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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第2章:ダンジョンバトル
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閑話:クロと冒険者達

 時(さかのぼ)り、ユーリのダンジョンにてエルドレッド子爵を生け捕りにした後の話だ。

 アイリ達がソルギムの街に行った直後、ある一組の冒険者パーティがユーリのダンジョンを発見し、中へと侵入してきたのである。


「間違いない。この辺りにダンジョンが存在してるという記録はないはずだ」


「って事は本当に未発見のダンジョン!?」


「ああ、間違いないだろう」


「そ、そうか……ついに……ついにやったぞ。ついに念願の未発見ダンジョンを見付けたぞぉぉぉ

ぉ!!」


 感極まって泣き出したのは、前衛で軽装のガラハッドという人間の男だ。

パーティのリーダーをしていて、髪が薄い事を少々気にしているらしい。


「落ち着けよガラハッド。魔物が居るかもしれんのだぞ?」


「そ、そうだったなテイラー。すまんすまん」


 リーダーのガラハッドを宥めたのは、前衛のテイラー。

重装備で全身を包んだガッチリとした長身の男だ。


「でももしかしたら、既に発見済で報告されてるかもよ?」


 更に浮かれてるガラハッドに水を差したのは、ハーフエルフのイルシア。

後衛で弓を扱っている女性だ。

暴走しがちなガラハッドへのツッコミ役でもある。


「う……な、何を言う、貴様ぁ!」


「ちょ、落ち着いて下さいよリーダー」


 怒り出すガラハッドを再び宥めたのは、魔法士で後衛のキーノック。魔族の若い男だ。


「で、どうすんだ? このまま戻るのか?」


「ここまで来たのだ。最下層まで確認する!」


 どうやらリーダーのガラハッドは、コアルームまで行きたいらしい。


「そうですか。なら仕方ないですね」


「む?」


「あたし達は先に街に戻ってるわ」


「むぉ?」


「まぁ頑張れよ」


「ちょ、ま、待てぃ、貴様らぁ!」


 最下層行きを宣言したガラハッドに、仲間達は次々と戻ると言い出す。

 というのも、どのみちコアルームへ行ったところでどうする事も出来ないからだ。

新しいダンジョンは発見次第速やかに国か冒険者ギルドに報告する事を義務付けられている。

 そして後日、国から交渉団が派遣され、ダンジョンマスターとの話し合いがスタートするのである。

それ故に、現段階で勝手にコアルームへ行ってもダンジョンマスターを警戒させる可能性あり、最悪の場合国と敵対なんて可能性も出てくる。


「いや、大体コアルームまで行っても、どうしようもないでしょ?」


「む、むぅ……確かにそうだが……」


「それとも何ですか、ダンジョンコアを奪っちゃおうとか考えてます?」


「そ、そんな事が出来る訳ないだろう! そんな事をしたら最悪処刑されるぞ!」


「わかってればいいんです。ならコアルームに行く必要はないですね?」


「むむむ……」


 上手い具合にキーノックに丸め込まれるガラハッドだが、やはりまだコアルームに行きたいらしい。


「ていうか、なんでリーダーはコアルームに行きたがる訳?」




「ククク……知りたいか?」




「「「いや、それほどでも」」」


「聞かんか貴様らぁ!」


 もったいつけるガラハッドに興味無さげに答える仲間達。

 しかしガラハッドが聞いてほしそうに見ていた為、仲間達はため息をついて耳を傾けた。


「……これは噂話なのだが、偶然未発見のダンジョンを見付けた冒険者がいたのだが、その冒険者はダンジョンコアを見てみたくて最下層へ向かったらしい。そのダンジョンはまだ出現して間もないため1階層のみの構造で、簡単に最下層に到達出来たそうだ」


「ふーん。ここまでは普通の話ね。もっとくだらない噂かと思ったけど」


 イルシアの台詞に他の2人が頷く。

この様子を見ても本当にガラハッドがリーダーなのか疑わしく思えてくるが、間違いなくリーダーはガラハッドだ。


「ええぃ、話の腰を折るなイルシア!」


「あーごめんごめん、続きをどうぞ?」


「まったく……でだ、無事コアルームに辿り着いた冒険者は、中で倒れている女性を発見したらしい。一応その女性は生きてはいるが、かなり衰弱してる様子で少々危険な状態だった。なので冒険者は急いで持ってきた水袋を取りだし、女性に水を飲ませた。その後、持ってきた食料を女性に食べさせ、何とか一命をとりとめる事に成功したのだ」


「思ってたより良い話だな」


「そうだな……って、どういう意味だテイラー!?」


「お前、自分でも頷いたじゃねぇか」


「コホン……。衰弱から脱した女性は、やはりダンジョンマスターだった。事情を聞くと、DP(ダンジョンポイント)が底を突いてしまい、何も召喚出来ない状況に陥ったらしい。何も召喚出来ないという事は当然食料も召喚出来ないという事で、冒険者がやって来なければ最悪そのまま死んでた可能性が高い。なので是非ともお礼をしたいとダンジョンマスターから言われて、ダンジョンが落ち着いたらお礼を受けるという話になった。で、その後ダンジョンが安定してきた頃、ダンジョンマスターの女性から、お礼として差し出された物があった。それは……」


「「「それは?」」」








「育毛剤だ!」


「「「は!?」」」


「育毛剤だ!」


「「「えっ!?」」」


()()()()()


 ダンジョンマスターより差し出されたのは、どういう訳か育毛剤だった。

 ガラハッドは顔を真っ赤にしながら育毛剤の部分を強調する。


「いや、そんなに力まれてもねぇ」


 ヤレヤレという感じに首を振るキーノック。

最後に出たのが育毛剤ならば、呆れるのも無理はない。


「渡すにしてもさぁ、普通育毛剤なんて渡そうと思う?」


 普通は思わないだろう。

育毛剤よりもエリクサーを渡した方がよっぽど喜ばれそうなものだ。


「大体傍点(ぼうてん)なんかつけて力説しても意味ないぞ?」


「う、うるさい! 大体傍点をつけてるのは俺じゃなく作者だ!」


「ああもう落ち着きなさいっての! ちゃんと最下層まで一緒に行くから」


「ほ、本当か? 本当にいいんだな!? 今更後悔しても遅いからな! さぁ皆の者、俺に続けぃ!」


 イルシアの最下層まで行くという言葉に過剰に舞い上がり、ガラハッドは先へと歩き出した。

 その後ろでは仲間達がひそひそと話しながら後に続いた。


(お、おい、勝手に決めるなよ)

(だって仕方ないじゃない! ああなったら意地でも動かないわよ!?)

(それはそうだが……)

(まぁいいじゃない。このダンジョンは危険が少なそうだし、言う通りにして満足させてあげれば?)

((お前は呑気過ぎだ!))


 後ろのやり取りに気付かずにガラハッドはズンズンと進んで行き、特に問題もなくコアルームに辿り着いた。


「ここがコアルームのようだな」


「おいリーダー気を付けろ、扉の前に狼形の魔物がいるぞ!」


 コアルームの前に居るクロの存在に気付いた冒険者達。

 当然クロも気付いてるので身構える。

ちなみに、モフモフがぶち破ったコアルームの扉は、即席でアイリが作成した。


「ねぇリーダー、ここに見張りっぽい魔物が居るって事は、ここのダンジョンマスターは無事なんじゃない?」

「ウォン」


 イルシアの問いに即答するかのように吠えたクロ。

勿論人の言葉が理解出来るので、クロとしては質問に答えたつもりだ。


「……今リーダーに話したんだけど、この狼が代わりに答えてくれたわ」


「偶然だろ」


「でもさ、ここで見張りをしてるんだったらやっぱりダンジョンマスターは健在なんじゃない?」

「ウォン」


「「「「…………」」」」


 再び答えたクロ。

その甲斐あって冒険者達が気付き出す。


「やっぱり理解してるんじゃないの!?」


「うん、僕もそう思うよ。何だったら色々質問してみたら?」


「なら試してみよう。お前は眷族(けんぞく)か?」

「ウォン」


 眷族には違いないので即答するクロ。


「うむ、賢い狼だな」


 何故かテイラーに感心されたクロ。

しかも頭を撫でられている始末だ。


「おい、何故魔物と仲良くしてるのだ?」


 ガラハッドが不思議そうに尋ねるが、他の冒険者たちは一斉に首を振り、ヤレヤレという顔をした。


「眷族の魔物はダンジョンマスターの命令には絶対服従だぜリーダー?」


「そうそう。こうして襲って来ないって事は、ダンジョンマスターが襲うなって命令してるからよ」


「つまるところ、ここのダンジョンマスターは地上の者達に対して友好的って事だよ」


「そ、そうなのか……まぁいい。次は俺が試そう。お前はどこまで人の言葉が理解出来る?」


 ガラハッドが尋ねるが、返答しようのない質問に困った顔をするクロ。


「ちょっとリーダー、魔物を困らせてどうするのよ?」


「そうそう。せめてハイかイイエで答えれる質問じゃないとね。って事で、このおっさんは近い将来丸禿げになると思う?」

「ウォン!」


 これにはクロも自信満々に答えた。

先程よりも勢いよく吠えたのだ。


「おい、それはどういう意味だ!? しかも貴様ぁ! さっきよりもデカい声で吠えよってぇ!」


「良かったじゃない。はっきり言ってもらった方が諦めがつくでしょ?」


「誰が何を諦めるというのだ!?」


 既にお気付きかと思うが、ガラハッドは徐々に頭髪が薄くなっていくのを気にしてるのである。

 どうにかして自分の頭に栄光を取り戻したいと考えていた。

 そんな時にダンジョンマスターが冒険者にお礼として育毛剤を差し出したという噂を耳にしたのだ。

 当然のごとくガラハッドはこの噂に飛び付いたという訳である。


「まぁ、冗談はこのくらいにして……君はここでコアルームに侵入されるのを防いでるんだよね?」

「ウォン」


 キーノックの質問に肯定するクロ。

それを見て冒険者達は、今のところ侵入を上手く防いでるという認識をした。


「うむむむ……上手い具合にピンチに駆け付けてと考えたが、やはりそうそう上手い事いかんか……」


 そもそもダンジョンマスターがピンチに陥ってる状態という限定的な場面自体が、中々起こり得る事ではない。

しかも助けたお礼に育毛剤を渡すダンジョンマスターなんぞ、存在そのものが怪しい。


「ほら、もう気がすんだでしょ? さっさと帰りましょう」


「むぅ、仕方ない。今回は諦めよう……」


 イルシアの案を採用し、素直に引き返そうとするガラハッド。

 しかしその時、悲劇が訪れた!


「おいリーダー! そこの壁に罠が!」


 罠に気付いたテイラーがガラハッドに注意を促すが、時既に遅し。

壁から炎が噴射され、ガラハッドの頭を焼き付くさんとうねりを上げる!


「ぐぅおわっちゃーーーっ!」


「「「リーダー!」」」


 意外にも安っぽい罠だったらしく、炎はすぐに鎮火した。

 だが……、


「ええぃ、くそっ! 酷い目にあったわぃ……ん? ……むむ? ……むぉ!?」


 ガラハッドが自分の頭を擦った時、妙な違和感を覚えた。

 まるで今まで共に過ごしてきた存在との突然の別れが訪れたような、脆く悲しい感覚に包まれたのだ。

 だがその感覚は間違ってなかった。

今の今までガラハッドの頭皮を支え続けていた髪の毛が、別れを告げずに消滅したのだ。


「………………」


 徐々に事態を理解しだしたガラハッドは無言になり、これまた妙な静寂が訪れた。

 そしてその静寂の中、ガラハッドはとある詩人が残した言葉を思い出した。



 育つのは一生涯、失うのは一瞬



 とても短く、そして深い言葉であった。

 しかしガラハッドには大変申し訳ないが、その詩人は髪の毛の事を言いたかったわけではないだろう……恐らく。


 だがその思考を遮る声が聴こえてきた。


「リ、リーダー?」

「ちょ、その……」

「プ……ププ……」


 だがガラハッドの頭を見たキーノックが、遂にこらえ切れず吹き出してしまった。


「クク……お、おい、笑わすなキーノック……プクク!」

「ウプププ! ち、違うよテイラー、笑わせてるのは僕じゃなくてリーダーだよ! グッハハハ!」

「も、もうダメ! アッハッハッハ!」


 ガラハッド以外の冒険者達が静寂を破り、ダンジョン内に笑い声が響き渡る。


「……な、何を笑っている! 貴様らぁ!」


 ガラハッドが喚くが、仲間達は腹を抱えて笑いが収まらない。


「えぇーーい糞っ! こんなダンジョン2度と来るか!!」


 こうして何とも騒がしい冒険者達は、極一部の被害を受けて退散していった。

 この様子を見ていたクロは、後日アイリに対して宝箱の中身に育毛剤を入れておく事を提案したが、結局理解されずに却下されたのだった。


キーノック「これからはガラハゲって名乗るといいかもよ?」

イルシア「ちょ、止めて、お腹いたいwww」

テイラー「うっ……クククククク!」

ガラハッド「き、貴様らぁぁぁ!」

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