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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第2章:ダンジョンバトル
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アイカの家出騒動

 アイリのダンジョン15階層の平原エリア。

この階層はアイリのお気に入りのため、朝になると日課のように訪れていた。

 今も朝の清々しい雰囲気を醸し出「アイカーーーッ! 出てきなさーーーい!」


「お姉様、ここにアイカは居ませんよ!」


「なるほど、分かったわ~」






「とでも言うと思ったかーーーっ!」


「そ、そんなバカな! 何故バレてしまったのです!?」


「自分の胸に聞いてみなさい!」


 ………………。


「お姉様、成長期だからと油断してたら、貧乳のまま大人に成ってしまいますよ?」


「じゃっかぁしぃい! ファイヤーボール!」


「ウォーターカーテン! フフフ、まだまだ甘いですねお姉「とぉ!」アダッ!」


「まったく、手こずらせるんじゃないわよ!」


 ズルズルズル…………。


「お、お姉様、落ち着いてください。話せば分かります! ついでに服が汚れます!」


「分かるわけないでしょ! もう今日という今日は絶対に許さないんだからね!」


「お、お姉様、なにとぞお慈悲を!」






 死闘の末アイリに捕まったアイカは、どこかへ引きずられていく。

 そんな二人の様子を遠くから眺めてる眷族(けんぞく)たち。

その表情は【まーたやってるよ……】という呆れた顔であった。


「アイカはいったい何をやらかしたのじゃ?」


「姉貴が召喚した唐揚げに、勝手にレモン汁をかけたらしいッスよ?」


「……くだらんのぅ」


 アンジェラのように味覚に大雑把な眷族からしてみれば実にくだらない話なのだが、当人たちにとっては大問題であった。


「この前はアイリはんがアイカはんのプリンに醤油を垂らしてたのを見たで。多分その仕返しやな」


「それもどうなんスかね……」


 話を聞いてる限り、どっちもどっちだなとクロは思った。


『あー皆聴こえる? アイカから重要な話があるからコアルームまで来てちょうだい』


「重要な話って、なんスかね?」


「んなもんお前、行ってみりゃ分かるだろ」


 とりあえず命令通り動くモフモフ。

それにクロや他の眷族たちも続いた。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「わたくしアイカは今日限りで故郷(くに)へ帰らせていただきます」


 アイリと眷族たちの前で堂々と宣言するアイカ。

そのアイカの身に何があったのか……。


 ぶっちゃけ大した理由ではないのだが、アイカがアイリと喧嘩した末の流れでそうなっただけである。


「国とはどこの国のことかのぅ?」


 ()()という字が微妙に違うのだが、アンジェラは分からなかったようだ。


「帰るってもアイカの姐さんはここのダンジョンコアだよな?」


 モフモフの言う通りアイカ本体はダンジョンコアなので、遠隔操作(えんかくそうさ)で操ってる自動人形(オートマタ)で外に出る以外方法がない。


「なんやなんや、アイカはんはどっか行きたい国でもあるんかいな?」


 ホークは単純にアイカが旅行にでも行くのではと考えた。


「故郷か……良い響きでござるな」


 ザードはザードで故郷というフレーズに惹かれるものがあったらしい。


「ああなるほど、旅行ッスか~」


 ホークの歪曲された言葉でアイカが旅行に行くと思い込んだクロは旅行するのもいいな……などと考えている。


「お土産は~、忘れずに~、宜しく~♪」


 セレンの中ではアイカは完全に旅行に行くという話になっていた。


「zzz…………」


 そしてレイクは寝ていたので話を聞いてなかった。


「そんなわけで、アイカは出掛けてくるから。はい、解散解散」


 私は手をパンパンと叩いて眷族たちに解散を促した。

それを見た眷族たちは各自で散らばっていく。

 レイクは寝たまんまだけど……しょうがないから放っておこう。


「あの……反応が薄くないでしょうか?」


 アイカは割と本気で家出を考えてたっぽいけど、本体(ダンジョンコア)を持ち出さない限りそれは不可能よ。

 そしてアイカ自身、自分に不利益になる行動は行えないので、ダンジョンコアの持ち出しは不可能となるわけ。

 つまり、アイカ本体はどこにも行けませんってことなのよね。


「だから、反応が薄いのは当たり前なの。じゃあアイカ、晩御飯までには戻るのよ」


「…………」


 こうなっては今更後には引けない。

そう思い、アイカは一大決心をした。






「3時のおやつまでには帰ります!」


 やはりアイカの本能は変わらなかった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 とまぁそんなわけで、わたくしアイカはダンジョン周辺の森の中を彷徨ってるのです。

ですが幸運なことに、魔物一匹出くわすことはありません。

まるで誰かに狩り尽くされたかのような感じさえします。

まぁそれが逆に不気味なのですがね。


 それはともかく、ダンジョンを出てから目的もなく適当に移動してたので、わたくしの現在地がわかりません。

 聞く人が聞けばただ迷ってるだけだろうと思うかもしれませんが、現実は違います。

ダンジョンコアとのリンクがあるので、ダンジョンの方向は分かるのです。

分かるのですが……、


「さっきから同じ場所をグルグルと回ってるだけで、一向にダンジョンに近付けません」


 いったいどういうことなのでしょうか?

自動人形(オートマタ)には異常は見当たらないので、この辺りの森がおかしいのでしょう。

そういえば、只今の時刻は……、


「11時55分……ですか」


 スマホを見ると、もうすぐお昼の時間です。

 これはいけません、わたくしとしたことがお昼御飯のことをすっかり忘れてました。

どこか手頃な場所でランチタイムとしましょう。


「さて、どこか開けた場所に……おや? この反応は……」


 遠くからこちらに近付いてくる生命体が感じられますね。

その数は2つ……いや、3つになりましたか。


 この感じだと、後に感知した生命体から前者の生命体2つが逃げてるように思います。

となればやることは1つ!


「実物を拝見してコンタクトが可能なら、この森から脱け出す方法を聞いてみましょう」


 この森のことについて知ってる可能性があると考えたアイカは、それらの生命体に接触するため動き出した。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 アイカの居る場所より少し離れたところでは、今まさに生きるか死ぬかの瀬戸際に追い込まれている二人の少年少女が、鬱蒼(うっそう)と生い茂る木々の間を縫って走り続けていた。


「ね、ねぇデューク、もう走れないよ……」


「バカ言え! ここで立ち止まったら生きて帰れないぞ!?」


 デュークと呼ばれてる少年が時々後ろ振り返りながら走ってるのだが、その振り返った先では1頭の虎のような魔物が追ってきていた。


 何故このようなことになったのかと言えば、この二人が自分たちの住んでる里から離れた過ぎたためだ。

 普段から出てはいけないと里の者たちから言われていた領域を出てしまい、幸運にも魔物と接触することがなかった彼らが、さらに足を延ばしてしまうのは当然の結果だった。


 そのせいで虎の魔物のテリトリーに入ってしまった彼らは、そのまま鬼ごっこを開始したのである。


「も、もうダメ、デュークだけ逃げて」


「バカやろう! ミレイを置いてくなんて、そんなことができるわけないだろ!」


 やがてミレイと呼ばれてる少女は足を止めてしまい、デュークもその場に止まった。

 するとそこへ、ようやく追い詰めたと思った魔物がゆっくりと近付いてきた。


「くそっ、ミレイは俺が守らないと……」


 そう言ったデュークの足はガクガクと震えていたが、構えた弓矢は真っ直ぐ魔物に向いている。

 そしてデュークは祈りを込めて矢を放つ。

上手く命中すれば再び逃げる隙ができるかもしれない……そんな考えのもと放たれた矢は、一直線に魔物向かって飛んでいく。




 が!




「デューク、危ない!」


「えっ?」


 魔物は何の障害にもならないとばかりに、矢を飛び越えてデュークに襲いかかってきた。


「グガァァァァ!」


「グェッ!」


 勢いよくタックルを食らったデュークは、数メートル先の草むらに飛ばされてしまった。

更に飛ばされた時に弓矢を手離してしまったので、今のデュークには武器と言える物が手元に無かった。


「デューク!」


「く……そぉ……」


 デュークは何とか立ち上がり魔物を睨みつける。

その睨みつけられてる魔物は、ミレイとデュークを交互に見比べると……、




「ミ、ミレイ、逃げろぉ!!」


 最早デュークは脅威ではないと判断し、先にミレイを仕留めると決めたのだ。


「デュ、デューク……」


 完全に腰が抜けてしまっているミレイがどうこうできるわけもなく、ゆっくりと口を開けた魔物から顔を覆って万事休すと思われた。


 だが次の瞬間。






「ギュグゴゥアグゥガァギャオォォォ!!」


 突然魔物が苦しみ出したのである。


「ヒ、ヒィィィィ!!」


 そしてそれを見たミレイは、更なる恐怖にかられ叫び声をあげた。


「な、何が起こってるんだ?」


 だがミレイの叫び声で逆に冷静になったデュークは、マジマジとその様子を見る。


 だが見たところで何も分からなかった。

ただ分かったのは、一時的に延命できたという事実のみだ。


「ふむふむ……Dランクのスナイプタイガーですか……ま、クロと同等だと考えれば大したことはありませんね」


「えっ!?」


 突然少女の声が聴こえたと思うと、いつの間にかミレイの側に知らない少女が居るのに気が付いた。

 そしてその少女はミレイに手を差し出し助け起こしたのだった。


「わたくしはアイカと申すものですが、お怪我は有りませんか?」


「え!? あ、はい、えーと私はミレイって言います。あ、その、助けていただいて、えーと……ありがとうございます!」


 目の前のアイカという少女が自分たちを助けたと分かったので、慌ててミレイは礼を述べた。

慌ててたので、カミカミな口調になってしまいながらだが。


「いえいえ、大したことじゃありません」


 相手は謙遜してるのかどうかいまいち分からない感じで返事をしてきた。

 と、そこへようやく理解が追い付いたデュークが駆け寄り礼を述べる。


「俺はデュークって言うんだ。ありがとう、助かったよ!」


「いえいえ、先程も言いましたが大したことはしてませんので」


 正直デュークとミレイは、自分たちと同じくらいの年の少女に救われたのがいまだに信じきれてなかったのだが、事実として救われてるので認めるしかない状況だった。


「と、ところでさ、その魔物……スナイプタイガーって名前だっけ? ソイツに何が起こったんだ?」


 先程まで自分たちを追い詰めていた魔物が、今は白目を剥いて倒れている。

それを見たデュークは興味津々に尋ねた。


「話してもいいのですが、1つお願いがあります」


「お願い? 俺たちにできることなら聞くぞ?」


「どうやら道に迷ってしまったらしいので、森の脱け出し方を伺いたいのですが」


 それを聞いたデュークとミレイは、森のことに詳しい長老達なら何か知ってるかもしれないと思い立ち、アイカを里に案内することに決めたのだった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「もう少しで俺たちの里に着くぜ!」


 あのスナイプタイガーを仕留めた場所から30分ほど経ってますが、これくらいなら彼らの里はお姉様のダンジョンに割と近いのでしょうね。


「そうですか。しかし、この森に()()()が居るのは知らなかったですね」


 今わたくしが言った通り、彼らはエルフでした。

そもそも彼らの特徴的な耳を見れば分かるのですが、一応鑑定スキルをかけてみると、やはりエルフと出てきました。


「そうなのか? 割と有名だと思ったけど」


 それは少し妙ですね、ダンジョン通信で色々と情報を集めてますが、魔女の森にエルフの里が存在するとは聞いたことがありません。

 もしかしたら、彼らの里と外部の者たちとの認識にズレがあるのかもしれませんが。


「あ、そうそう、さっきのスナイプタイガーって魔物なんだけどさ、アイカはどうやって奴を倒したんだ?」


「あ、それは私も気になる! あんなに強そうだったのに、簡単に倒しちゃうんだもん」


 デュークとミレイは余程気になるようですね。

 まぁ隠すようなことでもありませんし、答えてあげるとしましょう。


「少々特殊なアイテムを使ったのですよ。そのアイテムをスナイプタイガーの口の中に()()放り込んでやりました」


「「特殊なアイテム?」」


「分かりやすく説明すると、舌が焼けるほど滅茶苦茶辛い薬を食べさせたのです。その辛さに耐えられず、スナイプタイガーは気絶してしまったというわけです」


「へぇ~、凄い薬があるんだなぁ……」


 まぁ()()()はイグリーシアには存在しませんからね。

 以前ホークがヤゴレーを歓迎(拷問)した際に使用した練りワサビの余りが大量にありましたからね、それを纏めて放り込んでやったというわけです。

その薬味を味わうことができたスナイプタイガーは幸運だと思いますよ、この世界でお姉様の和心を堪能できたのですから。


 一応補足するが、スナイプタイガーは決して和心を学びたかったわけではない。

それどころか、練りワサビのチューブ9個を一気に食わされるという間違った使用方法をされた犠牲者であった。

こうしてスナイプタイガー自身も知らぬうちに、和心と共に天に召されてしまったのである。

 ちなみにだが、スナイプタイガーはアイカのアイテムボックスに収納済みである。


「お、見えた見えた。アイカ、あそこが俺たちの里だよ」


 デュークの指した方向には、簡素な家屋が幾つか建ってるのが見えます。

そしてその手前では、武装したエルフが入口を塞ぐように立ってるようです。


 さてさて、何事も起こらなければいいのですがねぇ。


クロ「なんかディスられた気がするんスけど……」

アイカ「…………気のせいですよ?」

クロ「その間は何なんスか!?」

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