エルシドVS虎田
前回のあらすじ
ダンジョンに侵入してきた高遠を撃破するため試行錯誤を繰り返すアイリ。
どのようにして侵入してきたのかが掴めてきたところで、いよいよ撃破出来るかもというところまできたのだが……。
一方のエルシド達も、桜庭を救出すべく動きだそうとしていた。
今日で十針を倒してから2日後。
今パーラットの街を前にして、エルシドと貴族の男が堂々と街に入場する兵達を眺めていた。
「ご協力感謝しますぞ、エルシド殿!」
「いえ、成すべき事をしたまでです」
軍をまとめてた貴族の一人がエルシドの手をガシッと掴み賛辞を述べるが、ハイテンションな貴族とは反対にエルシドは心此所にあらずな感じだ。
「いやはや、それにしても素晴らしい。あれだけ脅威と感じてたアルカナウ王国軍をこうもアッサリと葬るとは」
「…………」
2人の目の前には斬り裂かれた戦車と粉々に砕かれた砲台がゴミとして散乱しており、その奥では軟禁状態にあった街の住民達が兵士達に喝采を浴びせていたが、その光景を眺めるエルシドの表情は優れない。
貴族の男は気付いてないが、エルシド本人はこの男の話を殆ど聞き流してる。
「エルシドはん、ここに居ったんかい。――すまんな指揮官さん。エルシドはんの仲間がまだ捕まってるさかい、あんま時間を割けないんや。すまんが先を急がせてもらうで!」
「なんと! それは失礼しました。――ささ、エルシド殿、ここは我等にお任せ頂き先をお急ぎ下され」
時間がない事を伝えると、まるでエルシドを追い出すかのような動きを見せる貴族。
即座に解放されたものの何となく気分の良くないホークであったが、頭を切り替え街の外で待機してるザードとムーザを回収すると、人目のつかない場所から空高く羽ばたいた。
「さぁ王都までかっ飛ばすで。しっかり掴まっときや!」
2日前、パーラットを取り戻すため近隣の街から多くの義勇兵を募った貴族達が、侵攻してきたアルカナウ王国――つまり転移者を撃退すべく即座に行軍を開始したのを、巡回していたホークが気付いた。
そこでホークは先にパーラットの街に侵入した後、近代兵器の破壊及び桜庭を救出する事を提案すると、エルシドはその意見を採用し素早く行動に移す。
が、残念ながら桜庭はそこに居らず、他の転移者も逃げた後であり、アルカナウ王国の王都へ転移したものと考えられた。
「あの十針って男の子が死んだでしょ? それを察して逃げたんでしょうね。確か転移者の代表的な立場だったと思うし、生き残りで今後どうするか話し合ってるんじゃない? それこそ夜逃げでも考えてるかもねぇ」
その十針を呆気なくダウンさせたムーザが語るが実際にその通りで、転移者達の数もかなり減ってる今、彼等は下手をすると追われる立場となってしまうのだ。
特に十針が死んだ事が広まれば、アルカナウ王国の貴族達も素直に従ったりはしないだろう。
「けれど奴等の中には兵器を量産出来る存在も居る。桜庭さんを助け出すまで油断は出来ない」
エルシドは桜庭を救出するまで気を緩めるつもりはなく、王都のある方向を見つめて拳をギュッと握りしめた。
「もうすぐアルカナウ王国の上空に入るで。アイリはんの話やと、対空レーダーが配備されてるっちゅ~話やし、ミサイルが飛んで来たら撃墜頼むで!」
「うむ。ミサイルとやらがどれ程のものか、拙者の腕で確かめるで御座る」
「いや、絶対に着弾させたらアカンで? 皆して地上にダイブやからな? これはフリやないで、ええか!? ええな!?」
腕試しといった雰囲気のザードにホークが念を押す。
試した結果駄目でしたじゃ洒落にならない。
「――って、言ってるそばから来たでぇ! 気張って撃墜しぃや!」
事前情報の通り、対空レーダーに掛かったホーク達に地上から打ち出された対空ミサイルが飛んでくる。
ざっと見ただけでも100発は有るかと思われる数で、とても避け切れるとは思えない。
「ハッ! テャァ! 数が多い……皆さん大丈夫ですか!?」
ミサイルを叩き落としながらも、エルシドが後ろを気に掛ける。
「セィセィセィセィセィヤァァ! 無論。このまま全て撃ち落としてくれよう!」
「はぁ~ぁ……はいはいっと」
が、エルシドの台詞とは裏腹に後の2人は余裕綽々といった雰囲気で、ムーザにいたってはアクビをしながら器用にミサイルの向きを変えて誘爆させていた。
「おおぅ、やるやないか! これなら最初から心配いら――んん? アレはなんや!?」
ミサイルを全て撃ち落としたのも束の間。今度は戦闘機と戦闘へリが地上から上がって来る。
「くっ、性懲りもなくまたあんな物を! いったい誰が操ってるというんだ!」
「落ち着きなさい。アレには誰も乗ってないわよ」
「――え?」
戦闘機を見て憤るエルシドだったが、ムーザより無人であると告げられ目を丸くして驚く。
両方合わせて50機はいる兵器は、全て無人機だったのだ。
「まさか無人機が出てくるとは驚きや。こんなん映画でしか見た事ないわ」
「……エイガ?」
「あ~いやいやこっちの事や。それよりしっかりと撃墜頼むで!」
首を傾げるエルシドをテキトーに誤魔化すと敵機撃墜に専念させる。
ホークとザードの2人だと突破出来なかっただろうが、エルシドとムーザにより次々と無人機が落ちていく。
「張り合いがないわねぇ……もっとデカイのは来ないのかしら?」
「うむ、この程度で我等を落とそうなど片腹痛い。せめて倍の数は寄越すべきだろう」
「ゴルァ! フラグ立ててどないすんねん! 余計な事言うんやない! ワイを殺す気かドアホウ共!」
背中の2人が良からぬ事を言うが、幸いフラグが成立する事はなくミサイルと銃弾の嵐を掻い潜り、王都上空までたどり着いた。
そこでホークは着地出来そうな場所を探るのだが……
「あ~あ、誰かさんがフラグ立てよるから大砲がズラッと並んどるやないかい。しかも見てみぃ、戦車までお出ましと来たもんや」
戦闘機と戦闘ヘリは引き上げていくが、代わりに現れたのが城壁に備えられた大砲と、城内から次々と出動してくる戦車の列であった。
「その誰かさんは知らないけど、あの大砲と戦車を残らず壊せばいいのね?」
「……やれるもんならな。ただし城を巻き込んだらあかんで? 桜庭はんが居るやもしれんしな」
恐らくは監禁――もしくは軟禁されてるであろう桜庭なら城外にはいないだろう。
付け加えると城には給士や一般兵が多数詰めてるので、そこを巻き込むのは避けたいところだ。
「大丈夫よ。さすがに全部は面倒だしテキトーに手を抜いとくわ」
「……喜んでええんか微妙な答えやが、とりあえず頼むで」
背中の3人が援護する形で、撃ち上がる砲弾を避けていくホーク。
するとエルシドが何かを発見したらしく、そこへ向けて指をさした。
「あそこは中庭になってますので、さすがに砲弾は飛んで来ないと思います」
「せやかてエルシドはん、中庭なんぞ見えへんがな」
「ほら――あそこです。あそこを突き破れば城内に入れます」
「あそこって……ああ、あの天窓から入ればええんやな!」
中庭の上部は天窓になっており、そこから入り込むのは楽そうではある。
「よっしゃ、突撃やーーっ!」
バリバリバリーーーン!
見事天窓を突き破り中庭に降り立つ事に成功すると、エルシドは素早く城内へと移動する。
ホークも再び人化すると、ザード、ムーザと共にエルシドに続いた。
「恐らくですが、玉座の間に行けば転移者が居る筈です。ソイツを捕らえて桜庭さんの居場所を聞き出したいと思います」
場所を知ってるエルシドを先頭にし、奥へ奥へとひた走る。
何故か城内はシンと静まり返っており、4人の足音だけが周囲に響くと、それがかえって不気味さを演出していた。
やがて上り階段を駆け上がると目の前に豪勢な扉が現れ、見るからに国王が居るであろう玉座の間に続いてるのだと理解出来る。
ギィィィ……
「――オラァァァッ!」
「ムッ!」
ガキィィィン!
扉を開けるのと同時に中から拳が飛び込んで来たのを、エルシドが剣で受け止める。
「ヘッ、中々やるじゃねぇか」
奇襲が失敗に終わると、拳を繰り出した少年は特に残念がる事もなく距離を取った。
その表情はどちらかと言えば嬉しそうにも見える。
「お、お前は確か、国王を殺した――」
「虎田だ。まさかあん時の勇者がこうやって戻って来るたぁ思わなかったぜ」
国王を殺した少年が目の前に居る……それだけでエルシドの怒りは燃え上がっていく。
「あの時の俺とは違う。今からそれを証明してみせる!」
「へぇ……だったら是非証明してくれよ。ここんとこ身体が鈍ちまってよ、チョイ骨のある奴と闘いたかったんだ」
指の間接を鳴らしながら不適に笑う虎田。その顔は正に戦闘狂そのものだ。
「エルシドはん、ワイらも――「ホークさん達は手出ししないで下さい。この男は俺の手で倒します!」
エルシドは背後に控える3人を手で制し、切っ先を虎田に向けた。
「国王の仇……今こそ晴らす!」
「来いや勇者ぁ! 思いっっっきりブチのめしてやらぁ!」
拳の連打がエルシドに襲いかかる。
「オラオラオラオラオラオラァァァ!」
凡人ならその幾つかを食らったであろうが、生憎エルシドは凡人には属さず、全ての拳を回避していく。
「――ハッ!」
「甘ぇぜ!」
ガンッ!
「クゥゥ……」
何とか反撃を試みたが、リズミカルにカウンターを当ててくる。
が、エルシドも何となく予測してたのか咄嗟に剣を盾にし、それを凌いだ。
「へへっ、どうした勇者さんよぉ? ビビって腰が引けてんじゃねぇか?」
「――ぬかせ。貴様の生き様を見納めてるだけだ。我が国王を討ち取った存在がどれ程のものなのかをな……」
これはエルシドの本音だ。
国王を葬った者の人間性を見定め、それに相応しい末路をくれてやるつもりでいるのだ。
「ケッ、余裕こきやがって。その余裕もこれで無くなるだろうぜ! ウルァァァ!」
ドガン!
エルシドから離れた虎田は、突然地面を殴りつける。
何が来るのかと身構えたエルシドだが、突如腹部に傷みが走った。
「グフッ!?」
「忘れちまったか? おれのスキルは影渡りだ。こいつぁ相手の影に対して影響を及ぼす事が出来る便利なスキルさ」
当時のエルシドは床に這ってる状態であり、十針達の会話から虎田が国王を殺した事が分かっただけで、詳しい流れまでは知らなかったのだ。
「そういう事か。だからあの時、お前は大人しく引き上げたんだな?」
「ま、そういうこったな」
あの時とは、パーラットに向かうため林道を進んでた際に、虎田と数名の男子が搭乗した戦車と鉢合わせた時の事だ。
当時虎田は間が悪いと言って逃げて行ったが生い茂った樹木が光を遮っており、そこらじゅうが影だらけになってために不利を悟って逃げたという事になる。
「だがここは程よく影が出来るからな。正にホームってやつだぜ――ウルァ!」
ドゴッ!
「クッ!」
影を気にしつつ回避するエルシド。
一度距離を取ろうと飛び退くが、虎田は追撃の手を緩めない。
「逃がすかぁぁぁ!」
ドゴン!
「オルァァァ!」
ドガン!
「っしゃあオラァァァ!」
ゴガン!
エルシドを追って次々と床を抉っていき、下手をすると抜けるのではと思える振動が玉座の間を揺らす。
「そろそろいいか」
それが10分は続いたかというところで、ボソリとエルシドが呟く。
「ああ? 何つった? まさか今更命乞いじゃねぇよな?」
「当たり前だ。貴様が命乞いをする事はあっても俺が貴様に命乞いなどしない」
「奇遇だな。俺もテメェに命乞いなんざしねぇぜ!」
息が合ってるように見える2人だが、エルシドは程々に聞き流すと剣を真剣に持ち変えた。
しかし虎田には隙が有るように見えたらしく、エルシドに向かって拳を振り上げる。
「くたばれやぁぁぁ!」
「――トゥ!」
その動きに反応し、エルシドも剣を振り上げる。
そして互いに剣と拳が交わろうとした時、エルシドの動きが加速した!
「受けよ! 天地降波斬!」
スバンッ!
「グギャァァァ!」
エルシドの技が炸裂し、虎田が真っ二つに割れていく。
断末魔をあげるが直ぐに声は聴こえなくなり、左右に分かれた2人の虎田がドサリと床に崩れ落ちる。
既に喋る事もままならなく、最早辞世の句を言えぬまま、虎田はその生涯を終えたのであった。
「うわぁ、グロいでこらぁ……。エルシドはん、後片付けは大変やでぇ――オエッ!」
「汚いから吐かないでね? 私、あの臭いは苦手なの」
「わぁっとるわい! ――それよりエルシドはん。コイツ殺してもうたがよかったんか? 桜庭はんの居場所を聞き出す言うてたやろ?」
当初の予定では、玉座の間にいるであろう転移者から聞き出す算段であった筈で、それを仕留めてしまっては聞く事は出来ない。
「いや、大丈夫です。もう一人玉座の陰に隠れてますので」
「マジか(なんと)!?」
ホークとザードは気付かなかったが、玉座の後ろにも転移者が居るらしい。
「そこに隠れてる者、大人しく出て来い。そこそこの強さを感じるという事は貴様も転移者であろう?」
「…………っ」
ガタッ
玉座が微かに動く。
「出て来ないのなら問答無用で――「わ、分かった! 出る、出るから待ってくれ! この通りサレンダーさ!」
エルシドが剣を振り上げる仕草に慌てて出てきた転移者は、両手を上げて既に降参の意思を示していた。
「おぅ、ホンマに居ったで」
「だが油断は出来ないで御座る。コヤツが隠れてたという事は、そこの転移者が優勢だったならば加勢してたので御座ろう?」
「うっ、いや……それは……」
言い淀むところを見れば正に図星であった。
「いや、そんな事よりも桜庭さんの居場所まで案内してもらいたい……構わないな?」
スチャ……
「ヒィッ! ももも勿論だよ! 桜庭さんの居場所だね? 当然知ってるさ。あ、因みに僕は冨岡って言うんだ、以後宜しく。桜庭さんはこっちだよ俺ッチに続いてカモンカモン」
念のために剣をチラつかせて脅しをかけるエルシド。
これにより突然襲いかかられる可能性はかなり低くなり、冨岡が協力的になった。
因みにこれを教えたのはアンジェラではなくモフモフである。
「あら残念。襲い掛かってきた方が面白かったのに……」
ムーザはムーザで不満のようだが、この状況で地雷を踏みに行くほど冨岡はバカではない。
「ところで俺ッチの髪型ってこの世界でどうだい? 評価されるかい?」
「黙って歩け」
「ももももも勿論だよブラザー!」
……と、思う。
アイリ「モフモフまでエルシドに教えてたんだ」
アイカ「ホークも色々と余計な事を吹き込んでたような……」
アイリ「あの鳥頭!」




