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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
最終章:落ちこぼれ勇者とエリート学生
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エルシドVS熊谷

前回のあらすじ

 エルシドと共にチョワイツ王国の国王と面会したアイリ。

 最終的には協力して十針達を撃退する事になったのだが、拘束中の転移者3人に逃げられ、更には邪王のダンジョンコアまでもが盗まれてしまうという事態に。


「はぁ? 熊谷(くまがい)達がやられただぁ!?」


 スマホ片手に戦車を運転中の虎田(とらだ)が、信じられないとばかりに声を荒らげる。


『残念だが本当だよ。熊谷君は辛うじて脱出に成功したみたいだけれど、他の5人は助からなかっただろうね』

「んなバカな! だって戦闘機だぞ? それを負かす奴なんて、ドデカいドラゴンくらいしか想像出来ねぇじゃねぇか! それをドローン1機でどうやって……」


 最初はダルそうにスマホの着信を睨んだが、十針(とばり)からの第一声が【戦闘機が落とされた】という内容だったため、飛び上がって天井に頭をぶつけたのだ。

 そこから詳しく話を聞くと、姿を消すドローンに次々と撃墜され、熊谷だけはなんとか逃げおおせたのだという。


『兎に角気をつけてくれ。どうやら敵にはダンジョンマスターが含まれてるらしいからね』

「ダンジョンマスターが?」


 熊谷からの話を元に、十針はドローンを操っていたアイカの正体を探った。

 すると当然ダンジョンマスターのアイリに行き着く事になり、自分達を殺しにきてるのだと気付いたのだ。


『魔女の森の中心に君臨するダンジョンマスターのアイリ――この人物の双子の妹がアイカというらしい』

「ケッ、ダンジョンマスターのくせに妹が居んのかよ。だがなんだってドローンなんか持ってやがんだ? まさか誰かが横流ししたんじゃねぇだろうな?」

『それはないよ。武器や兵器が僕ら以外の第三者に渡ったら、すぐに使えなくなるからね』


 今もアルカナウ王国の王都で近代兵器を作り続けている屋内(おくない)という生徒の手で、第三者が使おうとした際は瞬時に消滅するように仕掛けられている。

 これにより武器が奪われた時の対策も万全だ。


富岡(とみおか)君の話によると、桜庭(さくらば)さんや死に損ないの勇者もそのダンジョンマスターのところに居たみたいだよ。多分僕らの力量もある程度把握した上で挑んできてるだろうから、遭遇したら注意してほしい。なんだったら引き返してくれてもかまわないし』

「バカ言え。折角戦闘を楽しめるってのに、それを目の前に逃してたまるかよ。兎に角俺はこのまま進むぜ」

『分かったよ。――あ、そうそう、脱出した熊谷君がそっちに向かうと思うから、合流したら宜しく』

「了~解」


 あまり真剣さを感じない虎田が通話を終えると、戦車を更に加速させ目的地を目指す。

 熊谷達が撃墜されたのは本人達がヘマをしたからだと思っており、自分なら有り得ないと高を括ってるのだ。


(ま、熊谷も不器用な奴だからな。――けど俺は違うぜ。我流の喧嘩殺法(けんかさっぽう)だがそこらの魔物は相手にならねぇし、クラスの連中でもタイマンなら負け知らずだ。寧ろ手強いってんなら好都合だぜ)


 またに現れるウルフやゴブリンを踏み潰しつつ、左右に雑木林が広がる林道を3台の戦車が突き進む。

 ここを抜ければ次に攻略する街が見えてくる――筈だったのだが……。


『ねぇ虎田。道の真ん中に誰か立ってるよ?』

「あん? ――ってマジじゃねぇか。何だってこんなとこに人が居やがんだ?」


 仲間に言われて前方をよく見れば、剣を手にした男が戦車の方をジロリと見つめてるのが分かる。


「冒険者か? ――ま、気にする事ぁない。避けるのも面倒だし、そのまま()いちまえ」

『だね。――そんじゃま、轢いちゃいますよ~っと』


 面倒なのと誰が死のうが関係ないという2つの理由から、戦車はそのまま前進を続ける。

 しかし、男を轢き倒そうとしたところで事態は急変した。


『あ、あれ?』

「おい、何やってんだ鈴木。さっさと進めよ」

『いや僕は止まってなんかないよ。何故か戦車が動かなくなったんだ』

「はぁ? んな事今まで無かったじゃねぇか。なんだって急に……」


 先頭を進んでた戦車が突然動かなくなってしまったのである。

 この戦車を製造したクラスメイト――屋内(おくない)の話だと、物理的な攻撃を食らわない限り戦車が破損する事はないと話してたのだが……。


 グ……グググ……ググググググ……


『ななななな、なんだ! 急に戦車が傾きだしたぞ!?』


 鈍い音を立てて戦車が動く。但し、徐々に逆さに成ろうとしてる動きだ。


『ちょ、どうなってんのさ! ママママジでおかし――ひぃぃぃぃぃぃ!』


 グルン!


 とうとう鈴木の搭乗した戦車は、逆さまにひっくり返ってしまった。


『ちょ、鈴木!?』

「な、なんなんだいったい!?」


 他の2人も動揺するが、何がどうなってるのか分からない。

 辛うじて分かった事は、先程轢き殺そうとした男が鈴木の戦車を押し上げてる姿を捉えた事だ。


「――ハッ!」


 スパスパスパン!


 男の掛け声と共に、鈴木が搭乗する戦車がスパスパと切り裂かれていく。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!?」


 輪切りになった戦車が解体作業のようにバラバラと崩れていくと、身を縮こませた状態の鈴木が(あらわ)になった。

 不幸中の幸いか、鈴木本人は斬られる事はなかったようである。


「クソッ! 誰だか知らねぇが、こんな真似してただで済むと思うなよ!?」


 ズドドドドドドッ!


「フンッ!」


 スパパパパパン!


 機銃で射殺しようとする虎田だが男は危なげなくそれを避け、逆に虎田の搭乗した戦車をも輪切りにしてしまう。


「ん、な……な……」


 そして口を開けっぱなしだった虎田に剣を突き付けると、高らかと名乗る。


「アルカナウ王国の勇者エルシドだ。まさか忘れたわけではあるまいな?」


 そこで虎田は思い出す。

 瀕死の状態にあった勇者を城の外に投げ捨てた事を。

 あの勇者が今、自分達に対し牙を剥いているのだ。


「……あん時の勇者か。まさか本当に復讐しに来るとはな。だったらもう一度に相手をしてやる! ――と、言いたいところだが、残念だったな。俺としちゃチョイと()()()()んでな、悪いがオサラバするぜ!」


 剣を突き付けられながらも素早く飛び上がると、懐から転移石を取り出す。


「逃げるのか!?」

「ヘッ、喧嘩の十八番ってやつよ。知らなきゃ桜庭(さくらば)にでも聞いてみな。じゃあな!」


 そのまま虎田は転移してしまい、気付けば他の2人にも逃げられた事を知る。 

 

「エルシド」


 成り行きを見守ってた桜庭が、木陰から駆け寄って来る。

 戦車を発見した後エルシドは1人で挑むと言い出したため、仕方なく隠れてたのだ。


「すまない桜庭さん。奴等を逃がしてしまった」

「ううん、逃げられてもまた追い掛ければいいのよ。それに首謀者の十針(とばり)をどうにかしないと戦いは終わらない――でしょ?」

「フッ、そうだな。」


 エルシドは瀕死ながらも十針の顔をはっきりと覚えていた。

 国を乗っ取った首謀者の顔を忘れる訳がない。


「ホークさんとザードさんは、先にパーラットの様子を見に行ったわ。私達もすぐ――エルシド! ウグッ!?」


 突然桜庭がエルシドを突き飛ばす。


「桜庭さん!?」


 何が起こったのか分からず立ち上がったエルシドが見たのは、血が流れた腕を押さえている桜庭であった。


「チッ、外したか……。この距離なら余裕だと思ったんだがな」


 銃を手にした少年が木陰からのそりと現れる。


「お前は!?」

「よう、1週間ぶりくらいか? ――ってもお前は俺を知らんだろうけどな」


 相手はエルシドを知ってる素振りを見せる。

 それもその筈、この少年は1週間程前にエルシドの仲間を戦闘機で射殺した人物で……


「アンタは……熊谷!」


 少年の正体は熊谷。アイカのドローンから逃れるため戦闘機から脱出をはかり、ここまで逃げてきたのだ。


「ヘヘッ、こんなとこで勇者に遭遇するたぁツイてるぜ。ちょうどムシャクシャしてたとこだしよ、テメェも死んだ仲間の元に送ってやんよ!」


 ターーーン!


「ハッ!」


 銃口をエルシドへと向け発砲する。

 だが今のエルシドは以前とは違い、銃弾に反応し回避する事が出来るようになっていた。


「そんなもの、俺には通用しな――グッ!?」


 油断してるつもりはなかった。

 アイリや桜庭から銃器の事を聞いてたので、銃口を向けられてから素早く回避したまでは良かったのだが、銃弾が突然向きを変えてエルシドの左腕に着弾したのだ。


「ヘヘッ、本当は戦闘機の方が楽なんだがな。俺の固有スキル【必着追尾(アブソリュードラン)】は目標に命中するまで追い続けるんだ。こらなら戦闘機じゃなくても有効だぜ!」


 ダン! ダンダン!


「――ソードシールド!」


 ギギギン!


「何ぃ!?」


 避けきれないと分かると、剣でシールドを張る事でやり過ごした。

 今のエルシドなら銃弾を防ぐ事くらいは余裕である。


「そこだ!」


 ズシャ!


「ギャァァァッ! ちっきしょうが!」


 シールド張った状態から素早く脱したエルシドが、熊谷の右腕を斬り落とす。

 利き腕のため拳銃も落としてしまい、左手で拾おうとするが……


「させるか!」


 ズバッ!


「グギャァァァァァ!」


 左腕も斬り落とし、最早熊谷に出来る事は何も残されてない。

 可能なのは命乞いをする事だけだ。


「イデェェェ! 痛ぇよクソッ! んだって俺がこんな目に!」

「痛いか? だが楽には死なせてやらん。お前は俺の仲間を無惨にも撃ち殺し、更には無関係な冒険者までも手に掛けた――そうだな?」

「そ、そうだ。――けど仕方なくだ。十針の奴に言われて仕方なくやったんだ! 戦争ってのは上の奴には逆らえねぇんだ、そうだろ? だから頼む、助けてくれ!」


 見苦しくも命乞いに走る熊谷。


「――ふざけないで!」


 ガンッ!


「ゴホッ!?」


 そんな彼に桜庭が近寄ると、顔面を思いっきり蹴り上げた。


「アンタ達のせいで私の友達やファトラさんの仲間が死んじゃったのよ! 癒夢(ゆむ)は捕まったからもしかしたら生きてるかもしれないけど、それでも多くの人が犠牲になってるのは変わらないじゃない! それなのにアンタだけは助かりたいっていうの!?」


 癒夢とは、共に逃走する際に十針により捕まってしまった桜庭の友達である。

 彼女以外にも数名の女子生徒が居たのだが、残念ながら十針側の生徒により殺されてしまった。


「だ、だから……仕方なくだって……言ってんだろ……。そ……れより早く……ポ……ポーションを頼む……」


 血を流し過ぎた事により意識が朦朧(もうろう)としてきた熊谷。

 既に痛みも感じなくなってきてるようだ。


「ポーションは有るよ? けれど――」


 桜庭は取り出した上級ポーションを熊谷に見せつけた後、エルシドの腕にかけた。

 すると先程受けた銃弾が消え、傷も徐々に塞がっていく。


「これでよし。あ、私はもう回復したから大丈夫だよ?」

「ありがとう桜庭さん。――さて、クマガイ……だったか?」


 腕を何ともないか擦りつつ熊谷に向き直る。


「お前にはトドメは刺さないでおく。勿論助けるためじゃない。死ぬまでの間に自分の犯した罪に後悔してもらうためだ」

「そ……んな……」

「けど安心しろ。お前が死ぬのに時間は掛からなさそうだぞ?」


 そう言うとクイッと親指で自身の後ろ指す。

 そこに見えたのは、血の臭いに釣られて集まったであろうグリーンウルフが数匹近付いてきてるところであった。


「お前のような奴でも餌として役立つ事が出来るんだ、光栄に思うといい」


 その言葉を最後にエルシドが(きびす)を返して歩き出すと、桜庭も後を追って行く。


「ま、まって……たすけ――ひっ! く……るな、こっちにく――ギャァァ……」


 去って行くエルシドと桜庭よりも、()()()()()を優先したグリーンウルフが熊谷に群がる。

 結果最後まで激痛と恐怖を味わいながら熊谷は死んでいった。

 


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「お姉様!」

「来たわねアイカ」


 これからエルシド達と一緒に十針を追い込もうとした矢先、邪王のダンジョンコアが盗まれたと聞かされ急遽アイリーンに戻ってきた。

 その代わりサポート役としてホークとザードを同行させて、何がマズイ事があったら念話で知らせるように言ってある。

 けれど……


「正直なところ、十針よりも高遠(たかとう)の方がナイトメアなんじゃないかって気がしてきた。だから私達は高遠を捕捉する事に専念しましょ」


 それでも十針がナイトメアの可能性は残ってるから、両方倒さないといけないけども。


「畏まりました。わたくしはドローンで高遠の行方を追えばいいのですね?」

「分かってるじゃない、その通りよ」


 ドローンにはアンジェラの持つ探知波動(エクスプロルウェーブ)が搭載されてるから、一度視認してしまえば何処に逃げても無駄って事よ。


「アンジェラとセレンにもチョワイツ王国の国内を捜索してもらってるから、アイカの方でもお願いね」

「はい。それは構いませんが、お姉様はどうするおつもりで?」

「ちょっと協力を頼みたい人のところへ行ってくるわ」


 立場上難しいかもしれないけど、頼めればいいなぁ――ってくらいには考えてるのよ。

 やっぱりこういう時に、持つべきものは友達だなぁって感じるわね。


「ああ、成る程、ディスパイルさんの所ですね?」

「よく分かったわね。神様ならナイトメアを判別出来るから、ディスパイルを経由して間接的にでも協力してもらえないか試してみようと思ってね」


 その結果断られたら仕方ないけれども。


アイカ「捕捉説明です。エルシド達が持ってたポーションは、アイリーンで購入したものです」

アイリ「一応は商売だからね」

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