ギンVSナレクアム
今回は強気にって感じで突入させたけど、戦略としてはダメね。
時間に制限が有った場合なら有効かも知れないけど、今は時間に余裕がある状態。
なら最初にランクの低いモンスターで偵察させて、罠の解除やルートの確保等をさせるべきなのよね。
でもたった今、偵察が完了するのを待たずに本命のギンを突入させた。
ランクの低い相手なら力押しでどうにかなるでしょうけど、高ランクのダンマスが相手だった場合は通用しない可能性が高い。
もう少しセオリーを学ばないといけないわね。
「お姉様、5体のグレーウルフを待機させて何かなさるつもりですか?」
「ええ、ギンが罠に掛からないとも限らないから、ギンにはグレーウルフを5体つけて動いてもらうわ」
「了解です」
何となくギンなら上手く手下のウルフを使って進みそうな気がするわ。
人化したギンは頭良さそうだったしね!
「マスター、リヴァイが苛める……」
「苛めてるのではありません。真面目に観戦しなさいと言ってるのです」
「マスター、辛いからお菓子ちょうだい」
……ルーもある意味賢いと言えるのかもしれない。
ホークの人化の指輪を交渉の末に入手した手段は見事だったし。
ルーを見ながらそんな事を考えてると……、
「マスター、もしかして、召喚するお菓子を何にするか迷ってる? ルーは好き嫌いしないから大丈夫、もしくはドントウォーリー」
まったく的外れな事を言われた……。
「お姉様、ルーと遊んでる場合ではありません。スノーラビットが全滅しました」
あらら……グレーウルフの増援が間に合わなかったか。
ならグレーウルフをギンの元に合流させて、別のモンスターを偵察に出そう。
というか、遊んでた訳じゃないからね!? まったく……。
「アイカ、作戦を変更するわ。クロコゲ虫を200匹召喚して偵察させて。その際に天井を移動させる事。これなら地上にいるモンスターの攻撃は殆ど食らわない筈よ」
「了解です。クロコゲ虫を200匹召喚します」
DP1219→DP1019
今度は200匹のゴキブリが、天井を這って移動して行った。
出来れば自分のダンジョンでは見たくない光景だわ……。
「その見たくない光景を相手に見せつけるとは、お姉様は鬼ですか……」
「もしくは悪魔」
黙らっしゃい! クロコゲ虫がゴキブリみたいな見た目をしてるのがいけないのよ! 私は悪くないわよ!
「しかし、クロコゲ虫は弱小。既に30匹程のクロコゲ虫が撃ち落とされましたな」
リヴァイの台詞を聞いてクロコゲ虫の様子を見ると、確かに1部のクロコゲ虫が殲滅されつつあった……というか殲滅されたわね……。
「うーーん、やっぱりクロコゲ虫じゃ戦闘に不向きだから、数が多くても……ん?」
「どうしましたお姉様?」
1ヶ所だけ集中してクロコゲ虫がロストしてる。
他は問題なく偵察を続行してるのに…………うん、やっぱり怪しい。
「アイカ、あのクロコゲ虫が大量にロストした場所に残りのクロコゲ虫を全て突撃させて。その後方からギンを含むグレーウルフ達を向かわせてちょうだい」
「あの場所が怪しいと感じたのですね。了解です」
あそこから先にボス部屋が存在するなら、そこへ向かったクロコゲ虫を殲滅するという行動は頷ける。
確証はないけど、恐らく間違ってはいない筈よ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
『ロック様、大量のクロコゲ虫が侵入してきました。見た目が見苦しいので、すぐにでも殺処分する事を推進します』
「お、落ち着けコア、クロコゲ虫は低コストだ。その上あちこちに散らばってるという事は、数にものを言わせて偵察させる気なんだろう」
クロコゲ虫は機敏に動き回る上に小さい為、それらを瞬滅するには時間がかかりすぎる。
それに何より……。
「あまり直視したくない光景だな……」
クロコゲ虫は天井を這って移動しており、その光景がダンジョンのアチコチで見受けられる。
「コア、ボス部屋に繋がるルートに入り込んだクロコゲ虫のみを集中して撃破してくれ。待機中のゴブリンかゴブリンメイジに撃ち落とさせるんだ」
『了解しました。汚物は消毒します』
さっきからクロコゲ虫に対するコアの反応から、嫌悪感を感じるんだが気のせいだろうか?
……いや、今気にする事じゃないな、バトルに集中しよう。
『ねぇロック様ぁ、敵はまだ来ないの?』
余程退屈なのか、ナレクアムからの念話には早く闘いたいという感情が伝わってくる。
気持ちは分からんでもないが、先にボス部屋を発見されたらピンチな訳で、そのような状況になってほしくはない。
だが……、
「相手の主力には、ナレクアムと同じシルバーウルフが居るようだ。ボス部屋が発見されたら、すぐにでも向かってくるんじゃないか?」
『本当!? じゃあ早く誘導してよ!』
「そんな訳いくか……」
まったく、ナレクアムを宥めるのも一苦労だな……。
『マスター、敵クロコゲ虫が1ヶ所に集中して来ました』
「何?」
見ると、あちこちを偵察していたクロコゲ虫が、ボス部屋に繋がるルートに集まって来ていた。
まさかボス部屋の場所がバレたのか?
『恐らくですが、先程クロコゲ虫を殲滅した際に、その場所が怪しいと感じとられたのではないかと』
そういう事か、これはしくじったな……。
同時に他のクロコゲ虫も迎撃すべきだったか。
『マスター、敵の主力と思われるシルバーウルフが動き出しました。同じくボス部屋へ繋がるルートに来ています』
やはり気付かれたようだな。
もう出し惜しみは無しだ。
「周囲に配置してる防衛モンスターをボス部屋まで待避させてくれ。それから魔物肉を1つ召喚し、あの罠の真下に設置するんだ」
『了解です。魔物肉を召喚します』
DP1520→DP1510
魔物肉とは、肉食のモンスターが好む餌の事で、主にモンスターを誘い込むのに使用される事が多い。
鼻の良いモンスターならすぐに嗅ぎ付ける事だろう。
『ナレクアム、戦闘準備をしとけよ。敵がそこに着くまで、そう時間はかからないだろうからな』
『お、とうとうあたしの出番? まーかせて! ちゃちゃっと片付けちゃうからさ!』
いつも思うが本当に緊張感を感じさせないな、ナレクアムは。
だが、その方が逆に有り難い。
ぶっつけ本番に実力を発揮できる秘訣なのだろう。
さて、状況は極めて不利だが、せめてEランクの意地をみせてやらないとな。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
クロコゲ虫がロストした地点に再びクロコゲ虫を差し向けると、そこにゴブリン共がバリケードを作って通路を封鎖しているのが見えた。
なのでクロコゲ虫を一旦退かせて、ギン達をゴブリン共に突撃させた。
『ああ醜い、何と醜い姿なのでしょう。このような下品な存在をアイリ様の視界に入れるべきではありませんわ!』
特に危機に瀕する事なく、ギンはゴブリン共を狩り尽くした。
私のためと言って動いてくれたのは嬉しく思うけど、そのゴブリン共よりも後方に待機させてるクロコゲ虫の方が醜く見えるのは気のせいだろうか……。
「お姉様、ゴブリン殲滅完了しました。再びクロコゲ虫を先頭に偵察を続行します」
「うん、お願いね」
アイカの指示で再び動き出したクロコゲ虫の群だけど、こちらの指示にキチンと従って行動してくれるところを見ると、何となく愛着が……、
わくことはないわね、絶対に……。
一瞬でもその可能性を考えた私が馬鹿みたいだわ。
「アイリ様、グレーウルフ達の様子がおかしいです。何らかのトラップではないでしょうか?」
リヴァイに言われて気付いたけど、グレーウルフ達の落ち着きが無くなり、そわそわし出している。
「ギンは何ともないみたいだけど、グレーウルフには何か異常が発生してるって事?」
「はいお姉様、わたくしもそう思います」
何だかどのウルフも目が血走ってるように見える。
中には涎まで垂らしてるのもいるし。
「見て下さい、お姉様。あの辺りにウルフ達が殺到してます」
アイカの指した場所には殆どのウルフ達が集中し、何かを奪い合ってるように見える。
『ギン、ウルフ達がおかしいけど、何があったの?』
『アイリ様、どうやら肉の匂いに釣られてしまったようですわ。こちらの命令よりも本能が勝った状態のようです』
そういう事か。
でも何故そんなとこに肉なんか置いてあったのか気になるわね。
『ア、アイリ様大変です! ウルフ達の頭上から大量の砂のような物が!』
「え……砂!?」
見ると、ギンの言うように、砂みたいなのが降ってきた後のようだ。
『この砂は変な臭いがします!』
変な臭い?
という事は普通の砂じゃ……あ!
『ギン! その場からすぐに離れなさい!!』
私がそう叫んだのと同時に、死角から弓を持ったゴブリンと杖を持ったゴブリンが10匹程現れた。
弓には火矢が、杖の先にはファイヤーボールが見え、それが大量の砂のような物を被ったウルフ達に投げ込まれた。
そして投げ込まれた直後、大爆発が発生し、これによりグレーウルフ20匹が消滅するという事態となった。
他のクロコゲ虫や後から向かわせたグリーンウルフもダメージを負っている。
これは間違いなく火薬によるものよ。
「……やられたわね」
やっぱり力押しは危険ね。
それにまだまだ自分の戦力を使いこなせてないのもあるわ。
これは今後の課題ね。
「ですがお姉様、ギンは元々離れてたのもあり無事ですよ」
無事なのは良かったけど、まんまと罠に嵌まってしまったのは事実だから、素直には喜べないわ。
それにこれを好機と見なしたのか、奥からゴブリンやウルフが迫って来たみたい。
でもこれ以上の失態はしないわよ!
っと、熱くなったらダメね、こういう時こそ冷静に冷静に。
『ギン、殺到してくるゴブリン達を蹴散らして! 貴女の実力を見せつけてあげなさい!』
『畏まりました。存分に披露致しますわ!』
さすがにギンが無双しちゃえば、数の利は無意味になるはず。
そして私の想った通り、ギンの相手になる者は居らず、まさにギンのオンステージで殺到した敵モンスターは殲滅した。
「何とか凌ぎましたね」
だけど犠牲は大きいわよ。
過ぎた事だから仕方ないけども。
『後はボス部屋を見つけてボスを撃破するまでよ。ギンお願いね!』
『承知しましたわ』
さて、相手側のボスはどんなモンスターなのか知らないけど絶対勝ってやるわ!
「今度はこちらの番よ!」
「その意気です、お姉様!」
「フレー、フレー、マ・ス・ター」
って、アンタ達、真面目にやってる私の側で、クレープのいい匂いを漂わせるんじゃなーーーい!!
何かいい匂いが漂ってくると思ったら、私の後ろでアイカとルーがクレープ食べてるじゃないの。
「これは失礼しました。お前達、これはバトル終了まで没収します」
そして空かさずリヴァイに没収されて涙目になる2人。
バトル終わるまでなんだから我慢しなさい。
「お姉様、早く決着つけましょう!」
「賛成、敵は滅ぼすのみ!」
この2人は……。
「アイカ、ホワイトウルフを1体召喚してギンの元へ向かわせて!」
「畏まりました」
DP1019→DP19
『ギンはクロコゲ虫を囮にして敵の残りのを蹴散らして!』
『お任せください』
ここまで来たら勝たないとね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「上手くはいったが……」
火薬を爆発させる事には成功した。
結果、グレーウルフを20体程倒す事が出来たのだが、肝心のシルバーウルフは健在だ。
少しでもシルバーウルフにダメージを与えてれば勝機も見えてくるんだが……。
『マスター、新たな侵入者です。どうやらホワイトウルフのようですが、如何致しますか?』
増援か……ならばこちらも対抗するまで!
「コア、クラッシュベアを4体とブレイブガゼルを1体召喚だ」
『畏まりました』
DP1510→DP10
クラッシュベアは150ポイントなので600ポイントも消費する。
そしてブレイブガゼルは900ポイントだ。
これで倒せなければこちらの負けだな。
「ボス部屋が見つかるのも時間の問題だ。召喚したモンスターはボス部屋の前で守りを固めてくれ。それからこちらが差し向けたジャイアントラットはどうなってる?」
『いまだボス部屋を発見出来てません』
厳しいか……。
だが、最後まで諦めるつもりはない!
『マスター、間もなく敵シルバーウルフがボス部屋に到達します』
見たところ、相手のシルバーウルフはクロコゲ虫を罠の探知に使い、確実に罠を回避していた。
「シルバーウルフが賢いのか、ダンジョンマスターであるアイリが賢いのか、或いはその両方か……」
だがボス部屋の前に待機させているブレイブガゼルを相手に、ノーダメージではいかないだろう。
『マスター、敵シルバーウルフが来ました。ブレイブガゼルに真っ直ぐ向かって来ます』
来たか!
「クラッシュベアを前に出して、ブレイブガゼルに近付けさせるな!」
『了解しました。クラッシュベアを盾にするように……マスター、敵シルバーウルフの後方からフリーズが放たれました!』
「何!?」
フリーズとは氷系の魔法で、水属性の上位魔法だ。
ファイヤーボールと同じサイズの氷の塊が対象に命中すると、忽ち相手を凍り付かせる魔法である。
どうやらホワイトウルフが後方に居たらしい。
「回避を優先しろ!」
『ですがマスター、フリーズはボス部屋の扉に向かってる為、このままでは扉が破壊され中に突入されてしまいます』
これは仕方ない。
扉を守るためにクラッシュベアを犠牲にしたくはない。
恐らく相手のシルバーウルフは、扉が破壊された直後にボス部屋に突入するつもりだろう。
だが後ろからブレイブガゼルに追撃させれば、中に居るナレクアムと挟撃が出来る。
そして予想通り扉は破壊され、ボス部屋への侵入を許してしまう。
ならばと後ろからブレイブガゼルを向かわせたが、ここで思わぬ事が起こった。
ギンがボス部屋に飛び込んだ直後、正面から爪が飛び込んできて胴体に深々と突き刺さる!
刺さったところから血が滴り落ち、そのまま胴体も力なく横たわった。
しかし……、
「ちぇーっ、ハズレかぁ……」
横たわったのはブレイブガゼル。
ギンはその後ろで注意深くボスの動きを見ていた。
ギンは飛び込んだ……と見せかけて、密かにブレイブガゼルの後ろに回り込んだのだ。
奇襲の可能性を想定して。
「ボスでありながら、随分と卑怯な真似をなさるのですね」
「ムカ! お前だって鹿を身代わりにしたじゃないか!」
軽く挑発しただけで乗ってくるあたり、割と単細胞な性格なのかもしれない。
「こういった場合、まず名乗りをあげるのが常識ではなくて?」
「む、確かにそうかも。……えーと、あたしはロック様の眷族のナレクアムだ」
「私はこの世界で最も優れたダンジョンマスターであるアイリ様の眷族で、ギンと申します」
お互いの名乗りが終わり、距離をとり睨み会う2匹。
ギンの後ろからはクラッシュベアが、さらに後ろではホワイトウルフが様子を伺っていた。
「それでは、貴女の実力……見せていただきましょうか!」
「いいだろう。あたしの実力で叩きのめしてやる! でやぁ!」
果敢に攻め立てるナレクアムだが、どれも決定打を欠いている。
それをギンは余裕を持って回避し続けていた。
「どうした? 守ってばかりじゃ、勝負にはかてないぞーっ!?」
「それはどうかしらね」
積極的に仕掛けるナレクアムと、回避と防御に専念してるギンの図が、そこに出来上がっていた。
最早クラッシュベアは間に入る余地はなく、入ったところで巻き添えを食らうのが容易に想像出来た。
「その程度の動きでは、私を捉える事など出来ませんわ。それとも、その速度が全力なのでしょうか?」
「ムッキーッ! お前ムカつく! 八つ裂きにしてやる!!」
先程からこの様なやり取りがなされてるのだが、ナレクアムが挑発に乗る度に、ロックにより念話で宥められている状態だった。
そしてその状態もいよいよ終わろうとしていた。
「もぉー怒った! 絶対に許さないからな!」
とうとう我慢ならなくなり、ロックの宥める言葉も耳には入ってなさそうだった。
「あらあら、随分と大振りな攻撃ですね。益々回避しやすくなりましたわ」
「くっそーーーっ! この! この! このぉ!」
完全にギンの挑発に乗ってしまったナレクアムは、大振りな攻撃を繰り返してしまう。
そのため、ギンも最初より余裕をもって回避出来るようになり、ギンの言ったとおりナレクアムの攻撃は、かすりもしなくなった。
だが、ナレクアムの攻撃を回避していたギンに不運が訪れる。
攻撃を避けて部屋の中央に設置されてた石像に着地したところ、石像が割れてしまいそのまま地面に落ちようとしていた。
「もぉらっーたーーーっ!!」
今が千載一遇のチャンスとばかりにナレクアムが突撃してくる。
ナレクアムの向かう先は、ギンの落下地点。
そこへ回避不能な一撃を加えようと迫った。
「今ですわ!」
しかし、ナレクアムの思い通りにはならなかった。
ギンの落下に合わせて飛びかかろうとしたところに、ホワイトウルフの攻撃魔法であるフリーズが飛んできた。
「何だと!?」
今のいままで他者の存在をすっかり忘れてたため、全くの無警戒だった方向からフリーズが飛ばされたため回避出来る訳がなく、そのまま両前足に命中した。
ダメージそのものは大した事はないが、それよりも致命的なのがすぐに動けない事だった。
「しまった! 動けな……」
「これにて終演ですわ」
落下と同時に何故か攻撃体勢を整えていたギンによって、ナレクアムの首に深々と牙が食い込んだ。
それが決定打となり、ナレクアムは光の粒になって消え去った。
モルデナ
『それまで! ボス部屋のボス撃破によりアイリさんの勝利とします!』
「やったー! ギンの圧勝よ!」
「はい、お姉様」
「素晴らしい成果ですな」
「終わったみたいなので、クレープ食べてもいい?」
見事な作戦だったわ。
特に石像から落下するところよ。
あれは恐らく……、
『お疲れ様、ギン。よくやったわ』
『お褒め頂き光栄ですわ』
『それでギン、あの石像に着地したところで、石像が割れるのを計算に入れてたわね?』
『さすがはアイリ様! お気付きになられてたのですね!』
そう、実はあの石像、何度も足場にしてる内に少しずつ脆くなっていったのよ。
それで最後にギンが運悪く落下したように見せかけて相手を誘い、逆に致命的な一撃を相手に与えたって訳ね。
ロック
『お疲れ様。いやぁ、君の眷族は大したものだよ。まさか圧勝されるとは思わなかった』
アイリ
『う、うん、まぁね。自慢の眷族よ。でも圧勝ではなかったわよ、あの火薬にはしてやられたわ』
あれはかなりの被害だったしね。
実戦でなくてよかったと思う。
ロック
『ああ、あれな。まさか使う機会があるとは思わなかったぞ。侵入者相手にすら使った事がなかったんだが』
アイリ
『でもいい勉強になったわ。眷族が優秀じゃなかったら勝てなかったかも』
というかミルドの加護がなかったら、勝負にすらならなかったんじゃないかな。
ロック
『謙虚だな。だがそういうところが人気が有る要因かもしれんな』
ん? 人気? どういう事かな?
アイリ
『あのぅ、人気って?』
ロック
『知らないのか? 今のお前さんは、若手の期待の美少女ルーキーとして人気が出てきてるんだぞ』
マジですか!?
モルデナ
『あぁ、その話は私も知ってますよ。確かとあるダンジョンマスターを水虫という名前に改名させたとか……』
うわぁ、めっちゃ広がってる……。
ま、別にいっか、水虫だし。
ロック
『そうか、あの男も悔しがってたが君が相手だったんだな。……さて、今日は貴重な体験も出来たしこれで失礼する。また機会が有ればバトルしようじゃないか』
アイリ
『ええ、こちらこそ、宜しくお願いするわ』
そういってロックはダンジョン通信を切った。
モルデナ
「では勝利報酬の1000ポイントのDPは振り込んでおきますので、これで私は失礼しますね」
前の報酬より少し増えたわね。
アイリ
『はい、お疲れ様でした』
モルデナもダンジョン通信を切ったので、ようやく一息ついた感じだ。
今回のダンジョンバトルで、私もまだまだ経験不足だという事が理解出来たわ。
これからも精進しないとね。
「アレ? 出番はまだッスかね?」
現実はとことん非情であった。
クロ「ちょ、姉貴! 俺忘れてるッス!」
ギン「ダサい奴ね……」




