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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第2章:ダンジョンバトル
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派遣ダンマス

「暇ねぇ……」


「そうですねぇ」


 今日も今日とて冒険者が1人も来ないので、ダンジョンは平和……というより暇だった。

 何故かというと今更な話だが、アイリのダンジョンは魔女の森と言われている危険な森のど真ん中に存在する。

 更に魔女の森の外側は、アレクシス王国、ミリオネック商業国、プラーガ帝国、グロスエレム教国の4つの大国に挟まれた場所で、互いに魔女の森の領有を主張している大変面倒くさーい場所なのである。

 そんな所にノコノコと現れる世間知らずな冒険者はいないので、いまだに冒険者の侵入数は0を更新中である。


「冒険者ランクの昇格試験も受けないといけないし、また外に出ようかしらね」


 冒険者ランクを上げる理由は、敵対的なダンジョンマスターを冒険者として討伐する事が出来るようにという思いからだが、今のアイリはすっかり忘れてしまったため、単純に冒険者ランクを上げたいと思っての呟きだった。


「それもいいんですが、面白いものを発見しましたよお姉様」


「え、なになに?」


 アイカがダンジョン通信を開くと、チョワイツ王国内の集いで、国の領主とダンジョンマスターが戦ってるらしい内容が見られた。

 チョワイツ王国って確かグーチェスのいる国だったと思う。


「これは?」


「チョワイツ王国内にあるダンジョンのダンマスと、その付近の領主が争ってるみたいですね。3日程前からのようです。ちなみにグーチェス様とは別人のようです」


 内容を詳しく確認すると、元々国との話し合いで、ダンマス側が定期的に物資を納める形で共存が決まっていたのだが、付近の領主が過剰な賄賂を要求したらしい。

 当然ダンマス側は要求を突っぱねたけど、その結果、怒った領主が討伐隊を編成しダンジョンアタックを開始したという内容だった。


「国と話がついてるのにダンジョン攻略を開始するなんて、その領主はよっぽど自信があるんでしょうね」


「それか考え無しのバカか、どちらかですね」


 この件は()わば領主の独断である。

国にバレれば、物理的に首が飛ぶ可能性すらあるのだ。


「領主としては、ダンジョンコアを奪って口封じするしか無いわね。それを考えると、近いうちに総攻撃があるかも知れないわ」


「折角の機会ですから、攻略目的の侵入者がどのような行動に出るか、間近で見てみるのはどうでしょう? 丁度このダンマスも支援を求めてるらしいですし」


 よく見ると(くだん)のダンジョンマスターは、総攻撃に備えて支援を求めてるようだ。

 これを見て私は、侵略を受けているダンジョンマスターのナレックの援軍として駆けつける事にした。

 理由は、放っては置けないから!


「暇潰しですよね、お姉様?」


 ……そうとも言う。








「多くの支援を受けてるけど、まさかダンジョンマスター本人が眷族(けんぞく)を連れて来てくれるとは思わなかったよ、有難う!」


 チョワイツ王国の領主より侵略を受けているダンジョンマスターのナレックが訪れた私を激励(げきれい)してくれた。

 だいたい助けるといっても、私のように座標転移(ハザードワープ)を持っているダンジョンマスターは限られてるだろうから、大抵のダンジョンマスターは支援と称してDP(ダンジョンポイント)の振り込みを行う者が殆どなんだけど、私のようにダンマス本人がやって来るのは稀らしいわ。

 というか普通は来ないでしょうね。


「いいのよ。私としても、侵略者のサンプルが欲しかったからね」


「サンプル? よくわからないけど助かるよ」


 ナレックは人族の14歳の少年で、1ヶ月程前のチョワイツ王国代表団との話し合いの末、ナレックのダンジョンの生存を認める代わりに、ダンジョンから定期的に一定の物資を渡す事で合意した。

 内容だけ見ると、一方的に貢物(みつぎもの)をしてるように見られるかも知れないが、この国との合意が得られた事により、ダンジョンに侵入して来た冒険者がダンジョン内でどうなろうが国は関知しないという事も含まれるので、ダンジョンマスターにとっては活動しやすいという事でもあるのだ。

 つまり、ダンジョンを1つの縄張りとし、そこに不法に侵入して来た者は、罰してもよいという事だ。


「昨日も領主の部隊がやって来たんだけど、多分偵察だったんじゃないかと思ってる。チョワイツ王国の代表者が来るまでそれほどかからないと思うから、今日か明日にでもやって来るかも知れない」


 国の使者が来たら、今発生してる領主の暴挙が明るみになる。

そうなる前に領主はダンジョンを攻略し、ダンジョンマスターが約束を違えて領地を襲ったので、やむ無く討伐したという事にするはずだ。


「ならさっそく打ち合わせに入りましょ。罠の場所とか教えてちょうだい」


「わかった。まず階層が……」


 時間が無さそうなので速やかに情報交換を行った結果、このダンジョンは5階層になっており、その全てが遺跡エリアになってる事が分かった。

 なので今回は遺跡エリアの特徴を生かし、迷路を作る事にした。

迷路なら時間稼ぎに最適だからね。

 迷路の作成には眷族のホークが立候補したのでそのままホークが担当する事になった。

今もノリノリで迷路を作っている。

 次にモンスターなんだけど、度重なる領主の侵略により、かなり数が減ってしまっている。

時間が経てばリスポーンするけども、それを待つ余裕は無さそうね。

 てな訳で、今回はモンスターは新たに配置しないという事になった。

モンスターを配置するよりも罠を配置した方が効率がいいという結論に至ったためよ。

 最後に罠だけど、案の定ホークがノリノリで罠を張り巡らせていく。

もうコイツ(ホーク)だけ居ればいいんじゃないかなと思えてきたので、1階層のボス部屋にはホークに待機しててもらおう。


 そうこうしてる内に夜になり、今日は来ないかも知れないと思われた矢先、侵入者を知らせるアラームがアイリ達の耳に入る。

 侵入者を見ると、入口からゾロゾロと重装備の者達が入って来るところだった。






 ダンジョンに入ってきた者達の最後尾に、より一層派手な格好をした男が姿を現した。

此度ナレックのダンジョンに侵略を仕掛けてきた領主、ノルゴストル男爵である。


「ミゼオン、準備は万端か?」


「ハッ、事前調査によりダンジョン内部は把握出来ております。各装備も問題ありません」


 ミゼオンと呼ばれた若い青年が、自信たっぷりに答える。

今まで散発的に侵略してたが、それは各階層を把握するための下準備だ。

 彼等は今日このダンジョンを攻略するために現れたのだ。


「宜しい。ならば進軍せよ!」


「ハハッ!」


 綺麗な列をなして進んでいく討伐隊。

事前調査により作られた簡易的な地図を手に、無駄がなく罠がないルートを選択し進んで行った……筈だったのだが……、


「ぐわぁ!」


 先頭を歩いてた兵士の1人が、悲鳴をあげて踞る。

その声を聴いた他の兵士達も進軍を停止した。


「おい、どうした?」


「くそ、罠だ。トラバサミの罠に掛かっちまった!」


「急遽罠を増やしたんだろうな。おーい、罠が増えてるから注意して進軍するぞ!」


 兵士達はダンジョンマスターが罠を増やして対処してきたと思い、罠に注意しながら進軍を再開した。

 だが再開間も無く、兵士達は違和感に包まれる。


「さっきから同じ場所を回ってないか? この十字路はさっきも見た気がするんだが」


「確かに……地図ではどうなってるんだ?」


 間違ったルートを進んで来たのではと思い地図を確認するが、やはり進んで来たルートに間違いはない。

 だが同じような十字路は無かった筈だという事で一旦引き返す事にした。

 しかし……、




「おい、行き止まりだぞ?」


「そ、そんなバカな! 地図の見方を間違えたか?」


「いや、間違ってない。それにこれだけ大勢で進んでれば、誰かが気付くだろう?」


「だがどうやって進んで来たというんだ? 背後が行き止まりだなんて有り得んだろう……」


 ここにきて異変に気付いた兵士達だがもう遅い。

この時点で既に()()()()の術中に嵌まってる事を彼等は知らない。






「フフフのフってな♪ いよいよワイのスペシャルデンジャラスコントの開幕や。存分に楽しもうやないか!」


 その()()()()であるホークは、大勢の兵士が現れるというのを前提にしたスペシャルなイベントを用意して待ち構えていた。


「あの~……君は確か1階層のボス部屋に配置されてたと思うんだけど……」


 自信無さげに言ってくるナレックに、ホークは指を振ってチッチッチ、と言いつつ語り出した。


「スペシャルエンターテイナーであるワイがボス部屋に居るなんて世界の損失やで。それにボス部屋の事なら大丈夫や。すでに別の眷族がワイの代行として配置されとるからな」


 ……等と多少寝言を言ってるようだが、要するに兵士達が罠に掛かったところを見たいだけである。 


「なんや本当はボス部屋に居れとアイリはんに言われたんやけど、さすがに退屈やからなぁ。せやからこうやって、コアルームで鑑賞させてもろてるんよ」


「そ、そうなんだ……」


 ホークの行動原理がよく分からないナレックは、深くは突っ込まない事にした。


「まずはプログラム1番、玉転がしの始りやでーっ!」






「……仕方ない、手分けして出口を探そう。30分後にここへ集合だ」


 そう言って100人程の兵士が散開し、30分後に全員が戻って来た。

 そして各自が調べ回った限り、ダンジョンの入口もボス部屋も見つからなかった。


「出口が無いだと!?」

「そういう事になる」

「バカな、ならばどうやってここまで来たというんだ」

「それは分からん。何らかの罠で転移してしまったか、幻覚を見せられてるか……」


 いよいよどうしたらいいか分からなくなった兵士達に、どこからか声が聴こえてきた。


『諸君、出口がなくて困ってるのかな? そんな君達にワイから特別にヒントを授けようやないか』


 突然の声に困惑する兵士達。

中には声の主をダンジョンマスターだと思い込み、罵声を浴びせてくる者もいた。


「姿を見せろ、卑怯者め!」

「ここから出しやがれ!」

「腐れダンジョンマスターめ!」


『誰や腐れダンジョンマスター言うた奴ぁ! しばき倒すで糞ぁ! ……まぁええわ、ヒント出したる。何故出口が見つからないのか……それはお前らの中に裏切り者が居るからや』


 裏切り者というフレーズが出た瞬間、喧騒が止み静寂が訪れた。

それに畳み掛けるようにホークが続ける。


『よく人数を数えてみい。5人だけ居なくなってへんか? 居らんやろ? 何故か言うとな、その5人は出口から脱出しとるからや』


 5人居ないと言われ改めて点呼をとるが、やはり5人の兵士が居ない事が分かった。


『どや? 居らんよな? その5人が見つけた出口の横に、こんな事を書いた立札を立てといたんよ』


 すると兵士達の前に立札が出現した。

罠は無さそうなので立札に近付き読んでみる。


「何々……幸運な者達へ。このまま仲間の元へ報告に戻るなら罠が発動する。ただし、このまま出口から帰るならば身の安全は保証しよう。その場合は仲間達に罠が発動するがな。……だと!?」


 1人の兵士が読み終えると、再び喧騒が訪れる。


「どういう事だ、誰か5人だけが脱出したってのか!?」

「いや待て、そもそもそんな話はデタラメかもしれんぞ?」

「でもよ、だったらなんで5人足りないんだ?」

「だよな。きっと自分達だけ助かる為に、さっさと脱出しやがったんだ!」

「だから落ち着け! その5人だって本当に脱出したのか怪しいぞ!?」


 徐々に混乱が増してきた兵士達に、ホークの声が届く。


『まぁ落ち着きぃや。その5人は無事に脱出してダンジョンの裏口から地上に出たで。おめでとうございますやな。そんでもって残されたお前達にぁ極上の罠をプレゼントするで!』


 ホークが言い終わると、ゴゴゴゴ……という地鳴りのような音が聴こえてきた。

見ると行き止まりの壁が左右に開き、奥から通路いっぱいの巨大な岩が出現した。


 それを見た兵士達は息を飲む。

 奥からは巨大な岩、しかも通路に隙間が無い、岩の前には自分達、ここから導き出される結果は……、


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーーーン♪


 ……というリズミカルな音と共に岩が兵士達に向かって転がり出した。 


「に、逃げろーーっ!」


 岩を見てか声を聞いてかは不明だが、兵士達は迫る岩から逃げ出した。


 この岩を操作してるのは勿論ホークで、兵士が1番多く逃げたところへ転がした。






「……行ったか?」

「……みたいだな」

「ふぅ、あっちに行ってくれて助かったぜ」


『……って思うやん?』


 岩1つしか無かった為、岩が別の通路を辿ってくれて助かったと思った彼等だが、別の岩が出現し、彼等を追いかけ始めた。


「「「うわぁーーっ!」」」


『残念やが、行ったか?もフラグやで』


 続く


ナレック「あのぉ、あまりポイントの無駄遣いは……」

ホーク「心配いらんで、全部アイリはんの自腹や!」

ナレック「いや、それも悪い気が……」

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