王女メロニア
前回のあらすじ
マリオンのダンジョンに侵入した転移者を拘束する事に成功したアイカは、事の経緯をアイリに伝えてる最中にアレクシス王国の内政官キャメルかの通信を受ける。
アイリが用件を聞くと、なんと、アルカナウ王国の王女メロニアを保護したのだという。
キャメルに借りがあるアイリはメロニア王女を引き取ると約束した。
一方その頃、アルカナウ王国の十針は、隣国チョワイツ王国に対して宣戦布告を行うのであった。
(お父様……エルシド……)
どこかも知らない薄暗い地下室で、アルカナウ王国の王女メロニアは鎖に繋がれていた。
あの日――十針達が現れたその日から、王女の日常は大きくかわったのだ……勿論悪い方向へ……。
国王が目の前で殺され、部屋に監禁されてから数日、藤堂を中心とした女子グループによって拉致同然に空き部屋へと連れて来られた。
「アンタさぁ、今まで散々いい生活を送ってきたんだよねぇ?」
「……何を言ってるのです?」
「何をじゃねぇよ。――他人が必死こいて無理矢理勉強させられてる時にさぁ、アンタは優雅な生活を送ってきたっつ~事よ。どうよ? マジでムカついてくるジャン?」
「言ってる意味が分か――「ざっけんじゃねぇ!」
ガッ!
「イタッ! ――な、何を!?」
訳も分からず殴りつけられ、恐怖をいだきつつ藤堂を見上げる。
「あたしはさぁ、アンタみたいな何も知らない平和気取りな奴が大嫌いなんだよね。――どうせ分かんないでしょ? あたしの言ってる事なんかさ。ま、アンタには関係ないんだけど」
勿論分かるわけない。
藤堂のやってる事は日頃の鬱憤を晴らしてるだけの八つ当たりであり、王女メロニアにとっては1ミクロンとも関係の無い事である。
「何を申し立ててらっしゃるのか分かりかねます。いったい何をそんなに怒ってるのです?」
「だから言ったろ、アンタには関係無いって。あたしらはさ、ただ怒りのやり場を探しててそれを見つけただけなんだよね」
「……えっ?」
自身を抱いて顔を強ばらせる王女を藤堂達が取り囲む。
「アンタは黙って――」
ドカッ!
「キャッ!?」
「サンドバッグになってりゃいいんだよ!」
バキッ!
「イ、イヤ……」
ゲシッ! ドカッ! バキッ!
「イ、イタイ、止めて下さい!」
逃げる事も叶わず、亀のように縮こませてひたすらリンチに耐える王女。
彼女は理不尽な暴力を身に受けるが、誰も助ける者は居ない。
「あ、そうだ。どうせならさ、コイツをひん剥いて男子の部屋に放り込んでやろよ!」
「いいねそれ! やろうやろう!」
1人の女子による発案を、他の面子も賛同する。
「真壁、中々面白い事思い付くジャン? それじゃ善は急げって事で――」
ガチャ!
「おい、お前ら、あんま騒がしいと十針に睨まれ――って、お前ら何やってんの!?」
危うく服を脱がされそうになったところで、富岡が入ってきた。
彼は一目見て何が行われてたのかを察すると、女子を払いのけて王女を助け起こす。
「ちょ、邪魔すんなよ富岡!」
「そうだそうだ!」
「折角後でお裾分けしてやろうと思ったのに!」
富岡の取った行動により、女子からブーイングが上がる。
だが彼としても善意で王女を助けた訳ではない。
王女に傷が増えると高く売れない事が問題なのだ。
「王女は奴隷に落として売却するんだとさ。どこぞの国に賠償金を払わなきゃならないらしくてね、傷物になると金銭価値がダウンしちゃうからこれ以上の暴行はナッシングでOK?」
「「「…………」」」
結局藤堂達は十針を引き合いに出されて押し黙り、王女が連れ出されるところを眺めるだけであった。
一方の王女も奴隷に落とされるという話を聞き十針に悲願するのだが、取り付く島もなく売り払われてしまう。
しかし幸か不幸かすぐに買い手がつき、購入者であるアレクシス王国の貴族の元へと運ばれて現在に至るのだ。
(お父様を失い、勇者エルシドも生死不明。国も奪われてしまい、最早帰る場所も……)
このまま奴隷として生涯を終える事になるのだろうと諦めてた王女。
だがその時、部屋の外から悲鳴と怒号が雑ざった複数の声が飛び交ってるのに気付き、そっと耳を澄ませた。
「くそぅ、情報が漏れたのか!? 持てる物持ってズラかるぞ!」
「ダ、ダメだ、抜け穴からも攻めて来やがった!」
「も、もうおしまいだぁぁぁ!」
どうやらこの建物の所有者が何者かに攻め立てられているらしく、右往左往してるように感じ取れる。
程なくしてドタバタとした騒音が止むと、今度はゴソゴソと建物中を物色する物音が聴こえてきた。
(また別の者の手に渡るのでしょうか……)
何れにしろ拘束されたままで何も出来ない王女は、なすがままに身を委ねるしかない。
そしてついにこの地下室が発見されたようで、数人の足音が徐々に大きくなっていき、やがて扉の前で立ち止まると……
ギィィ……
やって来たのは天使か悪魔か、はたまた異形の何かなのか、王女は顔を上げて入って来た人物を視界に収める。
「おやおや、あの政治犯共には相応しくない美少女ではありませんか」
先頭に立ってたのは男のエルフで、その後ろに甲冑を着込んだ兵士らしき人物が2人が中へ入り、王女の拘束を解いていく。
その最中に男エルフは丁寧に語りかけてきた。
「さて、まずは我々が何者なのかを話しておきましょう。――コホン、時は遡る事50年前、とある村に――「ファイン様、手短に願います」
やけに大袈裟な話を展開しようとしたところで、部下から冷静なツッコミが入る。
慣れた様子から、日常的にこのようなやり取りを行ってるのだと理解した――激しくどうでもいい事だが。
「お嬢さん、出来れば美しい僕の事を色濃く伝えたかったのですが、どうやら部下が嫉妬に狂って邪魔をしてくるようなので、泣く泣くではありますが簡単に――「ファイン様、時間が掛かりすぎです」――とまぁご覧の有り様ですので、一言で名乗らせて頂くと、アレクシス王国の環境保持を担当しているファインという者です。以後お見知り置きを」
妙に疲れた顔を見せる部下達を他所に、涼しい顔で名を名乗るファイン。
こんな性格ではあるが、一部の者達にはダンジョンマスターだという事が知れており、アレクシス王国に属する数少ないダンマスの1人である。
「それではお嬢さんのお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
無駄に長い自己紹介が終わると、拘束を解き終わった王女からの言葉を待った。
「わたくしは――」
紳士的な対応を見せる彼等に王女は語りだす。
気付けば涙を流してこれまでの経緯を話しており、一頻り話し終わるまで彼等は黙って聞き届けてくれた。
その後も大袈裟なファインが王女の身に起こった事に激しく憤り、これまた冷静な部下達によって宥められたりしていたが、まずは身の安全を保証してくれるとの事で、王女は安心して彼等に任せる事にしたのである。
「むむむ、これはまた悲惨な目にあったものですね……」
「ぐぬぬぬ……このリヴァイ、久々に怒りが沸き上がってきましたぞ!」
アイリーンのお城にて、キャメルさんが連れてきたメロニア王女から話を聞き終えた私達は、理不尽に振り回された王女を保護できて本当に良かったと思ったものだわ。
だってこの王女様に落ち度なんて無いんだもの、こんな目にあったら誰だって号泣すると思う。
それからリヴァイはアイカを見習って少し落ち着きなさい。アンタが怒りを爆発させたら街が壊れるんだから。
「今まで大変だったろうけど、暫くはここで我慢してね? 今エルシドが祖国を取り戻すために修行中だから」
「エ、エルシドが居るのですか!?」
おっと、凄い食い付きップリ。エルシドと婚約してたのは本当だったのね――いや、エルシドを疑ってた訳じゃないけども。
「うん、エルシドは生きてるわよ。本当ならすぐにでも会わせてあげたいところだけど、今は無心で修行してるからもう少しだけ待っててあげてね?」
「はい、分かりました!」
メロニア王女は素直に納得してくれた。
後はエルシドと……転移者連中の動き次第かな。
「お姉様、アルカナウ王国に新たな動きがありました」
十針を中心とした転移者達ね。
「どんな感じ? またマリオンのダンジョンを攻略しようとしてるとか?」
「いえ、もっと大規模です。――つい先程、アルカナウ王国代表として十針という生徒が、チョワイツ王国に対し宣戦布告を行いました」
「そんな!」
急な知らせにハッとなった王女が、アイカに駆け寄って体を揺する。
「これまでアルカナウ王国は周辺国とのトラブルも少なく戦争とは無縁の国でしたのに! いったいどうしてそのような事に!」
「おおお、落ち着いて下さい。――コホン、これは勿論転移者達が勝手にやってる事で、国民の総意ではありません」
『総意でないのは事実ですが、逆を言えば賛成してる者が居るのも事実。特に貴族の多くは十針達ならば簡単に征服出来るのではと思ってる節があるようで、勝ち馬に乗ろうと必死のようです』
ほんっとに貴族ってやつは……。
『これはメロニア王女には言わない方がよいですよね?』
『ええ、混乱が収まるまでは黙っててちょうだい』
アイカが気を利かせて念話に切り替えてくれてよかった。
貴族達の行動を知れば、メロニア王女はショックを受けるだろうし。
でも貴族達は置いとくとして、宣戦布告が行われた以上のんびりとしてられないわ、早く十針達を止めないと!
「メロニア王女、私達はチョワイツ王国に侵攻した連中を撃退してくるから、貴女はここで待っててちょうだい」
「は、はい、それは構いませんが、一つだけ教えて下さい」
ん? 何だろ?
「この街といい話の規模といい、貴女はいったい何者なのですか?」
あ、そういえば身分を隠したままだったわね。
アイリーンを訪れた人達には知られつつあるし、今更偽装する意味もないか。
「別に特別な存在って訳じゃないわ、ただのお人好しなダンジョンマスターよ」
「ダンジョン……マスター……」
まぁちょっとどころじゃないくらいお人好しかもしれないけれどね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「もうすぐ越境すっから各自遅れんなよ!」
『オーケー、分かってるって』
『遅れる訳ないよ、こんな楽しいイベント』
戦車に搭乗した虎田が、無線で他の生徒とやり取りをする。
彼等は既にチョワイツ王国の間近に迫っており、間も無く戦闘が行われようとしていた。
まずは陸から戦車で進軍させ、後から航空戦力による支援を行うという作戦である。
因みに戦車と戦闘機どちらの選択もしなかった生徒達は、後詰めとしてバギーに搭乗して入り込む予定だ。
「肉弾戦もいいが戦車も悪くねぇ――っと、どうやら敵のお出ましのようだな」
平原が続く先の国境付近に、ズラリと並んだ兵士達が見えてくる。
宣戦布告を受けたチョワイツ王国が、急遽国境の守りを強化したためだ。
「へっ、いくら兵士が多くたって、戦車の前じゃただのゴミだぜ! 食らえってんだ!」
ズドォォォォォォン!
砲弾を受けた兵士達が、国境として連なる防壁ごと粉々になって吹っ飛ぶ。
「く、くそ、怯むなぁ、一斉に放てぇぇぇ!」
反撃とばかりに放たれる弓矢は届かず、射程のあるファイヤーボールやフレイムキャノンといった火魔法を受けても表面を焦がすだけ。
「そ、そんなバカな! フレイムキャノンが直撃しても、動き続ける事が出来るのか!」
チョワイツ王国の指揮官が悔しさを露にして唇を噛む。
余程高位な魔術師じゃない限り、戦車を撃破する事は難しいだろう。
「隊長、ここはもう持ちません! 一度撤退して立て直し――「バカ者ぉ! 我々が引いたら誰が国境を守るのだ! 無駄口叩かずに隊列に戻れぇ!」
「し、しかし!」
「くどいぞ! あんな化け物にこの国を好き勝手させるわけにはいかん。我々は死ぬ気で挑み、この国を――」
ドゴォォォォォォン!
しかし、近代兵器とまともにやりあう事が出来ず国境警備隊は壊滅し、そのまま戦車はチョワイツ王国国内へと進んで行くのだった。
「へ、楽勝楽勝!」
『おいおい虎田、少しは俺達にも残しといてくれよ』
『そうそう、僕らも楽しみたいんだからさ』
先程の戦闘は殆どが虎田1人で片付けてしまい、他の生徒から不満が上がる。
「わ~ったっての。この先にある街はお前らの好きにしろ」
『『っしゃあ!』』
漸く砲弾を撃ち込めると思い、無線の向こうでガッツポーズをとってるのが想像出来る。
虎田としては1人でも充分なのだが、それだとクラスメイト達の風当たりが強くなってしまうので、仕方なく譲る事にしたのだ。
『よぉし、あの街だな?』
程なくして、国境に一番近い街が見えてくる。
一応人は居るが宣戦布告の直後に慌てて出ていった者も多く、現在は閑散とした雰囲気だ。
『っしゃ、食らえぇぇぇ!』
ドゴォォォォォォン!
『あ、待って、僕もやる!』
ドガァァァァァァン!
「どうよ? メッチャ楽しくね?」
『おう、コイツぁストレス解消にはもってこいだぜ!』
『僕も僕も! ゲームより全然楽しいや!』
予想より楽しかったのか、虎田以外の2人も大はしゃぎで撃ち込んでいく。
だがそんな彼等に水を差そうとする影が後方より接近してきた。
『あれ? 何で戦闘機が来るんだ? まだそんなに時間は経ってない筈だけど……』
1人の男子が疑問に思って声に出る。
やって来たのは戦闘機4機で、乗ってるのは熊谷達だ。
『悪ぃな。お前らのを見てたらこっちもブッ放したくなってよぉ、いてもたってもいられずってやつだ』
「ちょ、お前ら、まだ早いだろうが! さっさと戻れっての!」
『そうだぞ、ここは俺達の出番なんだからな!』
熊谷達のフライングに虎田達が抗議する。
が彼等はそれを無視して次々とミサイルを撃ち込んでいく。
ズドォォォン! ドゴォォォォォォン!
ドッガァァァァァァン!
これにより街の半分近くが炎上するという大損害を与えてるのだが、戦車隊の方も横取りされてはなるものかと、砲弾を撃ち込んでいき、僅か30分程度で街一つが壊滅する事に。
『は、ざっとこんなもんよ!』
『いや、こんなもんって……横取りされた気分だよ……』
「まぁ、しゃ~ねぇな。とりあえず街に入ろうぜ」
圧倒的な結果に一応は満足し、死体の山となった街に入場する虎田達。
この猛威は近隣諸国を大いに怯ませる結果となり、当事国であるチョワイツ王国は抗戦か降伏かで意見が二分される事態に陥ったのであった。
メロニア「久し振りのご馳走です! ハグハグ……」
アイリ「それは監禁されてた時や奴隷として売られた後の話よね? そうなのよね!?」
メロニア「……黙秘します」




