宣戦布告!
前回のあらすじ
捕らえた薄気を回収するという名目で、ダンジョンを攻略しに現れた4人のクラスメイト達。
近代兵器によるごり押しであっという間に1階層を突破された事により頭を悩ませるマリオンは、アイカに4人の対処を依頼する事に。
しかしアイカの襲撃を察知した猿川によって転移石を使用して逃げられてしまい、アイカも慌てて後を追うが、転移で追い付いた時には既に4人中2人が息絶えた状態にあった。
生き残った2人が言うには高遠という男子生徒にやられたらしいが、彼の目的は……
「――という訳です」
「成る程ね、それは確かに厄介だわ」
昨日の夜中、マリオンのダンジョンに転移者が現れたという事をアイカから聞いた。
何でも近代兵器でごり押しする感じで進んできて、アイカが居なかったら危なかったかもしれない。
アルカナウ王国のダンマスが何人か殺されたって話だし、マリオンのダンジョンは暫くモフモフに見ててもらおう。
「そう考えればわたくしとモフモフが居たのが幸いしましたね。薄気という少年はもとより犬山と雉田という少年からも情報が得られましたので、結果的には収穫ありという事に」
捕らえた2人は薄気って奴と同じように拘束してるんだけど、脱走しないようにモフモフが睨みを効かせてるらしい。
けど犬山って奴がモフモフの臭いを鑑定したら腰を抜かしたみたいだから、多分脱走しようとは思わないでしょう。
「あ、でも雉田って奴は異空間庫持ちなんでしょ? そっちは大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。ドローンには中身開示というスキルを付与してますので、これが有れば相手のアイテムボックスから直接奪い取る事が出来るので、現在雉田少年の異空間庫の中身は空です」
転移者もそうだけど、こっちのドローンも大概だった……。
もういっその事レーダーに引っ掛かるのを前提で、ドローンで直接乗り込んでみようかしら。
「それよりもお姉様、彼等から得た情報によりますと、転移者をまとめてるのは十針という少年で間違いなさそうです」
桜庭さんからも既に聞いてるけど、首謀者は十針という男子生徒で、彼を他の生徒達が支える見返りとして、アルカナウ国内の人達を洗脳して好き勝手してるんだって。
ナイトメアの件を重ねて考えると、今のところコイツが一番怪しいわね。
「ただですね、十針少年以外にも色々と厄介なスキルを持ってる生徒が多いんです」
「と言うと?」
「例えば富岡という生徒は透視捜索という固有スキルを持っており、名前さえ知ってれば居場所を特定出来るみたいですよ?」
中々にして便利なスキルね。
ソイツが居る限りエルシドと桜庭さんは逃げ切れな――ちょっと待って。
「ねぇ……それってさ、エルシドと桜庭さんの居場所を探られたら、アイリーンがバレるんじゃ……」
「はい、その通りです。残念ながらここは既に特定されてると見てよいでしょう」
マジですか……。
「でもお姉様はかなり有名に成りつつありますから、あの2人が来る前からとっくにバレてると思いますよ?」
ダブルでマジですか……。
「ま、バレちゃってるなら仕方ない。もしここに現れたら歓迎会をしてあげなくちゃね」
当然アイリーンへは入場拒否の上、6階層以降を進ませるという修羅の道になるけれど。
「それともう1つ気になる事を言ってました」
「気になる事?」
「はい。何でも高遠という男子生徒が十針少年から逃げてるらしいのですが、何故か急に現れて他の転移者を殺し回ってるらしいのです」
確かに気になるわね。逃げてる筈なのにわざわざ戻ってきてまで襲ってるって事だから、そこまでして何がしたいのか。
「ま、そっちは保留にしときましょ。とにかく今はエルシドの特訓が終わるのを待って、完了後即座に祖国奪還をしてもらうって事で」
私達だけで取り戻す事も可能だとは思うけど、その後の国家体制が問題になる。
国王は殺されて王女は行方不明。第一王子はまだ4歳だと言うから大変面倒くさい。
エルシドの話だと王女の婚約者がエルシドらしいんだけど、肝心の王女が何処に居るのかわからない。
もしかしたら幽閉されてるかもしれないけれど、殺されてたら内乱が発生する可能性も。
「あ~やだやだ。政治の事には首を突っ込みたくないから、最悪はエルシドに丸投げしよう。いいわよねこれで?」
「わたくしに言われましても……おや? キャメル様からの通信のようです」
キャメルさんから?
……なんだろう、なんか物凄く面倒事を押し付けられそうな予感が……。
「無視する訳にもいかないし、繋いでちょうだい」
「畏まりました」
アレクシス王国の内政官でもあるダンマスのキャメルさん。
ここ暫く話してなかったけど……さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……って、どっちも出たらダメなヤツよね。
キャメル アレクシス王国
『久し振りねアイリ、元気だった?』
あれれ? やけに機嫌良さそうにニコニコ顔のキャメルさんがスクリーンに映ってますねぇ。
これは良くない現象よ。きっと何か企んでるに違いないわ。
キャメル アレクシス王国
『……今失礼な事考えなかった?』
アイリ アイリーン
『ぜぜぜぜぜ全然でふ! ……コホン、全然です。――それよりも、お久し振りですキャメルさん。こっちは元気でやってますよ。機嫌が良さそうに見えますけど、何か良いことでもあったんですか?』
キャメル アレクシス王国
『はぁ……良い事なんてそうそう無いわよ。有るとすればトミーの顔を暫く見てない事かしらね。アイツったらあたしの顔を見た途端ため息つくのよ、信じられる?』
アイリ アイリーン
『な、成る程ですね。それは酷いかもしれません』
キャメル アレクシス王国
『でしょう? なのにアイツったら――』
い、言えない。ため息つきたくなるトミーに共感出来るなんて、口が裂けても言えない!
しかも地雷を踏んでしまうというオマケ付き……。
アイリ アイリーン
『あ、あの、キャメルさん。ご用件の方を伺っても宜しいでしょうか?』
キャメル アレクシス王国
『――って感じだから本当に――あ、ゴメンゴメン、本題を忘れてたわ。実はね、つい先日とある政治犯の邸を特定したから踏み込んだのよ。そうしたらビックリ、ソイツの買った奴隷の中にアルカナウ王国のメロニア王女が含まれてたのよ』
これは朗報! 行方不明の王女があっさり見つかった。
けどここからが問題ね。
アイリ アイリーン
『わざわざ教えてくれてありがとう御座います。――それでアレクシス王国としてはメロニア王女をとうするおつもりで?』
キャメル アレクシス王国
『あら、中々様になる事言うじゃない。そう、そこが重要なのよ。アルカナウ王国の革命――というか乗っ取りは、あたしもアイリも知ってる通り』
私達ダンマスにはダンジョン通信があるから、これは全てのダンマスに共通して言える事よ。
キャメル アレクシス王国
『外交上は王女を無事帰してあげるのが望ましいんだけど、今のアルカナウ王国はそれを拒むでしょうね――いや、寧ろ引き取った上で再び奴隷として売り飛ばされるのがオチよ』
私もそう思う。
今のアルカナウ王国に帰したところで無意味。寧ろ王女が可哀想よ。
キャメル アレクシス王国
『そこでお願いなんだけど……ね?』
いや、両手を擦り合わせて「ね?」と言われましても……。
キャメル アレクシス王国
『別にいいじゃない、こっちは今まで散々迷惑を掛けられっぱなしだし、たまにはこっちからお願いしてもいいでしょ? それに王女の一人や二人引き取ったところで……ね?』
アイリ アイリーン
『うっ……』
そう言われると言い返せない。
アレクシス王国での面倒事はキャメルさんにほぼ丸投げしちゃったし、貸し借りで言えば借りの方が大きいかも……。
というか、一人と二人じゃ王女という単位だと劇的に変わるんですが……。
アイリ アイリーン
『分かりました。王女はこちらで引き取ります』
キャメル アレクシス王国
『さっすがアイリ! こういう時は頼りになるわぁ。早速後で送り届けるわね』
まぁエルシドに会わせてあげるのもいいだろうし、結果オーライかな?
「お姉様、アイリーンにキャメル様がいらっしゃいました」
キャメルさん早すぎ!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「じゃあ最終確認をするけども、まず内政は――」
そう切り出して玉座から立ち上がったのは、クーデターの首謀者である十針だ。
彼は三枚の書類を手にしており、それらに視線を落とすと入念にチェックを始める。
「次は軍事だね。どれどれ――」
彼は内政、軍事、外交の3つの分野にクラスメイト達を割り当てると、定期的に報告書を提出させる事で進捗状況を確認し、個別に指示を出していたのだ。
「最後に外交は――」
そして今最終確認が終わり、目の前に集まるクラスメイト達を見渡しながら新たに宣言する。
「皆聞いてくれ。この国はいよいよ次の段階へと進もうとしている。――そう、待ちに待った戦争だ!」
「「「「「おおっ!!」」」」」
戦争という言葉に、男子生徒の多くは待ちわびたとばかりに歓声をあげる。
本来の戦争とは違い、彼等にしてみれば近代兵器で捩じ伏せれば済むという認識しかなく、戦死する事など端から頭には無い。
「生活が変わらない以上国民は不満を上げないし、文句を言ってきた貴族も既に土の中だ。ミリオネック商業連合国とも賠償金を払う事で一応は解決し、障害となるものは何もない」
国民に関しては本当の事で、税率を上げたりしない限りは不満は言ってこない。
ミリオネックとのいざこざも収まり、大国相手の戦争は回避された。
だが一方で貴族達はというと、何処の馬の骨かも分からぬ者を国王に出来るかと猛反発。十針達の存在を受け入れる訳にはいかないと、挙兵して王都へと攻めてきた。
しかし面会の席を設けた際に【肉体操作】で物理的に自害に追い込むと、兵士達はあっさりと降参し以後文句を言う貴族は居ない。
いや、それどころか媚を売ってくる貴族が後をたたないと言うべきか。
「本日我々は、南東にある小国――チョワイツ王国に宣戦布告を行う! 戦車、戦闘機、生身での肉弾戦、各自好きな戦法をえらんでくれ。――明日の朝には侵攻を開始するから、それまでには準備を整えといてくれ。では解散!」
十針の解散宣言によりクラスメイト達はゾロゾロと退出していくが、数名の生徒――虎田と富岡、そして藤堂は十針の前へと集まった。
「そういや十針、数日前から百地達を見かけねぇんだが、アイツらどこ行ったんだ?」
「ああ、それね――」
虎田に言われて視線を富岡へと移す。
すると富岡は肩を竦めて知ってる範囲での事を話し出した。
「百地君と猿川君は反応が見られない。可哀想だが死んだと思っていいだろうね。けれど犬山と雉田は反応があるから、恐らくはダンジョンで捕まってるものと推測するよ」
「マジかよ! あんなに近代兵器持ち出して返り討ちに合うとかバカじゃね?」
「これは虎田の言う通りだわ。マジダサっしょ、キャハハハハハ!」
死んだ2人を含む4人をバカにし、笑い声を上げる。
もしも百地と猿川が生きてたら猛抗議をしただろうが、死人に口無しだ。
「そう笑わないであげてくれ。どうやらダンジョンマスターの中には強い奴が居るらしくてね、2人が生け捕りにされたという事は相当な実力者なんだろう。いずれ借りは返すつもりだけど、それは後回しだ」
十針としてもこのまま済ます訳にはいかないところだが、余計な所へ戦力を分散させるのは勿体無い――という事で、捕らわれてるであろう薄気達の事は棚上げした。
「それより藤堂さん、彼女の協力は得られそうかい?」
「彼女? ――ああ、館林の事ね。相変わらずだよアイツは。あたしらに協力する気はないってさ」
「そうかい。彼女の【夢語り】が有れば戦略を立てやすくなるんだけど……」
館林という女子生徒は桜庭の友達であり、十針の元から逃げ出そうとして捕まったのである。
因みに彼女の固有スキル【夢語り】は、知りたい事を願うと1日に1回夢を通して知る事が出来るという大変希少価値の高いスキルとなっており、十針としてもソレに価値を見出だしてたのだ。
「仕方ない。館林さんの事も今後の課題として何か考えておこう」
こうして細かい事は一時的に保留にしつつ、標的と定めたチョワイツ王国へと今まさに牙を剥いたのであった。
アイカ「いよいよ戦闘開始ですか?」
アイリ「みたいね」




