ダンジョン大決戦①
前回のあらすじ
桜庭を前にして戦意を喪失したエルシド。
だが桜庭は嘲笑うかのように、無人気多数をアイリのダンジョンへ出撃させるという総攻撃を仕掛けてきた。
一方でアイリのダンジョンでも異変が起こり……
高遠は死んだ。
けれどナイトメアは別で存在してるらしく、いまだ健在。
生き残りの転移者と接触しようとしてるエルシド達が危ない!
「すぐにエルシドの元へ向かうわよ!」
「承知しました。すぐに――な!?」
急にアイカが仰け反るように驚く。
「コ、コイツぁいってぇ……」
「モフモフまで、いったいどうし――って、何なのこれぇ!?」
アイカに続きモフモフまで驚いてるのを見て顔を向けると、ボーリング玉サイズの黒い塊が宙に浮いているのに気付いた。
「これはダンジョンコアのようじゃが……」
「コレが?」
アンジェラは素早く見抜いたけど、普通のダンジョンコアは青かったり赤かったりで水晶のような見た目をしてる筈。
だけどコレは明らかにどす黒く濁ってて、同じダンジョンコアには見えない。
「鑑定しました。コレは邪王のダンジョンコアです。恐らく高遠が死亡した事により、異空間庫から出てきたのだと思われます」
そういう事か。
そこにダンジョンコアを隠せるなら無理してダンジョンを作る必要はなくなるもんね。
「あ、姉御。コイツどんどんデカクなってますぜ!?」
「え!?」
ちょっと目を離した隙に倍くらいの大きさに――って
「コイツ、どこまで巨大化するつもり!?」
「分かりません。ですが何が起ころうとしてるか分からない以上、破壊したほうがよいのかもしれません」
ここはアイカの助言に従おう。――そう思って剣を抜いた瞬間!
シュン!
「え! ダンジョンコアが消えた!?」
「主よ、ダンジョンの外じゃ、外に転移しよったぞ!」
く、破壊されそうなのを察知されたのかもしれない。
すぐに私達も後を追うと、ダンジョンコアが民家と同等の大きさにまで巨大化していた。
「これ以上放置するのは危険よ。――アンジェラ、アレを破壊してちょうだい」
「構わぬが、本当によいのか?」
「こうなったら仕方ないわ。後でメンヒルミュラーには説明しとくから、跡形も無く粉砕して!」
「うむ、承知した!」
アンジェラが飛び上がり、ダンジョンコアに向かっていく。
けれど拳が思い切り振り抜かれるかってところでコアが急激に膨れ上がる。
「む!?」
アンジェラは咄嗟に距離を取るけど、その間にもコアは形を変えていく。
「ねぇアイカ、なんか翼見たいのが生えてるように見えるんだけど」
「はい。わたくしにもそのように見えます。それに後ろを見てください。尻尾が出てるようにもみえます」
「下の方にゃ爪が生えた脚みたいなのが見ますぜ」
最後に生えてきた頭部には赤く光る両目が付いてて、その姿はまるで巨大なドラゴン……
「って、ダンジョンコアがドラゴンに!?」
「お姉様、何者かが外部から干渉し、ダンジョンコアに蓄えられた魔力を解放したのだと思われます」
「魔力って……あのコアには殆ど魔力が残ってなかったんじゃないの?」
以前起こしたスタンピードにより魔力は使い果たした筈。
あれから1ヶ月も経ってないのに、解放するだけの魔力が残ってたとは思えない。
『アイリはん、大変や! 一大事や!』
ん? ホークからの念話だ。
『落ち着いてホーク、いったい何があったの?』
『桜庭はんや! 桜庭はんがナイトメアだったんや!』
『桜庭さんが!?』
事前に言われてたとはいえ、実際に目の前に居たのに全く気付かなかった!
『エルシドはんはすっかり戦意喪失やし、戦闘機やら戦車やらがそっちのダンジョンに向かったしでもぅエライこっちゃで!』
『エルシドが……』
無理もない。
桜庭さんがナイトメアで、さぞショックを受けてる事だと思う。
それに戦闘機や戦車が――
『ちょっと待って。戦闘機や戦車が何処へ向かってるって?』
『せやからアイリはんのダンジョンに向こうてるんや! こっちはナイトメアで手一杯やから、そっちは頼むで!』
『ちょっ!』
直後一方的に念話は切られた。
「お姉様、アレを!」
アイカが上空を指す。
そこにはドラゴンのようなものだったコアが、ドラゴンそのものに成ってこちらを見下ろしていた。
「鑑定結果です。キマイラコア・カオスドラゴン、SSランク。これは危険です!」
「GUGAaaaaaa!」
「ヒッ!?」
凄まじい咆哮を全身に浴びる。
辛うじて踏みとどまり見上げると、アンジェラもまともに咆哮を受けてしまったらしく、硬直してるように見えた――と思った次の瞬間!
ドシュッ!
「グハッ!」
「アンジェラ!?」
信じられない事に、アンジェラが一撃をくらい森の奥へと吹っ飛んでいく。
さすがはSSランク、こんなのがダンジョンに侵入してきたらマズイ!
「アイカ、援護して!」
「ダメです! お姉様が行っては危険です!」
「そうですぜ! ここあっしにお任せくだせぇ!」
「何言ってるの! モフモフだって危険じゃない!」
こうなったらゴーレム姉妹を召喚してコイツの相手を――
「GUGAaaaaaa!」
「くぅ!?」
また咆哮……ハッ! しまった!
硬直してるところにカオスドラゴンが突っ込んできた!
咄嗟に腕でガードした。
腕がへし折れるかもしれないけど、死ぬよりはマシよ。
けれどいつまで経っても衝撃は襲ってこないので、恐る恐る腕をどけてみる。
「ア、アンジェラ!」
さっき吹っ飛ばされた筈のアンジェラが、人化を解いてカオスドラゴンの爪を掴んでるのが目に飛び込んできた。
「フッ、我が主に触れさせはせんぞ、下級ドラゴンめが!」
ブンッ!
「GUOoooooo!?」
ズズーーーン!
そのまま遠くへ投げ飛ばすと、カオスドラゴンは一角の樹木を薙ぎ倒しつつ仰向けに倒れ、周囲に土埃が舞った。
どうでもいいけどSSランクはアンジェラにとって下級らしい。恐ろしい事に。
「アンジェラの本来の姿、久々に見ましたね」
「うん」
光沢のある黒紫色を見せつけてカオスドラゴンを追撃する姿は惚れ惚れするわ。
「俺にとっちゃあ近寄り難いんですが……」
まぁ、モフモフからしたらそうかもね。最初に召喚した時もアンジェラから距離取ってたし。
「お、お姉様、ダンジョン7階層にて魔物の大量発生を確認! 外部からの干渉です!」
「また!?」
「ここはアンジェラに任せてダンジョンに戻りましょう!」
私がカオスドラゴンに挑むのは危険過ぎるし、それしか無さそうね。
「じゃあアンジェラ、後はお願い!」
「うむ、任せるがよい」
さぁ、久々の大物じゃ存分に楽しませてもらうぞ。
「GAaaaaaa!」
「ほうほう、妾が気に食わんと言うのか?」
「GYAoooooo!」
威勢が良いのは好ましい。実に好ましいぞ。
ここ暫くは軟弱な者しか居らんかったからのぅ、コヤツと出会えたのは正に幸運というものじゃ。
だが……
「目上に対する態度としては失格じゃな」
「GUGAaaaaaa!」
フン、聞く耳を持たずに挑んでくるか。
ならばまず、その鼻っ柱をへし折ってやるとしよう!
ガシッ!
「GUaaa!?」
「なんじゃ? ドラゴンクローを止められたのがそんなに意外か?」
「GUoGUoGUooo!」
「フン、無駄な足掻きじゃ。お主が本気で身を捩ったところで振りほどけまい。だが妾とて無慈悲ではない。離してほしければ離してやるとしよう――フン!」
ブチブチブチィィィ!
「GUGYaaaaaaaaa!」
おっと、放り投げてやるつもりが千切ってしもうたわ。
まぁよいわ。――ほれ、早ぅ立ち上がってこい。
「GyaaGyaaGyaa!」
「手を一本もぎ取ったくらいで何をそんなに痛がっておるか。まったく、SSランクが聞いて呆れるぞ。ほれ、妾の拳が待ちきれずに奮えておる。さっさとせぃ!」
ドゴッ!
「GYaaaaaaaaa!」
「なんじゃ、試しに蹴り飛ばしてみたら、まだまだ飛べる力が残っておるではないか。なら早ぅ本気を出してみぃ」
「GUooo……」
クックックッ、どうやらドラゴンブレスを放つ気らしいのぅ。
どぅれ、妾の身体をどれだけ焦がす事が出来るのか見届けてやろう!
「Gooooooooo!」
ほほぅ、よいぞよいぞ、この熱気じゃ! この熱気を妾は求めてたのじゃ!
――っと危ない危ない、危うく喉が焦げ付きそうになったのも何百年ぶりかの事じゃ! ――いや、何千年ぶり……じゃったか?
まぁよい。ならば妾からもお返しを――と言いたいところじゃが、本気でブレスをかますとどこまで飛んでくか分からぬからのぅ。無関係な者を犠牲には出来んからブレスは止めておくかの。
その代わり……
ドゴッ!
「GYaaaaaaaaaa!?」
「妾からの拳をプレゼントしてやろう!」
ドガッ!
「GYaaaaaaaaa!」
「それ、もう1つ!」
ドゴン!
「GYaaaaaaaa!」
「まだじゃ! まだ足りぬ!」
ドガァ!
「GYaaaaaaa!」
「まだまだ行くぞ!」
ドゲシッ!
「GYaaaaa!」
「えぇぇい、物足りぬ……物足りぬぞぉぉ!」
ドゴッ! ドゴッ! バギッ! ズドン!
「GYaaa……」
「むぅ? なんじゃ、もうへばったのか?」
まったく、近頃の若いもんは根性が足りぬ。
威勢の良さだけは一人前で、中身はからっきしじゃのぅ。
本来ならこの辺で勘弁してやるところだが、そうもいかぬ事情がある。
「のぅ、お主。お主は妾の主に対して敵対行動をとった――つまり、妾の敵となった訳じゃ。この意味が分かるか?」
「Gruuuuuu」
ふむ、瞳をうるうるさせて頷いておるな。一応は分かっておるようじゃ。
同時に頭を垂れだしたのだが、些か遅すぎじゃな。
妾への非礼は忘れる訳にはいかぬ。
「お主は特殊な生い立ちであるゆえ、竜族のイロハは知らぬのやもしれん。しかしの、お主はタブーを犯したのじゃ。この妾に向けて咆哮を浴びせるという愚行をの」
竜族の間では咆哮を放ってよいのは格下相手のみ。
同格なら決闘を行う事を意味し、どちらかが降参するまで続く。
では格上に行った場合はどうなのか……
「Gu、Guruuu……」
「分からぬか? では教えてやろう。格上に行った場合、それは下克上を意味するのじゃ。つまり、お主は妾に対して死ぬ気で挑まなければならぬという事じゃ!」
グググググ……
「Gruuu!?」
「おっと、また無意識に力が込もってしもうたわ。――だが問題無かろう? お主の下克上に対して妾は全力で対応する。ただそれだけじゃ」
グギ……グギグギギギ……
「GuuGuuGuu!?」
「フハハハ! 今更怖じ気付くでない。妾の人化を解く程の実力なのじゃ、もっと威勢よく楽しませてくれぬと――」
「一思いに首をへし折ってしまいたくなるぞぃ!」
バギィィィ!
「GyuGyuGyuGyuGyu!!」
ふぅ……気持ちが昂ると制御が難しくなるのぅ。
思わず遠くへ殴り飛ばしてしもうたわ。
しかし久々の獲物じゃ。じっくりと楽しまなくてはな。
主には悪いが、もう少々時間をかけるとするか。
カオスドラゴンの悪夢は続く。
アンジェラが飽きるまでの間、誕生した事を大いに後悔する程に。
アイリ「アンジェラ、遊んでないで加勢しなさい!」
アンジェラ「いや、気分が高揚するとつい……な?」
アイリ「な? じゃない!」




