表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第2章:ダンジョンバトル
44/255

特別イベント

「どうしよう、コレ……」


 今、私の目の前には、大勢の冒険者と思われるパーティとチョワイツ王国の兵士達が鮨詰め状態でダンジョン入口に詰めかけている。

 ホーク達が鍛えた兵士が鑑定スキルを持ってる奴に鑑定されたのが原因だろうと思われる。


「ゴメンね。まさかこんなに大勢がやって来るとは思わなかったんだよ。僕も少々軽率だったかもしれない……」


 これは私でも予想出来ないからナレックのせいじゃないわ。

ホーク達が余計な事しなければこうはならなかったんだし、私が何とかしなきゃならない。


 本来なら今頃リゼットとダンジョンバトルを繰り広げてるところなんだけど、それどころじゃないわね。

何とかこの場を収めないないと……。


「とはいえ、どうするのじゃ? 無理矢理帰そうとすると暴動が起きそうじゃぞ?」


 アンジェラの言う通り、それやったら暴れ出すでしょうね。

それならいっそ、条件付きで訓練してあげようかな?



「やぁアイリさん、また会えて嬉しく思うよ」


 あ、ドミニク子爵もいるんだ。

 でも今はドミニクの相手をしてる隙は……いや、いっその事、ドミニクにも手伝ってもらおうかな?

うん、そうすれば何とかなりそう!


「ねぇドミニク、この惨状を何とか収めたいんだけど、協力してくれる?」


「勿論構わないよ。それで、僕は何をすればいいんだい?」


 あっさりと了承してくれたドミニクに感謝しつつ対応を考えた結果、ダンジョンと兵士+冒険者達の間に入ってもらって、ダンジョンからの通達を広めてもらう事にした。

貴族の声ならキチンと聞くだろうし。


「それくらいならお安い御用さ」


 後は具体策だけど、たま~に私の眷族(けんぞく)がナレックのダンジョンで講師として鍛えてやるってのが妥当かなと思う。

まぁナレックが迷惑じゃなければだけども。


「良いんじゃないかな。たま~にって事は月1くらいのイベントみたいな感じ?」


 うん、月1くらいの頻度がちょうど良さそうだわ。

私としても、頻繁に顔を出さなきゃならなくなるのは避けたいしね。

 ただ今日来た人達には特別に、本日限定で特訓に付き合いましょ。


 よし、決まり!

さっそくドミニクに通達してもらおう。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「どうです? 素晴らしいでしょう?」


 わたくしアイカは今、リゼット様のダンジョンに来ています。

勿論モルデナさんも一緒です。

 何をしてるかと言えば、当然お姉様の観察な訳ですが、どのようにして盗撮……じゃなかった、観察してるかと言えば……、


「す、凄いですねぇ()()。いったいどんな仕組みになってるんです?」


 本当は秘密なのですが、いずれバレる時が来ると思うので、一応他言無用という事で説明しましょう。


 先程モルデナさんが言った()()とは、お姉様の世界でお馴染みのドローンという物です。

このドローンを操作して上から撮影してるのですが、それだけだと誰かが見上げた時に発見されてしまいます。


 そこで考えたのが、スキルをエンチャントする方法です。

 最初に付与したのはモフモフが持っている特殊迷彩(ステルス)なのですが、これを付与する事で発見される可能性がかなり低くなります。

 次に気配察知と鑑定スキルも加えます。

本当はアンジェラの持つ探知波動(エクスプロルウェーブ)を付与したかったのですが、さすがにポイントが足りなかったので諦めてました。

 更には物理耐性と魔法耐性を付与し、簡単な攻撃魔法を搭載しました。

コレだけでもかなり戦闘能力は高いのですが、念には念をという事で、極めつけに機銃も搭載しました。

コレで物理攻撃も可能です。

 そして今、リアルタイムでドローンからの映像を、液晶ワイドテレビで見ているのです。


「もうそれ、ドローンとは別物じゃん……」


 さすがにリゼット様も転生者なだけあって、本物(ドローン)を知ってるようです。

確かにそうでしょうが、見た目はドローンに違いないので、名前はやはりドローンでいいでしょう。

 因みに、ダンジョンマスターには転生者が多いと言ってらしたシーラ様の言葉を信じて、リゼット様も転生者ですかと訊ねたところ、あっさり転生者であると認めました。


「このドローンの製作費用って、いくらかかったんです?」


「もの凄く高かったですよ。モルデナさんも作りたいのですか?」


「それは勿論、このような高性能な魔道具は皆欲しがると思いますよ」


 でしょうね。

 ですが普通は無理だと断言できますね。

このドローンに費やしたDP(ダンジョンポイント)は軽く見積もっても百万ポイントかかりましたからね。

アンジェラのようにMPがオーバーフローしてる存在が身内に居ない限り不可能ではないかと思われます。

 それにアンジェラからは山盛りの肉料理を要求されましたからね。


「さすがに百万ポイントの対価を用意する事は無理そうですね……是非欲しいと思ったんですが諦めます」


 それがいいでしょう。

わたくしとしても、何度もドローンを作りたいと思わないので。



「あ、なんか始まるみたいよ?」


 リゼット様の言葉に反応して見てみると、どうやら特訓が開始されるようです。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 ドミニクの通達により納得してくれた人達は、さっそく各々にあった講師の下に行き、特訓を開始した。

1ヶ所に固まってると身動き出来ないので、ナレックの協力のもとダンジョン内部を急遽訓練施設にして、自分に合った講師の居る場所に分散させたのよ。



 

「全員構えーーぃ!」


 ザザッ!


「素振り開始ーーぃ!」


 ここではザードが剣術を教えてるようね。

皆ザードの言う通り剣を構えてブンブンと振ってるわ。


「む? お主の剣は少し重いようだな」


「え……そ、そうなんですか?」


 ザードが1人の女性冒険者に声をかけてる。

 どうやら女性の持つ剣が、女性の腕力に適してないらしい。


「うむ。こちらの剣を振ってみるとよい」


 ザードに渡された剣を振ってみた女性冒険者は、先程よりも振りやすいのか目を輝かせて剣を振り回して……って、なんか近くに居ると危なそうなんで少し離れよう。


「あ、こっちの方が振りやすい!」


「そうだろう。自分に合った剣を選ぶのも重要だ。剣を購入する時は注意するとよい」


「はい、ありがとう御座います!」


 上手くアドバイス出来てるみたいね。

女性冒険者は尚も剣を振り回して周囲の兵士や男性冒険者を軽く引かせてるけど、本人が満足してるならいいか……。




 場所は変わってホークが講師をしてる所には、弓を扱う兵士と冒険者が集まってる。

 人化したホークは弓が得意らしく、今も弓兵の男にアドバイスしていた。


「兄ちゃん狙いが定まらんのか?」


「ああ、その通りだ。弓兵として情けない限りだが……」


「心配無用やで、原因がハッキリしとるさかいな。まずな、目測自体があかんのや。自分いっつも目標よりも左にズレるんちゃうか?」


「よく分かったな。上手く修正しようとしても中々上手くいかんのだ」


「それはやな、矢の向いてる先と兄ちゃんの目線の先が違うからやで。ええか? そのまま構えててや…………そうそう。でな、こっからあの先にある的まで100メートルや。そして……ここや、ここで矢を放ってみい!」


 ホークに言われる通りに放たれた矢は真っ直ぐ的に向かって行き、見事にど真ん中を射抜く事に成功した。


「当たった……のか?」


「おう、ナイスやで!」


 当てた本人が一番驚いてるわね。

でもコレって、ホークは鷹の目を使ったから見えただけよね?

あの兵士は鷹の目なんて無いだろうし、この先上手く成るんだろうか……。




 ホークとザード以外にもアンジェラとセレンも連れてきたんだけど、アンジェラは格闘技を、セレンは魔法を指導してるみたい。

 4人の中でダントツで多く人が集まってるのはアンジェラのところなんだけど、男が多いところを見て理由は察してほしい……。


「上手くいったようで良かった。僕も少々心配してたんだけども、この様子だと問題なさそうだ」


 そうね、協力してくれたドミニクとナレックには感謝しないとね。


「ありがとう、ドミニク」


「いやいや、レディを助けるのは男として当然だよ。ところでアイリさん、今日1日終るまで時間がかかる。そこで提案だけど、よければ僕の邸に遊びに来ないかい?」


 えぇ~と……どうしよう。

コレは想定してなかったなぁ……。


「時間はそれほどかからないよ。30分もあれば僕の治めてる街に着くとおもうからね」


 私がどうやって断ろうかと考えてると、時間は気にしなくていいと言われてしまった。

いや、時間で悩んでる訳じゃないんだけどね。

でも協力してもらって断り難いし…………うん、ここはドミニクの誘いを受ける事にしよう。


「じゃあ今日1日お世話になるわね」


「ありがとう! すぐに馬車を用意するよ!」


 そう言って冒険者よりも速い動きでダンジョンを出て行った。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 ドミニクが用意した馬車に揺れる事30分近く、ドミニクが領主をしているヨーセラの街に着いた。

 けど何故かヨーセラの街を通り過ぎて……って街の隣に大豪邸が建ってる!


 ヨーセラの街はそれほど大きい街じゃないんだけど、その街の半分以上の大きさは有るんじゃないかと思われる豪邸が、存在感をアピールしてた。

 これって維持管理だけでも大変よね。

まぁその分メイドさん達が大勢居るんだろうけど。


「ようこそ、僕の邸へ!」


 邸に着いて馬車を降りると、既に多数のメイドさんが待機していた。


「すぐにお茶を用意するから、部屋までメイドに案内させるよ」


 一旦ドミニクと別れると、メイドさんに案内された部屋で暫く待つ事になった。




「落ち着かないなぁ……」


 待つのはいいんだけど、色んなオブジェが有るから落としてしまわないか心配になる。

というかメイドさんが全員いなくなっちゃったんだけど、私1人で待たされるのは退屈ね。


「待ってる間どうしようかな」


 それほど待たされないと思うけど、知らない場所に1人で待たされてるってだけで、時間が経つのが遅く感じるのよ。

 仕方ないから天井のシミの数でも数えてようかな……。


 トン!


「あ、マズ!」


 ソファに座って両足をブラブラさせてたら、テーブルの上に置いてあったグラスのような物に足が当たって、グラスがコロコロと転がって行った。


「ちょ、待って!」


 傷がついたら大変だと思い、急いで追いかける。

そしてグラスが戸棚にぶつかる前に見事キャッチ!


 ズルッ!


「ひぁっ!」


 したものの、カーペットが予想以上にソフトフィーリングだったため、そのままステーン!と転んでしまう。

 でも痛がってる隙は無い。

転んだ拍子に手にしたグラスを手離してしまい、そのまま天井へ舞い上がると……、




 ガツン!




 シャンデリアに当たった……。

正確にはシャンデリアみたいな魔道具だろうけど、それはこの際どうでもいい。

問題は、そのシャンデリア擬きが重力に引かれて落下を開始した事よ! って、説明してる時間が惜しい!


「間に合えぇーーっ!」


 シャンデリア擬きの真下にはテーブルが有るので、そのテーブルに飛び乗り、天井から迫り来るシャンデリア擬きをガッチリとキャッチする事に成功した。


「ふぅ、間に合った……」


 何とか被害が拡大せずに済んだわ。

でも自分の体と同じくらいの大きさのシャンデリア擬きなんだけど、ここからどうしたらいいか分かんないわね。

 とりあえず下に降ろそうかと思ったその時、






「失礼しますアイリ様。お茶のご用意が整いまし……」


 この瞬間、メイドさんは何を思い、何を考えたかは不明ね。

でも恐らくは、生涯で初めての貴重な体験をしてる筈よ。

 何故なら目の前には、年下の女の子がテーブルの上でシャンデリア擬きに抱きついてるんだもの。

こんな事をする奴なんて今後出会う事は無いでしょうね。

 そしてこのメイドさんは子供へ……そして孫へと語り継がせる筈だわ、シャンデリア擬きを抱き抱える不思議なダンジョンマスターの事を。


「あのぅ……アイリ様、いったい何を……」


 おっといけない、未来の事より今の事が100倍重要よね。

今から説明するから一旦落ち着かせてちょうだい、冷静に冷静に……っと。


「私……寂しかったんです……」


 ごめん、間違った。

ちゃんと話そうと思ったんだけど、つい口から出任せを述べてしまった。

 しかも何を思ったか寂しかったとか……。

もしこの世界の人達が寂しさをまぎらわす為にシャンデリア擬きに抱きつく習慣でもあれば、こんな事をして誤魔化す必要はなかったのに……と、無茶苦茶な理論を頭の中で展開しておりますです……はい。


「……ええと、ダンジョンマスターって、シャンデルに抱きついたりするものなのですか?」


 いやいや、そんな訳ないでしょ!

 ……と、言いたいところだけど、私自身が行動で示してしまったから仕方ない。

なのでここは1つ、私の為って事で、ダンジョンマスターはシャンデルに抱き付く事があるという新事実をでっち上げたいと思います。


 というかコレって、シャンデルって名前なんだ……。


「そそ、そうなんですよ。ま、まぁ個人差があって、私みたいに抱き付く者は稀ですけどね。でも中には中毒症状が出てる者もいるらしいですね。一度抱きついたら死ぬまで離さない者とかも居るって聞きますし、ダンマス同士でシャンデルの物々交換を行ったりする事も有るようですね。あ、そうそう、グロスエレム教国だと、シャンデルをダンマスだと仮定した討伐訓練が有るとか!」


「そうなんですか。あ、そのシャンデルはその辺に置いといて大丈夫ですよ」


「あ、すみません……」




 その後、案内された部屋でドミニクと雑談したり、昼食をご馳走になったりしたけど、正直詳しい内容は覚えてない。

そんな事よりも、全ダンジョンマスターを巻き込んでしまった事が、気掛かりで仕方なかったのよ。

保身の為とはいえ、トンでもない事を口走ってしまったと後悔してます……はい。

 そして気が付いたら自分のダンジョンに帰って来てたわ。

 



「ただいま……」


「お帰りなさいませ、お姉様。おや? 随分とお疲れのように見えますけども、大丈夫ですか?」


「私以外が、大丈夫じゃないかも……」


 まぁ過ぎてしまった事だし、気にしても仕方ないか……。


「大丈夫ですよ、お姉様。たかがシャンデルの1つや2つ、抱き付くくらいのデマが流れたところで、世界に影響はしません」


 それもそうね。

そう考えると気が楽になった。






「……ってアイカ、良い感じに纏めようとしてるけど、何でシャンデルの事を知ってるの?」


「………………」


 アイカったら、まさか透明マント以外にも、私を尾行する手段を整えてたとはね。

その行動力に脱帽するわ。


「お休みなさい、お姉様。では!」


「あ、コラ、待ちなさい!」


 そのままアイカを取っ捕まえようとしたんだけど、不意に眷族からの念話が届いた。


『おーーい(しゅ)よ、迎えはまだか?』

『アイリはん、空腹で死にそうでっせ……』


 あ! アンジェラ達をナレックのダンジョンに置いてきたままだった!

 仕方ない、アイカは後回しにしよう。


 急いでナレックのダンジョンにアンジェラ達を回収しに行った。

 そして帰って来てからアイカを尋問したら、超高性能ドローンの存在が明らかになった。

このドローンを使って私を覗き見してたらしいんだけど、覗き見にはモルデナさんとリゼットも関わってると聞き、2度ビックリした。

 今度2人に会ったら()()()()と白状してもらおう。


ドミニク「ナレック、差し入れのシャンデルだよ」

ナレック「はい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ