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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第2章:ダンジョンバトル
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ギルドとの交渉

「この先を10分程歩けばソルギムの街に着くはずです」


「じゃあもうすぐね」


 今私達は、エルドレッドの私兵に街まで案内させていた。

目的は冒険者ギルドと交渉し、ユーリのダンジョンを不可侵にするよう要求するためよ。

 ちなみにエルドレッドは未だに気絶してたりする。


「ところで、ユーリ様のダンジョンは大丈夫でしょうか? 他にも侵入者が現れたら、危険だと思われます」


 ユーリのダンジョンにはユーリ本人と、コアルーム防衛のため、クロをダンジョンに残して来ている。

 早々侵入者は来ないと思うけど、もし強そうな侵入者が来たら転移して戻ればいいし。


「まぁクロなら大丈夫でしょ。それより、あの兵士達がアイカを見る目が、神を拝んでるような感じに見えるんだけど?」


「礼拝ですね。わたくしは拝まれる様な事はしてませんが」


 私兵達はアイカが使用したエリクサーにより回復したが、アイカはアイリの指示に従っただけである。


 でも私兵達にとってアイカに助けられたという事実が重要な訳で、結果としてアイカに対して信仰心に近いものが芽生えたって事ね。


「それよりお姉様、街が見えてきましたよ」


「……みたいね」


 けどこのまま街に入ると、モフモフの正体に気付かれた場合にパニックになりそう。


「モフモフ、私が許可するまで特殊迷彩(ステルス)使ってて」


「了解ですぜ」


 これで大丈夫の筈。

滅多な事がない限り、モフモフの存在に気付かれる事はないはずよ。


「その代わり、周りの兵士達がモフモフが消えた事に動揺してる様ですが……」


 そっちは考慮してなかったわ……。

放っておくのもなんだしフォローはしとこう。


「アイカから説明しといて。あの兵士達は、アイカの言う事なら信じそうだし」


「わかりました」


 そうこうしてる内にソルギムの街に到着した私達。


 けど、ここからが大変だった。

まずは門番に止められ、何故エルドレッドが気絶してるのか問い詰められた。

ソルギムの領主はエルドレッドなので当然と言えば当然よね。

 詳しい事は冒険者ギルドで話すと伝えるも、あからさまに怪しい私達を街に入れる訳にはいかないと拒否される。

それならばと、エルドレッドを置いて一旦出直すと伝えるも、事情を詳しく聞かなければならないからと詰所まで同行するよう言われる。

 だから冒険者ギルドを交えて話すっつーの! と思わずヒートアップしてしまう私。

それに対し、小娘が生意気だ! と私達を捕らえようとする門番達。

 それに待ったをかけて、アイカ殿を護るぞ! と門番達と対立しだした私兵達。

 更に後ろから街にやって来た人達や、街の住人達が何事かと集まり出し、どさくさに紛れて無断で街に入ろうとする輩や、スリを働く輩まで現れ出して、街の入口は大混雑、大混乱に陥る事となった。


 結局騒ぎは、冒険者ギルドのギルマスが駆け付けるまで続いたのであった。






「さて、ここなら落ち着いて話せるだろう」


 冒険者ギルドのマスタールーム、つまりギルマスの部屋に私達は来ていた。

 あの場に駆け付けたギルマスが間に入って事情を聞くと言って仲裁し、門番を含む私達を冒険者ギルドに案内してくれた。


「ごめんなさいね、あまり騒ぎにしたくなかったんだけど……」


「まぁいいさ。普段は何もない退屈な街だからなぁ、たまにはいいだろ。ガッハッハッハ!」


 豪快に笑い飛ばしたこの男がギルドマスターのブラード。

元Aランクの冒険者で、冒険者時代の実績をかわれて、冒険者ギルドのギルドマスターをやっている男だ。


「ブラードさん。真面目な話だからよく聞いてね?」


「おう、話してみな」


「さっきも言ったけど私はEランクの冒険者で名前はアイリ。そしてもう1つの顔が……」


 ここで一呼吸入れる。

落ち着いて、周りを見渡しながら続けた。


「……ダンジョンマスターよ」


 アイリのカミングアウトにざわつく周囲。

だがギルマスのブラードだけは、驚きもせずアイリの顔から視線を外さなかった。


「……成る程。だがそれを言うためだけに来たって訳じゃないんだろ?」


「勿論、ここからが本題よ」


 そして私の方もブラードさんから視線を外さず、ゆっくりと話す。


「この街から徒歩で1時間くらいの場所にダンジョンがあるわ。だけどそのダンジョンには冒険者を寄せ付けたくないのよ。勿論貴族もね。」


 貴族のところであえてエルドレッドに視線を向けながら話した。

それを見てブラードはエルドレッドが何をしようとしたのか、何となく察したみたい。


「そういう事か。だが一応答え合わせのために理由を聞いてもいいか?」


「今言ったダンジョンは別の人が管理してるんだけど、ダンジョンコアが奪われそうになったのよ。それが原因ですっかり怯えちゃったから、暫くはそっとしてあげてほしいの」


 暫くアイリの顔を凝視してたギルマスだったが……。


「成る程。嘘は言ってないな」


 何故わかるのかとは、あえて聞かない。

ベテランの勘か何かだろうと思ったので、特に聞く事はしなかった。


「だがダンジョンを発見した場合、ダンジョンは国の財産として管理される場合が殆どだ。いくら俺が止めたとろで、国が判断する事に介入は出来んぞ?」


「それでいいわよ。私としては、無益な殺生はしたくないから言ってるだけだし。大体ダンジョンコアを奪うような真似をしなければ、ここに来る事もなかったんだけどね」


 そう言って再びエルドレッドに視線を向けて話した。


「……わかった。そのダンジョンを不可侵にする。この街に居る冒険者には伝えるようにしよう。命が惜しかったら近付くな……ってな」


「話が早くて助かるわ。有難う」


「いや、構わんさ。国の意思に反してる奴がのさばるのは良い事ではないしな」


 そう言って、未だに気絶してるエルドレッドに視線を落とすブラード。

その視線は、アイリを見ていた時よりも鋭さを増してるように見える。

 領主であるエルドレッドが国に反しているという事で、門番達は私達に謝罪し任務に戻っていった。

 まさか素直に謝罪されるとは思ってなかったから、思わず目が点になったけども。

 そして私兵達もエルドレッドを拘束し、屋敷に戻っていった。

その屋敷は当然エルドレッド屋敷よ。

自分の屋敷に捕らわれるとか皮肉以外の何物でもないわね。


「……ふぅ、全く、貴族って奴はどうして面倒事ばかり増やすんだろうなぁ……」


「それ、物凄く同意するわ……」


 どうやらあのエルドレッドは、()()()()貴族のようだ。

普段から苦労してたであろうギルマスに、少しだけ同情した。

 思えばラムシートの街に居たロドリゲスも貴族の典型例だったわ。


「でだ、そっちのお嬢さんは双子の妹ってところか?」


「はい、アイカと申します。以後宜しくお願いします」


 アイカに関しては詳しく説明しない方がいいだろうから、いつも通り双子の妹で通そう。

ブラードさんも勝手に妹だと思ってくれた事だしね。


「おう、宜しくな。ところでよ、さっきから物凄いプレッシャーを感じるんだが、何か召喚したんじゃないだろうな?」


 この人、玄人の感覚みたいなものでモフモフが居るって気付いてるの!?

さすがは元Aランクの冒険者ね、ちょっと予想外だったわ。

 って事で、隠し通すのは難しそうだから、モフモフに出てきてもらいましょうか。


「モフモフ、出てきていいわよ」


「へぃ姉御!」


 特殊迷彩(ステルス)を外して現れたモフモフ。

ブラードを驚かせないようにするため、直ぐ様モフモフを撫でるアイリ。

一瞬ブラードから殺気が放たれるが、アイリがモフモフを撫でてるのを見て、殺気を収めた。


「もしかしなくても、そいつはデルタファングだよな?」


 やっぱりAランクの冒険者っていうのは伊達じゃないわね。

一目でデルタファングだと看破されるとは思わなかった。


「ええ、その通りよ。って、あんまり驚かないのね?」


「いや、これでも驚いてんだがな。しかしデルタファングかぁ、こりゃ冒険者達にはキッチリと伝達する必要があるな」


 どうやらモフモフを連れて来たのは正解だったようだ。

これで多少はユーリのダンジョンも安全になる筈よ。


『だが闘いたい奴は相手になるぜ。命の保証はしねぇけどな』


「うおっ!? って念話かよ。そういやデルタファングは念話が出来るんだったか。まぁ命知らずなバカまで、面倒見るつもりはないさ」


 この後、一言二言話して冒険者ギルドを後に……しようとしたが、ギルマスの部屋を出てから出入口に向かう途中、美少女に有りがちの()()()()が待ち構えていた。

いや、自分で美少女って言うのもアレだけど。


「やぁ君達、この辺じゃ見ない顔だね。冒険者になったばかりかな?」


「ええ、そんなところよ」


 あまり関わりたくないので冷淡に返した……筈なんだけど、何故か食い下がってきた。


「それならさ、俺達が冒険者のイロハってやつを教えるぜ!」

「そうそう、だからパーティ組もうぜ?」


 先程からアイリ達をネットリとした視線で話しかけている男達。

彼等が言ってるイロハは、どう考えても色違いなのが想像出来る。

 ちなみにモフモフは再び姿を消してるので、彼等は認識していない。


「悪いけど、パーティメンバーは募集してないわ。他をあたってちょうだい」


 そもそも彼等が私とアイカを性的な目で見てるのに気付いてるので、(はな)から相手にしていない。


「いやいや、2人だけだと危険だよ?」

「だからさ、俺達と一緒のほうが絶体安全だって!」


 どう考えても彼等のほうが危険なので、当然お断りよ。


「結構よ。他行って」


 次第に不機嫌になるアイリだが、一向に諦める様子が見えない事にイライラが募り……、


「いい加減しつこいわよ!」


 私の叫び声に、周囲の冒険者の視線が集まる。

ナンパしてくるコイツらと私達を見て何となく事情を察したようだけど、私達を助けようとする者はいない。

 寧ろ暇潰しの見世物にされてる感じだ。

ギルドの受付嬢はオロオロしてるけど、冒険者同士のイザコザの為かどうする事も出来ない。


「その態度はいただけないなぁ! 素直に言う事聞かないってんなら、実力行使しかないよなぁ!」


 そう言ってアイリを掴もうとするが、既にそこにはアイリの姿はなく……、




「実力行使って事は、覚悟は出来てるんでしょうね?」


「んな!?」


 いつの間にか手首を掴まれ、捻られて痛がるナンパ冒険者がいた。


「イテテテテテッ!」


「おい、ガキが調子に乗るん……ブボェ!」


 別の仲間が掴みかかるけど、手が届く前にアッパーカットを叩き込んだ。


「て、てめぇいい加減……ゲブォ!」


 そして3人目は鳩尾で沈んだ。


 3人の冒険者が私1人に返り討ちにあう様を、周囲の冒険者は見ていた。

とても肉眼では追えない私の動きに、食い入るように見続ける冒険者達。

 だが残念な事に、1分も経たずに終了してしまったため、周囲から溜め息が漏れた。


「お姉様、鳩尾は危険です。下手すると、服が汚れますよ?」


 今思い出したわ、前もチンピラに絡まれた時に、鳩尾したら吐いた奴が居たのを。

 まぁそれは兎も角。


「そこの受付嬢さん?」


「ははは、はいぃ!」


「私は絡まれたから返り討ちにしただけ。いいわね?」


「はいぃーーー!」


 かなり強引ではあるが、受付嬢に問題ない事を確認し、ようやく冒険者ギルドを後にしたのだった。

 ちなみにその直後、ギルマスのブラードの口から、アイリがダンジョンマスターでSランクの魔物を眷族(けんぞく)にしてるという驚愕の事実を知らされたため、その場に居た冒険者達……主に男は、手を出さなくて本当に良かったと安堵した。

 一方でアイリに絡んでいった冒険者達は、顔面を真っ青にして気絶した。


 その様子を見て、ヤレヤレと溜め息をつくブラードの姿があったそうな。


アイカ「この街もラムシートの二の舞になりそうですね」

アイリ「いや、もう領主は捕らえられてるんだから大丈夫でしょ」

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