ホークの突撃ガチコント
グーチェスを城に案内した私たちは、さっそく作戦会議を開いた。
眷族も全員を参加させている。
……レイク以外。
だって仕方ないのよ、大きすぎて城が壊れちゃうんだから!
とまあ、レイクのことはいいとして、とりあえず会議を始めましょう。
「というわけで、今から会議を開きます」
会議と言われて、私とアイカ以外の全員が首を傾げる。
うん、ごめんね? 理由も言わずに、とりあえず来いと言っただけだもんね。
「して主よ、いったい何の作戦会議をするのじゃ?」
「まずはそこからね」
ギブソンという男とグーチェスを鑑定してわかったことがあるからなのよ。
まずギブソンの鑑定結果がこちら。
名前:ギブソン 種族:人狼
職種:レミエマの眷族
これだけでも、ギブソンがここへ来た理由がわかった。
そりゃレミエマの眷族ならレミエマを追ってくるのは当たり前ね。
そしてアイカが無意識のうちにレミエマを様付けで呼んでたのは、レミエマがダンジョンマスターだからなのよ。
恐らくダンジョンコアは、ダンジョンマスターを様付けで呼ぶ習慣みたいなのがあるんじゃないかしら。
続いてグーチェスの鑑定結果がこれ。
名前:グーチェス(偽) 種族:人間
レベル:52 職種:ダンジョンマスター
HP:650 MP:531
力:552 体力:586
知力:482 精神:463
敏速:526 運:25
【ギフト】
【スキル】短剣Lv4 座標転移
【魔法】水魔法Lv3
【補足】最近では趣味で初心者のダンジョンマスター狩りをしている
名前の横を見る限り、思いっきり偽物ね。
ダンジョンマスターである偽グーチェスが、何をしに来たのかってことだけど……。
「お姉様、最近ダンジョン通信で噂されてるルーキーキラーですね?」
「【補足】を見る限り、そういうことになるわ」
知人の顔をしてターゲットに接触し、隙を見て殺す……ってのがコイツのやり方に違いないわ。
「しかし、いったいどのようにして主のダンジョンの場所を知れたのでござろう?」
「ああ、それはね……」
ザードの言うように、見知らぬ他人が知ってるのはおかしい。
ただし、ダンジョンマスターに限っては例外なのよ。
ダンマスたちはダンジョン通信を使用して情報交換ができる。
ダンジョン通信には過去の記録が残るため、過去に遡って調べることは可能よ。
「ですがアイリ様は~、ダンジョンの場所を~、話してませんでしたよ~?」
「左様。この初心者殺しがこの場所を知ってるのは不可解ではござらぬか?」
そうなのよね……。
私はグーチェスに……勿論モルデナさんや水虫にもダンジョンの場所を話してはいないのよ。
「お姉様、その偽グーチェス様のスキルにある、座標転移というスキルでここに来たのですよね?」
「多分そうね」
名称を見る限り、瞬間移動みたいなスキルだと思うんだけど……、
「ではそのスキルを検索すれば詳細の確認が可能だと思われます。余程レアなスキルでない限り、取得可能としてリストアップできるかと」
なら検索してもらおう。
それで取得出来るなら取得したいわね。
転移系のスキルは今後も役立ちそうだし。
「あ、有りましたお姉様。検索の結果、一度見た場所に転移できるという大変便利なスキルのようですね」
なーるほど……そういうこと。
「コイツは私とグーチェスのバトルを観戦してたのよ」
ダンジョン通信の機能の1つに、他のダンマスのバトルを観戦できる機能もある。
この機能を応用すれば、座標転移で私のダンジョン入口まで転移してくることは可能になるわ。
「うむ、なるほど。左様でござったか」
なんかザードが感心してうんうんと頷いてるけど、感心するところじゃないから……。
「ちなみに30000ポイントで取得可能ですが、如何致しますか?」
たっか!
さすがに転移系のスキルは高い……けれどもそれだけの価値は有りそうね。
「確か50000ポイント以上のDPが残ってたはずだから取得しちゃおう」
「畏まりました」
これで偽グーチェスがここに来た方法が分かった。
後はコイツをどうするかなんだけど……。
「姉御、まどろっこしいことせずに、さっさとヤキ入れちまいやしょうぜ?」
モフモフの言う通り、私としてもそうしたいんだけど、この偽グーチェスは同じダンジョンマスターを殺害してるのよ。
せめて死んでいったダンマスたちの代わりに地獄を見せてやろうかと思ってね。
「つまり、主をターゲットに選んだことを後悔させて、さらに殺されたダンマスたちの無念を晴らすということでよいかの?」
「うん、そういうこと」
私を殺しに来てるってことは、自分も殺される可能性が有るってことを教えてやらないとね。
「それでその偽物とやらは、今何をしてるんスか?」
そうだ、クロに言われて思い出したけど、この偽グーチェスは5階層の街にある領主の城でお風呂に入ってるんだった。
偽者と分かってて労うのは気が進まなかったけれどね。
「え? 風呂に入ってるん? ならメッチャ好都合ですやん!」
ん? どういうこと? お風呂に入ってるのが好都合って……。
「いやぁ、一度生で見たかったんよ、ドリ〇ターズみたいなコント!」
「「「「「コント!?」」」」」
ホークの発言にその場の全員が驚く。
「まぁまぁ、皆の衆。ここはこのホークに任せてもらいまひょか!」
こうして偽グーチェスは、ホークの実演コントのゲストに選ばれてしまったのである。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
カポーーーン
「ふぅ。中々の歓迎っぷりだったな。これなら偽物とバレる心配はなさそうだ」
湯に浸かってご満悦のこの男は、グーチェスを偽ったダンジョンマスターだ。
レミエマを取り逃がした後、ターゲットをアイリに変更して意気揚々と正面から乗り込んできたのだ。
「あの眷族のせいで、せっかくターゲットにしていたレミエマには、逃げられてしまったからなぁ。今度はキッチリと仕留めないとね」
レミエマのダンジョンを訪れて、ダンジョンバトルで顔見知りになった審判を装いレミエマに襲いかかったが、レミエマの眷族である人狼に阻止されたのだ。
彼が居なければ、レミエマは他のダンジョンマスターと同じように殺されてたであろう。
「まさかだよ。まさかレミエマがダンジョンコアを持って逃げ出すとは思わなかった。もう少し戸惑ってくれてたらねぇ……」
レミエマの決断は早かった。
ギブソンが偽グーチェスの足止めをしてる最中に、コアを持ち出しダンジョンを放棄して逃走したのだ。
結局、偽グーチェスはレミエマを取り逃がし、ターゲットの変更を余儀なくされた。
「だがこうしてターゲットも決まり、油断させることもできたし、まぁいいかな?」
実は油断させるどころか偽物だとバレてるのだが、知らぬは本人ばかりなり……である。
「だが些か不用心過ぎる気もするが、若さゆえに……ってとこかな?」
敵陣に乗り込んで、言われるまま風呂に入ってる奴に言われたくない台詞である。
他人が聞いたらまず間違いなく、今のお前の方が不用心で無防備だと言ってくるところだ。
コンコン!
色々と思考してると扉を叩く音がした。
「湯加減はどうですか?」
「ああ、いい感じだよアイカ」
「それは良かったです。今食事の用意をしてますので、もう少々そのままお寛ぎください」
「うん、ありがとう」
食事の準備中だと言って、アイカは下がっていった。
アイカが下がった直後、徐々に温度が上がっていくのに偽グーチェスは気付いた。
「ん? 湯冷めしないように上げたのかな?」
偽グーチェスは勝手に解釈したが、その程度では済まされない温度へと誘われつつあった。
「ぐ、くぅ、あ、熱い、これは、熱い!」
お湯が熱湯に成りつつあることに気づいた偽グーチェスは、すぐに風呂から上がろうとするが……、
「いくら何でも熱すぎる! もう無ガガガガガガガ!」
上がろうとした瞬間、電気が湯の中に流される。
それはただの電気風呂だろうと思ってはいけない。
電気風呂の何倍もの電気が流されるので、熱くて痛いのだ。
「どや? 1粒で二度おいしいというやっちゃで!」
アイリたちに対してドヤ顔を決めるホークだが、1つだけ訂正したい。
ドリ〇ターズでは、このような危険なコントはやってない……多分。
その後も他の眷族たちがドン引きする中、コント?は続けられ、上がろうとして電流、上がろうとして電流を数回繰り返し、口から泡を吹いてプカプカと浮いていた偽グーチェスが浴槽から担ぎ出された。
「さーて、体がふやけたところで、思いっきり洗うでぇ! いてまえーーっ!」
ホークのかけ声と共に出現した自動人形たちが、偽グーチェスを羽交い締めにして体中に何かを塗りたくる。
その何かを塗ってる最中に偽グーチェスは飛び起きた。
「イィデーーーーーーーーーーーーッ!!」
偽グーチェスに塗っている物はDPで注文した練りわさびだ。
火傷で爛れてる素肌には、拷問級の痛さなので、良い子は絶対に真似してはいけない!
「大人しゅうせんかい! まだ洗ってる最中やで!」
アイリのステータスを複写した自動人形たちなので、今の偽グーチェスのステータスでは振りほどくことなど不可能なため、結局再び気絶するまで続けられた。
「さぁさぁ流すでぇーっ!」
満遍なく塗った練りわさびをお湯で洗い流す。
勿論浴槽に入ってる熱湯を使ってだ。
「グワァッチャーーーーッ!!」
「もう喧しいで! ほら次は頭や」
体に続いて頭も洗いだす。
そして頭に塗っているのは……、
「糠味噌やで。存分に味わってや!」
この時の偽グーチェスはまだ幸運だったと言える。
気絶してたせいで、糠味噌の洗礼を浴びることはなかったのだから。
「なんや気絶してるとつまらんなぁ。まぁしゃーない、仕上げのマッサージや」
再び現れた自動人形たちにガッチリと固定され、そのまま指圧を開始された。
「さぁさぁ、凝りを解すでぇ」
「グギッ!」
「お客さん、ずいぶん凝ってますやん」
「グゴッ!」
「何事も体が資本やでぇ」
「グゲッ!」
「ワテもなぁ、もっと若かったらなぁ」
「グガッ!」
アイリのステータスを持った自動人形の力で無理矢理行われた指圧により、凹んではいけない部分が凹んでるのが肉眼でハッキリと確認できる。
指圧ではないが、押さえつけていた手足も若干曲がってはいけない方向に曲がってるのも見え、非常に痛々しい。
「っと、お疲れさんやで。これにて終了や」
「………………」
返事がない……ただの屍……ではないようだが、屍のように動かない。
屍のように動かなくなった偽グーチェスを拘束し、レミエマとギブソンを城に招くことにした。
ちなみに、偽グーチェスはすっかり変装が解けてたので、改めて鑑定してみた。
名前:ヤゴレー 種族:魔族
職種:ダンジョンマスター・Bランク
…………え?
この程度でBランクなの!?
でも確かコイツって座標転移を持ってたわよね? 何で使わなかったのかな?
「それは私が~、スキルを封じてたからです~♪」
セレン? そんなこともできるの!?
って、私が知らなかっただけなのよね、きっと。
「お姉様、ダンジョン通信で邪神様にご報告されてはいかがですか?」
「そうそう、忘れてたわ。ダンマスサービスセンターに連絡しときましょ」
このダンマスサービスセンターというのは、要はお客様相談窓口である。
ダンジョン運営の様々なことに相談に応じてくれる。
通常ダンジョンマスター同志の殺し合いは黙認されてるが、それは主義主張が合わなく、話し合いが不可能な者同士で行うもので、殺し合いを推進してるわけではない。
従って今回の初心者殺しは、まったく無意味な行動になるので、邪神側から見ても見逃すことはできない事案であった。
後はレミエマとギブソンを再会させてあげないとね。
「急に訪れてごめんね。アナタに会わせたい人が居るのよ」
「……会わせたい……だと?」
ホークによるコントが終了した後、私はレミエマの眷族であるギブソンのもとを訪れていた。
「レミエマなら私たちが保護したわよ」
レミエマという単語に反応して睨み付けるどころか、隙を見せると今にも襲い掛かってきそうな雰囲気を見せてるわね。
「勘違いしないで。このダンジョンに1人で来てたから、事情を聞いて保護したのよ。今はこのダンジョンの5階層の街に居るわ」
「ダンジョンの中に街……だと?」
あ、やっぱりそこに食いつくのね。
ダンジョンの中に街が有るのはインパクトが大きいわよね。
「移動しながら話してあげるから、付いてきてちょうだい」
「……わかった」
敵意は一旦収まったわね。
でも油断せずに警戒を続けるのはいい判断よ。
レミエマはいい眷族に恵まれたわね。
それから街に向かいつつ現状を教えてあげた。
勿論レミエマを襲ったヤゴレーというルーキーキラーのことも含めて。
そして街に入りレミエマの居る宿屋まで連れていき、レミエマと再会させてあげた。
「レミエマ!」
「ギブソン? ギブソンなの!? 良かった、無事だったのね!」
「レミエマこそ。俺が時間稼ぎをしたのは無駄ではなかった」
感動の再会を果たした2人は暫く抱き合って……というか、レミエマがギブソンの胸を借りてる状態ね。
「喜んでるところ悪いけど、私を襲撃しに来た輩を捕らえたから確認してもらっていい? 多分、アナタたちを襲った奴と同一人物だと思うんだけど」
「そ、それは本当か!? Cランクの俺ですら足止めが精一杯だった奴だぞ!?」
あー、やっぱりあのヤゴレーって奴は、Bランクで間違いないのね……。
「まぁ向こうも油断してたしね。じゃあさっそく城に「ま、待ってください!」ん?」
城に移動しようとしたところでレミエマに呼び止められた。
「わ、私……その、嘘ついてごめんなさい!」
ああ、両親とかダンマスの件ね。
レミエマがアイカに語った内容には一部嘘があった。
レミエマには最初から両親は居らず、人間ではなく魔族で、更にダンジョンマスターである。
だがそれは些細なことであって、咎めることではないわ。
寧ろ初対面の相手にダンジョンマスターですと自己紹介する方が問題よね。
「気にしてないから大丈夫。それより早く行きましょ」
「う、うん。ありがとう」
レミエマとギブソンを引き連れて城に移動すると、丁度邪神様から派遣された方々が来たとアイカから念話が届いたので、同じく城に案内してもらった。
「わたくし、邪神レグリアス様より派遣された、悪魔族のミゴルと申します。ご連絡されたアイリ様は貴女様ですね?」
紳士っぽい初老の男性が丁寧に挨拶してきたので、私も自己紹介をする。
「あ、私がここのダンジョンマスターのアイリです。それでコイツが最近騒がせてるルーキーキラーだと思われます」
名乗りながら足元に転がされてるヤゴレーを指でさした。
お巡りさんコイツです! って感じに。
そしてヤゴレーを見たギブソンは目を見開き、声をあげた。
「コイツだ! コイツにレミエマは殺されそうになったんだ! 間違いない!」
レミエマに対しては変装してたからわからなかったみたいだけど、ギブソンとの戦闘中は姿を元に戻してたみたい。
「ふむ、どうやら間違いなさそうですな。……これ、お前たち」
手をパンパンと叩くと、手下らしき男性2人がヤゴレーを担いで連行していく。
「うっわ、コイツの頭メッチャ臭いですぜ!」
「ぐほぉ! ほ、本当だ。コイツちゃんと風呂に入ってるのか?」
ああごめんなさいね。
風呂には入ってたわよ……一応。
「さて、そちらのお2人は今回の被害でダンジョンを消失してしまったと伺いましたが、一度我々が保護させていただき、その後再びダンジョン製作をされるということになりますが、宜しいでしょうか?」
レミエマもダンジョンマスターとして再出発ができるのね。
それなら安心だわ。
「はい、すみませんが宜しくお願いします」
「では参りましょうか。アイリ様、此度の件、ありがとうございます。いずれ邪神レグリアス様より謝礼が出されるかと思いますので。それでは失礼致します」
謝礼かぁ、ちょっとだけ期待してもいいわよね?
何せルーキーキラーを捕獲したんだし。
「あ、アイリさん、アイカさん、ありがとうございました!」
「ありがとう。我が主人を助けていただき感謝する」
レミエマとギブソンの2人もミゴルさんに続いていった。
「行ってらっしゃいませ、ご主人様」
そしてアイカはメイド服で……って、だからその設定はもう止めなさい!
この後ヤゴレーは、あまりの臭さのため強制的に風呂に入れられそうになるが、風呂に対して強烈なトラウマを植えつけられたので、入浴を断固として拒否。
そのため、監禁先ではヤゴレーではなくヨゴレーと呼ばれている。
……という噂を聞いたが正直どうでもいい。
ホーク「聞いてやアイリはん! 他の眷族共がワイとコントをやるのを拒否るんや!」
アイリ「そりゃそうでしょうね……」
ホーク「あれだけおもろいコントを繰り広げたいうのに、酷いと思わへん!?」
アイリ「せやない……わね」




