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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
最終章:落ちこぼれ勇者とエリート学生
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願い潰えて

前回のあらすじ

 成り行きにより、ディスパイルにナイトメアの件で協力してもらえる事になったアイリ。

 一方のエルシドはパーラットへ向かう途中、以前自分を瀕死に追い込んだ藤堂と再開する。

しかし藤堂の他に十針まで現れ人質を盾に桜庭が連行さらてしまう。

当初見逃される筈だったエルシドだが、桜庭を取り戻すため無謀にも藤堂へと挑み、苦戦の末ザードとホークの助力もあり藤堂を倒す事に成功。

しかし、十針が戻って来きてしまい、一転ピンチに陥るが……



「…………」

「…………」


 夜も更けていく中、周囲を照らすマジックアイテムをそれぞれ掲げ両者は睨み合う。


「……フフフ」


 最も、女性の方は不適に笑ってたりするのだが。


「ア、アイリ?」


 ふとエルシドが(つぶや)く。その女性の横顔がアイリに()()()()()()ためだ。


「へぇ……」


 しかし十針はその呟きを聴き逃さなかった。

 ダンジョンマスターであるアイリが助けに来たのだと思い、頭の中をフル回転させ自分の有利になる方へと思考を巡らせる。

 時間にしてほんの数秒だが、1つの活路を見出だし十針も不適に笑い始めた。


「フッ、この戦争は最早負け戦かと諦めてたけど、こういうどんでん返しが有るから面白いよねぇ」

「あら、何か面白い事でも考えついたのかしら? よかったら聞かせてくれない?」

「中々乗りが良いねぇ君。けれど申し訳ないが、君には辛い現実を突き付ける事になるだけだよ。――こんな風にね!」


 十針は迷いなく肉体操作(フィジクマリオネット)を発動させる。この世界に巣食うダンジョンマスターならばこのスキルからは逃れられない。


「さて、君はこれから僕の手下って事で、宜しく頼むよ」


 新しく手に入った手駒に顔を綻ばせ、女性に手を差し出す。






「お断りするわ」

「――へ?」


 思いもよらない返答で呆気にとられ、間抜け面を晒してしまう。拒否される事は100%有り得ないからだ。


「え~っと……君は僕の言いなりになってる筈なんだけど……違うのかな?」


 間抜け面に続いて間抜けな質問をしてしまう。ここへ来て十針はテンパってしまったようだ。


「フフフ……残念だけど、私には効かないわよ? だって私は()()()()()()()()()()()()もの」

「……は?」


 衝撃的な事実を言われた気がするが、幸か不幸か右から左へ聞き流してしまい頭には入らなかった。

 だが女性は畳み掛けるように事実を突き付ける。


「多分勘違いしてると思うんだけど、貴方のスキルはこの世界の生命体にのみ有効だと思うのよね。だから同郷の人間には通用しなかったのでしょう?」

「……!」


 言われてみると納得出来るとばかりに十針は思考を重ねる。

 今までは日本人には通用しないのだと思ってたが、実際にはこの世界でのみ有効なスキルだったのだと思い始めた。


「世界は一つでもなければ二つでもない。それ以上の数が存在するのよ。――恐らくわね」

「じじじ……じゃあ君はいったい!?」


 腰を抜かして尻餅を着く十針。

 これまでにない反応に、もし他のクラスメイトが見たら仰天したことだろう。


「フフフ、さっきも言ったけど、私はこの世界の生命体じゃないの。あ、一応ムーザって名乗ってるけどね?」

「ムーザ……」


 謎の女性の正体はムーザ。

 かつてアイリを乗っ取ろうと画策したが失敗に終わり、地底の奥深くで廃人みたいに過ごしてたところをアイカに発見され、やる事がないなら手伝ってくれと頼まれたのだ。

 最初は断ってたが、あまりにもしつこく勧誘(嫌がらせ)をしてくるので、渋々協力する事にしたらしい。


「という訳で――はい、おしまい♪」


 ブスッ!


「ギャァァァァァァ! め、目がぁぁぁ!」


 ムーザは十針の両目を潰した。

 肉体操作(フィジクマリオネット)の発動には相手を見る必要がある事を見抜き、それを阻害したのである。


「ほら貴方達、もう動けるでしょ?」

「あ、ホンマや!」

「うむ。ムーザ殿、感謝いたす」


 十針が神経を乱したため、エルシド達に掛かったスキルは解除されたらしく、身体の自由を取り戻したのだ。


「ありがとう、ムーザさん!」

「いいのよ。それより早くトドメを刺しちゃいなさい。逃げられる前にね」

「はい!」


 ムーザに促されたエルシドが、十針に向かって駆け出す。

 今も尚苦しみ悶えてるようで、目を押さえながらゴロゴロと転がってる十針は隙だらけだ。


「これで終わりだ元凶め! 地獄で後悔するがいい!」


 ザクッ!


「グボォッ! ――カハッ……」


 十針の心臓目掛けて剣を突き刺す。

 吐血後間もなく十針は絶命し、エルシドは復讐を成したのである。

 一国を混乱に落とし火の粉を振り撒いた張本人にしては呆気ない幕切れだ。


「ハァ……ハァ……ハァ……これで脅威となるものは無くなった。後は国を取り戻すだけだ」


 首謀者である十針が死んだ事で統率は失われ、これまでのように好き勝手は出来ないだろうが、国そのものは転移者の手にあるのだ。


「もう夜だけど、すぐにパーラットに向かうの?」

「はい、十針を倒したとはいえ桜庭さんが捕まってる事には変わらないので」


 やはりエルシドは休まずに動くつもりのようで、ムーザの問いにも当然だという感じに頷いた。


「せやけどエルシドはん、桜庭はんは捕まってるんやし、このまま乗り込んでも人質にされかねないで?」

「う……た、確かに……」


 桜庭救出を焦るあまり、ホークに指摘されるまで人質にされてる事が頭から抜け落ちてたらしく、肩を落としてションボリとしてしまう。


「ま、向こうも十針が死んだ事で大騒ぎするやろうし、焦らず慌てずいこうや?」

「そう……ですね」


 結局パーラットの街に向かうのは明日という事になり、その日は身体を休める事にした。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「う……こ、ここは?」


 何もない真っ暗な空間で、十針は目を覚ました。


「僕は確か……」


 何故ここに居るのか分からないため、記憶の糸を手繰り寄せる。


「パーラットの前哨基地に転移して暫く経ったけど藤堂さんが戻って来なかったんだ。だからもしかしたらと思ってあの勇者のところへ戻ったんだっけ。それから……あ!」


 徐々に記憶が鮮明になり、謎の女性により両目を潰された事を思い出すと、慌てて両手で目を触る。


「血が出てない? ――いや、それよりも目が見えてるのはどういう事なんだ?」


 目を潰された直後、心臓に強烈な痛みが走り、そこで記憶が途絶えてる事を考えれば、自分は殺されたのだと理解出来る。

 しかし、目はハッキリと周囲を映しており、真っ暗な空間に自分にだけスポットライトのようにぼんやりとした光が当てられていたのだ。


「いや、そもそも僕は死んだ筈。なのに……」


 今ある状況はどうにも理解しがたいものであり、死んだ筈の自分が何故ここに居るのかは分からなかった。

 すると、どこからともなく声が聴こえてきた。


『ヨウコソ、ワレトケイヤクセシモノヨ』

「!」


 突然の事に周囲を見渡すが、当然誰も居ないし何も見当たらない。


「お前は誰だ? それにケイヤクって――契約の事か? 僕は契約なんてした覚えはない。お前の目的は何なんだ!?」

『シツモンガオオイナ……。マァイイ。ヒトツダケコタエテヤロウ。オマエノネガイヲカナエテヤッタモノ……トダケイッテオコウカ』

「願いって……僕は別に――あ!」


 だが十針には心当たりがあった。

 この世界に転移する前に、夢の中で願った事――()()()()()()()()()()()()と願ったのを思い出したのだ。

 更にその時、願いを叶えたら魂を貰うと言ってきた存在が居た事も思い出す。

 その相手の名前は……


「ま、まさか、ナイトメアなのか!?」

『ソノトオリ。サァ、ヤクソクドオリ、ワレニタマシイヲササゲヨ』

「ふ、ふざけるな! 願いなんて一瞬しか叶ってないじゃないか! こんなの、僕が死んだら意味がないに決まってる。だからこの契約は無効だ!」


 夢半ばで断たれた事を訴え、契約の無効を叫ぶ十針。

 しかし、ナイトメアはそんな戯言に付き合うつもりはなく……


『タトエイットキデモカナッタノハジジツ。オマエハダマッテタマシイヲサシダスシカナイノダ、アキラメロ』

「な、なんだって!? そんなの横暴だ! こんなふざけた契約が――な、なんだコレ!?」


 禍々しい邪気を漂わせたモヤが十針の周囲に沸き出てきた。

 コレがただのモヤである筈がなく、十針は反射的に理解する。このモヤが自身の魂を抜き取ろうとしてる事を。


「や、止めろ、止めるんだぁぁぁ――」


 バクッ!


 禍々しいモヤが十針を包み込み、一気に飲み込んでしまう。

 こうして十針の魂は、永遠とさ迷う事になってしまうのであった。

 


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



『十針を倒したの!?』

『そうよ~、だからもう帰っていい?』


 ビックリしたわ。

 高遠(たかとう)を捜索しに行こうとしたら、いきなりムーザから念話が飛んでくるし、しかも十針が死んだって言うしでもう驚きっぱなしよ。


「ですから頼もしい助っ人だと言ったじゃありませんか」

「いや、それにしてもムーザはないでしょムーザは。アイカは直接戦った事がないから分かんないでしょうけど、私の中では印象は最悪なのよ」


 よりによって未来の私の姿をしてるって言うし、他人の姿を拝借するとか悪趣味にも程があるわ。

 しかも厚化粧に見えるし。


『ねぇ、なんだか物凄くディスられてる気がするのは気のせいかしら?』

『いえ、気のせいじゃないわよ。それより帰りたいなら帰れば?』

『……相変っわらずクソ生意気ねアンタ。折角協力してあげてるってのに。そんなだからボッチなのよ』


 イラッ!


『好きでボッチだったんじゃないわ! 殆ど寝た切りだったんだから友達居なくても仕方ないでしょ!? だいたいそれ言い出したら、アンタだって500年近くもボッチじゃないの、この万年ボッチ厚化粧!』

『な、厚化粧ですってぇ!? これは私の世界では標準だったのよ! それをバカにするのは許さないわよ、この発育不良!』

『だぁぁぁムカつくぅぅぅ!!』



★★★★暫くお待ちください★★★★



『き、今日のところは……このへんで……勘弁してあげるわ……』

『そ、そうね……懸命だと……思うわ……』

「お姉様、わたくし念話で数時間も喧嘩してる人を初めて見ましたよ」


 それは良かったわね。

 貴重なシーンだろうから光栄に思いなさい。


『とりあえず暫くはエルシドに同行してあげるから感謝しなさいな。――特にそこのチビ、ありがとう御座いますは?』


 チビって、まだ13歳――いや、冬の間に14歳になったんだった――まだ14歳なんだし、身長が低いのは仕方ないのよ。

 もぅ、ムーザの癖にぃぃぃ……


『あ……ありがとう……御座います』

『あっれ~? 電波が弱くて聴こえないわねぇ……もう一度言ってくれる?』


 むっくくくく……調子に乗ってぇぇぇ! 念話に電波の強弱が関係あるかっての!


『ありがとう御座いま~~~す(棒)』

『いまいち気持ちが込もってないけど、まぁいいわ。それじゃお休みぃ……』


 むぐぐぐ……絶対後で仕返ししてやる!


「そんな事よりお姉様、ディスパイル殿に確認しないのですか?」

「忘れてた!」


 ムーザと喧嘩してる場合じゃなかったわ。

 って事で、至急確認をとったんだけど……




「ナイトメアは健在だって」

「ではやはり……」


 どうやらナイトメアは高遠で決まりのようね。


「今日はもう寝るけど、また明日から全力で捜索するわ」

「畏まりました。わたくしはドローンでの捜索を続けますので、もし発見したらすぐに叩き起こしますね」


 いや、叩き起こすって……出来れば丁寧に起こしてほしいんだけど……。

 でも万が一このダンジョンに現れたら叩き起こしてもらう必要があるか。


 って事で、この日はモフモフとアンジェラもダンジョンで休ませる事にした。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 今まさにアイリが床につこうとした時、アイリのダンジョン付近に生い茂る樹木の天辺で、一組の男女が下を見下ろしていた。


「……ここが例のダンジョンか」

「左様で御座います。多くの民が集まるこの地こそ、タカトウ様がダンジョンマスターとして君臨するのに相応しい場所かと存じます」


 男女の内一人はアイリが必死に捜索してる人物高遠その人で、傍らに居る女性の助言でここへやって来たのである。

 アイリのダンジョンは今注目度ナンバーワンで人気急上昇のダンジョンであるため、多くの冒険者や商人、果てはダンマスまでが集まってるのだ。

 つまり見方を変えれば、ここなら生け贄としてダンジョンに吸収する者が豊富に存在するという事に。


「本当は十針を仕留めてスキルを奪いたかったが、あの連中が相手じゃ手が出せないからな。その代案でまさかダンジョン攻略を薦めてくるとは思わなかったぜ」


 高遠は十針のスキルを奪う隙を(うかが)ってたのだが、エルシドやムーザ相手では難しいと感じ諦めた。

 代わりに推奨されたのがダンジョン攻略で、その攻略先がアイリのダンジョンだったのである。


「フッ、気に入ったぜ。お前の助言通り、このダンジョンを頂くとしよう。これからもサポートを頼むぜ――」






「――リオン」

「はい、お任せをマイマスター……」


アイカ「何故お二人は仲が悪いのでしょう?」

アイリ&ムーザ「出会いが最悪だったから!」

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