王女と従者
追手に発見され迷ってる隙はないセーラとケティは、ボス部屋に突入した。
そして2人が中で見たものは……、
「グゴアァァァ!」
侵入者である2人を見て雄叫びをあげるのは、体長3メートル近くの大男、オーガであった。
「セーラ様、こいつはオーガというDランクの魔物です。絶対に私から離れないで下さい!」
「その……Dランクというのは強いのですか?」
今更だが、セーラは魔物の情報には詳しくない。
なので魔物の名前やランクを言われても理解しかねたのだ。
「……私1人では対処しかねる強さです」
その言葉を聞いて身を震わすセーラ。
だが無情にも2人を脅かすのは、オーガだけではなかった。
「ケ、ケティ、こちらにも何か居ます!」
「何!?」
よく見ると、オーガから少し離れた所にもゴブリンが居るのが確認出来た。
数は5匹程だが、正直ゴブリンにかまってる余裕はない。
しかし、ゴブリン達は徐々に2人ににじり寄って来てるため、無視する訳にはいかなかった。
「ゴブリンには構わず、オーガの側面に出ます。付いてきて下さい!」
「はい!」
ゴブリンが2人の元にやってくる前にその場から離れる事に成功したが、それと同時に入口から追手の兵士達が割り込んで来た。
だが2人は追手に構わず、オーガの側面に躍り出た。
「やはり来たか……セーラ様、このままでは挟み撃ちに遭いますのでオーガの背後に回り込みます!」
「は、はいぃ!」
オーガの降り下ろす斧を避け、そのまま背後に回ろうとするが、後ろから追手の弓矢が飛んできた。
「逃がすか!」
本来であれば、矢はセーラに命中するところだったが、何故か向きが変わりオーガに命中してしまった。
「グガアァァァ!」
オーガは足に突き刺さった矢を抜き取り、矢を飛ばした兵士を睨み付けた。
「バカ! 何やってんだよ!」
「しょうがないだろ!それにボスが居たら攻撃しろって言ったろ!」
言い合いを始めた兵士達だが、その彼等にオーガとゴブリンが接近してきた。
「おい、やべぇぞ! アイツら追ってる場合じゃねぇよ!」
「バカ、押すな!」
「ゴブリンも来たぞ!」
「何でもいいから援護しろ!」
7人の追手である兵士達は、オーガとゴブリンの対処に追われ、セーラとケティを追う事が出来なくなった。
この隙にセーラとケティは、ボス部屋の奥まで逃げる事が出来たようだ。
「何とかオーガを追手に押し付ける事が出来ましたが、まだ油断出来ません。オーガを倒して先に進まなければ……」
「何故オーガを倒す必要があるんですか?」
「ボスを倒さない限り、次の階層への入口が出現しないので、先に進めないのです」
オーガを押し付けたとはいえ、そのオーガを倒さなければいけないので、結局は部の悪い賭けを行うしかないのである。
本来なら……。
「でもこの扉から次の階層に行けるのでは?」
「え!?」
セーラに言われて見てみると、確かに扉が出現していた。
「まさか……だが確かに次の階層の扉としか思えない」
ケティは半信半疑のまま扉に手をかけ、そして押し開けた。
すると下の階層へと続く階段が姿を現した。
「そ、そんなバカな、ボスを倒さずに先に進めるダンジョンなど聞いたことがない……」
勿論である。
ボスとは、その階層の最後の試練と言っても過言ではない。
その試練を乗り越えた者が次の階層に進めるのである。
とはいえ、1度ボスを倒すと次にスポーンするまでに時間を要するため、運が良ければボスに遭遇せずに進む事も出来るが。
だがボスが出現している状況下で次の階層に進む事は出来ない筈だった。
では何故進む事が出来るのかという疑問が出てくるが、それを可能にする事が出来る存在が居るとしか言えない。
そしてそれが可能なのは……、
「あの……もしかしてダンジョンマスターさんが呼んでるのではないでしょうか?」
「ダンジョンマスターが? 確かに、ダンジョンの中を自由に出来る存在などダンジョンマスター以外に居ない……」
ケティ自身セーラの言葉に思い当たるところがあった。
ボス部屋に着くまで魔物には遭遇せず、罠にも掛からなかった。
それらの事実はダンジョンマスターが手助けしなければ起こり得ない事だろう。
ダンジョンマスターの真意は不明だが、今は追手から逃れるのが優先とケティは考えた。
「行きましょう、セーラ様」
「はい、ダンジョンマスターさんの好意に感謝しましょう」
まだ味方と決まった訳ではないのだが、セーラはここのダンジョンマスターを味方として見たようだ。
そして2人が扉の奥に進むと、扉は消滅し壁だけが出現したのだった。
一方、残された追手の方はというと……、
「くそったれ! よくもジョーを!」
「おい、よせ!」
「くそっ、離しやがれ!」
「このままじゃ全滅する! 一旦退くぞ!」
7人の内の2人がオーガの餌食となり、その仲間の敵討ちだと言わんばかりに1人の兵士が半狂乱となっていた。
魔物の方はオーガとゴブリンメイジ1匹のみが残っている状況だ。
「うおおおっ!くたばれぇ!」
そして押し止めていた仲間を振りほどき、オーガに単身で突撃した兵士は、せめて腕の1本でも切り落としてやろうとしたが、横からゴブリンメイジの放ったファイヤーボールに身を焦がされ、そのままオーガの斧によってカチ割られてしまった。
「う、うわぁー!」
「た、退却だ、退却ーっ!」
3人目の犠牲者が出たところでパニック状態になった残りの兵士達は、我先にと出口に殺到し、その結果逃げ遅れた最後の1人が、ゴブリンメイジの放ったファイヤーボールを背中に受け、その場に倒れた。
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「あ~、なんかごめんね? 勝手な事しちゃって……」
「申し訳ありません、レミエマ様」
何故アイリ達が謝ってるのかというと、理由はアイカが持参したアレに関係してくる。
「い、いえ、大丈夫ですよ。あのままだと殺されてた可能性が高いですから。でも凄い性能ですね、そのドローンという物は」
今レミエマが口にした通り、アイカが持参したのは無駄に高性能なあのドローンである。
何故ここにドローンを持って来たのかはアイカのみが知るところだが、そのドローンを操作してセーラに向けて放たれた矢の向きを変えたのである。
具体的には飛来する矢に対して、ウインドスマッシュという強風をブチ当てる魔法を放ったのだ。
その結果、運が良いのか悪いのかオーガに命中してしまったのだが。
しかし確実に言えるのは、オーガにとっては災難だったという事であろう。
「それよりあの2人はどうする? さすがにコアルームに入れるのはリスクが高いぞ?」
ギブソンの言う事はもっともね。
いくら敵意がないとしても、弱点であるコアをさらすのは避けるべきよ。
「臨時で客間を作って、そこに誘導したいと思います」
うん、賢明な判断だと思うわ。
それじゃ私達も手伝いましょうかね。
「アイカ」
「分かってますよ、お姉様。レミエマ様、誘導はわたくしのドローンで行います」
「有難う御座います。すぐに客間を作りますね」
これで後は侵入者の対処だけど……。
「あの逃走した侵入者達はどうするの?」
「今は放っておきます。ここにダンジョンが出来た事を知らせてもらいたいので」
あ~そっか、定期的に侵入者を撃退してDPを稼がないといけないから、ダンジョンがリニューアルオープンした事を教えないといけない訳ね。
「じゃあアイカ、あの2人を誘導したら今度こそ帰るわよ?」
「わかりました」
その後、レミエマが急遽作った客間に2人を誘導し、アイリとアイカは自分のダンジョンに戻った。
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「それにしても不思議な魔道具でしたね」
「まったくです。あのような不可思議な魔道具を有してるという事は、ダンジョンマスターに他なりません。そして何故か我々に対して好意的だという事ですが……」
所変わってこちらは、セーラとケティの2人が居る客間だ。
レミエマが急遽用意した客間は、極普通の宿屋の部屋と同等のもので、ベッドもちゃんと2つ用意してある。
ちなみにどうやって誘導したかというと、2人の前にドローンが姿を現し、念話で呼び掛けた後に客間に案内したのである。
「良いのではありませんか? 私達に危害を加えるつもりはないのでしょう?」
「それは分かりません。これから何かを依頼される事も考えられます。助けた見返りとして国に対して何かを要求する可能性も……」
普通は何の見返りもなしに他人を助けるという行いはないと考えるならば、逆に裏があると考えてしまうのも無理はない。
「警戒しすぎですよ? それに見返りを要求されるのは当然だと思います」
「確かにそうなのですが……」
「ここのダンジョンマスターさんは、いったいどのようなお方なのでしょう。もしかしたら、絵本で見たような白馬に乗った王子様だったりするのでしょうか。私、お会いするのが楽しみです!」
今だに警戒しているケティとは反対に、セーラは無警戒であった。
2人のやり取りを見ていたレミエマは、あまりにも無警戒なセーラを見て思わず苦笑いをした。
それと同時にダンジョンマスターに対するハードルを上げてきたセーラに、別の意味で戦慄を覚えてしまった。
「それに食事まで用意してくれたでしょう? 本来私達は侵入者であるはずなのに。きっとお優しいお方なのでしょう。少々変わった食事ではありましたが」
「はい。まさに仰る通りかと。しかし、見た事のない食べ物でしたね」
確かに2人対して食事が用意されたのだが、それはレミエマではなくアイカが用意した物だったりする。
ドローンで勝手に横槍を入れたお詫びという形だ。
「あの箱に書いてあったバランス栄養食という意味は分かりませんが、きっとダンジョンマスターさんが普段食してる物なのでしょう」
「そもそもダンジョンマスターとは、我々の理解を越えた存在ですからね。もしかすると高価な物の可能性もありますので、その支払いを要求される事も……」
「ど、どうしましょう。もしそうなったら、この身を捧げ、新婚旅行は飛竜に乗って世界を巡って、寝る間も惜しんで愛を語り合って、ダンジョンマスターさんと一生涯共にカロリ〇メイトを食して暮らす事になるなんて可能性も……きゃ♪」
「……セ、セーラ様、さすがにそれは……」
……等というセーラの妄想はその辺に置いといて、レミエマからは翌日に話があると言われてるので、それまでにゆっくりと疲れを癒す事にしたのだった。
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「で、おめおめと逃げ帰って来たというのかこの役立たず共がぁ!」
レミエマのダンジョンから脱出し、入口のすぐ側で待機していた隊長に報告を行った追手の生き残り達は、隊長に激怒された。
そして代表して報告した1人が隊長に殴られたのだが、殴られた兵士よりも何故か隊長が悶絶して踞った。
冑の上から素手で殴ったため、予想以上に痛かったようだ。
「も、申し訳有りません! ボス部屋のボスが手強く、それ以上追うのは不可能でした!」
「むぐぐぐ……ふぅ。で、あの2人はどうなったのだ?」
「それが……ボス部屋の奥に扉があり、その中に入って行きました」
最初は兵士達も見間違いかと思ったが、生き残った皆が同じものを見たという事で、やはりボスをスルーして次の階層に進んだものと結論付けた。
しかし、報告を聞いたラッカーソンの反応は違った。
「何をバカな事を。ボスを倒さずに先に進める訳がなかろうが!」
そして再び兵士は殴られた。
先程と同じように冑の上からなので、やはり隊長だけがその場で悶絶した。
「ぐおおお……ふぅ。やむを得ん。今日は一旦引き揚げ、明日の早朝にダンジョンの攻略にかかる。それまでに各自準備をしておけ!」
「「「「「了解!」」」」」
「それからそこの3人。逃した罰として、明日の朝までここであの2人が出て来ないように見張っとけ!」
「そ、そんなぁ……」
「ラ、ラッカーソン隊長……」
「せめて他の面子に……」
「喧しい!」
またまた兵士は殴られたが、やはり悶絶したのはラッカーソン隊長だった。
まったく学習能力のない隊長である。
「うごごご……くそぅ、今に見ておれよダンジョンマスターめぇぇぇ!!」
痛みによる怒りをダンジョンマスターにぶつけるかのように叫んだラッカーソン隊長であった。
アイリ「あまり豪華すぎるとレミエマに迷惑がかかるから、カロリ〇メイトにしたわ」
アイカ「微妙なチョイスですね」
アイリ「うるさいわよ」




