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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第2章:ダンジョンバトル
42/255

ダンジョン大運動会

「くそっ、こっちに来やがった!」


 ホークの放った岩が、逃げ惑う兵士達を追い回す。

やがて兵士達の前に十字路が出現する。


「しめた、十字路だ!」


 三方に別れれば、約6割の確率で岩から逃れる事が出来る。


「よし、俺は右に逃げるぜ!」

「なら俺は左だ!」

「お、俺が正面かよ~っ!」


 この場合、何となく真っ直ぐ転がってきそうな雰囲気が兵士達の中にもあったらしい。

 そして約30人の兵士達は綺麗に三方に別れたが、ここからが問題だった。


「う、うわぁ!」

「ちょ、おわ!」

「落とし穴かっ!」


 左右の通路には落とし穴が設置されてたらしく、左右に別れた20人の兵士達はそのまま穴に落ちていった。

 そして案の定、岩は真っ直ぐ転がってきた。


「結局こうなるのかよーーーっ!」


 岩が真っ直ぐ転がってきた事を確認した兵士達は、うんざりした顔をしながら走り続ける。

 だがいよいよ最終局面を迎える時が来た。

落とし穴を逃れた彼等の前に、行き止まりが見えてきたのだ。


「ど、どうするよ!、行き止まりだぞ!?」

「落ち着け。こうなったら仕方ない、あの岩を止めるぞ!」

「分かった!」


 覚悟を決めて迫りくる岩に向き直ると、両足に力を込めて岩を……、






 ポスン


「「「え?」」」


 岩に触れた瞬間、岩が消滅してしまった。

何故?……と思う兵士達は決して間違ってはいない。

地鳴りのような音を立てて迫りくる岩が、紛い物だと気付く兵士は天才であろう。

 だが残念な事に、ここには天才はいなかった為、誰も気付かなかったのだが。


『どや? オモロかったやろ? 日頃の運動不足を解消してやったんや、感謝しぃや』


 例の如く聴こえてくる()()()に怒りが込み上げてくる兵士達は、再び罵声を浴びせ始めた。

 しかし、ホークにとっては負け犬の遠吠えにしか感じ無かったため無駄であったが。






「さて、5人は脱出、43人が穴に落ちたから、残りは52人。まずまず……といったところやな」


 コアルームで見ていたホークはうんうんと頷いた。

最初の5人が脱出したのは本当で、もう既に帰路についてる事だろう。

 だが穴に落ちた兵士は、纏めて捕虜となっていた。


「ねぇホーク、残りの52人はどうするの?」


 少々不安が伴うナレックとしては早く捕らえてほしかったが、ホークは散々弄んでから捕らえる気でいた。


「大丈夫や、任せとき! ……コホン、プログラム2番、走り幅跳びや!」






 岩が消滅し危機が去った事に安堵した兵士達だが、早くも次の種目が待ち構えていた。

その説明の為、例の如くホークが呼び掛ける。


『生き残った諸君には、次の試練を用意したでぇ。目の前の転移魔法陣に入るんや。拒んでもええけど、従わん奴は一生放置プレーやから、そのつもりでな』


 ご丁寧に散らばった兵士全員の元に転移魔法陣を出現させる。

ダンジョン内で放置されるのを嫌がった兵士達は全員がホークの誘導に従った。






 兵士達が転移した先は、先程と同じ遺跡エリアだった。

周囲をよく見渡すと、背後と左右は壁で、正面に通路が続いていた。

ただし、地面には大きく口を開けた穴が有り、そこを飛び越えなくてはならないのは一目瞭然だった。


『まぁ見ての通りや。頑張って向こう側まで飛び越したってや! 尚、先着5名様は出口まで案内するでぇ!』


 既に目的を見失いつつあった彼等だが、先着5名様のフレーズに引かれて目の前の試練に挑もうとしていた。

 その結果……、



「俺が先に行って確かめてやる!」

「いーや、ここは俺がやるぜ!」

「じゃあお先に行くぜ!」

「あ、待てこの野郎!」

「抜け駆けすんじゃねぇ!」



 醜い争いが始まってしまった。

その取っ組み合いを制した5人の兵士は見事向こう側に……、


「「「うわぁぁぁ……!」」」


 ……たどり着く事は出来なかった。

彼等は焦るあまり気にして無かったが、そもそも重い甲冑をガチャガチャ鳴らして走ってるようでは、幅3メートルの大穴は飛び越せない。

というか普通分かるだろ……という感じだが。


 最早丸腰になるのも気にせずに彼等は装備品を投げ捨てて飛び越そうとする。

ここで運動神経の鈍い者とデブってる者は飛び越す事は出来ずに穴に落下し、身軽な者は飛び越す事に成功した。


 そして先着特典を受けた5人は無事に脱出して、37人が穴に落下したため、10人が残される形となった。


『お疲れやで。それじゃあ最後の試練を始めるでぇ、最後の試練は……』






「クイズに答えて出口をゲットしよう! のコーナーや!」


 声高く、ビシッと指を天に向けて決めポーズをとったホークだが、幸か不幸か見てたのはナレック1人だけである。


「えーーと、さっきまでやってたプログラム何ちゃらっていうのは、もうやらないのかい?」


 ナレックの疑問も最もだが、そもそもホークはそんな些細な事を気にするような輩ではない。

どこまでも自分の気分主義である。


「ま、もうええやろ、飽きてもうたしな」


「そ、そうかい……」


「そんな事よりもあっちに注目やで!」






 穴を飛び越えた兵士達は通路の先に進んだ。

 すると、突き当たりに2つの小部屋が出現した。


『今から出すクイズに答えるんや。正解すると出口に案内したるで。ただし、5人5人に別れる事が条件やで』


 つまり全員が正解する事は出来ず、必ず正解5人、不正解5人に別れる必要がある。

 少々強引だが、兵士達にとっては今更であったため誰も気にしなかった。


『では問題や』


 デデン!


『1989年6月4日、中国で発生した大規模な事件……ちょっとタンマ、これ2択の問題ちゃうし、誰も分からんやろな……えーーと今のは無しな、別の問題出すさかいに……』


 当然この世界の兵士達に天安門事件が分かる筈はない。


『仕切り直し……では問題や』


 デデン!


『ワイを眷族(けんぞく)として使役しとるダンジョンマスターは、男か女か、さぁどっちやと思う? 男だと思う奴は青い扉の小部屋へ。女だと思う奴は赤い扉の小部屋へ入るんや』


 この時、兵士達が思ったのはお前がダンジョンマスターじゃなかったんかい!という思いだが、今は問題に正解する方が大事だと割り切った。


「なぁどう思う?」

「眷族の性格が()()だろ? ならやっぱり……」

「そうだよなぁ、ダンジョンマスターは絶対性格がひねくれた女だよな」

「「「だな」」」


 眷族であるホークを参考材料にした場合、もれなく性格は絶対に悪いだろうと思うのは間違いではない。

更に女だと思った理由は、直接武力で仕掛けるのではなく、とことん嫌がらせを行う点が抜きん出ているからだ。


 因みにホークは気にしてないが、もしこの場にアイリが居たら、今の兵士の会話を聞いて発狂していた事だろう。

その場合、兵士達は物理的に半殺しにされてただろうし、ホークにも矛先が向いていたであろう事は、想像するのは難しくない。

 幸いアイリは自分のダンジョンに戻っているので大事にはいたらなかった。


 そんな事とは露知らず、兵士達は先に赤い扉の小部屋に5人が入り、残りが青い扉の小部屋に入る事で準備が整った。


『正解は……女でしたーーーっ! ってな訳で、男を選択した諸君は、さいなら~♪』


 青い扉の小部屋全体の床が消えて、5人の兵士達は落下していった。


『正解者の諸君はそのままじっとしててな、地上まで浮上させるさかいに』


 赤い扉の小部屋は少しずつ上昇し、やがて地上に浮き上がった。

 小部屋から出るとダンジョン入口の裏側に出た事が分かったので、兵士達はそのまま街へ帰還して行った。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「遅い……遅いぞ、先行した部隊は何をやっておるのだ!?」


 こちらはダンジョン入口に天幕を張ってるノルゴストル男爵。

先行した部隊から音沙汰が無く、イラつき出してる様子だ。

 だが既に先行した部隊は壊滅しており、脱出した兵士達は挙ってノルゴストルの元には戻らなかった。

これにはノルゴストル男爵の人望が関係してるのだが、本人は気付いていない。


「確かに遅いですな。後詰めの部隊を向かわせましょう」


「うむ。ワシは夜明けを待つつもりはないからな。速やかに行動するように伝えておけ」


「ハッ、畏まりました!」


 ミゼオンの進言により、ノルゴストル男爵は後詰めの部隊を向かわせる事にした。




 しかし、後詰めの部隊からの音沙汰も無く、かれこれ3時間近くも時間を浪費していた。

何故かと言うと、後詰めの部隊もホークの熱烈歓迎を受けて壊滅したからに他ならない。


「ええぃ、いったいどうなっておる! 事前準備は整ってるのではなかったのか!?」


「も、申し訳ありません! 下調べは万全であった筈なのですが、どうやら兵達は油断が過ぎたものと思われますので、次は私が直接向かう事に致します」


 怒りを露にするノルゴストル男爵を何とか宥めるミゼオンは、やむ無く自らが向かう事にしたのだった。




「さて、ここまで来たが、これまでに先行した部隊はいったい何処へ消えたのだ?」


 今、ミゼオンの目の前にはボス部屋があり、ここへ来るまでに戦闘の形跡は見当たらなかった。

つまり、殆ど録な戦闘を行わずに果てたか捕らわれたのどちらかだと思われた。


 一応先に進んでる可能性も無くはないと思われたが、その可能性は無いと断じた。

何故ならボス部屋に到達したら必ず報告するように、事前に打ち合わせてあったからだ。


 で、あるならば、ボス部屋に来る前にやられてる可能性が高いのだが、そもそもそんな形跡が無いとなると、他に考えられるのは、功を焦るあまり勝手にボス部屋に突入して返り討ちに合ったという可能性だが……、


「おい、ここのボスはゴブリンナイトではなかったか?」


「ハッ、確かゴブリンナイトであったと記憶しております」


 1階層のボス部屋に居るのはゴブリンナイトだと報告されている。

当然このゴブリンナイトを倒し、先に進んで調査してるので、今更ゴブリンナイトごときでやられる筈はない。

 なれば考えられる可能性は、ボスが変更された……という事になるが……。


「ここで考えてても仕方ない、これよりボス部屋に突入する。報告通りならばゴブリンナイトだが、違う可能性も有り得る為、充分に注意せよ!」


 兵達に注意を促しボス部屋へと突入した。

そしてミゼオン達がボス部屋で見たものは、調査で上がってたゴブリンナイトとは全くの別物であった。




「よく参られた。某はリザードマンキングのザード、さぁ全力で参られよ!」


「リザードマンキングだと?」


 目の前のリザードマンは確かにそう言った。

リザードマンキングといえば、リザードマンを束ねてその頂点に君臨する者の筈だ。

モンスターランクもBランクとかなり高い。


「……成る程な。リザードマンキングならば、先行した部隊を蹴散らすのは容易だったという訳か……」


「よく分からんが、今日はお主ら以外は()()来ておらぬぞ?」


「……何?」


 ザードにとっては今回の遭遇がこのダンジョンでの初遭遇であるため、他の兵士の事は知らない。

 というのも、他の兵士達は全てホークが相手していたので当たり前なのだが。

 そして肝心のホークだが、兵士達を相手にするのは飽きたらしく、進軍してきたミゼオン達はそのままザードが居るボス部屋まで通されたのだ。

つくづく自分勝手なホークである。


「さぁ、話は終わりだ。いざ、参る! 王の威光(ビクトリーレイ)!」


 待ちくたびれてた事もあり、初っぱなから王の威光(ビクトリーレイ)を放った。

そのため殆どの兵士達はまともに立っていられず、その場にへたり込んでしまった。

これにより、立ってるのは数名の兵士とミゼオンのみとなった。


「くっ……さすがはBランクといったところか。この惨状ではお前に勝つ事など不可能だろうな」


 ミゼオンは周囲を見渡しながら言う。

Bランクの魔物が相手となれば、数名で挑むものではない。

数で押すならば1000人以上は必要だろう。

 もはや勝機はないと理解したミゼオンは、せめて一矢報いるために部下にザードの気を引き付けさせ、その隙に斬りかかるというシンプルな作戦で挑んできた。


「くらえっ!」


 果敢に斬りかかる兵士だが、簡単に剣を弾き飛ばしてしまう。


「フン! ぬるいぞ!」


「うぐぇ」「がはっ」


 そしてザードは兵士には見向きもせずに華麗に峰打ちを食らわせた。

そのザードの視線は、真っ直ぐミゼオンを射抜いていた。


「くっ、力の差は歴然か……ならば!」


 いよいよ覚悟を決めてザードに突進するミゼオン。

その突進を正面から迎え撃つザード。

 そして2人が交差し、ザードは剣を鞘に収め、ミゼオンは剣を抜き放ったまま……、




「……いい腕だ……ぐっ」


 その場に倒れたのだった。


「安心しろ、峰打ちだ」


 多少剣の腕には自信のあったミゼオンだが、健闘虚しく他の兵士達と一緒に捕虜となった。

 


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 ミゼオンが討ち取られた事により残るはノルゴストル男爵のみとなった。

そんなノルゴストルの相手をするのは、やはりホークしか居ないだろう。


 ってな訳で、ホーク自らが現場に赴き、ノルゴストル男爵の前に姿を現したのだった。


「ようようお疲れさん。中々来ないから待ちくたびれて来てもうたわ」


 突然現れたホークに訝しげな視線を送るノルゴストル男爵。

言動から言ってダンジョン関係者だろうと断定した。


「貴様は眷族なのか?」


「せやで。ほら、さっさと捕まえてみぃ。それとも腰の剣は飾りか、オッサンよぉ!」


 剣を飾りと言われたからか、オッサン呼ばわりされたからか不明だが、ノルゴストル男爵はホークの安っぽい挑発に乗ってしまい、ホークに向かって斬りかかって行った。


「おのれ、儂を侮辱するとは不届きな! 手討ちにしてくれるわ!」


 そのままホークに斬りかかろうとしたノルゴストル男爵だが、急に足下に穴が開き、そのまま落下していった。


「ぬぉわぁぁぁ!」


 その様子を上から見下ろすホーク。

その心境は少し複雑だった。


「こんな単純な罠に掛かるたぁバカ貴族の典型やないか……」


 どうやら簡単に罠に掛かってしまったのが気に入らなかったらしい。


「さぁて、ノルゴストル男爵の身柄はワイらが預かったでぇ、分かったらさっさと大人しゅうせぃ!」


 残された兵士達は、ホークの降伏勧告に従い武器を捨てて拘束された。

 


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 次の日の朝にアイリは再びナレックのダンジョンに転移してきた。

前日にホークからの念話で首尾は聞いてるので、後はホークとザードを回収して戻るだけだった。


「アイリさん、今回は助かったよ、有難う!」


 昨日と同じようにナレックはアイリを出迎えた。


「どういたしまして。ところでホークは無茶な事しなかった?」


「……うん……まぁ、色々あったけど、最終的にはたすかったよ……」


 なんかナレックが疲れてるような顔をしてるんだけど気のせいかな?


 と、アイリは思ったが、恐らく気のせいではない。

ホークはホークで好き勝手に兵士達を翻弄して遊んでたので、ナレックとしては内心気が気じゃなかったのだ。


「うん、それなら良かった。じゃあホークとザードを連れて帰るわね」


「ああ、その事なんだけど、ちょっと困った事が……」


 困った事? もしかして、またホークが何かやらかしたのだろうか?


「ホークがね、兵士達に玉乗りを仕込んでるから、暫く帰れないって……」


 やっぱりホークだった。

というか何で兵士に玉乗りを仕込む訳?

サーカスじゃないんだから……。


「また余計な事をやってんのね……。ごめんねナレック、ホークは強引に連れて帰るわ」


「うん分かった、それでザードの方なんだけど……」


 もしかして、ザードまで何かやらかしてるというのだろうか?


「未熟な兵士達に剣術を教えてるから暫く帰れないって……」


 コイツらは……。


「本当にごめん。すぐに連れて帰るわ」


「ああいや、別に責めてる分けじゃないよ。というか寧ろ、使者が来るまで居てもらえると助かるんだけど」


 ん? どういう事だろ?


「それがね、僕にも詳しくは分からないんだけど、2人が兵士達を鍛えてるのが影響してるのか、DP(ダンジョンポイント)が徐々に増えてってるんだ」


 うーーん、何で兵士達を鍛えるとDPが増えるんだろ?

もしかして疲労でバテた兵士達は倒したと認識されてDPが入ってるのかな?

まぁいいか。


「なんにせよ、役に立ってるようで何よりだわ……」


 ホークとザードは、チョワイツ王国の使者がやってきたら回収しに来よう。


アイカ「ザードはともかく、ホークは何のために玉乗りを仕込んでるのでしょう?」

アイリ「知らないわよ。あの鳥頭が帰ってきたら直接聞いてちょうだい」

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