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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
最終章:落ちこぼれ勇者とエリート学生
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閑話:遅すぎたテンプレ

 アイリの帝都での学園生活が始まって数週間。今やすっかり有名なダンジョンとなったため、訪れる者は日に日に増加していた。

 そうなるとどうしても起こってしまうのがガラの悪い冒険者や傲慢な貴族の襲来で、これらに対処する必要に迫られる。

 この日もいつも通りの日常がやってくるものだと思っていた住人達だが、久々の珍客を目撃する事になった。


 バタン!


「おぅらどけどけ雑魚共。Aランクの冒険者――デップラー様のお通りだぜ!」


 威勢よく冒険者ギルドの扉を開けたのは、3人の取り巻きを引き連れた悪名高い冒険者デップラーだ。

 何故悪名高いかと言うと……


「yohyoh兄ちゃん、そこ居ちゃ邪魔なのさ。heiheiさっさとどきなyo」

「そうだぞ。この御方はあの有名なデップラー様だぞ! 当然本物だぞ!」

「まさかデップラー様に最後尾を並ばせるつもりじゃねぇだろうな、ああん?」


 とまぁご覧の通りの有り様で、実力だけならAランクの冒険者だがそれを悪用してやりたい放題なのである。

 始めてやって来たアイリーンではあるが、ここでも思い通りにいくとふんだ彼等は先の行動に出たのだが、この日ばかりはいつもとは違った。


「何だい君達は? ここは冒険者ギルドだよ。ギルド内では騒いではいけないって教わらなかったのかな?」

「全くだ。こっちは疲れてヘトヘトだってのに……。順番くらい守れよなぁ」

「ああん? テメェら、俺達に説教するつもりかぁ!?」


 取り巻きに因縁をつけられた冒険者達に動揺した様子はない。

 寧ろ呆れてるという顔をしてため息混じりに指摘し出す。


「ルーク、コイツらに言っても聞きはしないって。それからレックス、お前見回りするとか言ってサボッてたろ!」

「ゲッ、何でバレたんだ!?」

「……レックスは嘘をつくとき視線を逸らす癖がある。だからすぐバレる」

「マジかよ……」


 なんと、デップラー達の前に並んでたのは、Aランクの冒険者よりも強い冒険者パーティ【夢の翼】のメンバーだった。

 因みに昇格試験を受けてないので、いまだにDランクのままだ。

 そして彼等はデップラー達の存在を忘れて談笑に没頭してしまい、当のデップラーは青筋を浮かばせて彼等を怒鳴りつける。


「テメェら、俺様を無視すんじゃねぇ! よぉく見ろ、俺はグロスエレム教国でその人有りと言われてるデップラー様だぞ? 俺様に対してやるべき事があんじゃねぇのか!?」

「やるべき事?」


 レックス達は首を傾げて思考してみる。

 だが初対面のデップラーには何もする事は思い浮かばない。


「……あ、分かった!」


 そんな中【夢の翼】の紅一点エルフのユユは何かに気付いたらしく、近くのテーブルへと駆け寄ると椅子を手にして戻って来た。


「……この人は多分腰が悪いんだと思う。――コレをどうぞ」

「おう、悪ぃな」


 ユユが機転をきかせて椅子を差し出し、これにて一件落着――






「って違うだろうが!」


 ガンッ!


 ――は、せず、一度は腰を下ろしたものの再び立ち上がり、椅子を蹴り跳ばす。


「……おかしい。お腹を重そうにしてるから絶対腰痛に悩ませれてると思ったのに……」


 酒好きのため今では立派なビールッ腹を抱えてるデップラーなので、その考えは一理あり正しいのだが……


「ふざけんな! 俺は腰痛持ちじゃねぇ! 黙ってりゃ調子に乗りやがって――」


 とうとうブチキレたデップラーがユユに掴み掛かろうとする――が!


 ドシン!


「ブヘッ!」

「「「デップラー様!?」」」


 ユユに足を引っ掛けられ、床とディープキッスを交わしてしまう。


 プッ……クスクスクス


 それを見た他の冒険者からはすすり笑う声が上がり、デップラーは茹でタコのように顔を真っ赤にしていく。


「クッソォォ……ざけやがってぇぇ! お前ら、コイツらを袋にしちまえ!」

「「「へぃ!」」」


 普通なら揉め事が発生した時点でギルド職員が止めに入るのだが、彼等【夢の翼】に対してはギルド職員も()()()()信頼を寄せており、余程の事がない限り口出しはしない。

 その理由がこちらだ。


「ほらよ、背中ががら空きだぜ?」

「グho!?」


 獣人レックスが後ろに回り込むと透かさず回し蹴りを叩き込み、取り巻きAは壁際まで吹っ飛ぶ。


「な、何が――」

「フッ、よそ見はいけませんね」

「ギェッ!」


 取り巻きAが吹っ飛んでいったのを見て、他の取り巻きは動きを止める。

 そこへ魔族の美少年ルークが取り巻きBを背負い床に叩きつけた。


「く、くそぉ!」


 こうなると残りの取り巻きCも黙ってはいられない。

 懐からナイフを取り出し切りつけようとするが……


「おっと、ギルドじゃ刃物は御法度だぜ?」

「アダダダダダダ!」


【夢の翼】唯一の人間であるアルバは取り巻きCの腕を器用に掴みそのまま捻り上げた。

 瞬間激痛が走った手からナイフがポトリと床に落ちる。


「な、な、何もんだテメェら!? 俺は兎も角コイツらだってBランクだぞ!?」


 デップラーの取り巻きも決して弱い雑魚ではない。

 素行が悪くても腕だけは優秀とあってBランクにまで登ってきた冒険者である。


「おい聞いたか? コイツらBランクなんだってよ?」ヒソヒソ

「あ、ああ。何か思ったより()()だよな?」ヒソヒソ

「よしたまえ2人共。他人を見た目で判断するなとアンジェラ先生も言ってたではないか」

「……ルークに同意。多分世間一般的には弱くはないんだと思う。()()()()違うだろうけど」


 今更だが、自分達よりランクが上だと聞いてレックスとアルバが驚愕(きょうがく)する。

 というのも彼等にしてみればAランクと言うとゼイル達【一閃(いっせん)(きわめ)】を思い浮かべるし、Bランクであってもそれに近いものを連想するのでそのギャップは計り知れない。

 だがユユの台詞が気に食わないデップラーは再び彼女に詰め寄る。


「おい、ガキが調子に乗ってんじゃねぇ! さっきからテメェは舐めた真似しやがって、もう許さねぇぞ!」

「……!」


 頭に血が上ったデップラーはとうとう剣を抜いてしまうがユユは瞬時にその動きに反応し、気付けば杖からフリーズを放っていた。


 ファキーーーン!


「コ……オ……カ……」


 哀れデップラーは剣を振りかざしたまま氷像へのクラスチェンジを強制される。


「……ごめん、つい反射的に」


 律儀に頭を下げるユユ。

 しかし肝心のデップラーは氷像のまま冒険者ギルドの置物と化し、取り巻き達が気絶から復帰するまでその場に放置されるのであった。




「くそぅ、さっきはひでぇ目に合ったぜ!」

「全くだぞ。デップラー様をあんな目に合わせやがって、アイツら今度会ったらただじゃおかねぇんだぞ」


 ギルドから逃げるように立ち去ったデップラー達は、その後も街を練り歩く。

 このまま外に出ては腹の虫が収まらない。

 何か適当な奴に因縁をつけようかと思った彼等の前に一軒の工房が見えてきた。


「おい……」


 デップラーが工房に向けて(あご)をしゃくる。

 どうやらこの工房に嫌がらせを行おうという魂胆らしい。


 バタン!


「らっしゃい! お客さん、何を探――「おうおう、テメェんとこはこんなチャチな物を客に出しやがるのか!」


 バン!


 カウンターに着くなり店番のドワーフの前に折れた剣を叩きつける。


「うん? ――お客さん、こりゃはうちで作った武器じゃねぇぜ。別の――「んな訳あるか! コイツぁ確かにここで買った物だ! コイツのせいで獲物を逃しちまったじゃねぇか、いったいどうしてくれるんだ! ああ!?」


 一方的に怒鳴り散らすが、勿論この工房で購入した武器ではない。

 以前使用中に折れたのを道具袋に放置して肥やしになってただけだ。

 店番のドワーフには気付かれてしまったが知ったこっちゃない。ただ難癖つけたいだけなのだから。


「そうだぞ、すんごい獲物だったんだぞ」

「それを逃しちまったのさ。hei、どうしてくれんだyo、yohyoh」

「いえ、ですから――」


 その後も押し問答を繰り返し、店番が困りきってるのを見てほくそ笑むデップラー達。

 頃合いをみて金を要求しようとした時、工房の奥から1人の女性エルフが出てきた。


「貴方達、いちゃもんつけるのは止めなさい」

「あ、マインの姐さん!」


 女性エルフの正体はマイン。

 工房主のゴンザレスとは現在交際中であり、ちゃっかり同棲中でもある。


「チッ、またエルフか……まぁいい。獲物を逃したせいで報酬の金貨100枚はパァになったんだ。責任とって払ってもらおうか!」


 先程のエルフ――ユユを思い出して顔をしかめるが、あんな強者エルフがそうそう居る訳ないと開き直り大金を要求した。


「金貨100枚ですか。そんな大金よりも、貴方達に相応しいものを差し上げましょう――」

「何!?」

「エリアフリーズ!」


 ファキーーーン!


 身構えた時には既に手遅れだった。

 事前に小声で詠唱していたマインが取り巻きもろともデップラーを氷付けにしてしまう。


「まったく、ここ(アイリーン)も有名になってきたけどこういう連中が増えるのは嫌よねぇ。ま、アイリ殿が対策してくれるのを待ちましょうか。――ではそこの粗大ゴミを捨ててきてくださいな」

「へい!」


 こうしてここでも氷像にされたデップラー&取り巻きは、街の一角にあるゴミステーションへと運ばれるのであった。




「ちっきしょう、何なんだこの街のエルフは! あんなに狂暴な女エルフなんざ聴いた事ねぇぞ!」

「まったくだぜ。きっと怪しい薬でも使ってるに違いねぇんだぜ。こうなりゃ弱そうな女を狙ってやるんだぜ」


 何とか氷像から脱する事が出来たデップラー達は、エルフを避け一般人に見える女性をターゲットに難癖つける事にした。


「おい……」


 再び顎をしゃくるデップラー。

 ちょうど正面から歩いて来る女性をターゲットに決め、わざとぶつかりに行く。


 ドン!


「――ってぇなコラ! どこ見て歩いてやがんだ!」

「む? そちらから当たってきたように見えるが……まぁすまんかったのぅ」


 なんとぶつかった相手はアンジェラ。

 明らかにぶつかられた事に気付いてはいたが、アイリからは面倒事を起こさないように言われてるため気付かないフリをしてやり過ごすつもりだったのだが、デップラー達は面倒を起こす事が目的であり……


「ああん? 勝手にどこ行こうってんだ、ああん? デップラー様にぶつかったくせにすまんで済むと思ってんのか、ああん?」

「むぅ……そう言われてものぅ。いったい妾にどうしろと言うのじゃ?」


 この台詞を聞いたデップラー達はほくそ笑む。

 アンジェラのような美女からそんな言い回しをされては本能のままに動くしかない。

 そう思い舌舐めずりをしつつ要求する。


「俺達は今気分が悪い。お前さんが男だったらボッコボコにしてやるところだが、生憎と女に暴力を振るうのは主義じゃねぇ。そこでどうだ? 代わりと言っちゃなんだが体で払ってもらってもいいぜ?」

「何、体でか!?」

「お、おう!?」


 体で払えと言われ、何故かアンジェラは目を輝かせて見つめてくる。

 その様子に軽く困惑するデップラーだが、思惑通りになるなら異論はない。


「ほほほ、本当にいいんじゃな? 嘘じゃないんじゃな? ならば好きなだけ払ってやろうではないか!」

「え? マジで!?」


 困惑を通り越して有頂天になるデップラー。

 まさか美女の方から求めてくるとは思ってもみなかったのだ。

 すっかりアンジェラと一夜を共にするところを想像し、半開きの口から(よだれ)を垂れ流すデップラー。

 だが次の瞬間!


「せいやぁ!」


 ドシン!


「ぐっっっふぉ!?」


 視界がグルリと回転したかと思うと気付けば仰向けに倒れており、背中を強打した影響で言葉が詰まる。


「それ、次はお前じゃ! ハァァ!」


 ドゴッ!


「グフォ! お、おお……ゲェェェ!」


 取り巻きCは鳩尾を食らい、その場でゲロッてしまう。


「次! ――とぉう!」

 

 バキッ!


「――ブヘッ!」


 取り巻きBは回し蹴りを食らいゴミステーションへと飛ばされた。


「お主で最後じゃ! そぉぉぉりゃっ!」


 ガスッ!


「いってぇぇぇyoh!」


 最後の〆に取り巻きAの(すね)を蹴りつける。

 一番マシに見えるかもしれないが、他3人よりは確実に激痛を味わってると言えるだろう。


「うむ。良い事をした後は気分が良いのぅ!」


 やる事がすんだアンジェラは上機嫌でその場を後にする。

 残された4人はというと通行人の通報により病院へと担ぎ込まれ、結果治療費を取られるという涙目な展開が待ってたのであった。




「く、くそぉ……何だって俺様がこんな目に」

「まったくだyo。あんなに強ぇ女は初めてみたze」


 怪我は治ったものの精神的な疲れが見え始めたため街を出る事にしたデップラー達。

 ここは恐ろしい街だ……改めてそう感じ、街を出る事にしたのだが、そんな彼等を1人の老婆が呼び止める。


「これ、そこ行く冒険者達。そなた達に女難の相が出ておるぞ」


 この老婆は魔族のクイナで、名も無き村でアイリに誘われる形でやって来くると路上占いを始めたのだ。


「ケッ、んだよ今更……」


 確かに今更な事である。女難は既に何度も体感しており、暫くは女に関わりたくないとも思ってるくらいだ。

 そう思うと急激に怒りが込み上げ、ついにクイナへと八つ当たりの暴言を吐いてしまう。


「こっちは既に散々な目に合ったんだ、このデップラー様がだ! もっと早くに知ってりゃこんな目に合わなくてすんだんだ、ふざけんじやねぇぞ()()()()()がぁぁぁ!」






「……ああ?」


 デップラーはクイナに向かって暴言を吐いた。

 しかしちょうどその時、見た目だけなら人間の少女――セレンが2人の間を横切ろうとしてる最中であったため、結果的にセレンに対してクソババァ発言を行ってしまったのだ。


「……おい、今何つった? クソババァつったのかコラ、ああ!?」

「「「「ヒィィィ!?」」」」


 セレンからかつて感じた事のない殺気を全身に受け、4人はその場で震え上がる。

 直後取り巻き達は気絶、デップラーだけがへたり込むがセレンは構わず胸ぐらを掴むと凄みのある表情で告げた。


「永遠の眠りに誘ってやろう。()()()にな!」

「ギィェェェェェェ!」


 結果半狂乱になったセレンによって半殺しにされ再び病院に担ぎ込まれるのだが、素行の悪さが原因であると判明しアイリーンから放り出される事となる。

 が、彼等にとっては願ったり叶ったりであり、もう2度とアイリーンに近付く事はなかった。


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