閑話:アンジェラへ熱視線
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アイリがダンジョンバトルを行ってる頃、アンジェラはユーリのダンジョンに来ていた。
理由は、ユーリの代わりに街への買い出しに行くためである。
今現在もユーリのダンジョンはまともな収入がない状態で、しかもダンジョンマスターであるユーリは一般人と変わらないステータスなので、外出するのは大変危険なのだ。
そんなユーリのためにアイリは気を利かせて、眷族に身の回りの世話をさせているのである。
もっともユーリ本人は、そこまでしなくてもいいと言ってたのだが、心配性なアイリがダンジョン運営が軌道に乗るまで手助けすると言って強引に了承させたのである。
「必要な物はこれだけですね」
ふむ……衣類に食料は分かるが、布や糸は何に使うのであろうな?
「言ってませんでしたっけ? あたしは趣味で裁縫をやってるんですよ……ンクンク……ハァ美味しい! 久しぶりにカツゲンを飲みました!」
ほほぅ、趣味で裁縫とな。
女子の趣味としては一般的じゃの。
そして今ユーリが美味そうに飲んでるのが、カツゲンというユーリと主の世界に存在する飲み物だ。
だがスマホとの連動がされてないユーリのダンジョンコアには召喚出来ないので、こうしてアイリから差し入れされてる訳じゃな。
「美味いのは分かるが、何故水で薄めておるのじゃ?」
「え? 何を言ってるんですか、水で薄めないと勿体無いじゃないですか。カツゲンは水で薄めて飲むのが一般常識ですよ?」
ふむ、妾は知らなかったが、カツゲンは水で薄めて飲む物らしいのぅ。
「あ、そうそう、先程の裁縫の事なんですけれど……」
そう言って何やらゴソゴソと箱から出してきたのは、女物の服のようだが。
「見て下さいコレ! この服はあたしの自作なんですよ!」
うむ、自信満々で出してきたのは自作の服であったか。
そう言えば以前アイカが着ていたメイド服とやらに似てる気もするのぅ。
このような服を自作出来るという事は、中々手先が器用なのだな。
「あ、そうだ。良かったらアンジェラさんも、あたしと契約して魔法少女やってみません?」
む、何でか知らぬがその台詞はとても危険な響きがするぞ。
まるで魂が抜き取られて、ゾンビのようにされてしまいそうな感覚じゃの。
「いや、その魔法少女とやらは止めておこう。妾は今のままが良いのでな」
「そうですか? あたしが魔法少女の服を提供して、それを着て街を歩いて宣伝してもらう契約だったんですが……」
一体何のために宣伝するのじゃ……。
どうせならルーにでも着せてやったら良いわい。
「まぁよい。すぐに戻ってくるからの」
「はい。宜しくお願いします」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ユーリのダンジョンを出てから暫く、ソルギムの街が見えて来たところで、地上に降りるアンジェラ。
人化してるとはいえ、上空から街に入る事は避けないとトラブルになるからだ。
なので街に入る場合は、必ず門を潜るようにとアイリから言われている。
少し歩くと街の門が見えてきて、街へ入るために商人や冒険者が並んでたので、アンジェラも最後尾に並んだ。
前に並んでるのは3組か。
これならさほど時間はかからんであろうな。
しかし……。
アンジェラが列に並んだ直後から、前に並んでる青年がチラチラとアンジェラの方を見てくるのだ。
「のぅお主、妾に何か用かの?」
「っ! い、いやぁ、何でも、ないです」
「……?」
青年はアンジェラに話しかけられると、全身をビクッと震えさせ、アタフタしながら前を向いてしまった。
アンジェラは気付いてないが、人化したアンジェラは10人中9人の男が思わず振り向いてしまう程の美貌なので、青年の反応は当然とも言えた。
だがそんな事は何も知らないアンジェラは、何だか釈然としないままだ。
結局その青年は、何事もなかったかのように近くの商人と一緒に門を潜って行った。
「何だったのであろうのぅ……」
そしてアンジェラも問題なく街に入る事が出来たので、先程の出来事に多少の疑問を抱きつつ、さっそく雑貨屋へ……の前に、冒険者ギルドに立ち寄った。
アンジェラとしても、冒険者という危険に挑む雰囲気が好きだというところもあるのだ。
「たのもーーーぅ!」
叫びながら勢いよく扉を開け放ち、中へと進んで行くアンジェラ。
何故叫ぶのかというと、単純に漫画で読んだアニメの影響である。
なので、アンジェラ本人も意味が分からず叫んでたりする。
そんなアンジェラだが、この冒険者ギルドでも注目されていた。
勢いよく叫びながら入って来たのも理由の一つだが、見た目も美しいとあっては人目を引くのも無理はない。
今も1組の冒険者パーティがアンジェラに接触しようとしていた。
「よう姉ちゃん、もしかしてソロで冒険者をやってるのかい?」
「ソロで冒険者稼業は危険だぜ」
「そうそう、今なら俺達のパーティに入れてやってもいいぜ?」
アンジェラに声をかけたのは、男3人のパーティだった。
その3人組は、女癖が悪い事でここソルギムの冒険者ギルドでは割りと有名だった。
ちなみにこの3人、以前アイリにちょっかいを出した連中である。
「いや、妾には必要ないのでな」
そう言って依頼書が貼られてる壁面へと向かおうとしたが、3人組の1人がそれを遮るように立ち、再び話しかけてきた。
「まあ待ちなって。姉ちゃんは1人で大丈夫だと思ってるかも知れないが、世の中ってのはそんなに甘くないんだぜ?」
しつこいのぅ。
力を見せつけてやるのが手っ取り早いが、それは最後じゃな。
「さっきも言ったが必要ない」
そのまま脇をすり抜けようとしたが、今度は腕を捕まれてしまった。
「まあ聞きなって。いざって時に助け合える仲間がいるってのはいいもんだぜ」
「人1人で出来る事にぁ限界が有るってもんよ」
「そうそう、だがら一緒に居てやるよ。1人ぼっちは寂しいもんな」
少々しつこ過ぎるのぅ。
特に最後の奴は何じゃ? 見ず知らずの他人に言われると、ムカッとくるのだが。
「いい加減離してくれんかの? 妾はお主らに用は無いのでな」
「おいおい、つれないじゃないか。折角俺達が親切に教えてやってるのによ」
嘘を吐かせ。
先程から下心満々で居ったろうに。
大抵の女子が気付く事を、妾が気付かんとでも思っとるのか?
「ここは俺達【もぎたて果実】のパーティに入って安心するところだぜ?」
………………。
今コヤツは自分達のパーティの名を話したのか?
随分と不釣り合いな名に聞こえたが……。
テレビでも言っとったが、これが流行というものなのであろうな。
しかし、無精髭を生やした男達がもぎたて果実とは、珍妙なものだな。
……等とアンジェラは考えたが、勿論そのような流行は存在しない。
彼等のセンスに問題が有っただけである。
それはさておき、そろそろ強引に捩じ伏せてやろうかとアンジェラは考えてたその時、2階から1人の男が降りてきた。
「騒がしいな。何があった?」
歴戦の雰囲気が漂うこの男は、この冒険者ギルドのギルドマスター、ブラードである。
ブラードが近くのギルド職員に問うと、職員はアンジェラと冒険者達を指して、何やら話してるようだ。
職員の話を聞き終わると、額に手を当て溜め息をついていた。
そして冒険者達に近付き声を投げかける。
「またお前達か……いい加減にしとけ。今度何かあっても助けんぞ?」
どうやらこの男達は毎回同じ事をやらかしてるようだの。
そう言えば、主とアイカが以前ここで絡まれたと言うとったが、案外コイツらが絡んだのかもしれんの。
……てな感じでアンジェラは考えたが、正しく大正解であった。
「……い、いやぁ女1人は危険だって教えてたんですよ」
「そ、そうそう、この女がソロでやってるようなんで……」
うむ、やはり言い回しが似てるのう。
ちと聞いてみるか。
「のうお主、以前ここで2人組の女子にも同じ事を言わなかったかの? 名前はアイリとアイカという双方そっくりな見た目をしてるのだが」
言った瞬間、フロアの空気が重くなった気がするが気のせいかのぅ?
しかも喧騒が止み、皆がこちらを注視してるのだが。
「な、なぁお前さん、確認なんだが、アイリの知り合いか?」
2階から降りてきた男が聞いてきた。
ギルド職員の反応から察するに、ここのギルドマスターのようじゃな。
「知り合いというか、アイリは妾の主人じゃの」
この話を横で聞いていた冒険者達は、途端に青ざめた顔をし出した。
それどころか、近くのテーブルで酒を飲んでいた男達もアンジェラから距離をとりだした。
「そ、そうか。お前さんもアイリの関係者だったのか。すまん、今回の事は水に流してやってくれ!」
そう言ってブラードは頭を下げ、3人組の冒険者達は土下座をし出した。
突然の事で理解が追い付かないアンジェラだが、アイリが相当恐れられている事だけは何となく分かったようだ。
「よく分からんが構わんぞ。それとお主ら、手当たり次第に女子を漁るといつか痛い思いをするぞ?」
「「「はい、肝に命じておきます!」」」
そう言って冒険者パーティもぎたて果実は、音速の速さで冒険者ギルドを出て行った。
「お主も大変だのぅ」
「まぁギルマスやってりゃこんなもんよ、ガッハッハッハ! まぁあれだ、お前さんもそうだが、アイリが理性的で助かったよ」
そうだのう。
我等眷族は、主の思惑一つで動く事になるからの。
それから数分程依頼書を眺めてから冒険者ギルドを後にして、最初の目的地である雑貨屋を目指した。
しかしこうも注目されると、居心地が悪いのう。
まるで見せ物小屋で晒されてるような気分になってくるわい。
冒険者ギルドを出てからも、周囲の視線が気になっていた。
特に男の視線が多く感じられ、のんびりと散策する気力をアンジェラから奪っていく。
これにはさすがに敵わんと、足早に雑貨屋へ向かった。
「いらっしゃい。何かお探しですか?」
雑貨屋を見付けて素早く中に入ると、店番の青年がアンジェラを出迎えた。
その青年の頬はほんのり紅くなっていた。
「これらを探してるのだが、ここで全部揃うかの?」
そう言ってアンジェラは、予め用意していたメモを青年に手渡した。
「えーと、ちょっと拝見……はい、全部ここで揃いますよ」
ふむ、問題なく揃うのだな。
これであちこち回らなくてすむわぃ。
「そうか。では宜しく頼む」
「はい、少々お待ちください」
丁度その時に雑貨屋にいた他の客はヒソヒソと話し始めた。
「なぁ、あんな綺麗な人この街に居たか?」
「いや、見た事ないな」
「旅人か冒険者かな?」
「悔しいけど私よりグラマラスだわ……」
「婆さんの若い頃にそっくりじゃわい」
「嘘乙」
ここでも注目されるのか……。
益々居心地の悪さを感じるわぃ。
だがその居心地の悪さも、店番の青年が10分程で戻って来たため恙無く終了したので、すぐに街から出てユーリのダンジョンへと戻ったのであった。
「あ、お帰りなさーい」
「うむ、今戻ったぞ」
買ってきた荷物をそのままユーリに預けて、ゴロリと横になるアンジェラ。
以前アレクシス王国に出掛けた時は、アイリ達が見られていたと思ったので気にしなかったのだが、今日の事でそれは違うと認識させられた。
「もう当分1人で出歩くのはやめじゃ」
余程居心地が悪かったのか、横になりながら呟いた。
「アンジェラさーん……あれ疲れちゃったんですか?」
奥から戻って来たユーリは、横になっているアンジェラを見て、首をかしげながら聞いてきた。
「まぁ色々とな」
「なら一緒に差し入れされたアイスクリームを食べましょう。疲れた時には甘い物が一番ですよ!」
「……それじゃあ頂くかの」
キラキラとした笑顔で言われると、下らない事で疲れてるのがバカらしくなってきたので、アイスクリームを受け取り食べ始める。
「うむ、美味いな」
今このイグリーシアは、初夏を終え真夏にさしかかったところなので、今日みたいな天気の良い日は絶好のアイス日和というやつだろう。
「美味しーーーい! やっぱりアイスクリームはバニラですよ!」
ユーリは本当に美味そうに食べるのぅ。
滅多に口に出来ないのも理由の一つなんだろうがな。
「ところでユーリよ、何故蓋を丁寧に舐めておるのじゃ?」
「何を言ってるんですか? アイスクリームは蓋についたクリームが一番美味しいんですよ! ちゃんと隅々まで舐め回さないと勿体無いお化けがでますよ」
なんと! それは知らなかったのじゃ!
今まで食べた時は、蓋はそのまま捨てておったからのぅ、もしかしたらゴーストが何体か涌いてるかもしれん。
しかし、この新事実は是非ともアイリ達に教えてやらねばならんな。
この情報(カツゲンも含む)を持ち帰ってアイリに話したところ、アイリはより一層ユーリを哀れむようになるのだった。
ユーリ「ヨーグルトって、蓋の近くに固まった部分が一番美味しいですよね?」
アンジェラ「それも特ダネじゃ!」
アイリ「いや、もういいって……」




