人化の指輪
ブクマありがとう御座います。
次の日の昼過ぎ。
邪神レグリアスの謝礼の件で、再びミゴルさんがやってきた。
本来なら謝礼の前に、私とヤゴレーに対しての審議みたいなのがあったのだが、ヤゴレーがルーキー殺しを認めたため省かれた。
なんでもヤゴレーの奴は、ルーキー殺しを認めるから、二度と私達を近付けないでくれとか言ってるそうだ。
いくらなんでも失礼過ぎない?
そりゃ誰もホークを止めなかったけど……。
それにしても、ミゴルさん仕事早すぎじゃない? 昨日の今日でしょ?
「仕事は効率よく、丁寧にこなすものでございます」
なんだかミゴルさんって、できる執事って感じね。
一家に1人は欲しい人材だと思う。
そう考えると、邪神様はちょっと羨ましいかも。
ま、それはいいとして、謝礼が出るのよね?
「はい。その件でございますが、こちらのアイテムをアイリ様に差し上げることになりました。どうぞお受け取りください」
差し出されたのは、紫色の宝石のような物が埋め込まれた指輪だった。
「これは?」
「人化の指輪でございます。この指輪を付けた者は、人間に化けることができるのです」
へーぇ、人化ができない眷族に持たせると便利ね。
有り難く使わせてもらおう。
「ありがとうございます!」
「存分にお役立てください。では、わたくしはこれで失礼させていただきます。レグリアス様は勿論わたくし個人としても、これからのご活躍を期待しておりますゆえ……では」
軽やかな身のこなしで、ミゴルさんは帰っていった。
「さてさて、さっそく誰かに持たせてみようかしら……」
「お姉様、誰に持たせるんですか?」
まだ使うかどうか決めてないんたけど、希望する眷族が居れば使わせてもいいかもね。
「人化したい眷族には、立候補してもらうってのはどう?」
「いいと思いますよ。わたくしの予想では、ホークが真っ先に挙手しそうです」
それは私も思った。
人間に混じって大道芸とかやりそうよね。
「……ってことなんだけど、誰か欲しい人いる?」
さっそく眷族たちに集まってもらい、欲しい人は挙手してーって感じで聞いてみた。
手を挙げたのは……、
「ハイハイハイハイハーーーイ! 欲しいで! メッチャ欲しいで!」
案の定、手じゃなく翼を広げてアピールしてきたホーク。
あまりにも予想通りな反応に、アイカと顔を合わせて思わず苦笑い。
なので予定通りホークに使わせようと思ったんだけど、それに待ったをかけた者が居た。
「拙者も興味があるのだが、できれば拙者に譲ってもらえないだろうか?」
待ったをかけたのはリザードマンキングのザード。
まさかのザードの立候補は、私もアイカも予想してなかった。
「えーと……その、ザードも人化したかったの?」
「人化そのものより、人間体形の状態で剣を振るってみたいと思ったしだい」
ふむふむ……なんとなくわかったような気がする。
剣の技術を研くのが趣味! みたいなところがあるのよね、ザードって。
前に聞かれたことがあるんだけど、「燕返しはどのようにすれば会得できるのでござろう?」って言われて困ったことがあったのよ。
結局その時は、剣を振ってればそのうち身に付くんじゃない? って適当に誤魔化したんだけど……。
「それは完全にお姉様のせいで、ザードがああなったってことですよね?」
「……否定はしないわ」
そう言われると、罪悪感みたいなのが出てきちゃうんだけど……。
うーん、困ったわねぇ。
ホークにするかザードにするか、何かどちらかに決める方法はないかなぁ……。
「ならば間を通って他の眷族にあげるという方法もありますが」
「それはいくらなんでも可哀想じゃない? それに不要だと思ってる眷族にあげるのもねぇ……」
やはりあげる側からすれば、使いたいと思ってる者にあげたいのよ。
「ほらお姉様、以前ランダム召喚したアサシンスネークとクレイゴーレムが居たじゃないですか。彼らを眷族にして、人化をさせてみては?」
そういえば居たわね。
アイカにそう言われて、頭の中で展開を予想してみる。
『ゴシュジンサマ、ドウゾオカケクダサイ』
「うん、ありがとうクレイ」
アイリのために椅子を引くクレイゴーレム。
しかし……、
バキッ!
『モウシワケアリマセン。スグニアタラシイイスヲオモチシマス』
バキバキッ!
『モウシワケアリマセン。マダコノカラダニナレテナイノデ、チカラノセイギョガフジュウブンノヨウデス。モウイチド……』
バキバキバキッ!
『モウシワケアリマセン。サンドメノショウジキデシタガ、ムリデシタ。マタノゴメイレイヲオマチシテオリマス』
ダメじゃないの……。
しかも勝手に締めちゃってるし。
クレイゴーレムは無しね。
アサシンスネークだと……、
『こちらスネイク。今から敵のダンジョンへ侵入する』
「ちょ、待ちなさいスネイク! 勝手な行動は許さないわよ!? ‥‥というか、今どこにいるのよ?」
『女子トイレの中だが?』
「アンタふざけんじゃないわよ!? さっさと戻ってきなさい! 戻ってきたらそこに居た理由を聞かせなさい!」
『そう言って、シラを切るつもりかアイリ?』
「何の話よ!? 大体シラを切ろうとしてるのはアンタの方でしょこの変態!!」
もっとダメじゃないの……。
コレは有り得ないわね、著作権的にも。
「やっぱよ、ここは男らしく闘いで白黒つけるのがいいんじゃねぇか?」
「そうじゃのう。お互い同ランクだし、丁度良いのではないか?」
そういえば同ランクだったわね、ホークとザードって。
そして同じ男ってことなら、モフモフやアンジェラの言う通りバトルしてもらうのが手っ取り早いかもね。
「じゃあ2人共バトルで白黒つけましょう」
「オッケーやで!」「望むところ」
「では審判は、わたくしアイカが務めさせていただきます」
どうやらバトルすることに決まったみたいなので、適当な階層に移動しましょうか。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ってなわけで、やってきたのは2階層の草原エリア。
広くて見晴らしもいいし、思う存分闘えると思うわ。
「2人共、準備は宜しいですか?」
「いつでもええで!」
「こちらもだ」
よく考えてみたら、自分の眷族同士が戦うのを見るのって、初めてだわ。
せっかくだからよく観察してみよう。
「それでは……始め!」
アイカの始め! の声と同時に、動き出した2人。
が、しかし!
「……と言ったら試合開始です。宜しいでしょうか?」
思いがけないアイカの言葉にホークとザードは勿論、観戦してた眷族たちも皆ズッコケた。
「ちょいとアイカはん。今のはわざとやろ?」
「はい、ホークを見てたら無性にやりたくなってきたのでつい」
ついってアンタ……。
確かにホークを見てたらお笑いを連想してしまうけども。
「今のタイミングは中々やったが、さすがに真剣勝負の時は遠慮してや!」
「拙者も同じ意見でござる」
「はいはい、分かりましたよ。では仕切り直しです」
ホークとザードに抗議されたアイカが渋々と仕切り直しをさせ、今度こそ真剣勝負が……、
「始め!」
始めの言葉と共に、両者が一斉に動き出した。
ホークは上空へ舞い上がり、駆け出してたザードは、それを見て立ち止まり、上空に向けて剣を構えた。
「草原でワイの鷹の目から逃れるのは不可能ってことを教えたるわ! 行くでぇ!」
高く舞い上がったホークがザード目掛けて急降下してくる。
しかし、それを見てもザードは避けようとはせず、ホークに狙いを定めて……。
「ベノムスラッシュ!」
「何やと!?」
ザードが飛び道具とも言える斬撃を放てるとは思わなかったホークは紙一重で回避したが、バランスを崩したために勢いを失った。
そこへ次々に斬撃が飛んできたので、慌てて回避するも全ては避けきれず、何発か直撃をくらいフラフラと上空へと舞い戻った。
「思ったよりヤルやないか。けどこれからが本番や!」
再び上空から狙いを定めて急降下するホーク。
先程と同じように斬撃を放とうとするザード。
しかし先程とは違い、ホークは1体から2体、2体から4体、4体から8体へと数を増やし、ザード目掛けて急降下してくる。
さすがのザードも、8体全てに斬撃を放てる余裕は無く、回避行動に移る。
「む? ……くっ!」
「どや? ワイの固有スキルは鷹の目だけじゃあらへんで!」
ホークの固有スキル【分体演舞】は、自身の数を増やすことができる。
ただし、1体1体のステータスは弱くなってしまうというデメリットもあるのだが。
「……中々の手並みだ」
ホークに対してやや優勢だったザードも、数の多さには敵わず何発かは命中してしまったようだ。
「だがそれでこそ……それでこそ、闘う価値があるというものだ!」
だが、ザードも負けてはいない。
ザードの目が紅く光ると、周囲の空気が変わったような気がした。
「……別に何ともあらへんで。脅かしよってからに!」
ホークはそう言ったが、アイリたちは変化に気づいていた。
「アイカは気付いた? ザードが使ったスキルに」
「はい。あれは王の威光ですね」
先程ザードが使用した固有スキル王の威光は、相手にプレッシャーを与え怯ませるスキルである。
「アニキ、ホークの奴は効いてないんスか?」
「いや、それはないな。ホークには効いてるはずだ。だが奴は……」
「やせ我慢しとるのぅ」
他の眷族たちも言った通り、ホークはやせ我慢をしていた。
だが、事闘いにおいては間違ってはいないだろう。
相手に弱みを見せるよりは、効いてないように見せる方が誤認させやすいとも言えるのだ。
「……ほう。この技を耐えるか‥‥」
「アレしきのもん、ワイには効かんでぇ!」
そしてそのまま暫しの間睨み合うが、一瞬ホークの意識が逸れた瞬間に、ザードが斬撃を放った。
回避できずに命中してしまい、そのまま地面に向けて落下するホーク。
それを見てザードは、勝利を確信し剣を鞘に納めてしまった。
ここにきてザードの勝利が決まった!
……かに見えたが、そうはならなかった。
剣を納めてしまい無防備な状態になったザードの首に、ホークの爪が当てられていた。
「勝負は最後までわからんやろ?」
「……フッ、確かにな」
「勝負あり! この勝負、ホークの勝利とします!」
「「「オオッ!」」」
ザードがやや押してたように見えたんだけど、そのザードを油断させたホークは、中々賢かったわね。
もう少し長引きそうな雰囲気があったんだけど、結構あっさりと勝負がついてしまった。
でも中々面白い勝負だったわ。
「まさかベノムスラッシュを喰らったのは、某を油断させるためでござるか?」
「そうや。これはアイリはんの世界の言葉やけどな? 【能ある鷹は爪を隠す】つーらしいで」
「ほう? それはどの様な意味をもつのでござろうか?」
「一見鋭い爪を持ってなさそうに見えて、実は隠し持ってる……てな意味合いやったで」
「なるほど。ならそれはお主にピッタリな言葉でござるな」
「フフン。誉められるんは嬉しいが、誉めても何も出んで?」
なんか闘いの後に友情が芽生えた! みたいな感じになってるんだけど……まぁいいか。
とりあえず勝負はホークの勝ちってことで、人化の指輪はホークに使ってもらおう。
指輪を足に挟めたホークは、さっそく人化を開始した。
大型の鷹だったホークは、徐々に人のサイズになり、最後には男性の平均的な身長になった。
肝心の見た目だが、茶髪でチャラいどこにでも居そうな若い兄ちゃんだ。
「よっしゃ、人化成功! さっそく芸術を極めるでーっ!」
ホークはコアルームへ走っていった。
「……良かったのかしらこれで」
「……良かったんじゃないですか?」
今更な話、ホークが人化の指輪を手にした理由が不純過ぎるとも言えるんだけど、真剣勝負で勝った方にあげる約束だからどうにもならない。
ただ1つだけ言えること。
アイリのダンジョンは今日も平和でしたとさ。
完。
「完じゃないわ!勝手に終わらせてんじゃねーわよ!!」
続く。
ホーク「どや、必殺ポコポコヘッドや~!」ポコポコポコポコ
アイリ・アイカ「ウザ過ぎる……」




