レミエマに無茶な要求をしないかヒヤヒヤしたけど、更なるお菓子を要求する事もなく帰って来てくれた。

 但し、2人のお客様を連れて……。


「貴女がルーさんのマスター様ですね、私はアレクシス王国の第2王女セレスティーラと申します。セーラとお呼び下さい」


「私はセレスティーラ王女の従者をしているケティだ。宜しくお願いする」


 記念すべきお客様第1号が、まさか王女様になるとは思わなかった。

そりゃ誰か来ないかなとは思ってたけど、いきなり王族とはねぇ。

 あ、レミエマはノーカンよ?

外の人間じゃないし。


「えーと、私は魔女の森の中心にあるこのダンジョンのマスターの天前愛漓(あまさきあいり)よ。アイリって呼んでね」


「わたくしはダンジョンコアの、アイカと申します」


「「え!?」」


 ん? 何かおかしなところがあったかしら?


「あ、あの~、ダンジョンコアとは、あのダンジョンコアの事……ですよね?」


「えっと……ダンジョンコアといったらダンジョンコアしかないんだけど……あ、そっか!」


 ダンジョンコアって普通人の形して動き回ったりしないもんね。

 ここだけの常識だったのを忘れてたわ。


「えーとね、アイカはダミーの自動人形(オートマタ)を遠隔操作してるだけだから、本体は別の場所にあるのよ」


「あ、そうなんですね。ダンジョンコアにそんな事が出来るとは思わなかったです」


 ほかのダンジョンでは殆どないと思うけど、説明するのが面倒だから黙っていよう。


「そして私が眷族(けんぞく)のルー。ルーちゃんって呼んで下さい。お菓子くれるなら、年中無休で受け付けます」


 2人ともルーのお菓子好きは理解してらっしゃるようで、苦笑いをしてる。

変な認知のされ方を……。


「眷族は他にも居るけど、とりあえずこの()の事を説明するわね」


「はい、宜しくお願いします」


 最初ルーが2人をダンジョンに誘ってるところを見て、急いで準備したのよ。

すぐに5階層にある街に案内出来るようにね。

 そして予想通り2人をダンジョンに連れて来たから、すぐに5階層の街に転移したのよ。


 何故すぐに案内しようと思ったかというと、やっぱりどういう反応するか楽しみじゃない?

この世界に無い物が目白押しな訳だし。

 つまりこの2人が仰天するところを見たいのよ私は。

そんな訳で、街の中心部に転移して来ましたよっと。

 さあ、存分に驚きなさい!


「な、な、何なんですかここは!? ダンジョンの中にこんな街が存在するなんて!」


「………………」


 これよこれ! こういう反応が見たかったのよ私は! セーラさんは予想通りの反応をしてくれたわ。

 従者のケティさんは……口を開けたままポカーンとしてる……。

でもこれはこれで有りね。


「どう? 他のダンジョンにはこんな街は無いでしょ? それに街の中にある施設も他の街には無いものばかりよ!」


「は、はい。確かにこんな施設は見たことありません」


「………………」


 ケティさんポカーンとしたままだわ、早く戻って来ないかしらね。

とはいえ待ってる時間も惜しいから、さっさと街を案内しよう。


 で、最初にやって来たのが雑貨屋。

この世界の物からこの世界じゃない物まで色々取り揃えてるわ。


「ここは普通の雑貨屋さん……ではないのですね。このアイテムは……」


「それは懐中電灯ね。そこのスイッチを押すと光が出るのよ」


「えっと……これですね……わ、凄い!」


 カチッという音と共に前方に光を出し続けるこのアイテム、今ならなんと!




「価格はまだ決めてないんだけどね」


「これなら魔法の使えない者でも簡単に照らせますね! これは凄いアイテムですよ!」


 私が開発した訳じゃないけど、なんか嬉しいわねこういうの。


「アイリさん、これはなんですか? 筆とは違うようですけど……」


「これはボールペンね。この中にインクという黒い物が入ってて、それが無くなるまで書き続けることが出来るのよ」


 試しにサラサラっと適当に書いてみせた後、

セーラさんにも書かせてみた。


「凄く書きやすいですぅ! 私の持ってる筆より書きやすいなんて……」


 これも価格は決めてないのよねぇ。

近い内に決めないといけないわね。

 さて、どんどん時間が過ぎていくから次に行きましょうか。


「ここは武器屋で隣が防具屋ね。まぁ何となく見たら分かったと思うけど」


「武器か!? 武器があるのか!?」


 あ、ケティさんが復活したみたい。

武器という単語に物凄い反応したけど、武器マニアだったりするんだろうか?


「それほど目新しい物は無いと思うけどね」


「いやいや、そんな事はないぞ? どれも良質の物ばかりだ」


 ああ、そういう事ね。

確かに粗悪品とかは並べてないしね。

 ところでケティさんは、セーラさんそっちのけで武器を物色してるけどいいんだろうか?


「はぁ、アイリさん次に行きましょう」


「そ、そうね」


 おーい従者、王女様が呆れてるぞー?

 ……ま、いいか。

一応後でまた見せるって事にして、強引にケティさんを引っ張って訪れた場所は公園。

 この世界の遊具がどういう物が有るか分かんないけど、多分存在しないものが多いんじゃないかな。


「中々楽しい乗り物ですねコレ」


 今王女が乗ってるのはシーソーね。

で、反対側にケティさんが乗ってるんだけど、騎士の格好した人がシーソー乗ってるのは凄くシュールだったりする。

 ここも後で好きなだけ使わせてあげるから、次に行きましょう。


「ここはゲームセンターよ。色んなゲームで遊ぶ事が出来るわ」


「ゲームですか。ではこれはどういったゲームなんでしょう?」


 よりによって両替機を指しますかね。


「それは両替機といって、通貨を両替する魔道具なの。例えば銀貨を1枚入れると、銅貨が100枚出てくるの」


「何故両替をする必要があるのですか?」


「ここのゲームはね、銅貨1枚投入して遊ぶものだからよ」


「え? たった1枚の銅貨で遊べるんですか?」


「そうよ~」


 王女からしたら安過ぎるかもしれないけど、一般人の場合だとこれでいいと思う。

高過ぎると遊べないし、利益を期待してる訳じゃないしね。


「次はここね」


「ここは‥‥」


 今度は遊園地に連れてきた。

ここも遊ぶ所だけど、ゲームセンターや公園の規模より遥かに広い。


「簡単に言うと、ゲームセンターをよりリアルにデカくしたようなものよ」


「大きくて広いですね~……」


 ここも後で好きなだけ使わせてあげましょう。

 って事で次。


「ここは図書館ですね」


「その通り。落ち着いて好きな本を読めるから、読書家には重宝すると思うわ」


 セーラさんが目をキラキラさせてるところを見ると、読書が好きっぽいわね。

イメージ的には恋愛小説とか読んでそうだし。

 逆にケティさんは興味なさそう。

 って、セーラさんが奥へ行ってしまった。


「はいはい、セーラさん一旦落ち着いて。後でゆっくり読ませてあげるから」


「本当ですか!? 絶対ですよ!? 嘘ついたらクロコゲ虫1000匹飲ませますよ!?」


 クロコゲ虫1000匹とか想像したくないんだけど、セーラさんは平気なんだろうか?

 でもそんなの見たくないし、飲みたくもないから約束は守るわよ。


「すまない。セーラ様は本の事となると、性格が変わってしまうくらいのめり込んでしまうのだ。普段ならクロコゲ虫なんて言葉がセーラ様から出てくる事は無いんだが……」


 うん、今ので確信したわ。

セーラさんに本の事で突っ込んだら薮蛇になるって事が。


「大丈夫です。次に行きましょう」


 名残惜しそうにするセーラさんを引っ張ってやって来た所はスポーツジム。


「えーと、スポーツジムって言っても分かんないと思うから、体を鍛える場所って言えば言いかな?」


「成る程、訓練施設のようなものですね?」


「あ、そうそれ。ただし、実際に武器を使用するんじゃなくて、専用の器具を使うんだけとね」


 何かここでもケティさんがマジマジと見てるわね。

 もしかして脳筋の素質有り?


「むん! お、重い……」


 近くにあったバーベルを持ち上げようとしたけど、全然持ち上がらないみたい。


「あ、いたたた……」


「ケティ、無理してはいけませんよ?」


「も、申し訳御座いません……」


 というかケティさん、セーラさんと立場が逆じゃないの……。


「それじゃ次はここ。薬屋だからケティさんに丁度いい物があるわ」


「丁度いい物?」


 さっきバーベル上げた時に、手首を痛めてたみたいなのよね。

中級ポーションならすぐに治るだろうし。


「はいコレ。手首に塗っといてね」


「すまない。親切痛み入る」


 って、薬屋に来ても大した意味はないわね。

さっさと次に行きましょ。


「ここは交番と言って、何か困った事があったら駆け込む事になるかも知れないわ。駐在してる自動人形(オートマタ)が居るけど、普段は気にしなくてもいいわよ」


「詰所みたいな物でしょうか?」


「そう思ってもらってもいいわね」


 さて、そろそろ昼食の時間ね。

この2人は舌が肥えてるかも知れないから参考になるわね。

特にセーラさんは立場上不味い物を口にする事はないだろうし。

 そんな訳で、適当な飲食店に2人を連れて来ましたよっと。


「さて、コレがメニューだから好きなのを選んでちょうだい」


「沢山あって迷いますね……」


「それに聞いた事がない食べ物ばかり……」


 でも画像付きだから食べる前にどういう見た目か分かるようになってるわ。


「どれも美味しそうで目移りしますね」


「メニューに絵が乗ってるのは見事だな。このように分かりやすいメニューは無いだろう」


 暫く悩んだ末に、セーラさんはスパゲティーミートソースを、ケティさんはハンバーグセットを注文した。

 そして私は冷やしうどんに決めた。

今は初夏を迎えたところだから、冷たいのが食べたかったのよ。


「美味し~~~い♪ こんなに美味しい料理は食べたことありません!」


 セーラさんは余程美味しかったようで、両手で頬を押さえて悶絶してる。

 ミートソースが口に付いてて見た目に少々問題があるけども。


「……これは美味い。肉とこの白い添え物が凄く合っている。いやはやこれは……」


 ケティさんはハンバーグと大根おろしの組み合わせに感心してるようだわ。

確かに相性は抜群よね。


「有難う御座います。とても美味しかったです!」


 とてもいい笑顔で言われたけど、口の回りにソースがついたままだから、血を吸い終わったヴァンパイアみたいにみえる。

 これは国民には見せられないわね……っとティッシュ渡さないと。


「セーラ様と被ってしまうが、とても美味しかった」


「気に入ってもらえたみたいね」


 王女が満足するくらいだから、一般人だと感激してくれそうね。

問題は価格設定なんだけど、いずれ他国の街で調査しないとね。

 でもまずはこの2人から聞いてみよう。


「実はこの料理の価格も決めてないのよ。2人ならどのくらいの価格設定にする?」


「うーん、そうですね……1万サークくらいでしょうか?」


「セーラ様、さすがに高過ぎでは……」


 1万サークという事は金貨1枚なんだけど、以前ラムシートで食事した時は1人で銅貨50枚くらいだったと思うから、とてつもなく高いわね。


「せめて銀貨10枚くらいにすべきでは」


 いやいや、それでも十分高いわ。

それだけ評価してくれてるんだろうけど、高すぎると誰も手が出なくなっちゃう……。

 となると、普通の食事よりも美味しいって事を考慮して、銀貨1枚前後くらいに収めるのがいいかもしれない。


「さて、昼食も済んだし私は戻るけど、2人は街で自由にしててちょうだい」


 他の街で調査して、価格設定をどうにかしないとね。


「あの~、その事なんですが……」


 ん? なんかセーラさんが言いにくそうにモジモジしてるけど、どうしたんだろ。


「実は私達、あまり金銭を所持してなくてですね……」


 ああ、そういう事か。


「それなら大丈夫よ。今回はお試しって事で薬屋と雑貨屋と武器防具の店以外はサービスにしとくから」


「「本当にいい(のか!?)んですか!?」」


 これだけの施設を無料とか本来なら有り得ないんだけど、色々と第3者からの視点で体感してほしいのよ。


「はい。その代わり感想を聞かせて下さい。後この街に必要なものとかも教えてもらえると有り難いです」


「分かりました! 頑張って感想を言いますね!」


 うん、なんか鼻息を荒くしてるけど、本に夢中になってるセーラさんが容易に想像出来るわ。


「有り難い、ならば早速スポーツジムとやらを使わせてもらおう」


 ケティさんには無理をしないでほしいんだけど……聞きそうにないわね、脳筋っぽいし。


 さてと、私は私で価格設定の市場調査をしないとね。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 アレクシス王国内リムシールの街


 一際目立つ大きな屋敷に、この街の領主であるダルタネーロ男爵が住んでいた。

ダルタネーロは、セーラ捕縛をラッカーソンに命じた1人でもある。

 そのダルタネーロの元にダンジョンから帰還したレノッソが報告に訪れていた。


 ドンッ!!


「何をバカな事を! 出来立てのダンジョンごときを攻略出来ず、しかもラッカーソンは討死したと言うのか!」


 レノッソからの報告に、思わずテーブルを叩きつけたダルタネーロ。

 ダンジョンマスターごとセーラを消すつもりで送り込んだ120名近くの兵が、攻略を失敗して帰還するとは思ってなかったらしい。

 しかもその内半数が犠牲になるという有り様だった。


「も、申し訳ありません! ダンジョンのボス部屋にて、まったく歯が立たない相手が出現したためです! そのボスが居る限り、先に進む事は出来ません!」


 多少手こずる事はあっても失敗するなど夢にも思ってなかったダルタネーロは頭を抱えた。


「いずれ国王陛下の耳にもセレスティーラが行方不明だという事が入ってしまう。時間が無いのだぞ!? ヒルグリムド侯爵になんて説明したらよいのだ!」


 そんな頭を抱えるダルタネーロに側近が耳打ちした。


「男爵様、そろそろヒルグリムド侯爵がお見えになる時間です」


「わ、分かっておる! 分かっておるから困っておるのだ!」


 アタフタと落ち着きが無くなったダルタネーロに追い討ちを掛けるように、部屋の外から執事らしき男がデップリとした重そうな腹をこさえた男を案内して入室してきた。


「ダルタネーロ、セレスティーラ王女はどうなったのだ?」


 ダルタネーロを呼び捨てにしたこの男は、セレスティーラ王女を排除しようとしている派閥の1人でヒルグリムド侯爵という。


「そ、それが、その……」


 言い淀むダルタネーロを見て、眉間に皺を寄せるヒルグリムド。


「まさかあれだけの手勢を送っておきながら攻略出来てない等と言うまいな?」


「も、申し訳ありません! ボス部屋に居たボスが思いの外手強く、いまだ攻略に至っておりません!」


 思わずレノッソと一緒にダルタネーロは土下座をして弁明した。

そしてそれを聞いたヒルグリムドは、持っていた杖をへし折り、怒りを爆発させた。


「この役立たずがぁ!! 時間が無いと言ったであろうが! もしセレスティーラが生きていて、この企てが公になったらどう責任をとるつもりだこの無能がぁ!!」


 激怒したヒルグリムドが、ダルタネーロの頭を踏みつけながら罵声を浴びせる。

ヒルグリムドの体重も合わさってダルタネーロの苦痛が増す。

 そして一頻り叫んで落ち着いたヒルグリムドはダルタネーロに言い放つ。


「最後のチャンスだ。これから儂は可能な限り時間を稼ぐ。その間に貴様はありったけの兵力を注ぎ込んで、ダンジョンを攻略するのだ。失敗は許されんぞ!? 分かったらさっさと準備をせい!!」


 ノッシノッシと部屋を後にしたヒルグリムドを見送り、ダルタネーロは素早く頭を回転させ、側近に命じた。


「もう手段は選んでられん。闇ギルドと話をつけてくれ。多少割高でも構わん!」


 後が無いと判断したダルタネーロ男爵は、ついに闇ギルドという諸刃の剣に頼る事にしたのだった。


セーラ「美味しいです!」

アイリ「口に合って良かったわ」

ケティ「私は以前食したバランス栄養食の方が……」

アイリ.セーラ「え?」

ケティ「え?」

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