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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
最終章:落ちこぼれ勇者とエリート学生
242/255

ムーシェVSリオン再び

前回のあらすじ

 十針の固有スキルにより一転ピンチに陥るエルシド並びにホークとザード。

 しかしアイカの寄越した助っ人ムーザにより逆に十針が追い詰められ、呆気なく討ち取る事に成功した。

 だがナイトメアはいまだ健在で、十針の次に怪しい高遠の捜索を続けるが……


「お姉様、起きてください!」


 皆が寝静まった真夜中。

 突然アイカから叩き起こされ、眠け眼を擦りながらベッドから這い出て……


 ガンッ!


「いったぁぁぁぁぁぁい!」


 ベッドから落ちて、床に頭をぶつけてしまった。

 さすがは不壊属性のフローリング。傷一つ付いてないどころか、私の頭が割れるかと思ったわ。


「遊んでる場合ではありませんよ、お姉様。敵が侵入して来たので、速やかに撃退作業に入りましょう!」

「遊んでないわ! ――全く……たかが敵くらいで――」






「敵ですってぇ!?」

「そうです。敵襲です」


 こんな夜中に襲撃とか、いったいどこの大馬鹿野郎よ!?


「落ち着いて聞いてください。侵入して来たのは高遠和樹(たかとうかずき)。わたくし達が散々探し回ってた相手です」

「高遠が!?」


 まさか向こうから攻めてくるとは思わなかった。

 けどこれは好都合よ。

 元々高遠を捕縛するのが目的だったし、捕縛出来なくても最悪始末しとかないと何をやらかすか分かんないからね。


「高遠は既に眷属を召したダンジョンマスターとなってます。本気の殺し合いになると思って下さい」

「ダンジョンマスターに?」


 まさか邪王のダンジョンコアを奪った理由はダンマスになる為だったっていうの?


「どっちにしろ、侵入してきたって事は敵対する気満々な訳よね?」

「恐らくは」

「なら私流に()()してやるまでよ」


 コイツは他の転移者と違って慎重に行動してる節がある。十分に注意しないと。


「お姉様、5階層アイリーンに高遠が到達! 街の結界を破ろうとしてます!」

「な!?」


 それはマズイ! 非戦闘民が多いから放置すると被害者が出てしまう! 


「すぐ討伐しに――「あ、お待ち下さい! 高遠が6階層を目指し始めました。代わりに眷属がアイリーンに侵入しようとしてます」


 二手に分かれたか……。


『リヴァイ聴こえる? アイリーンに敵が侵入しようとしてるわ。直ちに撃退して!』

『承知しました。アイリーンはこのリヴァイにお任せ下さい!』

『うん、頼むわね!』


 リヴァイに任せとけば大丈夫よ。

 逆にリヴァイの手に負えなかったら諦めるしかないだろうし。


「アイカ、私達は高遠を仕留めるわよ」

「了解です。スクリーンに映します」


 映し出されたのは、5階層のボスであるストーンゴーレムを破壊して6階層へと到達した高遠だった。


「アイカ、モフモフとアンジェラ、それからルーとミリーを呼んで。眷族総出でブチのめすわよ!」

「あ、お待ち下さいお姉様。6階層は闘技場エリアのため、こちらのモンスターは1体しか出せない仕様になってます」


 あーもう面倒くさい!

 誰よこんな面倒な仕様にしたのは!


「仕方ないわ。多分6階層を突破してくるだろうから、7階層に現れたら速攻で叩くわよ」

「了解です。待ち伏せして袋叩きにするのですね!」


 この間にも6階層の闘技場エリアが一つ一つクリアーされてる。

 時間はあまり残されてなさそうね……。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「ダークシェイバー!」


 パリィィィン!


 アイリ達の注意が高遠に向いてる頃、5階層のアイリーンではリオンの放った闇魔法により結界が破られてしまう。

 ダンジョンマスターとなった高遠から邪気を封入され、生前とは比べ物にならない程の膨大な魔力を持つようになった今なら、結界を破壊するのは難しくはない。


「他愛もない。これなら本気を出すまでもなかったか……」


 直後サイレンが鳴り響き、街の中では多数の自動人形(オートマタ)が出動すると、一般人の避難誘導を行い出した。


「フン、無知な木偶めが。人間なんぞ救ったところで何にもならないという事が分からないとは……」


 その様子を遠目で見ていたリオンが、つまらなそうに吐き捨てる。


「まぁいい。――お前達、ここにいる連中を皆殺しにしろ。新しいマスターであるタカトウ様へ生け贄として捧げるのだ」


 リオンの後方で待機してたグリーンウルフとチャージクロウ(いずれもEランク)を散会させる。

 アイリーンに散らばる者達を片っ端から殺させるためだ。

 が、アイリーンの防御体勢は他のダンジョンと比較すると抜きん出ており、管理を任されているのはSSS(トリプル)ランクのリヴァイアサンのリヴァイ。

 世話好きで爺様な彼は素早く対応に移る。



「させませんぞ!」


 ザシュザシュザシュ!


 今まさに散らばろうとした魔物たちだったがが、リヴァイによってあっという間に肉片へと姿を変えた。


「チッ、邪魔をするな! このダンジョンはタカトウ様の物となる。ここに居る者は全て生け贄となるのだ!」

「馬鹿者ぉぉぉ! ここを治める方を何方と心得る? 恐れ多くも時の覇者として相応しきダンジョンマスター、アイリ様ぞぉぉぉ!」


 ダンジョンを奪いに来た高遠を支持するリオンと、アイリを崇拝するリヴァイがぶつかり合う。


「リヴァイアサンか……厄介な相手だ」


 力量差は歴然。

 高遠によりAランク並に強化されたリオン。

 本来であれば住民達が地を這ってでも逃げなければならない相手なのだが、それでもリヴァイアサンを前にしては霞んで見えてしまう。


「大人しく降参する事を勧めますぞ?」


 第一次勧告で一応は降伏を勧める。

 大人しく引き下がるのならそれでよしなのだが、あまり期待はしていない。

 精々悪足掻きをする程度だと思われたが……


「……フッ」

「ん? 何がおかしいのです?」

「クックックッ……アーッハッハッハッ! 滑稽(こっけい)とは正にこの事だ! クククク……」


 降伏勧告を鼻で笑うリオンに眉を潜めるリヴァイだったが、その様子を見たリオンは腹の底から笑い出す。


「気付かないのか? 召喚した魔物はウルフやクロウだけではない。それらは既にここに居る者共に襲い掛かっているのだ!」

「な!?」


 リオンはダンマスである高遠と同じく魔物を召喚出来るようになっており、グリーンウルフとチャージクロウが殺られた時点で、既に新たな魔物を召喚していたのだ。


()()()を潜って行けば見つかる可能性を抑えられるとは思ったが、予想以上の効果だな」

「クッ!」


 元々は警備員的な意味合いが強い自動人形(オートマタ)では地中からの奇襲に上手く反応出来るか怪しく、すぐにでもリヴァイが動く必要がある。

 しかし目の前のリオンを放置する訳にはいかずどうすればと悩むリヴァイであったが……


「リヴァイさんよ、ここは任せてくんな!」

「そうだぜ! 非常事態なんだし、コレくらいはさせてくれ!」


 それを解決するかの如く颯爽(さっそう)と現れた二組の冒険者パーティ。

 彼等はアイリーンでアンジェラの過酷な試練(遊び相手)を乗り越えた猛者達なので、今のリオン相手でも十分善戦出来る力量だ。


「ゼイル殿にレックス殿!?」

「コイツより街の方が危ないぜ? 何せアンデッドが沸いてきてんだからな!」

「なんとぉ!」


 ゼイルによれば、地面からアンデッドが沸き出てきて住民達を襲ってるらしい。

 ダンマスや冒険者なら撃退出来るだろうが、非戦闘民の商人等は大変危険だ。


「かたじけない。私は街の安全を優先します故、ここは頼みますぞぉ!」


 リヴァイは一礼して速やかに街中へと移動して行くと、入れ替わるように2人の仲間達が駆け寄って来た。


「お待たせリーダー、侵入者ってのは――コイツ、あの時の!?」


 ベニッツが侵入者を見て驚く。

 解散した獄炎傭兵団の副リーダーを勤めてたリオンは記憶に残ってたのだ。


「え? 知り合いか? なんかヤバそうな奴だが……」

「グロスエレムで殺り合った仲……って言えばいいかしら? まぁ、あたしらじゃなくムーシェ本人が因縁有るんだけれど……」


 アルバの問い掛けにキンバリーは簡単に説明しつつ、ムーシェへと視線を向ける。

 すると彼女は周りを手で制し、リオンの前へと躍り出た。


「……貴女は既に死んだ筈。何故生きてる?」

「お前は……チッ、あの時のエルフか! 忌々しい奴め……」


 リオンは邪王のダンジョンでムーシェによりトドメを刺されている。

 にも拘わらず再び姿を現したという事は、何者かの手により復活したと考えられた。


「我が(あるじ)タカトウ様により新たな命を吹き込まれたのだ。」

「……でも貴女の使命は潰えた。今更出来る事は何もない」

「いや、違うな。私はタカトウ様を頂点に導くという新たな使命を受けたのだ。不要なものは排除し必要なものだけを残すのがタカトウ様の望み。それを邪魔する者は滅ぼすのみ!」


 リオンの全身からドス黒いオーラが溢れ出し周囲に四散する。

 直後地面から無数のアンデッドが這い出てきた。


「くそ、またアンデッドが出やがった! ――レックス!」

「わかってるぜ! 俺達【夢の翼】でアンデッドを片付けるんだろ? ――いくぜ皆!」

「「「おう(うん)(了解)!」」」


 ゼイルがレックスに向かって叫ぶと、その意図を理解したようで、仲間と共にアンデッドに向かっていく。

 数は多いが今のレックス達なら問題ないと判断したゼイルは、改めてリオンに向き直る。


「さぁ、覚悟はいいかリオン!」

「くぅぅ、邪魔なゴミ共め。――ならばこれでどうだ!」


 再びリオンからドス黒いオーラが溢れ出し、直後に大きな骨の塊となってゼイル達の前に実体化した。


「コ、コイツぁ……」


 一目でドラゴンとわかるソレはスカルドラグーンという(シングル)ランクのモンスターで、近付くだけでステータス弱体化の影響を受ける非常に厄介はモンスターだ。


「クックックッ、貴様らでコイツに勝てるかな? ――さぁ行けスカルドラグーンよ!」


 ゴォォォォォォォォォ!


 とても骨だけとは思えない程の咆哮を発するスカルドラグーン。

 それを耳にした者にも影響があり、全体ステータスがやや弱体化してしまう。


「マズイぜリーダー、何度も咆哮を食らってたら腰が抜けちまう。なるべく発動させないように牽制した方が良さそうだ!」

「ベニッツに賛成。あのダークエルフはムーシェに任せて、あたしらはあの骨ドラゴンを相手にしましょ」

「分かった。――ムーシェ、お前がリオンを倒せ! それまでコイツは引き受ける!」


 言い終わる頃には既に走り出していた。

 そのゼイルに続きベニッツとキンバリーも参戦し、上手くフォローしあって戦っている。

 ならばとムーシェもリオンに構え、臨戦態勢を取った。


「クククッ、以前の私と同じだと思うなよ? あの時の借り――今返してくれる! エレクトバインド!」


 先に動いたのはリオン。

 突き出した指先から、淡い光を放つトゲが付いたような輪っかがムーシェへと伸びる。


 ギュギュギュギュギュ!


「ぐっ、うぅぅ!」

「フッ、呆気ない。これで貴様は動けまい!」


 エレクトバインドがムーシェを締め上げる。

 以前の彼女であれば必死の抵抗の末に振りほどく事しか出来なかったかもしれない。が、今は違う。


「何も出来ないまま死ん――「ハァァァ!」


 バシュゥゥゥ!


「何だと!?」


 魔力を瞬発的に大きく開放する事で拘束を解いた。魔力の多い今だから出来る芸当である。


「……今度はこっちの番。――貫け、アイスジャベリン!」

「っ!」


 透かさず反撃に転じたムーシェが、複数の氷の槍を放ち、見事リオンを撃ち抜く……事は出来ずに終わる。

 飛ばした場所には既にリオンの姿が無かったからだ。

 

「……逃した!?」

「バカめこっちだ――ブラッディキャノン!」

「!」


 後ろからの声に驚き振り向くと、禍々しく濁った真っ黒な砲弾がムーシェへと迫っていた。

 だが彼女は焦る事なくリオンから目を離さないように注視してると、砲弾がムーシェの数センチ手前で急停止する。


 ピタッ!


「な!?」


 ムーシェが発動させていたルーンガードが役割を果たし、砲弾の動きを止めたのだ。


「……私に飛び道具は通用しない。――っと、コレは返す」


 止まった砲弾を物理的にお返しをするため向きを変える。

 するとルーンガードの効果が切れた砲弾が一直線にリオンへと向かっていった。


 シューーッ……ドズゥゥゥン!


「グァァァッ! くっ、味な真似を!」


 命中はしたが、闇属性でのダメージはあまり受けてなさそうだ。


「……今度は逃さない――アイスジャベリン!」

「チッ!」


 逃がすまいと透かさず氷の槍を飛ばす。

 だがリオンはギリギリ頬を掠める程度に留めて回避を優先し、ムーシェの死角へと回り込む。


「……どこ?」

「…………」


 リオンを見失ったムーシェが必死に気配を探ってるのを確認すると、リオンが再び動き出す。

 密かに手にした短剣に闇を(まと)い、ムーシェを切りつける――が!


 キィィィン!


「……しつこい女は嫌われる。少しは学習した方がいい」

「チッ、こしゃくな……」

「……今度こそ終わりにする。――世に仇なし闇を退け――ホーリーチャージ!」


 ムーシェも杖を背後に回して短剣を防ぐと、透かさず詠唱を開始。闇と対になる光属性を全身に宿した。


「くっ、光属性か……忌々しい!」

「……滅せよ、ホーリーフラッシュ!」

「グァァァァァァ!」


 怯んだリオンに、闇属性の弱点となる光属性の魔法を照射する。

 以前よりも強くなってるとはいえ、弱点を突かれるとダメージは通るようだ。


「……これでトドメ――闇を切り裂き希望を満たせ! ホーリーランス――「グオォォォォォォ!」――ひっ!?」


 トドメを刺そうとしたその時、骨ドラゴンの咆哮がムーシェの耳を突いた。

 これにより光の槍は四散し、ムーシェの足がすくんでしまう。


「バカめ、隙だらけだ!」


 ザシュッ!


「ぅああっ!」


 腕を切りつけられ、透かさず飛び退くムーシェ。距離を取った事により追撃からは免れたようだ。


「チッ、まさか貴様まで以前よりも強くなってるというのか!」

「……その通り。以前ならこのような接近戦は出来なかった。でも――今は違う」

「くっ、どこまでも忌々しい!」


 キィィィン! ガキガキン!


 ムーシェに飛び道具の類いは効かないのを知ってるためリオンは敢えて接近戦を挑み、ムーシェもそれに応戦する。


 ギギギギ……キィィィン!


「ぐっ……ハァハァ……しぶとい奴め!」


 鍔迫(つばぜ)り合いから距離を取ったリオンは、既に肩で息をしていた。

 それというのもスカルドラグーンを召喚したのが原因で、魔力が大幅に減少してるためだ。


「おーいムーシェ、この骨は予想以上に手強ぇ! 早く倒してくれ!」

「っ! ……わ、分かった!」


 一方のムーシェも仲間が追い詰められつつあり、互いに拮抗してる状況に置かれている。


「……あまり時間を掛けられない。これで決める――ホーリーフラッ――「グオォォォォォォ!」――ひぁっ!?」


 またしても骨ドラゴンの咆哮が響き、ムーシェの動きが止まってしまう。

 

「今だ! これで終わりに――ぐぅぅ!?」

「……させない。――ムーシェ、今のうち」


 ムーシェに切り掛かろうとしたリオンだが、ユユが飛ばした氷の槍を受け硬直してしまった。


「……サンクスユユ。――闇を切り裂き希望を満たせ! ホーリーランス!」


 ドスゥゥゥ!


「グァァァァァァ!」


 至近距離のためキッチリと胴体を撃ち抜き、リオンは崩れるように倒れる。


「ゴフッ! く、この……忌々しいエルフ共めが……」

「……光は闇に勝る事を貴女は軽視した。強いて言えば、支える主人を間違えた貴女の負け」


 リオンが倒れた事でスカルドラグーンもボロボロと崩れていき、周囲に沸いてたアンデッドもいつの間にか消え失せていた。


「フッ、分かっていよう。私に……主人を選ぶ……資格など……ない……。だが感謝しよう……これで漸く……眠れる……」


 その言葉を最後にリオンを包んだ禍々しい闇のオーラが四散し、跡形も無く消え去った。

 リオンとしても、邪王以外の者に従うのは不本意だったのかもしれない。


アイカ「補足です。リオンは前章で暗躍した邪王復活を目論む邪王四天王の一人ですが、高遠が邪王のダンジョンコアを入手した際にリオンの存在を知り、アンデッドとして復活させました」

アイリ「ダークエルフの見た目ではあるけれど、実際はアンデッドって事ね」

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