魔法少女
「只今戻りました」
「おかえり~」
アイカが15時前に帰ってきた。
アイカの事だからおやつの時間までには必ず帰ってくると思ってたけどね。
「お姉様、こちらはお土産です」
「お土産?」
お土産と言ってアイテムボックスから取り出したのは、1つのマントだった。
いったいどこで手に入れてきたのか……。
そもそもアイカは魔女の森を彷徨いてからダンジョンに戻ってきた訳だろうし、その魔女の森で…………ってまさか!
「ちょ、ちょっとアイカ、それって誰かの形見じゃないでしょうね? 行き倒れの冒険者が身に付けていた遺品とか……」
もしそうだったら冗談じゃないわ!
何かに取り憑かれそうで気味が悪いじゃないの!
「お姉様、何故怯えてるのか分かりませんが、森の中で拾ってきた訳ではありませんよ?」
「え……そうなの?」
「はい、このマントはエルフの里で貰った物ですので」
…………今、エルフって言ったわよね?
聞き間違いじゃないわよね!?
「アイカはエルフに会ったの? この魔女の森で!?」
「はい、意外にもこのダンジョンに近い場所のようですね。ただ通常は精霊の力が働いており入り込む事は出来ないのですが、極稀に入り込んでしまう事があるようです」
ふーーーん、つまりアイカは偶然入り込んでしまったから、エルフに会う事が出来たって訳ね。
それに割りと近くにある……ん? あ~これってやっぱり……、
「そのエルフの里はここから南にあるから、いずれグロスエレム教国に発見される可能性があるわね」
このダンジョンは見つかったところで問題ないけど、そのエルフの里はマズいと思う。
「ではいずれダンジョンに迎え入れるおつもりで?」
「そうねぇ……」
余計なお世話かもしれないけど、グロスエレムはダンジョンのみならず、亜人達にも容赦ないらしいからね。
「ほほぅ、アイカよ、中々面白い物を持っておるのぅ」
「おや、アンジェラもおやつを集りに来たのですか?」
「…………アイカと一緒にするでない」
(図星ね)
(図星ですね)
私はアイカと顔を見合わせると、互いに頷きあった。
「和菓子の詰め合わせを召喚したんだけど、アンジェラも食べる?」
「勿論じゃ!」
聞くまでもなかったと思うけど、和菓子に飛び付いた。
……って、アイカまで飛び付いてどうするのよ!?
「こらアイカ、アンタとは話してる最中!」
「お姉様、わたくしが食べてるのは最中ではなく最中です!」
ダメだこりゃ……。
「ところでアンジェラ、アイカの貰ったこのマントの事を知ってるの?」
「うむ、身に付けた者の姿を消すレアアイテムじゃな。その名も透明マントじゃ」
便利そうだけど、犯罪にも使われそうなアイテムね。
「まぁ、いつか使う時が来るかもしれないから仕舞っておきましょ」
「む? お姉様、ダンジョンバトルの申請が来てますが、いかが致します?」
とりあえず口周りに着いたあんこを拭きなさい。
「まずは相手を見てみましょ。通信繋いでちょうだい」
「畏まりました」
シーラ
『皆さーん、こーんにーちはー!!』
うるっさい……。
シャウトと共に壁面に映し出されたのは、いかにもって感じの魔法少女だった。
髪が緑色のショートカットで年齢は私と同じくらいかな~と思う。
アイリ
『……名前が見えるから不要かもしれないけど一応自己紹介するわ、私はアイリ。貴女は?』
シーラ
『僕の名前はシーラ、魔法少女シーラだよ。宜しくね!』
一人称が僕なんだけど、実は男の娘って事はないわよね?
一応聞いてみよう。
アイリ
『念のため性別を伺ってもいい?』
シーラ
『へ? 女だけど?』
うん、安心した。
シーラ
『さっそくなんだけど、僕とダンジョンバトルをしてくれるかな?』
アイリ
『まぁ内容次第ね。特設ダンジョンの構築にも手間がかかるし』
シーラ
『それなら大丈夫だよ。僕が提案するバトルはズバリ、宝探しだ!』
宝探しねぇ、そのフレーズには何となく引かれるものがあるわ。
「面白そうじゃありませんかお姉様、どうせ暇なんですし、受けてみてはいかがです?」
暇って言えば暇かもしれないけど。
「妾も賛成じゃぞ。要は隠された物を探し出せばよいのであろう?」
まぁそうなんだけどね。
アンジェラも乗り気ならやってみようかな。
アイリ
『そのバトル、受けるわ』
シーラ
『本当? みんなありがとーー!!』
だぁーーうっさい!
だいたいみんなって、誰に言ってるのよ!
アイリ
『分かったからシャウトは止めて!』
シーラ
『叫んじゃダメなの? まぁいいや、じゃあバトルの詳しい内容なんだけど……』
今回も使用するのは特設ダンジョン。
互いの眷族を1人だけ参加させる。
階層は3階層までで、モンスターや殺傷能力のある罠は禁止。
逆に別の場所に強制的に転移させられる転移トラップ等はOK。
互いに指定したアイテムを先に見つけた方が勝ち。
バトル開始は明日の朝10時から。
シーラ
『こんな感じでどう?』
アイリ
『問題ないわ。じゃあ申請受理……っと』
シーラ
『それじゃまったねーー!』
最後までうるさい魔法少女だった。
魔法少女ってみんなああいう感じなのかしら。
「お姉様、早く特設ダンジョンの構築にとりかかりましょう」
「はいはい。じゃあ眷族達を集めといて」
……そんな訳で、例のごとく眷族達をコアルームに集めたわ……レイク以外。
いや、私もね? 呼んだらいいとは思ったのよ? けどさ、呼んだところで寝てるだけなんだもん……。
だからレイクはいつも通り火山エリアでお昼寝中よ。
「……ってな感じで宝探しをする事になったんだけど、誰かやってみたい人いる?」
私は眷族達を順番に見渡したんだけど、まずモフモフは視線を逸らしたから無理ね。
アンジェラはキレイなジャ〇アンみたいに目をキラキラと輝かせてるけど、アンジェラを出したら即終了しそうで面白くないわ。
クロはどっちでもいいって顔をしてるけど、そういう曖昧なのが一番困るのよねぇ……あ、視線を逸らしたわね。
ザードは……この手のミッションには向かないからパス。
セレンは困った顔をしてるけど……パスした方が良さそうかな。
ホークは……、
「しゃあ、今日のワイもいけてるでぇ!」
コイツは鏡の前で何をやってるんだろうか?
作戦会議のために集まってもらったんだけど、理解してなさそうね?
正直人化の指輪を渡したのは失敗だったかもしれない……。
「ねぇホーク……」
「んーー、もうちょい髪を伸ばした方が良さげやな」
「ホーク!」
「いっその事、ワイルドにオールバックもええかもしれんなぁ」
成る程成る程……人の話を聞かずに身だしなみに夢中になってるようなアホには……、
「ホーーーク!!」
「ドワッシャーーーッ!! ななな、なんやアイリはん、ビックリするやないかい!」
「ないかい! じゃないわよ! アンタ人の話聞いてなかったでしょ?」
「そそ、そんな事あらへんあらへん……」
……間違いなく聞いてなかったわね。
「じゃあ明日のダンジョンバトルはホークに出てもらうから宜しくね」
「へ? ……ワイがやるんか?」
「そうよ? もう決めたから頑張りなさい。あ、ついでにダンジョン構築もお願いするわ」
面倒くさいからダンジョン構築も押し付けといたわ。
ホークならノリノリでやってくれるでしょ。
「はい、じゃあ解散解散。アイカはホークの相談にのってやってちょうだい」
「はい、その辺はお任せ下さい」
今回はホークに丸投げして観戦しよう。
負けたところで何もないし。
その肝心のホークはいまだにポカーンとしてるけど、まぁそのうち正気になるでしょ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ペルフィカ
『おはよう御座います、そして初めまして、わたくし天使族のペルフィカと申します、以後お見知りおきを』
シーラ
『はーい、宜しくぅ!』
アイリ
『はい宜しく』
昨日の夜には丸投げした特設ダンジョンは完成したらしく、その後ホークは再び身だしなみに夢中になっていた。
でも特設ダンジョンの中身は見てないから、それは今日のお楽しみね。
ペルフィカ
『ではまず、双方の目的のアイテムを提示して下さい』
アイリ
『じゃあ私からね。私のダンジョンに隠されてるアイテムはコレよ』
私は事前にホークから渡されてたアイテムをペルフィカさんとシーラに見せた。
ホークが隠したのは……、
ペルフィカ
『あのぅ、わたくし初めて見るアイテムなのですが、それは何なのです?』
シーラ
『あ~~、僕知ってますよソレ、前世ではテレビで見た事がありますんで。ハゲヅラって呼ばれてるヤツでしょ?』
シーラは知ってたみたいね。
その通り、ホークが隠したのはハゲヅラ。
よく加〇茶が着けてるアレよ。
というか私としては、シーラが転生者だとあっさりカミングアウトしたのが驚いたけども。
アイリ
『それよりもシーラは転生者ってバラしてよかった訳?』
シーラ
『別に問題ないよ? ダンジョンマスターって転生者が多いらしいから、僕が知り合った人達には明かしてるんだよ』
これは新事実発覚ね。
ダンジョンマスターは転生者が多いんだ……。
ペルフィカ
『ハゲヅラですか……念のため伺いますが、コレはどのように使用するのでしょう?』
アイリ&シーラ
『被るんです』
ペルフィカ
『へ?』
アイリ&シーラ
『被るんです』
ペルフィカ
『はい?』
アイリ&シーラ
『被るんです』
ペルフィカ
『……人前でですか?』
アイリ&シーラ
『勿論です!』
ペルフィカ
『え~、はい、分かりました。あまり深くは聞かない事にします』
そうね、異世界の人達にハゲヅラが理解出来るか分からないしね。
シーラ
『次は僕の番だね。僕が隠したのはコレさ』
そう言って見せてきたのはボーリング球サイズのオーブだった。
ペルフィカ
『これは……オーブですね、分かりました。では最後に互いに代表の眷族にダンジョンへ出てもらいます…………はい、宜しいですね? ではカウントダウン、スタートします』
私のホークとシーラの眷族がそれぞれ相手のダンジョンのスタート地点に移動する。
ペルフィカ
『0! バトルスタートです!』
さて、それぞれ1階層からスタートしたけど、1階層に目的のアイテムが有るとは考えにくいわね。
素早く3階層に移動して捜索した方が効率が良さそうだけど、ホークはどうするかな?
「お姉様、ホークに指示を出さなくても宜しいのですか?」
「今回はホークに一任するから特に指示を出す事はしないわ」
何も賭けてないからっていうのもあるけど、眷族の判断力を養うにはちょうど良いかなと思ってね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「相手も中々やるやないか、こりゃ一苦労やでぇ」
ホークが挑んでるダンジョンは、巨大な迷路だった。
この迷路を突破した先に目的のアイテムが有ると思われる。
「さーて、さっそく別れ道やが、ワイの特殊能力を披露したろ!」
ホークが意識を集中するとホーク自身が分裂し、数が増えていく。
「ワイの固有スキル分体演舞や。このスキルは己の数を増やして相手に襲いかかる事が出来るスキルなんや。特に相手の数が多い時等に使用するなぁ。今回は捜索やが、当然このスキルが役に立ちまっせ!」
ホークの固有スキルにより今現在は30人のホークが迷路内を突き進んでいる。
本来分体演舞は、数を増やせば増やす程ホーク自身の能力は落ちるのだが、今回に限っては戦闘が発生しない為、好きなだけ増やせるのである。
「さぁ行くでぇ!」
「「「「よっしゃあ!」」」」
更に数を増やし、100人体制になったホークは非常にウザ……失礼、非常で異常なスピードで迷路を走破して行った。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「………………」
一方こちらはシーラの眷族であるプロトガーディアンのユウスケは地道な捜索を行っていた。
プロトガーディアンとは、ゴーレムを簡易に作ったもので、Dランクの魔物と同等の強さを持っている。
「マスター、目標物を発見しました。我々の勝利です」
「え? もう見つけたの!? でもなんでこんな近くに隠したんだろ?」
僕のユウスケが先に発見したと聞いたから最初は喜んだんだけど、スタート地点の側に隠してあるなんて普通は考えなれない。
シーラ
『ペルフィカさーん、発見しましたよ!』
ペルフィカ
『え? もうですか!?』
シーラ
『はい、コレです』
ペルフィカ
『コレはまさに…………違いますね』
シーラ
『ち、違うんですか? 同じように見えたんですが……』
見た目は同じハゲヅラにしか見えないんだけど、どこか違うんだろうか?
ペルフィカ
『その件に関してですが、アイリさんから伝言を授かってますので伝えますね』
伝言? ヒントでもくれるのかな?
ペルフィカ
『ソレらしきアイテムを見つけたら眷族に被ってもらえば判別出来るそうですよ』
シーラ
『は、判別、ですか……』
いまいちよく分からないので、とりあえず眷族のユウスケに被ってもらおう。
「ユウスケ試しにソレを被ってみて」
「了解しました……」
「ブッ!」
へ? 今の音って……何?
ペルフィカ
『まぁそんな感じで、違ってたらオナラの音が出るみたいですよ。いや、わたくしとしても、オナラの音はどうかなって思いますけども』
シーラ
『な、何なんですかソレーーーっ!!』
今までのダンジョンバトルはどれも楽しいものでしたが、まさかこんなに恥ずかしいバトルが発生するなんて思いませんでした……。
アイリ「あのハゲヅラを召喚したのはアイカよね?」
アイカ「……ノーコメントで」




