決意
前回のあらすじ
クライムの街に迫る魔物は鍛え上げられた兵士や冒険者によって撃退(滅ぼ)され、航空してた戦闘機はアイカの操縦するドローンにより撃墜し、空の脅威も無くなった。
後は前哨基地にされたパーラットの街を取り戻すのみとなったが……。
国境を突破されてから間もなく、知らせを受けた国王――ラーゼフォルドは、王都に詰めていた貴族達に即時登城命令を出した。
勿論侵略してきたアルカナウ王国に対してどのように迎え撃つかが協議される――筈だったのだが……。
ドンッ!
「宰相殿! 貴殿は侵略者に対してひれ伏せと申すか!?」
眉を吊り上げ思わず机を叩いた男――エボルガント元帥が声を荒らげる。
「落ち着かれよ元帥殿、感情的になっては話し合いにはならぬ」
「し、しかしだな――」
「それに私も元帥殿と同じ思いなのだ。――どうなのだね、イムルナード宰相殿?」
感情的な元帥の代弁する1人の貴族に尋ねられ、宰相はため息と共に俯いた顔を上げた。
「……何もひれ伏せとは申しておらぬ。これ以上無駄な犠牲が出る前に話し合いの場を設けてはと――「それをひれ伏してると言うのだ! 元々両国には何の蟠りも無かったというに、奴等は一方的に侵略してきたではないか! 話し合いの時間はとうに過ぎている事に貴殿は気付かんのかぁ!」
「げ、元帥殿、どうか落ち着かれよ! 元帥殿ぉ!」
椅子から立ち上がり今にも殴りかかりそうになっている元帥を、先程代弁した貴族が必死に止める。
何故このように荒れてるのかというと、元帥を中心とした貴族達は最後まで抗戦する覚悟でいる反面、宰相を中心とした貴族達は後を考え被害を抑えたいと意見しており、それに元帥が噛み付いたという訳だ。
「アルカナウの狂犬め! 貴様のような奴が国を駄目にするのだ!」
「いやいや、狂犬とは本来貴殿のように狂った存在の事を指すのですよ?」
「な! ――き~さ~ま~ぁぁ!」
エボルガントは闘牛のように振りほどこうと暴れ、それを他の貴族が挑発的に指摘した事で怒りが爆発。元帥派と宰相派に分かれ大乱闘へと発展したのだ。
「はぁ……。こうもまとまりが無くては戦う前から結果は見えておる……」
国王はぼそりと呟くと場を後にし、自室へと向かう。
(アルカナウ王国の革命。平和な国であっただけに嫌な予感はしてたが……)
国王はこの国にも火の粉が降りかかるのではと当初から睨んでた。
すると結果は正にその通りで、国家存続の危機が訪れてしまったのだ。
(増強した国境警備をものともせずに突破したと聞く。となれば近くにあるパーラットは既に落ちたと見てよいだろう。やはり宰相の言う通り、最悪は降伏を視野に入れて対話するしか道は無いか……)
頭を垂れてる状態の国王の元へ伝令が駆けてくる。
足を止め跪いた伝令を見下ろすと、思いがけない来客を告げた。
「報告します。アルカナウ王国の勇者エルシドがいらしております」
「なんと!」
今まさに侵略を行っている国の勇者が来てるのだという。
何かの間違いではないかと聞き直したが、国から授かった勲章を見せてきたため、恐らくは本物で間違いない。
「勇者エルシドの話によりますと、アルカナウ王国の侵略を止めるため――延いては祖国を取り戻すために協力したいとの事です」
「協力を……」
一瞬罠ではないか……とも考えたが、圧倒的な戦力を見せつけた上で騙し討ちするとも思えず、現状打開の希望を見据えて面会する事にしたのであった。
「うむ、よかろう。勇者エルシドを通すがよい」
「ハッ!」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「随分とあっさり通されたわね?」
「そりゃあこれでも勇者だからね。僕の顔を知ってる人も居るだろうし、何より勲章を見せたのが効いたんだと思う」
いや、そうじゃないのよ……。
私が言いたかったのは――
「エルシド、アイリが言いたかったのは、アルカナウ王国の勇者に会う事を了承したからだと思うよ?」
「? ――あっ!」
漸く気付いたのね……。
桜庭さんが代弁してくれたけど、今絶賛侵略中であるアルカナウ王国の勇者に会うと決めた事に驚いたのよ。
いや、多分罠ではないかとか疑われたとは思うんだけど。
で、現状を再確認すると、私達3人はアルカナウ王国の王都へやって来て、国王との面会を求めた。
アルカナウ王国の侵略を防いで撃退しましょって話すためにね。
但しアイカのドローンが航空する戦闘機を発見したので、アイカはそっちを対応しに向かい、アンジェラとセレンはパーラットに近いクライムの街へ様子を見に行った。
ホークとザードも連れてきたけど、2人は宿屋で待機中よ。
そして私とエルシドで国王に会うつもりだったんだけど、桜庭さんもエルシドについてくって言うから一緒に連れて来た。
まぁ、桜庭さんもそこらの冒険者よりは強いだろうし大丈夫でしょ。
「こちらになります」
兵士に案内されてやって来たのは玉座の間……ではなく、ごく普通の客室だった。
中に入ると既に王様が待ってたようで、前に座るように促される。
こういう場合、立場の偉い人――つまり王様が後からやってくるのが通例の筈だけど、先に居るって事は細かい事は気にしない主義なんだろうか? まぁ気にしても仕方ないか。
「さて、儂がチョワイツ王国国王ラーゼフォルドであるが、貴殿が勇者エルシドで間違いないかね?」
「はい、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。俺――コホン、私がアルカナウ王国の専属勇者であるエルシドで御座います。この2人は僕の仲間で桜庭と――アイリで御座います」
エルシドが自己紹介の後に私と桜庭さんをそれぞれ紹介してくれたので、私達も頭を下げて名乗る。
「いやいや、そのように畏まらなくてもよいぞ? 今はこの通り護衛しか居らんでな」
ああ、割とフランクな王様だったのね。これなら疲れないで済むわ。
「それよりも……貴殿がここに来た理由をもう一度聞きたい」
「はい。ここへ来た理由は、アルカナウ王国撃退の手助けで間違いありません。既にご存知かと思われますが、現在のアルカナウ王国は一部の身勝手な転移者によって乗っ取られてしまいました。途中仲間を失い、私自身も幾度と無く命を狙われながらも、何とか今日まで生き延びてこれました。全ては……そう、祖国を取り戻す一心で……」
エルシドは、これまでの経緯を手短にまとめて王様に伝えた。
さすがに仲間が殺されたところを話してた時は、若干表情が強ばってたけども。
でもこれで王様にもエルシドの苦労が伝わったんじゃないかな?
「成る程な……。貴殿も随分と過酷な道を歩んで来たものよ。その運命に立ち向かう姿は正に勇者そのもの。ならば儂も決断せねばなるまい」
「では!」
「うむ。是非とも共に戦おう……と言いたいところだが……」
ん? 何かあるのかな?
「実はな、アルカナウ王国に対し抗戦するか事実上の敗北を認めるかで貴族達が揉めておるのだよ。半数が剣を手にしたところでまとまりがなければ瓦解するのは目に見えておる」
何となく想像出来る。
国会での与党と野党の対立みたいな感じなんでしょうねきっと。
「抗戦するならば相当消耗は激しいものになると予想出来るし、降伏するなら疲弊は免れるが今後我が国は属国となってしまうだろう」
抗戦は分かるけど、属国はないでしょうね。
奴等がわざわざ占領したりしないだろうし、滅ぼされて終わるだけよ。
「お言葉ですが、ラーゼフォルド様。降伏を申し出たところで、奴等は受け入れたりはしないでしょう。恐らく一方的に滅ぼしにくる可能性が高いかと……」
「な、なんと!」
うん、エルシドはよく分かってるみたい。
「連中にとって戦争は遊びでしかありません。それに奴等はこうも言ってました。偶然この国があったから、偶然この国へやって来て、偶然この国を乗っ取ったのだと。言うなれば不運という名の下にアルカナウ……王国は……くっ」
「…………」
結局どこでも良かったけど、プラーガ帝国から逃げた先がたまたまアルカナウ王国だったという事なのよね。
ドタドタドタドタッ!
ん? 誰かが走ってきて扉の外で止まったみたい。
「こ、国王陛下! ご報告申し上げます!」
「何事だ?」
「ノスカールの街に接近していた飛行する黒い魔物が、謎の爆発と共に半数が消滅! 残りが引き返していきました!」
「……は?」
あ~多分戦闘機の事ね。
ドローンが航空中の戦闘機を捉えたからアイカに迎撃を任せたやつよ。
「その黒い魔物とは、国境を越えて現れたと言われる黒き竜の事か!?」
「ハッ! その通りに御座います!」
「引き返してくれたのは助かるが、いったい何が起こっておるのか……」
分かんないでしょうね、普通は……。
というか、こっちの世界だと戦闘機は竜に見えるらしい。
「横からすみません王様。私の妹に奴等を迎撃させに向かわせましたので、多分それだと思います」
「な、なんと!」
「因みにクライムの街にも仲間が様子を見に行きましたので、そっちも襲撃を受けてたら撃退してると思いますので」
「し、しかしいとも簡単に国境を突破する程の戦力を――」
ドタドタドタドタッ!
あ、また別の人が走ってきたみたい。
「ほ、報告します! クライムの街に接近していた魔物を群れを撃退し、後方に居た指揮官と思われる人間を討ち取ったというドミニク子爵の報告です!」
「……ほへ?」
こっちも上手くいったみたいね。
問題は王様の頭が混乱しかけてる事くらいかな。
『大変でさぁ姉御!』
モフモフからの念話だ。
『落ち着いてモフモフ。何があったの?』
『すまねぇ姉御。監禁してた野郎共が、便所に行くフリして転移しやがったんでさぁ!』
『な!?』
『奴等の中の1人がズボンの中に転移石を隠し持ってたみてぇで……』
く、転移者に逃げられた!
『マリオンは大丈夫なの!?』
『そっちは問題ねぇですぜ? 念のためレイクを呼んで警戒させてまさぁ。ですが連中ダンジョンから出たらしく、既に地上を移動中だと思いますぜ』
マリオンが殺されるという最悪の事態は避けられたか。
『モフモフ、追跡する事は可能?』
『臭いが残ってれば可能ですが、転移先が分からねぇ以上難航しそうですぜ』
『それでも構わないわ。出来るだけやってみてちょうだい』
『ガッテンでさぁ!』
こんな事ならトドメを刺しとけばよかったかしら……今更だけども。
『アイリッチ~、ちょっと聞いて大変なのぉ~』
今度はメンヒルミュラーから……。
『こっちは忙しいのよ。無駄話なら今度にしてちょうだい』
『無駄じゃないしぃ、アイリッチにも関係あるんだよぉ~。だから聞いてよプリーズ』
ああもう、口調がウザイのがイラッとくるけど仕方ない。
『それでどんな話? つまんない話だったら切るからね?』
『つまんなくないよぉ、だって邪王のダンジョンコアが盗まれたんだからぁ』
「んな、なんですって!?」
「「「っ!」」」
――っと、つい声に出しちゃった。
「ア、アイリ殿、何か?」
「あ、ご、ゴメンなさい。こっちの事です、エヘヘヘ……」
王様におかしな子だと思われたかもしれない……。
『そ、それで、なんだって簡単に盗まれた訳? ちゃんと管理されてたんでしょ?』
『そだよ~、ちゃんと警備もされてたしぃ、盗もうとする奴なんて早々いないと思ったのにぃ……』
邪王のダンジョンコアは、スタンピードが収まった後グロスエレムの首都で厳重に保管されてた筈なのよ。
『しかもぉ、盗んだ奴が高遠っていう転移者だったんだよ~』
『高遠!?』
『そだよぉ、転移者って今アイリッチが戦ってる連中でしょ~?』
確か同じ転移者を殺しまくってるけれど、神出鬼没で何を考えてるのか分からない奴だったわね。
コイツも放置は出来ないッポイなぁ。
『分かった。ダンジョンコアの捜索は私の方でもやってみるわ』
『お願ぁぁぁい』
やる事が増えたけど、転移者をブチのめす事には変わりない。
本当は同行者したいところだけど、十針の方はエルシドと桜庭さんに任せよう。
アイリ「やっぱりアイツ(メンヒルミュラー)と話してると調子狂うわ」
メンヒルミュラー「アイツって誰~?」




