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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
最終章:落ちこぼれ勇者とエリート学生
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閑話:七夕

「アイリは~ん、見ておくれやす~!」


 晩御飯後のマッタリとしたリビングに、お調子者のホークの声が響く。

 というか前にも言った気がするけれど、このチャラ男は時々関西弁と関東弁が混ざってるのよね。

 ま、無害だから放置してるんだけど。


「……で、何を見てほしいって?」

「今回はとびっきり素晴らしい大発見やで。是非とも皆に見てほしいんや!」


 ふ~ん? 何を発見したのかしらね?

 自信満々に手にしてるのはDVDのようだけど、どうせ情報源は私の世界からだと思う。


「じゃあ皆を呼んでくるけど、つまらなかったらアンジェラにボコッてもらうからね?」

「そいつは堪忍やでぇ……」




 んで、さっそく念話で皆を集めた。


(しゅ)よ、何やら面白い催しがあると聞いたが本当か? 妾はドキドキワクワクな激しいバトルを所望するぞ!」

「ほほぅ、ここ最近は平和ですしバトルというのもいいものですなぁ」 

「姉御、早いとこカチコミに行きやしょうぜ!」

「うむ、某の剣術を披露するまたとない機会で御座るな」


 ……どうしてアンタらの思考は()()()に振り切れるわけ? 毎回フォローする私の身にもなってちょうだい。

 しかも今回はリヴァイまで……。


「あのね……何も面白いっていうのはドッタンバッタンと戦うのだけじゃないのよ? もっといろいろとあるでしょうに」

「その通りです! スイーツを差し置いて面白い存在などあり得ません!」

「「そーだそーだ」」


 まったくよね――




 スイーツ?


「ちょっとアイカ、面白いと美味しいは意味が違ってくるん――」

「何を(おっしゃ)いますか! 美味しいは正義! スイーツは正義! スイーツ・ザ・ジャスティスです! よろしいですね!?」

「……いやだから――」

「「お・菓・子! そ~れお・菓・子!」」

「……うん、もう面倒だからそれでいいわ」


 アイカだけでもうるさいのにゴーレム姉妹まで加わって、収拾がつかなくなりそう……。


「オラは美味しい物さ食えれば何でもいいどぉ~!」


 まるで5ヶ月ぶりに目覚めたかのようにレイクの目が生き生きとしてるわ。

 こうしてみると全然ブレないわねコイツら……。


「アイリ様~、面白いと言えば~、女性視点なら~、美容に関する話題かと~♪」

「そうですね。私たちにとっては美容は永遠のテーマではないかと存じます」


 おっと、この二人を忘れてた。

 セレンとギンは普段から人化してるから、ある意味当然の思考だと思える。


「美容ねぇ。私には縁が無かったわね」


 そして気付けばそこにいたメリー。

 だいぶ前にアイカが勝手に召喚したらしく、私が学園から帰ってきたらメイド服を着て掃除してたのよね。


 あの時は本当にビックリしたわ。

 私メリーさん、今部屋の掃除をさせられているの――とか言ってるくらいにして。

 それに妙に声が私に似てるのもあって二度ビックリよ。


「? マスター、私の顔に何か付いてる?」

「ううん、なんでもない」


 すっかり馴染んでるし気にしないでおこう。


「――それよりホーク、全員揃ったんだからそろそろ始めてちょうだい」

「了解やで!」


 早くしろという皆の視線を受け、なぜか誇らしげなホークがDVDをセットする。




「あれ? まさか姉貴、俺の事忘れてるんじゃ……」


 哀れなクロをよそにDVDが再生され、談話室の壁に設置されたスクリーンに映し出された映像は……




「さぁみんなぁ! 今年もナツ~いアツがやってきたぞーーーぅ! 第17回、ドキッ! 水着ギャルオンリーな水上対決! 勿論ポロリもモロリも盛り沢山の、漢の皆は大注目じゃないかーーーい!」




 バキッ!




「……すまん、再生するやつ間違えたわ。というかグーで殴るのは酷いんとちゃうん?」

「ちゃんと確認しなかったアンタが悪いのよ、このドアホ!」


 つ~か勝手に変なの録画すんなっての!


「ねぇマスター、ポロリって何?」

「ねぇマスター、モロリって何?」

「モロに涙目になって涙がポロリと零れ落ちる事を指すのよ。今のホークみたいに」

「「なるほど!」」


 何とか誤魔化せた。

 このゴーレム姉妹はいつも際どいところを攻めてくるわね。

 それからクロ、「それ、違いますよね?」って顔をしない! 言ったらお仕置きよ?


「おぉイツツツ……。今度は大丈夫やさかい、拳握るのは勘弁してぇな……」

「それは映像を見てからよ」


 いつでもホークを殴れる体勢をとった私をよそに、新たに用意されたDVDが再生される。

 そこに映されたのは……




『――というわけで今回の七夕は、こちらの幼稚園に来てみました! 皆さーん、こーんにーちはーっ!』

『『『こんにちはぁぁぁ!』』』


 ふ~ん? 意外に普通の映像ね。


『じゃあ今から順番に聞いてみたいと思いま~す。キミはどんな願い事を書いたのかな?』

『お金持ちになりますようにって書いたよーーーっ! お金があると、パパもママも喜ぶんだってーーーっ!』

『おお、偉い偉い! ――じゃあキミは?』

『パパとママがもう一度一緒に暮らしますようにって……』

『せ、切実ね……。コホン、こっちのキミはどうかな?』

()()()()()()()()()が、多くの人にも見えますようにって。――ほら、お姉さんの隣にいるでしょう?』

『イヤァーーーーーーッ!』


 ああ、なるほどね。

 ホークが言いたい事が分かったわ。


「つまり願い事を書いて、お祈りしたいって事よね?」

「チッチッチッ、それじゃただの七夕でんがな。ワイのやりたいのはこういうやっちゃでぇ!」


 シュババッ!


 ホークが勢いよく壁紙を張り付けると、七夕ゲームというオリジナルゲームの解説が書かれていた。

 七夕ゲーム? ええっと……。


「ふむふむ……ほうほう、つまり用意した短冊の中から抽選で誰か一人の願いが叶えられるって事ですね?」

「そういうこっちゃ!」


 読もうとしたらアイカが読んでくれた。

 

「ゲームなのはいいけど、これって私に叶えろって言ってるのよね?」

「せやで? 皆の無茶ぶりを叶えられるんはアイリはんしか居らへんねん」

「むぅ……」


 そう言われればそうかもねぇ。

 だけど一つだけ看過できない事がある。


「私が当たったらどうするの? 自分の願いを自分で叶えるなんて、つまんない事はしたくないんたけど?」



 刹那、アイリ以外の全員の時が止まる。

 このままでは七夕ゲームができない――そう思った皆は団結し……


 バシッ!


「アダッ! 何しますねん!」

「アンタが変なナレーション入れてるからよ、この鳥頭!」


 とは言え、このまま何もしないのもシラケるし、今回は私が主催ってことで我慢しよう。




「さぁさぁ皆の衆、願い事は書き終わったかいな?」

「そういうアンタは書き終わったの?」

「勿論や。ワイにも願い事の一つや二つはあるさかいな、バッチリ書いたったで!」


 ホークが短冊を見せつけてきたので遠慮なく拝見してみる。


「どれどれ……」


 【ワイのネタ帳を編集して短編小説にしてくれるレーベルに出会えますように】


 ……これ、私じゃ無理よね?

 それとも私に探せってことだろうか?

 

「とりあえずホークの願いが叶うことはなさそうね」

「そんな殺生な!」


 だったら私に出来る願いにしなさいよ、ったく……。


「ホークは考えなしなところが有りますからね。その点わたくしは、キチンとお姉様に叶えられる願いにしましたよ」

「それならいいわ。ちなみにどんな願いを書いたの?」

「わたくしの願いはこれです!」


 【世界に二つとない、まぼろしのスイーツを食したい】


 ……まぼろしって言うからには、アイカが知ってるスイーツじゃダメよね?

 でも地球産のスイーツなら大量にあるだろうし、何とかなるかも。


「それならオラの願いも頼むどぉ~」


 うん、何となく想像できるけど、一応レイクの願いも見てみよう。


 【安眠枕が欲しい】


 おっと、これは予想外だったわ。

 てっきり食い気でくると思ってたのにね。


「安眠枕ならよく眠れるって聞いたど」

「普段からよく眠ってると思うんだけど、それ以上寝るつもりなの……」

「まったくですな。そんなに眠りたいのなら、わたくしめに任せてくれれば――」


 いやいや、リヴァイがやったら永遠の眠りについちゃうから絶対ダメよ。


「そういうリヴァイはどんな願いを?」

「こちらに御座います」


 差し出された短冊を受け取ると、そこには目眩がしそうな内容が書かれていた。


 【もっとやり甲斐のある仕事を!】


 今でも充分過ぎることをやってもらってるのに、これ以上仕事させたら私がダメ人間になりそうよ。

 もしリヴァイが当たったら、テキトーに仕事を振って誤魔化そう。


「私達は~、これです~♪」

「これは女としては当然ですわ」

「私もーーっ!」


 セレンとギンとメリーの三人から見せられたのは、ある意味納得できるものだった。


 【美容を永遠に保てる化粧品】


 納得はできるけれど、エンチャントしないと作れそうにないわ。

 というか作れるんだろうか?


「ふ~む、妾にはよぅ分からん世界じゃな」


 そりゃアンジェラの人化した姿はえらい美人だし、必要ないものでしょ――って、セレン、そこでアンジェラを睨まないの!


「……で、アンジェラは何にしたの?」

「妾はこれじゃな!」


 【もっとやり甲斐のある相手を!】


 ……無茶言わないでほしい。

 アンタに勝てる相手なんて、水中のリヴァイしか思い付かないわ。

 これはあれね、リヴァイのやり甲斐がある仕事をアンジェラの相手にすれば完璧だわ。


「むぅ……(それがし)に技量があればアンジェラ殿の相手も務まるのだが……」


 もしザードがそうなったら私にも手が付けられないんですが……。


「せめてアンジェラ殿と肩を並べられるまでは、これを所望するで御座る」


 【サンドバッグ】


 ある意味非常に簡単なんだけれど、こんなんでいいの?

 ホークなら好きなだけサンドバッグにして構わないし、これなら叶えられるわ。


「姉御! 俺からもお願いしやすぜ!」

「どれどれ――」


 【割と大きめな抱き枕】


 ……え? モフモフが抱き枕を?

 いや、欲しいんなら好きなだけあげるけど、意外すぎる願い事よね。


「そんなに欲しかったの?」

「いえ……まぁ……」


 う~ん、イマイチ煮え切らない態度ねぇ?


「アイリはん、気付いてないんやな……」

「あれはやられる身にならないと分からないッスよ……」

「モフモフは陰の功労者なのですが、お姉様に自覚が無いのが……」


 なんだか皆してモフモフに同情的なのは何故なんだろ?


「そんな事よりマスター、ルー達の願い事も見て欲しい」

「もしくはウォッチングプリーズ」

「あ~はいはい」


 【お菓子の家が欲しい。もしくはお菓子の長靴】


 いやアンタらの場合、わざわざ家とか長靴とかにする必要ないでしょ?

 どうせ全部無くなるんだし。


「これで全員のを見終わ――「ちょっと待ったッスーーーッ!」――っとと!」


 そういえばクロを忘れてたわ。


「俺からはこれッス! 絶対に譲れないッス!」

「ちょ、クロ落ち着いて……」


 強引に押し付けてきた短冊を見た私は、ちょっとだけしんみりとした。

 何故なら……


 【お願いだから存在を忘れないでほしいッス!】


 うん、気持ちは分かるけれど、そういうのは作者に直接言ってちょうだい。


「全員出揃ったな? ほなこの的に張り付けるんやで~」


 ホークが用意したダーツの的にそれぞれ短冊を張り付けていく。

 どうりで先が尖ってると思ったらこういう事だったんだ。


「じゃあさっそく始めま――」

「ノー、マスター。ちょっと待ってほしい」

「あの的、何かおかしい、もしくはイカサマの匂いがする」


 うん? 的がおかしいって?

 アンジェラ、リヴァイ、モフモフ――うん、ちゃんと全員分あると思うけど……ん?


 ┃セレン┃

 ┃ザード┃

 ┃ホーク┃

 ┃ここでホーク┃

 ┃まさかのホーク┃

 ┃やっぱりホーク┃

 ┃最終コーナーから一気にホーク┃

 ┃ホーク・ザ・キッド┃




 バキボキベキッ!




「――という訳でホークはイカサマで失格ね。さっそく始めるわよ~」

「「「おお!」」」


 きっちりホークを締め上げ短冊をすべて投げ捨てると、いざスタート!

 壁にかけた的がグルグルと回る中、ダーツを手にとって狙いを定める。


 トスッ!


 眷族達(ホーク以外)が見守る中、軽く弧を描いたダーツが的に刺さる。

 さて、気になる当選者は……




 ┃モフモ←╋ー


「おめでとうモフモフ。願い通り抱き枕をプレゼントしてあげるわ!」

「あ、ありがとう御座いやす、姉御ぉぉぉ!」


 感動の涙を流してるみたいだけれど、そんなに抱き枕が欲しかったのかしらね?


「じゃあモフモフ、どんな抱き枕が欲しいの?」

「へぃ、あっしの等身大の抱き枕が欲しいんでさぁ」

「等身大?」


 聞けばモフモフは自分の分身のような抱き枕が欲しいんだとか。

 何に使うかはまだ言えないんだって。

 まぁ約束だし、ちゃんとプレゼントしてあげましょ。


「まずはモフモフの写真を――」


 パシャ!


「別の角度からも――」


 パシャパシャパシャ!


 あ、床に転がってるホークが写り込んじゃった……ま、いっか。


「後はスマホから発注すれば……」



 ピコーン!


「お姉様、ストレージに届きましたよ」

「早っ!」


 相変わらずどういう仕組みになってるのか不明だけど、地球の業者に発注できるのよね。

 それにしては早すぎるけれど。


「フムフム、どう見てもモフモフにそっくりです。皆さんもご覧ください」


 アイカがストレージから取り出した等身大抱き枕を目の前に置く。

 うん、文句の付けようがないくらいクリソツだわ。

 これならモフモフも喜んでくれるわね――って事で……


「はい、モフモフ」

「ありがとう御座いやす、姉御!」


 感動の涙を流して歓喜するモフモフ。

 大事に使ってちょうだい。


「あ、姉御、さっそくですが……」

「ん?」


 モフモフが抱き枕を差し出してきた。

 どういうつもりなんだろ?


「もしかして、貸してくれるの?」

「いえ、あっしの代わりにキレイな抱き枕と思いやして……」

「……あ、ああなるほど、そういう事だったの!」


 どうやらモフモフは、私が抱き枕にしてるから体毛とか体臭とかを気にしてるのね。


「ありがとうモフモフ」

「へぃ! これからは是非ともあっしの代わりに――」

「でも私にとしては()()がいいから、この抱き枕は返すわね」

「――へ?」


 やっぱり枕と抱き枕は同じのじゃないと寝れないのよねぇ。

 モフモフには悪いけど、気持ちだけ受け取っておきましょ。


「じゃあ皆お休み。――ほら、行くわよモフモフ」

「……へぃ」



 皆に見守られ、モフモフは寝室へと誘われた。

 そのあと彼を見た者は……まぁ居るには居るが、全員口を揃えて賢者のような顔をしていたと語ったのである。

 苦労の絶えないモフモフが抱き枕から解放される日は遠い……。


 今更ですが、本作が完結してプラーガ帝国はどうなったの? と疑問に思ってる人達のために、その後の様子を別の主人公視点で見た【誘われし貴族 僕は再び返り咲く!】を連載しております。

 シリアス系なのでギャグ要素は皆無ですが、かなり終盤まできましたので暇潰しにでもお読みいただければ幸いです。


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