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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
最終章:落ちこぼれ勇者とエリート学生
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捕らわれの友

前回のあらすじ

 ディスパイルにナイトメアを判別するための協力を依頼するアイリであったが、苦渋に満ちた表情で断られてしまう。

しかしそこへ現れたミゴルによって、ナイトメアを倒したかどうかを教えてくれる事に。

一応の成果を得てダンジョンに戻ったアイリだが、モフモフの念話から逃走中の3人を死体で発見したという報告があり、加害者を高遠と断定して周辺の捜索を行うのであった。


 熊谷を倒し、仲間の仇をとる事に成功したエルシドは、そのまま林道を進みパーラットの街へと向かう。

 本当は猛スピードで動けるエルシドが桜庭(さくらば)を背負って行けば早いのだが、桜庭はその申し出をやんわりと拒否したため、手を引いて歩く事にしたのだ。

 やがて日が落ち、そろそろ野宿の準備を始めようとしたところで、2人の前に招かれざる客が現れた。


藤堂(とうどう)さん……」

「ああ、久し振りね。――でさぁ、割とどうでもいいけど、アンタが戦車をブッ壊したんだって? ついこの間は死にそうになってたのに張り切り過ぎじゃない?」


 藤堂は桜庭を見ずに、エルシドを舐めるように見回す。

 転移で逃げた虎田(とらだ)から、エルシドが前より強くなってると聞かされ、そこに興味が引かれたのだ。


「……それがどうした? それよりお前には借りがある。今ここで返させてもらうぞ!」


 問答無用とばかりにエルシドが斬り掛かる。

 藤堂の固有スキル【剥離投入(ステータスチェンジ)】により瀕死になった事は忘れてはいない。


 ターーーン!


「ムッ!?」


 だがエルシドの数歩先を銃弾が着弾し、動きを牽制されてしまった。


「いきなりの殺生は待ってほしいねぇ」

「誰だ!?」


 藤堂の後方から3人の少年達が現れる。

 内2人は虎田(とらだ)と共に戦車を捨てて逃げた鈴木と佐藤で、もう1人の少年にも見覚えはあった。

 忘れもしない、その少年は……




「「十針(とばり)」」


 油断なく銃口を向けつつ近付いてくる十針。

 彼の視線はチラリとだけエルシドに送ると、すぐに桜庭へと移す。目的はエルシドではなく桜庭にあるからだ。


「虎田君から近くに来てると聞いてね。こうしてやって来た訳さ。――藤堂さん?」

「OK~、――剥離投入(ステータスチェンジ)!」


 十針の意図を理解した藤堂は、エルシドに向けて自身の固有スキルを発動させる。

 これによりエルシドは急激に弱体化してしまった。


「くそっ!」

「フッ、暫く藤堂さんと遊んでてよ。僕は桜庭さんと大事な話があるからね」


 そう言い終わるのと同時に、藤堂がエルシドへと接近。


「食らいな!」


 ガスッ!


「ガハァッ!」


 エルシドは遠くへ殴り飛ばされてしまい、その後を藤堂も追って行った。



「さて、邪魔者が居なくなったところで僕からの用件を伝えるよ」


 拳銃をしまい両手を上げる事で敵意が無いのをアピールし、手早く内容を話し出す。

 それでも佐藤と鈴木の2人は、桜庭に銃口を向けたままだが。


「桜庭さんが必要になったのさ、僕の目的のためにね。だから君を迎えに来たんだよ。どうだい? 簡単だろ?」

「誰がアンタなんかに!」


 当然桜庭はそれを拒否。話にならないとばかりに十針に向かって斬り掛かろうとする。

 が、口の端を吊り上げ嫌らしい笑みを浮かべた十針が、何かを確信してるように口からあるキーワードを出した。


「君が来ないと館林さんを処分する事になるんだけどねぇ?」

「な!?」


 館林を人質にとられ、慌てて動きを止める。


「どうだい桜庭さん? 僕がその気になれば、今絶賛フルボッコ中の勇者を洗脳する事も可能なんだけど、君が大人しくついてきてくれるなら僕は何もしないし館林さんの命も保証するよ?」


 十針が視線を移した先では、藤堂によって一方的にやられているエルシドが地を這っていた。


「……私が行けば、癒夢(ゆむ)は助けてくれるのね?」

「勿論だよ。館林さんを殺してしまったら本末転倒じゃないか。あ、桜庭さんも命も保証するよ? 君が生きてる事が彼女が協力してくれる条件だからね」


 十針が館林に協力を迫った際、彼女は一つの条件を出してきた。

 それは桜庭の命を保証し館林の元へ連れて来るというもので、それならばと十針は条件をのんだのだ。


「……分かった。けど私からも条件があるわ」

「何だい? 可能な限り善処するよ?」

「エルシドを殺さないで。それが私からの条件よ」

「フム……」


 決意のこもった桜庭の目を見て、十針は考え込むフリをする。

 特に深い意味は無いが、もっと無茶な条件を提示してくると思ってたので肩透かしを食らった感じだ。


「まぁいいよ。別に死に損ないの勇者に興味はないし。――藤堂さんストップ!」

「はいはい、しょうがないなぁ……」


 十針が馬乗りになって殴り続けてる藤堂を止める。

 そこへ桜庭が駆け寄るとポーションを振り掛けつつエルシドに語りかけた。


「ゴメンなさい、エルシド」

「ハァハァ……桜庭……さん?」

「友達を助けなきゃならないから……私、行くね?」

「さ、桜庭さん、行っちゃ――「王女様と……仲良くね?」


 行っちゃダメだ――とは言えなかった。

 桜庭の口から()()という二文字が出てきた時の悲しそうな表情が、喉から出かかった台詞を腹の底へと引っ込めてしまう。

 桜庭は――彼女は気付いていた。エルシドがメロニア王女と恋仲であると。

 エルシドは傷が癒える中で何故か心にズキリと痛みを感じつつ、転移する桜庭と十針を見上げる事しか出来なかった。


「さぁて、あたしも引き上げ――「待て!」


 鈴木と佐藤も転移石で戻っていったため、最後に残った藤堂も引き上げようとしたのだが、逆にエルシドは逃すつもりは無く、再び剣を構える。


「まだ終わりじゃない……終わってはいないんだ!」


 立ち上がったエルシドの目からは、戦意の衰えは感じない。


「はぁ? 何言ってんのアンタ。見逃してあげるっつってんだから、さっさとどっか行きなさいよ」

「黙れ! 貴様らのようなやつにこれ以上祖国を汚させる訳にはいかない! 桜庭さんも俺が助け出す!」


 再び藤堂へと挑むエルシド。


 ガンッ!


「くっ!」


 だが当然エルシドのステータスを持つ藤堂に敵う筈もなく、呆気なく殴り倒されてしまう。


「いい加減理解したら? バカ真面目なだけじゃ世の中渡れないってさ。それに他人のラブロマンスなんざ見たくないんだよ!」


 ゲシッ!


「ぐぁ!」


 倒れたところを更に蹴りつけられるエルシド。

 だがそれでも彼は立ち上がる。

 この程度の痛み、アンジェラとの特訓に比べれば100倍はマシだと感じていた。


「あーもぅ、いい加減にしつこいんだよ!」


 何度も起き上がってくるエルシドに、藤堂は徐々に苛立ち始める。

 最初は適当に痛め付けてたのだが、やがて本気で殴り付けるようになっていく。


「この、この! もう死んじゃえ! あ~クソッ避けるな!」


 しかし致命傷になりそうなのは的確に避け、それ以外のは最小限に受けるという粘り強さを見せ、藤堂は本気を出しながらも焦りを見せ始めた。

 それというのも【剥離投入(ステータスチェンジ)】には時間制限があり、使用から1時間経過で効果が切れるのだ。

 つまり、このままエルシドが粘り続けると藤堂は元のステータスに戻り、その瞬間敗者となるのは確実である。

 例え転移石で逃げたとしても次にスキルを使用出来るまで3日も待たなければならず、その間にエルシドと遭遇すれば勝ち目はない。

 そう考えると益々動きが単調になり、エルシドはダメージを最小限に抑えていた。


「もう埒が開かない! コレでブッ殺してやる!」


 ついに藤堂は拳銃を取り出すと、エルシドに向ける。

 さすがのエルシドもステータスがダウンした今は銃弾を回避する事は難しい。


「死ね、糞勇――「ベノムスラッシュ!」――グフッ!?」


 間一髪、藤堂の後方より斬撃が飛んできて、彼女の腕に命中!

 結果拳銃を遠くに弾き、エルシドは難を逃れるのだった。


「大丈夫で御座るかエルシド殿!」

「――ザードさん、助かったよ!」


 斬撃を放ったのはザードで、十針がパーラットから転移したのを確認し、急いで戻って来たのだ。


「おう、ワイも居るでーっ!」


 やや距離があったがホークが人化を解除して飛んできたため、さほど時間が掛からなかったらしい。


「くっそ、もうちょいだったのに。――こうなりゃお前らもまとめてブッ殺してやる!」


 銃を無くしたため、素手で殴り掛かってくる。

 動きが速いので避けるのは難しいかと思われたが、そこはやはり素人。単調な動きになってしまい、更には大振りな攻撃のせいでザードやホークはギリギリで避け続ける事に成功した。


「くそ、くそくそ、何で当たんないんだよ!」

「フッ、その程度の動きで当てれると思ったとは笑止千万! 武士の名が廃るでござる」

「うっさい! あたしは武士じゃない!」


 ザードの天然のような挑発にも乗ってしまい、益々動きが単調になりつつある中で、ついにタイムリミットを迎えようとしていた。


「時間が……時間がないじゃない! この、さっさとくたばりなさいよ! このこの! あ~もぅ、この野郎――くぁ!?」


 突然力が抜けてしまい、その場にへたり込む藤堂。

 どうやら【剥離投入(ステータスチェンジ)】の効果が切れてしまったようだ。


「エルシドはん、今やで!」 

「分かった!」


 本来のステータスに戻ったエルシドが、ホークに促されて藤堂へと迫る。


「ちょ、ちょっと待って! マジで――ガッハァッ!?」


 寸分の狂いもなく、エルシドの剣は藤堂の心臓を突いていた。

 剣を引き抜くとドバドバと大量の血が流れ出し、後から襲ってくる激痛に藤堂は苦しみだす。


「ギャァァァァァァ! ゲ、ゲホッゲホッ! ゴフッ!?」


 やがて口からも血を吐き出し始めたところでエルシドが言い放つ。


「お前達の道楽によって、我が祖国は滅茶苦茶になった。死してその罪を償うがいい!」


 最後の方は聴こえてるかも怪しい状態になり、やがて藤堂は動かなくなった。

 

「よし、すぐにでも十針を追おう!」

「いやいや、ちょい待ちぃ。エルシドはんかなりダメージ受けとるやないか。今日は野宿して、明日にでも攻め込めばいいんちゃうん?」

「いや、ダメだ。すぐにでも向かうぞ!」


 連行された桜庭を救出するため、少しでも早く動き出したいエルシド。

 ホークとザードは難色を示すがエルシドは曲げない。


「――僕としては出来れば諦めてほしかったんだけどねぇ」

「な、十針!」


 なんと十針が戻って来たのだ。

 藤堂の帰りが遅いのに気付き、もしかしたらと思い様子を見に戻ったらしい。


「しまった! 体が動かんでござる!」

「ワイもや! こらアカンでぇ!」

「くそ……」


 3人共既に十針の【肉体操作(フィジクマリオネット)】を受けており、どうする事も出来なくなっていた。


「さぁて、勇者を殺したら桜庭さんが暴れるかもしれないし、何をさせようか……」


 動けない3人を前に、十針が余裕の笑みを浮かべて長考する。

 やがて何かを閃いたらしく、手をポンと叩いて頼み事という名の命令を下す。


「折角だし、目障りな存在を消すのに一役かってもらおうかな。プラーガの方は暫く大丈夫だろうから、今脅威なのはアイリっていうダンジョンマスターなんだよねぇ……」


 アイリという名が飛び出し、3人は嫌な汗を流し始める。

 何を言い出すか予想がついたからだ。


「――そういう訳で、君達にはアイリというダンジョンマスターを――「ちょっと坊や、勝手な事されると困るわ」


 突然割り込んで来た謎の声に、十針は息を止めて周囲を警戒する。


「あらあら、そんなに警戒しなくてもちゃんと姿を見せてあげるわよ」


 謎の声は3人の後ろから聴こえてくるようで、十針はそこへ視線を移す。

 すると見慣れない1人の女性が姿を現したのだ。


「君は……誰なんだい?」


 口調は落ち着いてるものの、内心では動揺している十針が尋ねる。


「さぁ、誰なんでしょうね? 少なくとも貴方にとっては良くない存在だと言っときましょうか……フフフ」


ホーク「こりゃどえらい助っ人が来たでぇ!」

ザード「知ってるでござるか?」

ホーク「知っとるが、まだ内緒やで」

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