閑話:ジャガイモVSサツマイモ
それは何気ない日常の晩御飯での出来事だった。
最近は新たな趣味として料理に手を伸ばし始めたアイカにより、時折ごはんが手料理になることは珍しくはない。
今日も「晩御飯はわたくしが作ります」との一言によりアイカに任せていたんだけれど、これが逆に良くなかったのよ。
時間はアイカのつくったカレーを口に運ぶ前に遡るわ。
「あ、凄くいい匂い。今夜はカレーね!」
「はい。さすがにカレーは匂いだけで分かりましたね」
カレーが好きな人は多いでしょうね。
私もその一人で、何と言ってもあの匂いが食欲をそそるのよ。
ちなみに私の好みは中辛ね。
「出来ましたよ。甘口、中辛、辛口の全てが出揃いました」
「「「おおっ!」」」
待ちわびた眷族達が皿を片手にカレー鍋へと殺到する。
「待ってましたやでぇ! ワイの辛口カレーに一番乗りやぁぁぁ!」
「ホーク、テメェ!」
「ちょ、ホーク、かけすぎッスよ!」
「これ落ち着きなさい。アイリ様の前ではしたないですぞ?」
辛口に群がったのは、ホーク、モフモフ、クロ、リヴァイの4名。
男連中なら分かる気もする。
「まったく、はしたない連中ですわね。私はバランスのとれた中辛をいただきますわ」
「某も中辛を」
「前は甘口だったし、今回は中辛にしてみよっと♪」
「何だかんだと、わたくしも中辛ですね。はい、お姉様」
「ありがとアイカ」
中辛は、私とアイカ、それにギンとザートとメリーの5名。
「ふむ、今日は甘口にチャレンジしてみるかのぅ」
「私も~、甘口で~♪」
「お菓子もいいけど――」
「カレーもよろしく」
「余ったルーはオイラが貰うどぉ!」
甘口は、アンジェラ、セレン、ルー、ミリーの4名。
甘口なだけあって、女性陣が中心ね。
レイクは……まぁ何でもいいみたい。
「お姉様、全員席に着きました」
「じゃあ作ってくれたアイカに感謝して――」
「「「いただきま~す!」」」
うぅ~ん、やっぱりカレーは美味しいわ!
それこそ一週間はカレーでも飽きないくらいよ。
そんな至福の時を味わっていたその時!
パクッ……
「……うっ!?」
な、なにこれ!? とてつもない甘さが口の中を駆け巡る!
私はジャガイモを噛んだはずよ!?
「あまーーーーーーい! なんやねんアイカはん、甘過ぎるでぇぇぇ!」
「そういや妙に甘いような……」
「アニキ、多分サツマイモのせいッス! このカレー、ジャガイモの代わりにサツマイモが入ってるッスよ!」
「なんと! カレーにサツマイモを使うとは、血迷うたかアイカ!」
これは酷い。
カレーにサツマイモとかどんな冗談よ!
「アイカさん、これは少々バランスがおかしいのではなくて?」
「ふむ、これはこれで興味深い味わいでござるな。某に不満はござらん」
「私も嫌いじゃないわね」
え? ザート、メリーはどうして平然としてられるの!?
普通はギンのような反応にならない!?
「妾は気にならんがのぅ。そのように目くじらを立てる必要もなかろう」
「より甘くなって~、ナイスです~♪」
「ルーは甘いの歓迎する」
「ミリーも右に同じ」
「? 食わないならオイラが貰うどぉ?」
甘口派に至っては話にならない。
かといって、このまま甘いですね~で済ませるのも納得がいかない。
まずは原因を作ったアイカに聞くしかないでしょ。
「どういう事なのアイカ? 場合によっては骨肉の争いに発展するわよ!?」
「ジャガイモが切らしてたからサツマイモを使っただけですが……それがなにか?」
ほぅほぅ、それがなにか……と。
どうやらアイカは事の重大さを理解してないらしい。
ジャガイモの代わりにサツマイモですってぇ? そんなのホークが真面目キャラになるくらい有り得ないわよ!
「聞きなさいアイカ。ジャガイモとサツマイモは似て非なる物なの。この二つをイコールで結びつけるのはナンセンスよ!」
「……ほほぅ、わたくしの料理にケチをつけると仰るので?」
「ええ、そうよ。これならレトルトのカレーの方が100倍マシよ!」
カチン!
「わたくしの料理がレトルトに劣ると!? どうやらお姉様は味覚障害のようですね。この先の人生でも苦労することでしょう」
カチン!
「だ~れ~が~味覚障害ですってぇぇぇ!?」
「もちろんお姉様の事ですが?」
くぅ~、アイカのくせに生意気ね!
そこまで言うなら徹底的に闘ってやろうじゃないの!
「あの~、なぜ夜間にあたし達は呼ばれたんでしょう?」
「ですです。これから晩酌の予定だったのです」
「それよりカレーの匂いが充満してるじゃない。ちょっとは換気したら?」
「あ、いいないいなぁ、ボクもカレー食べたかったよ~」
「くぅぅぅ、カレーの匂いが腹に響くぜ」
急遽連れてきたのは魔法少女、ユーリ、メイプル、リゼット、シーラ、ヒカリの5人組。
ルールは簡単、この5人にもサツマイモカレーを食わせて、ずばり有りか無しかを決めちゃおうというもの。
何故この人選かというと、彼女達は元日本人の転生者だからカレーについてはイグリーシアの誰よりも詳しいという理由からね。
だってこの世界の人達にカレー食べさせたら、例えサツマイモカレーでも美味しいって言うに決まってるし。
「今からカレーを出すから、美味しいか美味しくないかを正直に言ってちょうだい」
「お、カレー食えんの? ラッキー♪」
「カレーを頂ける!? は、早く出してください! ハァハァ……」
ヒカリはともかく、ユーリは相変わらず極貧生活を送ってるのね……。
「こちらがわたくしのお手製カレーになります。遠慮なくどうぞ」
「ホ、ホントにいいの? じゃあさっそく、いっただっきまーす!」
「待ちなさいよシーラ、ちゃんとみんな揃ってから――」
「あちらの2人はすでにガッついてるですよ?」
「アイツらは半分女を捨ててるみたいなもんだから真似したら駄目!」
「そんな怒ってないでリゼットもさっさと食べなよ。タダでカレーを食べれるとか何かの罠かと思ったけど、普通に美味しいよ?」
シーラは中々鋭いわね。
問題はその罠を噛み砕いた直後の反応なのよ。
「ハァーーーうんめぇぇぇ! やっぱカレーは最高――ンガッ!?」
「? どうしたんですかヒカリさん?」
「こ、このジャガイモ……」
いまだ普通に食べてるユーリとは反対に、ヒカリは罠を噛み砕いたらしい。
「フグッ!? こ、この歯触り……これは焼き芋の時と同じような……」
「ちょっ、これジャガイモの代わりにサツマイモが入ってるじゃない!」
「や、やっぱりぃぃぃ! 絶対罠だと思ったよーーーっ!」
「ちょっとアイリ、どういうつもりよ! 場合によっては戦争になるわよ!?」
「…………」
シーラもリゼットも私と同じ反応ね。
ひたすら黙々と食べてるメイプルの反応は伺えないけれど、ここらでネタばらしといきますか。
「実はね、私もそのカレーを食べたのよ、ついさっきね。そうしたら――」
そして私の口から恐るべきアイカの行動を告げてやったら……
「アイカてめぇ、カレーにサツマイモぶちこむたぁどういうつもりだ!?」
「そうだよ! せっかくの中辛が甘口に早変わりしたじゃないか!」
「鬼! 悪魔! 鬼畜! 全世界のカレー好きに謝んなさい!」
「何をそこまでムキになるのです? たかがジャガイモとサツマイモの違いじゃないですか。皆様がジャガイモに拘る理由がよく分かりませんね。お三方もお姉様と同じく味覚障害なのでは?」
「「「んなわけあるかーーーっ!」」」
ヒカリ、シーラ、リゼットの反応が普通なのよ。
やっぱりアイカがおかしいんじゃない。
「甘いのは大歓迎です。おかわりです♪」
「あのぉ……あたしはサツマイモでも構わないので、タッパーに詰めて持ち帰らせてくれません?」
たま~にメイプルのような変わり者がいるのは仕方ない。
これでどっちが正しいかはっきりしたわね!
ちなみにユーリ、欲しかったら鍋ごとあげるわ。
「どうアイカ? これでアンタがおかしいって分かったでしょ?」
「そんな……サツマイモに何の恨みがあるというのです!?」
寧ろサツマイモにとっては不本意な使われ方でしょ……。
これで理解してもらえてら助かるんだけれど――と思った次の日!
「朝食です」
――と言って出された朝食は、蒸かしたサツマイモにバターが添えられていた。
「いい加減にしなさいよアイカーーーッ!」
※この閑話は作者の体験した過去を元に作られています。
それとは別に、続編のお知らせです。
主人公の学園生活編を連載中で、【誘われしダンジョンマスター・華麗なる学園生活】でアイリが四苦八苦しております。
目を通していただければ幸いです。




